ONE総里見八猫伝大蛇の章 第三二幕 投稿者: ニュー偽善者R
第三二幕「八又の大蛇 後編」


不穏な胎動をちらつかせる火山の中腹に、横ばいにぽっかりと開いた洞窟。そこが大蛇の根城だった。
「ここが大蛇の穴だ。前は大岩で封印されてたんだがなぁ、地震で吹き飛びやがった。まあ、大蛇自身が起こしたんだろうけど」
瑛梨の説明を浩平は聞いてなかった。まるで地獄の入り口のような洞窟を見ていると、得も言えぬ恐怖が浩平を襲った。
「折原、あんたびびってんの?」
「ま、まさか・・・」
からかい口調の七瀬だが、暗闇の奥から漂う妖気に反応しているらしい。額に汗をかいている。そんな七瀬を見て、浩平も自分が嫌な汗を流しているのに気付いた。
「いいか、大蛇の吐く炎を鉄を溶かし、大蛇の尾は大木を折るという。でも、一番恐ろしいのは奴の咆哮さ。奴の叫びを聞いたもんは立っていられないほど、腰を抜かすんだとよ」
「心に留めとくよ。案内ありがとう、寺の方にはよろしく言っておいてくれ」
「何言ってんだぁ?俺もついてくに決まってるだろう」
瑛梨が事もなげに戦いへの参加を言い出した。その言葉を聞いてみゅーが溜め息を吐いた。
『はあ・・・こんな命知らずな奴が主人だなんて』
「お前はここに残ってればいだろうが」
『そういう訳にはいかないよ。瑛梨が死ねば僕は存在できないだもん』
「なら地獄までついてこいや」
命をかけた戦いの前とは思えない会話だが、それなりに覚悟をしているらしい。浩平は入り口に向かい合い叫んだ。
「よし!行くぞ!」
彼らは大蛇の眠る洞窟へと進み始めた。果たして彼らを待つのは生か死か?


洞窟に入って数時間。紙燭を何度も取り替え、ひたすら彼らは奥に進んでいた。緩い下りになっており、進む度に外気が上がっている。元に彼らは汗だくになり、息も荒くなっている。
「一体この暑さは何だ?蒸しちまうぜ」
「火山だから、溶岩の元に近づいてるのかもよ?」
「ありえる・・・」
そんなことを言い合う浩平と七瀬だが、内心は大蛇に対する恐怖が心に巣くっていた。いや、二人だけでなくその場にいる全員だ。浩平は退屈しのぎと気をまぎらわすために、七瀬に話を持ちかけてみた。
「飛主は元気でやってるか?」
「ええ、隠れ里で静養してるわ」
七瀬も浩平と同じ気持ちなのか、話に乗ってくる。
「なあ、赤月宗は一体何をやってるんだ?」
「・・・・・・・妖怪の排除よ。人々を守るためのね」
「それは妖怪全てが含まれるんだろ?」
「ええ・・・」
七瀬が顔を曇らせた。どうやらその点では、赤月宗に信頼をもっていないようだ。
「人間と妖怪は共存できるはずだ。現に澪や凪は俺達の仲間だ」
『ふん、わたしは敵のために協力してるだけだ』
凪がすかさず否定するが、浩平はそれを流した。
「わたしも、それを信じてるわ。だから飛主達の力を借りて・・・」
「でも裏切られた」
「・・・そう」
このことが七瀬を決定的に、赤月宗から離したのだ。
「そういえばお前は何で赤月宗なんかに入ったんだ?」
「雁貫に選ばれたから・・・」
どうやら七瀬も浩平と同じ運命をたどっていたらしい。
「お二人さん、お話はそこまでだぞ。そろそろ奴の居場所に近づくからなぁ」
先頭を進む瑛梨が前方を指した。すると暗闇の奥に真っ赤な明かりが見える。それを見て自然と彼らに沈黙が訪れた。そして、気を引き締めて歩く。ますます熱気が強まってきた所に、地の底から響くような音が聞こえてきた。

グロロロロロロロ・・・・・・・・

「!?」
「大蛇の寝息だ・・・」
瑛梨の声も明るさを潜めている。一旦立ち止まる彼らだが、それでも直先に進んだ。そして、真っ赤な明かりに近づき、穴をくぐるとそこには一段と広い空間が広がっていた。
「こ、こいつが・・・」
「・・・大蛇ね」
洞窟を抜けるとちょうどそこは、火口の真下。溶岩の溜りのすぐ手前だった。赤い明かりの正体は溶岩だったのだ。そして、浩平達の目の前にそれはいた。巨大な胴から伸びた八つの龍の首、大蛇がそこにいた。浩平達の存在に気付いた大蛇は十六の瞳を一斉に開き、言葉を言いはなった。

何のようだ・・下等なる生き物達よ・・・・・

八つの首の内、左目のない一際巨大な一本の首が言葉を発した。

我はまだ目覚めの時ではない・・・奴もいまだ眠ったままだしな・・・・

「奴ってのは大妖のことか?あいにくだが両方とも今すぐ眠ってもらうぜ。地獄の底でな」
浩平が毅然と向き直り、大蛇に言い放つ。

威勢のいいがきだ・・・む?貴様とそこの娘、お前達・・・五武の対の継承者だな?

「太古の化け物にまで知られてるなんて光栄ね」
「へっ、尻尾をまいて逃げ出すのは今のうちだぞ」

その言葉そのまま返そう・・・よかろう、相手をしてやろうではないか・・・そして、地獄で後悔するがいい・・・・・・

大蛇の首がそれぞれ持ち上がる。浩平と七瀬はそれぞれの柄に手をかけた。凪とみゅーは身を低くし構える。瑛梨は式神の召喚に入った。大蛇はそれを見てわずかに笑うと、口を開いた。
「まずい!耳をふさげ!」
瑛梨の声が飛ぶがそれは間に合わなかった。

グオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーッッッ!!!

大蛇の咆哮が辺りを震わせる。
「!?」
「くっ・・・!?」
浩平と七瀬が闇雲と雁貫を取り落とした。凪も目を見開き、地に伏してしまう。瑛梨とみゅーだけは耳をふさぎ何とかそれに耐える。
「ちくしょい!これじゃ全滅しちまう!」
そう言いながらも、瑛梨の召喚は終わろうとしていた。
「闇に眠りし獣達よ・・・我が命に従いその力を示せ!」
瑛梨が数珠をからませた手を振ると、手前の地面から二体の獣達が現れた。四肢の発達した狼、巨大な翼をもった怪鳥。
「行け!」
瑛梨の命に従い、獣達が大蛇に挑む。もちろんこの程度で、大蛇に適うはずがない。瑛梨は時間稼ぎを狙ったのだ。
『僕も行くよ!』
みゅーも素早い動きで大蛇に向かった。その横で凪が起き上がろうとしている。
『こ、この程度で・・・・・・!』
逆立った毛並みを戻し、凪が鎌を振りかざし走る。
「しっかりしろや!やられるぞ!」
瑛梨は浩平と七瀬の頬を順にはたいた。
「う・・・」
しかし、その程度では立ち直れない。一方、凪と獣達は奮戦していた。

シュッ!

凪が素早い動作で撹乱し、横合いからみゅーが飛び出し一本の首と向かい合い、睨みをきかす。その瞬間わずかだが頭の動きが止まった。みゅーは金縛りの力をもっているのだ。最も、大蛇相手にはこれが精一杯だが。それでも、凪が鎌を振りおろし、首筋を切りつける。鱗が飛び、一条の筋が入るが致命傷には程遠い。

ふははははは・・・・・踊れ!踊れ!

ブオオオオオオオオオォォォォォーーーーーーーーーーッッッ!

燃え盛る炎が凪達に襲い掛かる。凪とみゅーはそれを辛くもかわすが、狼と怪鳥はそれをもろに喰らった。火だるまになりながらも二匹は奮戦していた。
『くっ・・・早くしろ!小僧!』
凪の切望は何とかかなえられた。闇雲と雁貫を握り、力を宿らせた二人は再び闘志を燃やしていた。
「いくわよ!」
「ああ・・・」
二人は左右に分かれ大蛇に向かった。浩平が左、七瀬が右である。

おのれ・・・ちょこまかと・・・・・

「はあっ!」
七瀬が跳躍し、一本の首に剣を突き立てた。

グシュウッ!

グアアアアアァァァァァァァーーーーーーーーッッッ!!!

苦しみの声を上げ、大蛇がのたうつ。そこに浩平が突っ込んだ。
「・・・・・そこだっ!」

ザシュウウウーーーッ!

無防備になった一本の首を、渾身の力でそれを切り落とす。大量の地飛沫が辺りに飛び散る。

ウオオオオオオォォォォォーーーーーーッッッ!!!ゆるさん!

片目の首の顎が大きく開き、真っ赤な豪炎が吐き出される。着地に気を取られた浩平は。それをもろに喰らった。
「うわあああぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!」
全身を火だるまにして、浩平は地を転がった。
『小僧!』
凪が薬を取り出し、浩平に駆け寄る。手薄になった攻勢に大蛇が猛威を振るった。

ベキィィィッッッ!

大蛇の尾が振られ、怪鳥を叩き落とす。炎が狼を骨まで残らずに溶かしてしまった。
「まずい!」
瑛梨はすかさず次の召喚を始めたが、そこに吹き飛ばされたみゅーが衝突した。
「何やってんだ!この馬鹿!」
『僕だって一生懸命なんだ!』
「そんなことやってないで、早く助けなさい!」
七瀬は果敢にも一人で戦っていた。致命傷は喰らわないものの、そこかしこに火傷や傷が見える。そして、動きに疲れも見え始めていた。
『小僧、大丈夫か!?』
「あ、ああ・・・」
凪の薬で立ち直った浩平が起き上がった。それでも、傷は完全には癒えず浩平はよろめいた。
(くそ・・・このままじゃ・・・)
浩平に焦りが生じた。そこによろめいた拍子で櫛が地面に落ちた。それに目を奪われる。
(そうだ・・・こんな所で死んでたまるか!)
櫛を拾った浩平は強く瑞佳のことを思った。
「折原!動けるの!?」
そこに一時後退した七瀬がやって来る。浩平は一つの賭けを思い浮かんだ。
「七瀬一つ乗らないか?」
「何を」
「瑛梨も、凪も、みゅーも協力してくれ!」
浩平は力強い声で呼びかけた。
「七瀬、あの片目の目をつぶしてくれないか?多分あいつが中心だ、他の奴はしゃべらないからな。少しは動きが止まるだろう。他のみんなはそれを援護してくれ」
「あんたはどうすんの?」
「俺は動きが止まった所を火口に突き落とす!」
浩平の瞳は決心で輝いていた。
「そんなことできるの!?あんた、まさか・・・」
「どっちにしたって、他に手はない」

何を話しておるか・・・うっとうしい・・・今すぐ止めをさしてやる・・・・・・

巨体をゆすりながら大蛇が近づいてくる。七瀬達も覚悟を決めた。
「行くわよ!みんな」
七瀬、凪、みゅーが同時に走り出す。瑛梨は獣を何体も呼び出し、それを大蛇にぶつける。

むううう・・・

大蛇の声に焦りが混じり始めた。凪とみゅーは動きを利用して、大蛇の目をくらます。獣達は散漫な動きながらも、かえってそれが大蛇の動きをあせらせた。七瀬は確実に剣を振り回し、手傷を与え片目の首に近づく。そして、浩平は離れた所で闇雲に念じていた。
(頼む・・・!俺の力を全てくれてやる!心を喰おうが、何しようが構わない・・・だから俺に力を貸してくれ!)
浩平の願いは闇雲へと確実に伝わっていた。何かが闇雲を通して、浩平に流れ込む。

ドクン・・・ドクン・・・

全身が脈動し意識が薄れてゆく。一方、七瀬達は。
『いくよーーーっ!』
大蛇の体を伝わり、みゅーが片目の首へと上りつめる。そして、ちょうど目の前に飛び上がった時。
『やあっ!』

パシュッ!

みゅーの全身が発光し、まばゆい光りで辺りを照らした。たまらず、大蛇が目をつぶった。そこに七瀬が切り掛かった。
「いやああああーーーーーーーーっっっ!!!」

ドグンッ!

ぐああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!おのれーーーーーっ!

残った目をつぶされ、大蛇は怒り狂う。しかし、その動きに隙が生じた。ちょうどその時、浩平の心を喰われていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
獣の咆哮を上げ浩平は変貌していた。そして、力強く地を蹴り大蛇に突っ込む。闇雲を突き出し、その胴体にねじ込んだ。

ブシュウウウッ!

ぬがああああぁぁぁーーーーーっっっ!

大蛇が苦しみの声を上げる。浩平は力を弱めずに大蛇を火口へと向かって、押し進む。
「ぐうううううううぅぅぅぅーーーーーーーっっっ!!!」
獣の目を光らせ、浩平は進む。そんな浩平の姿を一同はあぜんとして見ていた。
「これが・・・闇雲の力?」
「まるで・・・」
『化け物だ』
事実化け物と化した浩平はついに火口の手前へと、大蛇を追いつめた。
「ふううううううぅぅぅぅぅぅぅーーーーーっ!」
闇雲を抜き、大蛇の体に浩平は蹴りを放つ。大蛇の体は体勢を崩し、後ろによろめいた。だが、

おのれ・・・貴様も道連れにしてやる!

ブゥッン!

「!?」

ドガアアアッ!

大蛇の尾が振るわれ、浩平の背後を襲った。浩平はかわし切れずに。大蛇と共に火口へと落ち行く。
「折原!?」
『小僧!?』
浩平を助けようと走るがそれは遅すぎる。
(ああ・・・これじゃあ意味がないじゃないか・・・)
落下していく浩平の残った、わずかな自我が悲嘆にくれていた。不思議と恐怖は湧いてこない。
(瑞佳の奴、悲しむだろうな・・・・・・)


お兄ちゃん・・・・


(・・・?)
頭の中に響く懐かしい声。しかし、それが誰かはわからない。そして、次の瞬間、浩平の視界は真っ暗な闇に包まれた・・・・・・・・・・。






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なぜなにONE猫!
うーん、一体浩平はどうなってしまったのか?それは作者だけが知っている(^^)
ちびみずか「あたりまえだよ」
今回は戦闘のみになりましたが、大蛇編ラストの戦いになります。次回大蛇編最終回!今日は多くは語らずに、それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第三三幕「待ち人」ご期待下さい!


解説

大蛇・・・『古事記』に伝わる八つの頭と尾を持った蛇。古事記では出雲に現れたのだが、事情により変更。その尾からはあまのむらくもが取れたという。