ONE総里見八猫伝大蛇の章 第三一幕 投稿者: ニュー偽善者R
第三一幕「八又の大蛇 前編」


船を渡り西海道へとやってきた浩平。大陸を包む不穏な雲が大蛇との戦いを予感させていた・・・・・・・。


肥後の国へと向かう一行。闇雫との戦いに巻き込まれたが、一切の怪我もなく何とかここまでたどりついた。彼等が向かっているのは、肥後のある駄世門宗の一派である。そこで、大蛇までの案内がいるらしい。
(大蛇ってのはどんな妖なんだ・・・?)
これまでの過程で浩平達は地震や大雨で荒れた村を見てきた。これが全て大蛇の復活による影響らしい。
「落ち合う場所はあそこだな・・・」
乾いた道の前方に枝の折れた古木が見える。ここが使者との待合場所だった。手近な岩場を見付け、そこで休憩をする。
「なあ、妖怪達の間で大蛇のことは聞かないのか?」
『一千年も前の話だからな、百年も生きてないわたしにわかるはずがなかろう』
逸話では聞くことのある大蛇だが、どれも誇張的で概要が掴めない。天変地異を起こすような妖怪だ、それが真実だとは思いたくない。それからとりとめもない談話をして時間を潰す彼ら。この時刻に毎日顔を出すと言っていたのだが、使者はまだ来ない。そして浩平達が待ちくたびれた頃。呑気な声とそれをたしなめる声が道の向こうから聞こえ始めた。
「いや〜、遅れちまったぁ」
『瑛梨が悪いんだよ。あんなにご飯食から』
「まあ、そう責めるな。おっ、あの人達じゃないかな?」
やって来たのはなまりの含まれた話し方の男と、その肩に乗る白いいたちのような獣。
「あっ!みゅーそっくり!」
繭が獣を見て歓声を上げた。繭の言う通り、獣は大きさは違うもののかまいたちそっくりであった。
「あんた達が本山からの方達かい?」
浩平達のそばまで来た男が、屈託のない笑顔で声をかけてきた。
「ああ・・・あんたが使いか?」
「そうだ。俺の名は瑛梨。獣使いの瑛梨ってんだぁ」
『僕は魅癒。瑛梨にはみゅーって呼ばれてる』
獣と言えども、言葉を話し妙に礼儀正しい。そして、その名前を聞いた繭が反応した。
「なまえもそっくり!」
『僕にそっくりどういうことだい?』
みゅーの疑問に後ろに下がっていた凪が姿を現した。
『ふむ。わたしとそっくりな獣とは珍しい』
『うわっ!?本物のかまいたちだ!』
「ほお〜、本物に会えるとは思ってなかったなぁ」
繭はみゅーに近寄りその頭を撫でる。どうやら気に入ったようだ。
「盛り上がってるようだけど、話を進めていいか?」
二人と二匹の間に少し外れた感じがした浩平が割り込んだ。
「おお、すまない。とりあえず俺達の寺に来てくれ。疲れた体で倒せるほど、大蛇は弱くねえ」
こうして浩平達は瑛梨の案内で、西海道の駄世門宗一派多久寺に向かうことになった。


多久寺に着いた彼らは荷物を置き、本堂へと集められた。多久寺はさすが本山に比べると規模が小さい。それでも山寺でありながら広大な敷地を用意している。
「各地の様子は見ましたかの?」
「はい」
御本像の前で真っ白な髭を伸ばした高齢の住職が、浩平に語りかける。
「ひどいもんじゃろ。大蛇の目覚めで地震は相次ぎ、大荒れじゃ。だが、まだこんなものではないのだ。奴の完全なる目覚めは火山の噴火ももたらす。そうなればこの国はどうなるか・・・」
皆の間に沈黙が流れる。火山の噴火、それは肥後の国だけに影響するわけではないだろう。風に乗れば灰が近隣に降り注ぎ、同時に起こる大地震は本土も触発するだろう。
「あなた達には不運な巡り合わせじゃのう・・・しかし、そなた達にしかできないのだ。貴族達は恐れるばかりで兵士すら送ることもない」
「大蛇ぐらい大したことないぜ。もっとすげえのとお前等は戦うんだ」
瑛梨が冗談とも本気ともつかない声を発する。それをみゅーがたしなめる。
『そんな無責任なこと言っちゃ駄目だよ。この人達は命懸けなんだから』
「わーってる」
「みゅー・・・えらいね」
みゅーの側を離れない繭がみゅーの頭を撫でた。みゅーは照れくさそうにそれを黙って受ける。その横で凪が不機嫌そうな表情で黙っている。
『怒ってるの?』
澪が凪の様子に気付き、問いかける
『そんなことはない』
「澪ちゃん、構ってもらえないから嫉妬してるんだよ」
『そうなの』
瑞佳の言葉に澪が納得した。
『誰が嫉妬なんかするか!』
たまらず凪が大声を上げると、住職がせき払いをした。
「おっほん!」
『・・・申し訳ない』
「・・・すいません』
『・・・ごめんなさいなの』
(何やってるんだ・・・こいつら)
端から見ている浩平は溜め息をついた。
「案内には瑛梨を立てよう。今日はここでゆっくり疲れを取るがいい」
「ありがとうございます」
住職の話も終え、それから各自自由な時間をもつことになった。


「みゅー!こっちー!」
『こっちなの!』
『わっ!待ってくれよ!』
中庭では繭と澪がみゅーと追い駆けっこをしている。それを瑛梨と凪が離れた所で眺めていた。
『瑛梨とか言ってたな。あの式神は一体何だ?見たことも聞いたことがないぞ』
「お前さん方かまいたちをまねてみたのよ。力は別物だけだどな」
一方、追い駆けっこの方では繭がみゅーに抱きつかれていた。
「つかまっちゃった・・・・・」
『ははは、足が早いなー繭は』
そんなほほ笑ましい様子を凪がちょっと不機嫌な目で見ているのを、瑛梨は何ともおかしくて笑いをこらえていた。
「いっしょにあそぼうよ!」
そこに繭がみゅーを従えてやって来た。
「かわいい、嬢ちゃんだな〜。よし、俺から逃げられるかな?」


浩平達が寝室に与えられていた部屋では、縁側に浩平と瑞佳が腰かけ月を眺めていた。細い三日月が空にかかり、か細い光りで二人を照らしている。
「月が綺麗だね」
「何かこうしてるとさびしい気持ちになるな」
そんな浩平の言葉に瑞佳はおかしそうに笑い出す。
「何だよ」
「あはは、だって浩平には似合わないんだもん」
「このやろ〜」
浩平は瑞佳の頭を引き寄せ、髪の毛をもみくちゃにしてやる。
「わっ、やめてよ」
瑞佳が悲鳴を上げると浩平は素直に止める。逆にそれが不思議に思わせた。
「どうしたの?今日も変だよ」
「も、は要らないぞ・・・」
「ねえ・・・やっぱり怖いの?」
瑞佳が浩平の顔をじっと見据え改まって聞いた。
「・・・・・・」
浩平は肯定とも否定ともつかない沈黙をしたが、口を開いて言った。
「瑞佳・・・お前はここに残れ。澪も繭もだ」
「え・・・ど、どうして?わたし、そんなに足手まといかな?」
「そういうわけじゃなくて・・・・・」
悲しげな表情を浮かべた瑞佳を、浩平も見つめ返した。
「何て言うか・・・もし、もしもの話だぞ。お前を連れていって、お前が命を落とすことになったら・・・・・・」
浩平の瑞佳に対するわだかまり。浩平はみさきとの出会って以来、それに気付いていた。認めたくなかったのだ。だが、命の保証のない戦いを前にして素直になろうとしていた。
「俺は・・・」
「・・・浩平」
浩平にはそれ以上言葉を告げることができなかった。しかし、彼らにとっては今はそれで十分だった。
「わかった。わたしここに残るよ。でも、今はずっとそばにいてよね」
「ああ・・・」
ぴったりと寄り添い満天の夜空を見上げる二人。少なくとも今は幸せだった・・・・・・。


翌日。浩平は瑞佳、澪、繭を残し大蛇のいるという火山に旅立っていた。
(瑞佳・・・俺は必ず帰るぞ)
浩平は懐に収めた何かを握りしめる。そこには瑞佳に贈った櫛があった。瑞佳にお守りにと渡されたのだ。
「みんな〜、もうすぐ着くぞ」
瑛梨が緊張感の出ない訛りで声を出した。前方には不穏な雲を漂わせた火山が近くに見える。その中腹に巨大な洞穴がある。
「あそこに大蛇が・・・」
『しかし、この手勢では少なすぎないか?』
『大丈夫だよ。瑛梨は数を呼ぶことだけなら得意だから』
「しかし、二人と二匹はつらいなぁ」
瑛梨がそう愚痴をこぼした時、浩平は岩陰に潜む気配に気付いた。覚えのある気配だ。
「いや・・・どうやら三人と二匹のようだぜ」
「?」
一同は浩平の言葉の意図が掴めずに、きょとんとした。だが、浩平の言葉を肯定する声が発せられた。
「あんた達だけじゃ、心配だからね。加勢に来たのよ」
「久しぶりだな。七瀬。お前が助けに来るなんてどういう風の吹き回しだ?」
岩陰から現れたのは雁貫の継承者、七瀬留美だった。
「味方じゃないんだろ?」
浩平の声はからかい気味である。
「味方じゃないわよ。でも、わたし達の目的は妖怪の排除という点では同じだからね」
排除。七瀬の言葉に浩平は自然に反感を覚えた。
「でも、お前赤月宗に裏切られたんじゃないの?もしかして、行き場がなくて困ってたんじゃないの〜?」
浩平の鋭い指摘に七瀬はうっ、とうめいた。図星らしい。
「と、とにかく!わたしが助けてあげるんだから感謝しなさいよ!」
七瀬は言葉につまったのか踵を返し早足に進み始めた。
「ほ〜、おもしろい娘さんだね〜」
『綺麗な人だよね』
『なかなかあれであばずれだけどな』
そんなことを言いながら三人と二匹は大蛇のいる洞窟へと向かった・・・・・・・・・・・・・。




@@@@@@@@@@@@@
なぜなにONE猫!
おいおい!瑞佳様とラブラブに入るのは早いんじゃねーのか!?という方、くっくっくっ・・・実はそうでもないのだよ。
ちびみずか「またなんかあるの?」
ふっふっふっ・・・大蛇編はあと二話、そしてまだ現れぬヒロインその他のキャラ(^^)まだまだ終わらないのだよ。
ちびみずか「がいでんかいてよ〜〜〜」
そろそろかかないとな〜。
ちびみずか「あっ、げすとのしょうかいしなきゃ」
そうだった。今回のゲストはえいリさん!職業は獣使い。相方はみゅーです。
ちびみずか「じかいもでるんだよね?」
次回も出演、大蛇戦の手伝いをしてもらいます(^^)さあ、大蛇編次回でラスト2!それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第三二幕「八又の大蛇 後編」ご期待下さい!


解説


瑛梨・・・えいりさんが希望してくださった獣使い。なぜか訛りのあるしゃべり。なぜだろう?繭とはあまり絡めれなかったのは申し訳ありません。獣使いに関しては勝手に設定。獣も人工的な妖怪といったものにさせていただいた。

みー・・・相方役として起用。獣という設定。しゃべり方はシュンよろしく礼儀正しいという希望だったのだが・・・うまく表現できただろうか?