ONE総里見八猫伝彷徨の章 第二幕 投稿者: ニュー偽善者R
第二幕「旅立ち、再び」


・・・今日もここに来てしまう

・・・でも、しばらくは来れないだろう

・・・もしかしたら永遠に

・・・そうなればいいと思う

・・・またあの頃の三人に戻れることを願って


旅立ちの朝。茜はまた野原に来ていた。
目の前の岩壁にはやはりぽっかりと大穴が開いている。
(・・・今日、わたしは旅立ちます。あなたの事を思って)
茜の心には決意がみなぎっている。
だが、同時にそれが本当に望んでいることかどうかはわからない。
(・・・あいつは帰る気なんてないのだから)
そう思うと茜の心は重く沈んでしまう。
茜の中の悲しみは癒されることなく今まで生きてきた。それでも一縷の望みが生まれたのだから。
「またここに来たのか」
「・・・はい」
後ろにいつの間にか浩平がやって来た。
記憶喪失の浩平、これが茜の希望であった。
浩平は穏やかな日常が戻ってくるための鍵かもしれないのだから。
「一体ここに何があるんだ?」
「・・・穴です」
「それはわかってるんだけどさ・・・」
浩平は決まりが悪くなって苦笑した。
どうも茜は助けてくれたものの、心は開いてくれないらしい。
「お前とどう関係あるんだ?」
「・・・・・」
茜は答えずに沈黙する。浩平は気まずくなり、一旦小屋に戻ろうとした。
「・・・・ここから」
「・・・?」
背を向けた所に茜がぽつりと呟いた。
「・・・あなたが来たのかもしれません」
「俺に関係してるのか?」
「・・・わかりません。でも、それもありえると思います。だって・・・」
茜は口を開きかけて言葉を止めた。
「どうした?」
「・・・何でもないです」
「そうか」
浩平は再び歩き出した。今度は茜は声をかけなかった。
(・・・だって、あなたは突然現れたから)
言っても理解されることはないだろう。だから、茜は心の中で押し止めた。


浩平の当面の行き先は北陸道と東北方面を経由して、都に登ることであった。
浩平の懐から櫛と鈴が見つかったからである。
櫛の方は北方の漆を用いられていたからである。
また、鈴の方は特定できなかった。浩平の記憶が戻すには、何か関連したものを探すしかない。
「準備はいいか?」
「・・・はい」
「どんな危険があるかわからないけど、茜は俺が守ってみせるから」
浩平は笑みを浮かべてそんなことを言った。
本気どうかはわからないが、茜は悲しくなった。
(・・・わたしは浩平を利用しているのかもしれない)
茜の中に罪悪感が生まれる。
「さーて、自分探しの旅に出るかーっ!」
茜の心情とは裏腹に、一番落ち込んでもいいはずの浩平は張り切った声を出した。


その頃、浩平の行方を探しに旅立った瑞佳達は・・・・・
「寒いね〜、今日は」
『冬なの』
「みゅ〜・・・さむいのいや」
瑞佳、澪、繭、凪の三人と一匹は浩平を探しに出て数カ月が過ぎようとしている。
全国を回ってもいまだ手がかりはない。
「浩平・・・どこいっちゃたのかな」
手にした鈴を見つめる瑞佳。今はこれだけが自分と浩平をつないでいる。
しかし、遠すぎるのか鈴は大きな反応を示さず浩平の位置を特定できない。
それでもいひたすらに歩いている。
『あてがなさすぎるな』
凪が冷静な判断を下す。感情に流されず最もな意見である。
そうは言うものの凪は浩平を探すのを断念したわけではない。
『あきらめちゃだめなの』
「大丈夫だよ。そう簡単にへこたれないんだから。うん、早く浩平を見付けないとね」
瑞佳は澪に笑顔を見せてそう言った。それは空元気なのは皆は気付いている。
でも、落ち込むよりはましであった。
(浩平・・・絶対会えるよね)
瑞佳の心はひたすらに浩平を求めていた。


『ねえ、お兄ちゃん・・・』

また懐かしい声。

『何だ・・・眠れないのか?』

ぼくの声は眠りをじゃまされて、少しきげんがわるい

『てんじょうにおっかないおにがいるんだよ』

『だいじょうぶだよ、あれはただのしみさ』

『でも、こわいよー』

本当におびえた声。ぼくはなぐさめなくてはいけない

『こわくないよ。よし、ぼくのとなりで寝ろ。おにがでてきても、ぼくがまもってやる』

『うん!』

もぞもぞとぼくの布団へ入ってくる。

『お兄ちゃん、あったかいね』

『だろ?だから今はおやすみ・・・』

『うん・・・』

しばらくすると静かな寝息がきこえてくる。そうだ、ぼくがまもらなくちゃいけないんだ


まどろんでいた浩平は頭を上げて目覚めた。
どうやら火の番をしながら眠ってしまったらしい。
この寒さで火が消えてしまったら、野宿をする浩平達は凍死してしまうだろう。
見張りをする浩平と焚き火をはさんで茜が眠っている。
年頃の娘が出会って間もない男と旅をするなんて、どういう事情があるのだろう。
浩平は疑問に思いながら茜の寝顔を見つめた。
その表情はまるで人形のように美しい。
(やれやれ・・・)
浩平は飽きることなく寝顔を見続ける。茜の枕元には小刀が置かれていた。
手を出したら容赦しない、茜の無言の圧迫である。
浩平は苦笑してそれを見ていた。
「・・・司」
「?」
茜の寝言である。男の名前であろうか?浩平は気になったが、起こすわけにもいかずに茜を見つめていた・・・・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
短い!今回は短い!
ちびみずか「びっくりだよね」
一幕につなげるには長すぎるのでこんな形になりました。妖怪も出てないし。
ちびみずか「めずらしいよね」
うむ。今回は気になることも多かったでしょうがあえてふれません(^^)真相がとけるのはいつの日か?
ちびみずか「ながくなるんでしょ?」
その通り(^^)いやー、みなさんがいろいろ予想されるのを見てほくそ笑む毎日(^^)予想を裏切るのが大好きなもので(^0^)
ちびみずか「ひねくれものー!」
ふっ、ふっ、ふっ、偽善者だからね。さて、次回はSS作家強制(笑)出演のしーどりーふが出演!こき使ってやろう(^^)
ちびみずか「ひどいよー」
へっ、茜と絡めるだけ幸せなのさ!(注:出演を依頼したのは作者です。というか、元々はSS作家出演はしーどりーふ=双葉の名前を茜の幼なじみに起用することから始まった)
ちびみずか「うらばなししないでよ」
うおっ!心の中を読むとはなかなかやるな・・・まあ、そんなわけで次回はしーどりーふが出演!それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 彷徨の章 第三幕「あなたに贈る歌 前編」ご期待下さい!


解説・・・はない!(TーT)

http://www2.odn.ne.jp/~cap13010/