ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第三〇幕 投稿者: ニュー偽善者R
第三十幕「船上の闇」


「いい風だね〜」
「ああ」
風に乗り海上を進む船上に浩平達はいた。目的はただ一つ、復活した大蛇のいる日向の国に渡るためである。駄夜世門宗総本山で命を受けた浩平だが、前とは違いその命におとなしく従った。妖怪を殺すことに割り切ったわけではないが、自分の旅の目的に少しづつだが目覚め始めていた。
「どうしてついてきたんだ?」
危険な戦いについてくる瑞佳に浩平が問う。
「だって、浩平が心配なんだもん」
「馬鹿、死んだらどうするんだ」
「死なないよ。浩平が守ってくれるもん」
浩平に向かい合い、曇りのない瞳で浩平を見つめ返す瑞佳。浩平は照れて顔をそむけた。
「馬鹿・・・足手まといになるなよ」
「うん」
会話を終え浩平は海を眺めに入る。瑞佳はそれにつき合いずっとそばにいた。
『気持ち悪いの〜〜〜』
一方、反対側の縁では澪が船酔いをしていた。壁に背をつけぐたっとしている。
「みゅーっ!とりさんだよ!」
『海鳥だよ。あれは』
繭が船上を飛び回る鳥達に歓声の声を上げる。さすがに人前では姿を消す凪は、繭だけに思念を飛ばす。海を見るのも初めてな繭ははしゃぐばかりであった。そして、鳥達を追いかけ船上を走り回る。
『繭!走ったら危ないぞ!』
凪の注意が飛ぶが、繭の速度は止まらない。
「だいじょうぶだも〜〜〜ん!」
だが、客は浩平達だけでなくたくさんの人が乗っているのだ。そして、繭の走る先には、舟縁にぼーっとたたずむ人物が立っていた。

ドカアアアーーーッ!

「みゅっ!?」
見事舟客に激突し繭はしりもちをついた。
「・・・・・・・」
「みゅ〜・・・ごめんなさい」
痛みに顔をしかめながらも繭は前方の男に頭を下げた。しかし、男は何の感情を浮かべることもなくただ黙るのみ。繭は不思議に思って男の顔を見つめるのみ。繭は不思議に思って男の足に触れてみた。
「?」
体温を感じない。それどころか冷たくもなく、実体に触れた感じがしない。
「みゅ・・・あなただれ?」
「・・・・・・・」
繭を見つめ返す男。その表情に初めて変化が生まれた。わずかに顔の筋肉がゆるんだ程度であるが、そのことに男自身が驚く。
「わたし・・・まゆ」
「・・・・・・・やみ・・・・しずく」
どうやらそれが名前らしい。低くくぐもった声で、発音したというよりは響いたといっていい。
「・・・・・どこいくの?」
「・・・・・・・わから・・・ない」
「どうして?」
「・・・やみに・・・みちびか・・・れるまま」
要領をえない闇雫の答え。繭もそれを理解しているのかどうかわからない様子だが、何となく楽しそうだった。
「椎名!大丈夫か!?」
「駄目だよ、走り回ったら」
後ろから浩平と瑞佳がやってきた。
「どうもすいません」
瑞佳が闇雫に頭を下げようとしたその時、浩平がそれを止めた。
「待て!瑞佳!」
「どうしたの?」
「こいつ・・・妖怪だ」
「えっ!?」
闇雫に近づいた瞬間、闇雲が鳴動を始めたのだ。浩平は瑞佳を押さえ闇雫に向かい合う。凪も騒ぎを聞きつけ、姿を現して駆けつけた。乗客の中でどよめきが起こる。
「凪、姿を出すなよ」
『そうも言ってられん。こいつはやっかいな奴だ』
「知ってるのか?」
『まあな。目的もなくあちこちをふらふらしてる奴だ』
浩平と凪が会話している中で、闇雫に変化が現れ始めた。
「・・・まとめ・・・しものか」

ぞわぞわぞわ・・・・・・・

闇雫の体から真っ黒な霧が沸き立つ。いや、霧ではなく闇そのものだ。人の形を無くし、闇が広がっていく。
「な、何だこいつは!?」
『気をつけろ!奴の闇に包まれると無気力になる!』
「無気力?」
浩平がその意味を確認している暇はなかった。完全に闇と化した闇雫が浩平達に向かってくる。
「瑞佳!椎名を連れて逃げろ!」
そう言い放ち、闇雲を抜く浩平。そして、上段に構え闇雫に斬り掛かる。

ボンッ!

「斬れない・・・!?」
浩平を驚愕が襲った。闇を切り裂くが、全くの手ごたえを感じず闇雫の闇はまた元に戻る。
「ちっ・・・嫌な予感はしたがよ」
『小僧!早く離れろ!』
凪の叱責が飛ぶがそれは遅すぎた。

シュゴオオオォォォ・・・・・・・

闇雫が浩平に覆いかぶさる。浩平は抗する間もなく闇に包まれた。
「力がでねえ・・・」
無気力と化し浩平は闇雲を取り落とす。目がうつろになり浩平は動かなくなった。
『くっ!小僧は使いものにならん!』
凪は劣勢を感じ後ろに後退する。闇雫はそれを追い前進する。
「うわっ!」
「なっ!」
乗客達も闇に包まれ無気力になっていく。瑞佳達は船の最後尾に達していた。無関係の人々が巻き込まれていくのを見て、瑞佳は自分の無力に襲われた。
『小僧がやられた!わたしの力ではどうすることもできん!後はあなたに任せるしかない!』
「浩平もやられちゃったのに・・・!どうるんだよ!?」
『奴は火に弱い、大量の火を起こせば人の姿に戻る。そこを斬れば倒せる』
「でも・・・」
それでも瑞佳は迷った。大量の火を起こす術等、瑞佳は使えない。そこに繭が火という単語だけは理解して、瑞佳に種火を差し出した。
「これ、ひだよ」
もちろん種火程度では闇雫を追い込むことなどできないだろう。だが、瑞佳の頭に閃くものがあった。
「そうだ!繭!それだよ!」
繭から種火を受け取り、それを下に置く瑞佳。
「澪ちゃん!火を起こして!」
『な、何とかやってみるの・・・』
船酔いが収まらない澪だが、瑞佳の指示通り種火を起こしにかかる。瑞佳は護符を取り出し、それに念じ始めた。
「数多に浮かぶ火の精達よ・・・我が命に従い始まりの炎を助け給え・・・・・」
瑞佳が呪詛をつぶやき始める。瑞佳自身には火を起こすことはできない。だが、大量の火を起こす方法はあった。種火から炎を起こせばよいのだ。そのために火の力を増幅するために、詠唱をする。しかし、それには時間がかかった。その間にも闇雫が迫ってくる。繭は事態を掴めずぼけっと立っていた。
『繭!危ない!』
「ほえ?」
繭を闇雫が包もうとするが、繭だと確認した闇雫の動きが止まった。
「・・・・・・・・・・」
闇雫の侵攻は止まり立ち往生する。それが時間稼ぎになった。
「起こりし種を燃え盛る炎と変えよ!
『ついたの!』
詠唱が完了し、澪ももぐさに火をつけた。瑞佳が護符を火に投げ入れると、小さな種火が突如急激に燃え始めた。
「いけっ・・・!」

ブワアッ!

「ひ〜〜〜〜・・・・・・・・」
炎がまっすぐに闇雫へと伸びる。炎にあおられ闇雫が悲鳴を上げた。闇の広がりは後退し始め、だんだん縮小し始める。そして、凝縮した闇が再び人の形と成した。そこに凪が鎌をきらめかせ突っ込んだ。
『もらったぁっ!』

ザフウッ!

「うあああぁぁぁ・・・・・・・・・」
肩口からばっさりと切り裂かれ、闇雫の体が霧散していく。人の形が崩れ、広がることもない。
「ああ・・・・ああああああ」
消えてゆく闇雫に繭が近づいた。そっと手をさしのべ声をかける。
「ひとりじゃないよ・・・ともだちだもん」
「あ・・・ああ・・・ああああ・・・・・・・」
闇雫が消滅してゆく。繭はそれを曇りのない瞳でじっと見つめていた。


「う・・・あれ・・・俺は一体?」
「浩平大丈夫?」
「ああ」
闇雫が消滅し、呪縛から解けた浩平が辺りを見回す。乗客達も訳がわからずに不思議がっているようだ。
『お前が腑甲斐ないおかげで苦労したぞ』
「なんだとー!」
『喧嘩は駄目なの!』
いがみ合う彼らに離れて繭は一人たたずんでいた。その手を見つめただ一言呟いた。
「さびしかったんだね・・・・」
繭が顔を上げると、前方に陸が見えてきた。不穏な雲が陸を覆っている。大蛇との戦いはもうすぐである・・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
SS作家さん第二回出演!今回は・・・闇雫こと!雫さんでした〜〜〜!
ちびみずか「おめでとうございま〜〜〜す!」
雫さんは妖怪を希望してくださったので、こんなのになりました。さらに強引に繭とも絡ませてみたり(^^;
ちびみずか「よくわからないはなしだったね」
うーん、一話で収めるのはきつかったかな?パルさんの時も失敗したし(TーT)
ちびみずか「じかいもげすとでるんでしょ?」
おっ、そうだった。次回は・・・えいリさんが出演します!さらに大蛇との戦いも・・・入れるかどうかは不明(^^)
ちびみずか「てきとうだね」
さて、大蛇編も残り後わずか!一体二部はどうなるんじゃ!?という方、うすうす気付いてるでしょうが・・・あの方が出ます(^^)それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第三一幕「八又の大蛇 前編」ご期待下さい!


解説

闇雫・・・雫さん希望の妖怪。闇そのものの存在で、斬っても倒すことはできない。凝縮して人型になることもでき、勝手ながらこの状態の時だけ斬れることにした。人型の時は「怠惰」「無関心」「繭命」。闇に包まれると無気力になる。ギャグにしようかとも思ったがやめておいた。

繭・・・凪を大妖の妖気から浄化したり、闇雫とも交流したりと謎のあるキャラ。これは繭の純粋性のなせる技で、大体の方が気付いていると思うが、妖気を浄化している。というのは急ごしらえの設定、本当は別の設定(こっちの方がこってた)があったのだが、今後の展開の関係で流れた。出番が少ないのは作者が最も苦手としているため。