ONE総里見八猫伝大蛇の章 第二九幕 投稿者: ニュー偽善者R
第二九幕「宿地、出雲」


狐達の村で雁貫の継承者、七瀬と出会った浩平。妖魔の反乱にあい窮地を迎えるものの、かまいたちのみゅーこと、凪の助けを得て何とかこれを撃退した。そして、繭に再会を果たし、七瀬とは別れ浩平は目前の出雲へ旅立ち始めた。そして、彼らは総本山の位置する山奥に分け入っている。


乙音寺を旅だってからすでに半年が過ぎようとしていた。季節も流れて秋に変わろうとしている。山奥の木々は変化が早く、もう紅葉に染まり始めていた。だが、それを楽しむ余裕は浩平にはなかった。
「はあ、はあ・・・これじゃあ単なる獣道じゃないか!」
「ほ、ほんとだよ」
遅れて後に続く瑞佳もうなずく。澪はすでに話す気力もない。
『だらしがないぞ、小僧』
獣道には慣れている凪が、繭を背に乗せて先を進む。
「みゅー・・・おそい」
自分は楽をする繭が不満気に口を開いた。
「はあ、はあ・・・お前は楽でいいよ・・・」
繭をねたむ一方で、浩平は繭の開放された笑顔を見て安心した。
(少しは大人になれるかな・・・こうして旅にも出てるんだし)
凪から聞いたところによると、繭は自分から浩平を追うことを言い出したそうだ。それも単なる退屈や寂しさからではなく、浩平の役に立ちたい。という献身的な思いかららしい。それでも、興味本位な部分が半数を占めるが。華穂さんとは以前よりも心を開いたらしい。いまだ残る隔たりはふさぐのに時間がかかるだろう。それでもこの旅で成長した繭ならば乗り越えられるに違いない。
「ねえ、浩平」
「あ、何だ?」
「どうしてここまで来れたの?」
瑞佳から当たり前のような疑問。それでも浩平は最初は嫌がっていたのだ。何が彼を変えたのか。
「それは・・・」
浩平は言いかけて口をつぐんだ。瑞佳に対するわだかまりはいまだ残っていた。自分の中にある不安定な感情、みさきとの出会いから浩平はそれに気付き始めていた。
「どうしたの?」
「いや、いい・・・」
浩平は顔を背けて歩を早めるので、瑞佳はそれを追うのが精一杯になった。
『見えたぞ!』
先頭の凪が声を上げた。駄世門宗総本山が見えたのだ。浩平達もその言葉に歓喜し、一気に駆け上がる。
『ま、まってなの〜』
澪はすでに全力を使い果たしていた。浩平と瑞佳が坂を登りきり、ついに念願の総本山を視界に入れた。
「うわぁ・・・」
「こりゃすげえ・・・」
二人はその寺院の規模に目を見開いた。山間のくぼんだ土地を選んで立てられた本山。それは並みの寺院の数倍の大きさを有している。整理された敷地を含めればさらに面積は広がる。じっと建物を見ていた浩平だが、眼前にそびえる巨大な門の前に一つの人影があるのに気付いた。迎えの使者であろうか?とりあえず浩平は澪が追いつくのを待って、門に向かった。門の前にいたのは錫杖を持つ少年、氷上だった。
「やあ、ずいぶん遅かったね」
「久しぶり・・・かな」
氷上の顔は前出会った時とは変わっていなかった。形のいい涼やかな瞳、それでいてどこか空虚な瞳で浩平を映していた。
「とりあえず中に入りなよ。もちろん君もだよ」
氷上は凪をさして言った。
『妖怪のわたしを中に入れるのか?』
「妖怪かどうかなんて関係ないよ。僕らは破滅を阻止するかしないかだけなんだ」
遠回しな言い方だが、味方なら妖怪も人間もお構いないらしい。凪もそれを感じたのか、中に入ることにした。
「会わせたい人がいる」
氷上が短く告げる。
「誰だ?」
「この駄世門宗に頂点に立つ人さ」
氷上に案内されるまま彼らは広大な本堂を抜ける。
「ここからは君だけが来てくれ。他の人達は自由に見物してていいよ」
氷上の言葉に澪と椎名は不満の顔をしたが、口には出さなかった。浩平以外の者はその場に残り、さらに先へと進む。その先には小さな私室があった。
「ここだよ。中で待ってるから、後は君がその身で事実を受け取るんだ」
氷上はそう言って背中を向けて立ち去ってしまった。浩平は襖を見つめ緊張した面持ちになる。多分、ここで待っている人物は全てを知っているだろう。そして、自分の運命がどうなるかも。浩平はためらうが襖に手をかけた。
(ここまで来たんだ・・・!)
浩平が勢いよく襖を開けた。そこで浩平を待っていたのは意外な人物だった。
「やあ、君がまとめし者かい」
「な・・・」
浩平は拍子抜けした。部屋にいたのは座敷に座る、少年だったからだ。だが、不思議なことに髪は青みがかった白髪でその瞳は獅子色に輝いている。
「どうしたんだい?」
屈託のない無邪気な笑顔を向ける少年。これが本当に駄世門宗の頂点に立つものなのか?
「お前がここの主なのか・・・?」
「まあ、そんなものだね。座りなよ、長旅で疲れてるだろう?」
「あ、ああ・・・」
浩平は釈然としないが少年の言葉に従った。少年はその不思議な風貌からか、どこからともなく威圧感が漂っている。
「知りたいことはたくさんあるだろうね」
「ああ、うんざりするほどな」
「君には悪いことをしたね。でも、それは闇雲が選んだ運命、遅かれ早かれ必ずやってくるんだ」
冷たすぎるほどの少年の言葉。自然と浩平は反感を覚えた。それに気付いた少年が言葉を続けた。
「言い方が悪かったね。君にしかできなことなんだよ、この世を救うことは」
「一体大妖ってのは何なんだ?」
浩平の問いに少年は表情こそ変えないものの、少し思案して口を開いた。
「人より生まれし、黄泉へと落ちたもの。引き裂かれし二人が、心をずらしたもの。全ては歪みより生まれし・・・・」
「何だそれ?伝説か?」
「今考えてみたんだ」
「なっ!?」
「ははは、でも真実は伝えていると思うよ」
遠回しな所は氷上にそっくりだ、そう思いつつも浩平は闇雲の質問をした。
「この剣についても教えてくれ」
「それは五体の一部にしか過ぎない。大妖を打ち倒す五武の対の一つなんだ。そして。闇雲を受け継ぎし者はまとめし者となる」
まとめし者、これまでに何度も浩平はその言葉を聞いた。
「まとめし者とは目覚めた五対を受け入れる者のことさ。まとめし者だけが、大妖に対抗できる」
「それが俺ってわけか・・・」
全てに納得したわけではないが、少しは浩平は気が晴れた。一方で何故自分がこんなことをしなければならないのか、疑問が湧いてくる。
「俺がどうして選ばれたんだ?」
「何でだろうね、不思議だよ」
「ふざけるなよ」
「あはは、冗談さ。多分君の魂が何者よりも強いからだよ」
ほめられている気がしないが、浩平はもう一つ質問してみた。
「赤月宗って何なんだ?」
「雁貫の継承者に出会ったみたいだね。赤月宗とは僕らとは道の異なる宗派さ。妖怪と見れば、見境なく命を奪う狂信者達の集まりだよ。今話せるのはここまでさ、今日はここで泊まっていきなよ。戦いはまだ続くだろうしね」
氷上との会談はそれで終わりだった。仕方なく本堂に戻るが誰もいない。瑞佳達は見物にでも行ったのだろう。浩平は何もすることがないので、外の中庭に出てみた。
「ふう・・・大変なことに巻き込まれたなぁ・・・」
青空を見上げ、浩平は感慨をつく。今考えれば全て仕組まれたような感じがしてならない。一方で宿命というものを感じずにはいられないのも事実だった。
「はあ・・・」
もう一度溜め息をついた時、浩平の顔に緊張が走った。殺気にも似た鋭い視線。敵意に溢れている。浩平は危険を感じ素早く地を転がった。

シュンッ!

その直後、浩平の頭があった所を錫杖がかすめ通った。当たっていれば無事では済まないだろう。
「何者だっ!?」
浩平は立ち上がりながらも、攻撃の主を確かめた。そこにいたのは錫杖を構え、修業用の袈裟を着た浩平と同い年くらいの少年だった。
「お前が折原だな!」
「そうだけど・・・お前は誰だ?」
少年はひょうひょうとした浩平の態度に少し、怒りを覚えながらも名を名乗った。
「俺は住井護!闇雲を受け継ぐはずだった者だ!」
そう言うや否や住井は錫杖を振り回し、浩平に飛びかかる。浩平は突然のことに呆気に取られながらも、構えに入った。と言っても、闇雲を鞘から抜いていない。
「おのれっ!侮辱するか!」
「いや、人を斬るのは嫌だからさ」
「なめるなっ!」
住井が錫杖を振りおろした。しかし、勢いは申し分がないものの、直線的すぎる。

ガンッ!

浩平はそれをたやすく受け止める。
「おいおい、何だか知らないが逆恨みはやめろよ。それにこの剣が欲しかったらいくらでもくれてやるぞ」
「そのように軽がしく扱うな!」

ガンッ!ギシッ!ビシッ!

住井の連撃を軽々と受け流す浩平。この長旅で、生身でも強くなっていたのだ。
「くそーっ!」
「いい加減にしろよ。俺だって怒るぜ」
「うるせーっ!」
何が気に入らないのか、住井はさらに錫杖を振り回す。そこに氷上の声が飛んだ。
「何をしているんだ!やめるんだ、二人共」
「氷上か・・・」
住井は氷上の姿を認めると渋々ながらも動きを止めた。
「浩平!一体どうしたの!?」
氷上に続いて瑞佳が浩平に駆け寄った。見物から戻ったらしい。
「いや、よくわからないんだがこいつがいきなり・・・」
「ふん!」
住井は浩平の視線に気付いて、そっぽを向いた。
「浩平がまた何かしたんじゃないの?」
『ありえるの』
「みゅー・・・いじわるだから」
澪と椎名もやってきて口を募る。
「お前等な・・・」
浩平が三人と交わるのを見て、住井は呆れたように立ち去ろうとした。
「おい、待てよ。何であんなことしたんだ?」
「・・・・・・」
住井は何も答えずにその場を去った。
「気にしないでくれ。彼は僕の修業仲間なんだけど、昔から闇雲を手にすることが夢だったんだ。だから君のことが気に入らないんだよ。悪い奴じゃないから、すぐ仲良くなると思うけど」
「ふーん」
何だかよくわからない気分のまま浩平はうなずいた。


その夜。肉類を一切使わない質素な料理を囲んで、浩平達は寺の僧達と語らっていた。だが、そこには少年や氷上、住井の姿もいない。また、凪も大勢の人間は嫌なのかどこかに姿を消してしまった。楽しく道中の話を聞かせている所に、扉を荒々しく開いて入ってきた者が居た。
「はあ、はあ、はあ・・・ぐっ!」
入ってきた男はぼろぼろで至る所に傷が見られる。着ている袈裟から僧だとわかる。
「どうした!?」
事態を感じた一人の僧が呼びかける。男は苦しげにかすれた声で、ただ一言告げた。
「お、大蛇が復活した・・・は、はやく・・・うっ!」
それっきり男は言葉を止めてしまった。だが、それとは対照的に周りの僧達は騒ぎ始める。
「はやく!主に!」
「氷上にも伝えろ!」
急に慌ただしくなる屋根の下で、浩平達はただ立ち尽くしていた。そんな、彼らを新たな試練が覆いかぶさろうとしていた。


再び少年の私室。真夜中だと言うのにそこには数人が集まっていた。
「まずいことになったね。多分、大妖の影響で大蛇が目覚めたんだろう」
部屋には少年を中心として、浩平、瑞佳、氷上、そして凪が集まっている。
「どうして俺をここに呼んだんだ?」
浩平は不機嫌そうに聞いた。どうせ答えはわかりきっている。
「君が倒さなければならないからさ」
「はあ・・・やっぱりか、でも氷上の方が強いんだ。氷上が行けばいいじゃないか」
「いろいろあってね。あまり僕は戦うわけにはいかないんだ」
つまりの所、浩平以外大蛇を倒せる者はいないのだ。
「日向の国には案内を頼んでおくよ。協力もしてくれるはずだよ」
少年は浩平の大蛇退治行きをすでに決定している。浩平は反論する気にもならなかった。
『小僧、ずいぶん物分かりがよくなったな』
「ほんとだね。いつもならすぐ怒るのに」
「怒りを通り越して呆れてるんだよ・・・・・・」
まだ見えない敵、大蛇。壮絶な戦いが浩平を待ち受けていた・・・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
ついにきました!駄世門宗総本山!ふー、長かった。大蛇の章もやっと佳境。
ちびみずか「ほんながかったよ」
そうだな〜、ここにきて一気にキャラ達が登場してるからな〜。少年も意外と早くでたし。
ちびみずか「いくみおねえちゃんとかは?」
そろそろ出ると思ってる方。まだまだ出ません(^^)けっこう意外な役なのだよ。さて、次回はSS作家さん出演します!
ちびみずか「だれ?だれ?」
第二回をかざるのは・・・
ちびみずか「どき、どき・・・」
雫さんです!大変長らくお待たせしました〜〜〜!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
設定は雫さんのご希望より妖怪!まあ、後は次回のお楽しみということで・・・それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第三十幕「船上の霧」ご期待下さい!


解説


五武の対・・・大妖を打ち倒すために作られた五つの武器。浩平の闇雲や。七瀬の雁貫、氷上の錫杖がこれに含まれる。残りの二つはどこに存在するかも不明。また、これらにはある種の人間の顔を持ち合わせている。詳しくは下の説明を。

闇雲その2・・・浩平が受け継いだ五武の対の一つ。これを持ったものは同時にまとめし者としても選ばれる。人間の「鬼」の心を宿している。これで浩平に残虐性が加わったり、暴走したりした。

雁貫その2・・・七瀬の持っている剣。人間の「勇」の心を宿している。あまり、剣を抜いても七瀬の性格が変わらないのはこのため。

仁塔その2・・・氷上の持っている錫杖。人間の「理」の心を宿している。性質についてはまだ触れることができない。

まとめし者・・・浩平の俗称。覚醒した五武の対を受け入れることができる唯一の人物をさす。まとめし者だけが大妖に対抗できるという。