ONE総里見八猫伝彷徨の章 第四幕 投稿者: ニュー偽善者R
第四幕「あなたに贈る歌 後編」


険しい峠を登り浩平と茜は途中で出会った歌人、双葉のやたがらす探しを手伝うことになった。
冬の風は冷たく、空を重くかかる雲からは真っ白な雪が辺りを覆うとしていた。
「なあ、どうして魏然に妖怪探しを頼まれてるんだ?」
「あいつは忙しいからね。旅に出る僕が妖怪の話を仕入れてくるんだ」
暇つぶしがてらに浩平が双葉に話しかける。
後ろでは茜が滑りやすい道を懸命に登っている。
「大丈夫か?茜」
「・・・はい」
とは言うものの額のは汗が浮かんでいる。
「にしてもよぉ、ほんとにここにやたがらすなんているのか?」
「ここらでは昔からよく聞くけどね。いなかったらいなかったであきらめるよ。君達はこのまま峠を抜けるんだろ?」
「ああ」
浩平はそう答えて何げなく空を眺めた。上空にぽつんと点のようなものが舞っている。
どうやら鳥か何かのようだ。目を凝らしていると、それはだんだんと近づいてくるのがわかる。
「何だあれ?」
浩平が呟いた瞬間、闇雲が鳴動を始めた。

キィーーーン・・・

「何だ・・・一体?」
浩平は反射的に柄に手をかけた。降下してくる影はしだいに大きくなり、それがただの鳥ではないことがわかる。
「あれがやたがらす・・・」
信じられないという双葉の声が聞こえる。
浩平は向かってくるやたがらすが敵かどうか判断に迷った。
「茜、双葉隠れていろ!」
浩平に指示に従い、双葉は茜の手を引いて茂みに向かった。
そして、やたがらすは粉塵と粉雪を舞い散らせながら降り立った。

・・・貴様ただの人間ではないな

やたがらすの声が頭に響く。だが、やたがらすのその口ぶりから、浩平はやたがらすが自分のことを何か知っているのではないかと思った。
「お前、俺のことを何か知っているのか?」

神の使いである我に対する言葉か?・・・下賤なる者に姿を現すことを光栄に思えよ

浩平はやたがらすの傲慢さに反感を覚えたが、貴重な情報を持っているかもしれない相手をの機嫌を損なうわけにもいかない。
「この剣を知っているか?」

知らぬはずがない・・・全ての元凶たる愚かな男が作りし邪悪な剣

「どういう意味だ?」

ボキッ!

浩平が問いた時、茂みから木の枝を折る音が響いた。
「しまった!」
双葉の焦る声が聞こえるが、他の人間がいることにやたがらすは態度を急変させた。

・・・他にも人間がいるのか・・・生かしておくわけにはいかないな

やたがらすが翼をはためかせ烈風を巻き上げる。
「茜!双葉!逃げろ!」
浩平の声が飛び。茜と双葉が茂みを飛び出す。

バササササササーーーーーッッッ!!!

烈風が巻き立ち辺りを駆け抜けた。浩平はたまらず目を覆い、動きを止めた。
一方、無防備な背中を見せて逃げる茜と双葉に烈風が襲いかかった。
「うわあーーーっ!」
「きゃーーーっ!」
茜と双葉は吹き飛び、道横の崖へと落下していった。
「茜ーーーっ!」
浩平の叫びが飛ぶが、非情にも茜の体は落ちていく。
「てめえ・・・!」
やたがらすに向き合い、浩平が睨みつける。
たとえ神といえども浩平の目には怒りが宿っていた。

すまぬな・・・しかし、掟を破るわけにはいかないのだ。神が掟を破れば大変なことになる

やたがらすは浩平には取り合わず、翼をはばたせ始める。

さらばだ・・・まとめし者よ

「何のことだ!?」
やたがらすは答えることなく、上空へと飛び立った。
浩平は訳がわからず立ち尽くしていたが、今は茜達のことが気がかりであった。


・・・誰かが呼んでいる

茜は覚醒していない意識の中で、誰かの呼び声を聞いた。

・・・誰?司?

しかし、目覚めつつある意識がそれを否定する。

・・・あいつはもういないのだから

「茜さん!」
「え・・・?」
茜は重たい目開いた。眼前には茜が意識を取り戻したことに安心した双葉の顔がある。
「ここは・・・?」
「洞穴ですよ。寒さをしのぐためのね」
茜は落下の衝撃で痛む体を起こして辺りを見回した。
それほど広くない崖の横穴に双葉に運ばれたようだ。
入り口からは吹雪いている外界が見える。
「今は吹雪が止むのを待ちましょう」
双葉の提案に従い二人は洞穴の中で、天候の回復を待つことにした。
「そうだ。これを着てください」
「・・・え?」
双葉が自分の着ている蓑を茜に差し出した。
「で、でも・・・」
「いいですから」
強引に押しつける双葉。ここまでされると逆に失礼な気がして茜は好意を受け取ることにした。それから二人に沈黙が流れる。
「はっくしょん!」
突然大きなくしゃみを双葉が上げた。
双葉はやせ我慢がばれて照れ笑いを浮かべる。
「あ、あはは・・・誰かがうわさでもしてるのかな?」
そんな双葉の仕種に茜はくすりと笑って、双葉に寄り添った。
そして、自分が羽織っている蓑を二人の肩にかぶせる。
「あ、茜さん?」
「・・・こうしている方が二人とも暖かいですから」
双葉は突然の接近に顔を真っ赤にしている。
茜も気恥ずかしいのか、頬を赤らめて目を合わせようとしない。
何とも言えない気まずさが支配するが、双葉がそれに耐えられなくなり話題を振った。
「こ、こんなことははじめてですよ。暇つぶしに歌にでもしましょうか?」
「・・・どんな歌をです?」
「そうですねぇ・・・あなたに贈る歌を」
「え・・・?」
茜は意外な言葉に双葉の顔を見上げた。
双葉は照れくさそうに、顔を背ける。
「ほ、本気にしないで下さいよ・・・」
「・・・はい」

・・・おーーーい・・・茜ぇぇぇ・・・

その時、洞穴の外から誰かの呼び声が聞こえてきた。
茜は弾かれたように体を起こした。
「浩平!ここです・・・!」
外へと飛び出し茜は自分の位置を知らせる。
少し離れた距離にある浩平はそれを何とか視界にとらえた。浩平は一目散に茜を目指す。
雪は踝まで埋まり、確かな足跡を後に残した。
「茜!無事だったか!?」
「・・・はい、何とか」
「よかったぁ・・・」
ほおっと安心し切った顔を浩平が見せる。後ろから双葉も洞穴から出てきた。
「いや、ひどい目にあったよ。あれは何だったんだろう?」
「さあな、よくわからんことをぬかしてただけさ。さて、これからどうする?」
「一度、魏然のとこに戻るよ。話を聞かせてやりたいしね」
「そうか」
浩平には戻る気はなかった。今はわずかな手がかりを求めて進むしかないのだ。
「・・・ここでお別れですね」
「そうですね。でも、いつか会えますよ。その時にはあなたに歌を・・・」
言いかける双葉だが、空を見上げていた浩平の言葉がそれをさえぎった。
「まずい、また降りだしそうだな。それじゃあ双葉、魏然によろしくな」
「・・・また会いましょう」
「ええ、必ず」
歩き始めた二人を双葉は笑顔で見送る。
しかし、その笑みはどこか寂しげである。
(茜さん・・・あなたへの歌は多分届かないんでしょうね)
双葉は心の中で一人詠った。

冬の道 白く残った 足跡は

        二人残した 愛の形

双葉は気付いていた。茜の心に棲む誰かの存在を。
それが浩平であるかどうかはわからない。
しかし、茜の寂しそうな表情を思い出さずにはいられなかった・・・・・・。





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なぜなにONE猫!
いえ〜〜〜い!完成間近にフリーズして最初から書き直した四幕だ〜〜〜!(総数37幕)
ちびみずか「きょうははいてんしょんだね」
ふふふ・・・1時間30分の努力がぱーさ・・・(TーT)
ちびみずか「かわいそうだね・・・」
でも、めげてるわけにはいかない!今はひたすらかくのみ!
ちびみずか「もえてるね」
燃え尽きます(^^;さて、今回の和歌はしーどりーふに作らせた一品です。でも、話の内容何も教えないで作ったので、何かあってないぞ(^^;まあ、いいか。
ちびみずか「てきとうだね〜」
相変わらずです。さてと、次回は・・・ちょっと戦闘。SS作家さんは出演せず。それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第五幕「一眼一足の怪 前編」


解説

やたがらす・・・日本神話の神武天皇の東征に出てくる鳥。天皇の軍が熊野から大和に入るとき先導したといわれる。参考資料「大日本語辞典」

http://www2.odn.ne.jp/~cap13010/