ONE総里見八猫伝彷徨の章 第三幕 投稿者: ニュー偽善者R
第三幕「あなたに贈る歌 前編」


失われた記憶を求めた浩平。それに従い失われた日々を求める茜。
二人の旅立ちはどんな足跡を残すことになるのか・・・・・?


「雪が降りそうだな」
「・・・そうですね」
自分探しの旅に出た浩平達はわずかな手がかりを希望に、ひたすら北を目指していた。
空を何気なく見上げた浩平が、ぽつりとつぶやいた。
しかし、茜の反応は素っ気無い。浩平は茜の無口な性格を知っていながらも苦笑した。
「積もりそうだな」
「・・・そうですね」
会話が続かず気まずくなる。しかし、浩平の根性はそれにしつこく食い下がった。
「こう白いのを見ると、まんじゅうを食べたくなるな」
「・・・そうだといいですね」
「だろ?一面にまんじゅうがあるのを想像したら、涎が出てくるな」
「・・・一面のまんじゅう」
横目で茜の横顔を見ると茜の瞳が輝いている気が浩平はした。
「あ、茜?」
「・・・まんじゅう」
「いつか食べに行くか?」
「行きます」
即答である。
「よし、約束だぞ」
「・・・はい」
茜はわずかに頬を緩めてうなずいた。二人の間の空気がわずかながら和んだ気がする。
「茜は甘党なんだな」
「・・・変ですか?」
「いや」
浩平は微笑むと先を急いだ。


二人が先を急いで水田横を歩いている。時はすでに夕暮れを迎えていた。
「茜大丈夫か?」
「・・・だ、大丈夫です」
慣れない遠出に茜はすでに足が棒になっていた。
「少し休憩しよう。ここらなら村も近いし」
「・・・・・・」
茜は拒否するでもなく黙ったままであった。
前方の樹木のたもとで腰を休めた。
「あっ、水筒の中身がないな。近くの水路から汲んでくるわ。ちょっと待っててくれ」
浩平は茜の返事も聞かずに道を戻った。茜は幹に背を預けて眼前に広がるのどかな風景を眺めた。
「・・・ふう」
一息をつく茜。こういう穏やかな光景も悪くない。気持ちが安らいだ。
「いいものでしょう?こういうのも」
「・・・誰?」
後方から突然声がかかり、茜は驚いて振り向いた。
「やあ、驚かせてすいません。僕は決して怪しいものではありません。旅の歌人で双葉という者です」
双葉と名乗った青年は幹の反対側から、人懐っこい笑顔を見せて現れた。
「気分が落ち着くでしょう?なにげない日常に輝くものがあるんですよ」
「・・・そうですね。本当に」
茜はどこか自嘲的な笑みを浮かべる。
(・・・本当になぜ日常の大切さに気付かなかったのだろう?)
今更ながら茜は心底そう思う。二度と戻らない日常。失ってこそ気付く大切さ。
「もし、よければ名を教えてくださいませんか?」
「え・・・?あ、わたしは里村茜です」
双葉の声に、茜の思考は中断された。
「茜さんですか、いい名だ」
「・・・ありがとうございます」
二人が会話している所に、浩平が戻ってきた。
「・・・茜、誰だこいつ?」
「おや、連れがいましたか。どうも双葉という歌人です」
礼儀正しく挨拶をする双葉、浩平もつられておじぎをした。
「折原浩平です・・・多分」
「お二人で旅ですか?いやー、うらやましいですね。仲良き事は美しきかな・・・」
「・・・別にそういう関係ではありません」
すかさず否定する茜に、浩平は苦笑する。
双葉はふと沈み欠ける夕陽を見て言った。
「もう日が暮れますね。どうです、近くの村に友人が住んでるですよ。そこで宿を借りませんか?まさか、この寒さで野宿するわけにもいかないでしょう」
双葉の提案に浩平と茜は顔を見合わせた。気持ちは一緒のようである。
「お願いします」
「そうですか。それじゃあ、早速行きましょうか」
双葉はにこやかに笑って浩平達を案内した。


「おーい、魏然(ぎぜん)〜」
いかにも怪しげな名前を叫び、戸口を叩く双葉。
しばらくすると足音が向かって来て、戸が開いた。
「ああ・・・双葉か」
そこには寝起きの顔で、髪を寝ぐせで跳ねさせた男がいた。
これが双葉の友人らしい。
「寝てたの?」
「うむ。書き物をしてたからな。ところで・・・そっちの二人は誰だ?」
魏然は浩平と茜を顎で指した。
「実は途中で出会ったんだけど、今日ここに泊めて欲しいんだ」
「別にいいぞ・・・ただし、あれが条件だ」
「あれ・・・ほんとに?」
「おお」
小声で話し合う二人に、浩平と茜は状況を掴めなかった。
「わかったよ・・・」
「よーし!決まりだ!さあ、入ってくれ。狭いけどな」
双葉が溜め息をつく横で、魏然が中へうながすので浩平達は中に入った。
「本当に・・・」
「・・・狭いです」
事実魏然の部屋は狭かった。
と言うよりも十分な広さがあったはずなのに、書物や巻物が辺りに転がっているので足場を無くしているのである。
「ちょっと待っててくれ」
魏然は慌ただしく部屋を片づけは始めた。」しかし、書物の量からなかなかはかどらない。見るに見かねて茜が手伝いを言い出した。
「・・・手伝います」
「おっ、悪いな」
茜につられて浩平も双葉も手伝い始めた。四人もいると、手早く部屋は片づけられた。
「いやー、随分綺麗になったな。見違えるようだ」
「巻き込まないでよ・・・」
「宿代代わりだ」
双葉の非難に取り合わず魏然は寝室に向かった。
「ここは勝手に使ってくれ。俺は奥で書き物の続きをしてるから」
「何を書いてるんです?」
浩平の問いに魏然はにやりと笑って答えた。
「妖怪のことだよ」
そのままぴしゃりと襖を閉めて魏然は奥に消えた。
「妖怪・・・って何をしてるんだ?」
とりあえず座敷に三人は腰かけた。
「ちょっと変わっててね。妖怪を求めてやまないんだ。もう少ししたらおもしろいものが聞こえるよ」
意味ありげな笑いを双葉は浮かべた。
「・・・おもしろいものですか?」
茜が不思議そうに呟いた時、奥から魏然の声が聞こえてきた。

げはあっ!

「げは・・・?」
「・・・病気ですか?」
「ははは、みたいなものだね。魏然は書き物に命をかけててね血を吐いてまで書くんだ」
双葉の説明に浩平と茜はあぜんとした。
世の中には理解しがたい人種もいるのである。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「あっ、終わったの?」
奥から魏然が口元に血を流して現れた。異様な姿に浩平と茜は眉をしかめた。
「双葉・・・頼みがある」
「何?」
「資料が足りない。調べてきてくれ」
「いいけど。何を?」
「やたがらす」
「えっ!?」
目的を聞いて双葉は凍りついた。
「何だよ、やたがらすって?」
浩平の問いに魏然が答える。
「神の使いで帝の軍を導いたと言われる鳥さ。北に抜ける峠に棲むと言われているんだけどな、峠の危険さに誰も見たことがない」
「・・・なぜ双葉さんがそれを探すんですか?」
「宿代」
どう考えても割の合わない埋め合わせだが、魏然はこともなげに言い放った。
人のいい双葉を利用して、魏然はいいように扱っているのである。
そんな双葉を茜は気の毒に思った。
「・・・わかりました私達も手伝います」
「私達って・・・俺もか?」
「・・・そうです」
茜の提案に双葉は大仰に遠慮した。
「そんな危険なこと茜さんにさせられないですよ!わたしだけでいきますよ!」
「・・・いいんです。あの峠を抜ければ近道にもなりますし」
「決まりだな」
魏然は自分の望みが達せられることに上機嫌で話をまとめた。
こうして浩平達はやたがらすを求めて危険な峠に向かうことになった・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
ふっ、ふっ、ふっ・・・作品に自分を出す醍醐味。いやー、けっこうおもしろいなー。
ちびみずか「あくやくじゃないの?」
いや、偽善者だから(^^)今回はしーどりーふのみの出演だったんだけど、性格表現がうまくいかず自分を起用(^^)偽善者だね〜〜〜
ちびみずか「ぜったいあくやくだよ」
それだと出番が増えるからね。俺は今回のみ。次回は続き。しーどりーふ=双葉と茜の他のSS作家さんに殺されそうなおいしい展開になる・・・かどうかは不明(^^;それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第四幕「あなたに贈る歌 後編」


解説

双葉・・・強制出演のしーどりーふ。実は茜の幼なじみの名前に使おうと思ったのだが、小説が出たので変更。でも、もったいないのでゲスト出演を企画。ここからSS作家出演募集が始まった。ちなみに歌人という設定で、和歌を作らせたりもしてみた。

魏然・・・その偽善者ぶりからわかる通り作者。本当は自分は出ないつもりだったが、急きょ起用。ギャグに近くなってしまった。次回以降は一切登場しない予定。