ONE総里見八猫伝第二六幕 投稿者: ニュー偽善者R
第二六幕「獣の悲恋」


廃墟での山姥姫との戦いを切り抜けた浩平。しかし、闇雲の暴走により謎は深まるばかりであった。その核心をつかむためにも、彼らは旅続けるしかなかった・・・・・・・・・・。


関へと抜ける山道を歩く浩平達一行。だが、あの戦いの一夜から浩平は思案に更けることが多くなった。
(この剣・・・俺の心を喰うとか言ってたな。あれから意識が薄れて・・・・・)
浩平が自我を取り戻したのは、自分が瑞佳に剣を振るおうとしていた時であった。浩平はそれを止めようと叫んだのだ。その後はよく覚えていない。だが、薄れ行く意識の中で額に触れる暖かい感触は覚えている。
「浩平、またあの時のこと考えてるでしょう?」
「ああ・・・気になってしょうがなくてな」
いつになく気弱な顔を見せる浩平を見て、瑞佳はくすりと笑った。
「浩平考えるの苦手なんだから、無理しちゃ駄目だよ」
「何だとー!」
「えへへ、ごめん。でも、あまり考えすぎるのは駄目だよ。だから、今は自分達ができることをしようよ」
瑞佳の言葉に浩平は少し気が軽くなる。確かに自分だけが考えても答えが見つかるはずがない。
「そうだな。よし!今はひたすら進むのみ!・・・って、ぐあ!」
首に重みがかかり、浩平はのけぞった。澪が抱きついたのだ。
「み、澪・・・苦しい」
『がんばるの』
「頑張ろうね、澪ちゃん」
三人の間に自然と笑いが生じた。


それからしばらく進むと、急な坂道を彼らは出た。すぐ横を切り立った谷がそびえている。下には急な川の流れが轟音を立てている。
「雨のせいで足場が悪いから気をつけろよ」
地面は水気をたっぷりと吸ってぬかるんでいて、かなり滑りやすい。
『よいしょ、よいしょなの』
澪が懸命に登り、手前の木の根を掴んで手すりにしようとした。

ズボッ

『?』
しかし、貧弱な根は澪の体を支えることができずに土を離れた。もちろん、澪は支えを失い後ろによろける。
『あわわわわわわ!?』
「澪!」
澪は踏ん張ることもできずに落下していく。だが、澪の後ろには頭を下げて登ることに集中していた瑞佳がいた。
「えっ?」
異変に気付き瑞佳が頭を上げる。そこに澪の体がぶつかってきた。
「ええっ!?う、うそ!!」

ドンッ!

『止まったの・・・』
瑞佳が支えになり澪の落下は停止した。が、ぶつけられた瑞佳はというと・・・・・
「きゃ、きゃああああああーーーーーーーーー・・・・・・・・・・」
『あ・・・』

ズシャシャシャシャシャシャシャーーーーーーッッッ!!!

坂を転がっていく瑞佳。浩平と澪は突然の事態に動きを止めた。だが、すぐに声を上げる。
「瑞佳ーーーーっ!」
浩平は何とか助けようと追いかけるが、足場のせいで思うように歩けない。そして、瑞佳の絶叫が途切れる。
「くそ!なんてこった!」
『ごめんなさいなの・・・』
「今は瑞佳を早く助けなきゃな。説教は後だ」
『うんなの・・・』
浩平と澪は瑞佳を助け出すために、谷へと降りることにした。


一方、落下した瑞佳は川岸で倒れ気絶していた。そこかしこをすりむき血も出ているが、骨折等はしていないようだ。だが、気絶している瑞佳に黒い影が近寄った。
『・・・・・・・・』
無言で瑞佳の顔を見下ろす影。何事かを考えると、瑞佳の体を抱き上げた。


「くそ・・・ここら辺だと思うんだが・・・」
それからしばらくして浩平達が、谷へと降りてきた。坂を滑った後をたどり先ほどまで瑞佳が倒れていた位置まできたのだが、そこには倒れていた後があるばかりで誰もいない。
「そこらをうろついているのか?」
浩平は辺りを見回すが人の気配はない。
『いないのなの』
周囲を探していた澪も戻ってくるが、結果は変わらない。
「どこにいったんだ・・・?」
浩平の中で不安が増加していく。焦りが浩平を支配していた。
「おお〜〜〜〜い!そこの方〜〜〜〜!」
谷の向こうから誰かの呼び声が聞こえてきた。その方向を見ると、武装した一団が見える。近隣の村人の山狩りのようだ。浩平はその方に歩みよって行った。
「お前さん方こんな所で何してる?」
先頭の男が口を開いた。
「連れがここに落ちたんだ。見てないか?」
「いや、見てない。しかし、ここは昼間といえども危険だ。ひひが出るからな」
「ひひ?」
浩平が問うと、男うなずいて言葉を続ける。
「そうだひひだ。女子供をさらいその肉を喰らう化け物だ。最近、ここらの洞窟に住みつき、村を荒らし回るから退治しに来たんだ」
「まさか・・・あいつも!なあ、そのひひの所まで連れてってくれ!退治を手伝うから!」
「そうか、坊さんが仲間に入るのは心強い」
浩平は山狩りの一団に加わることになった。
(待ってろよ・・・瑞佳)


「う、うん・・・」
瑞佳は節々の痛みで目を覚ました。ぼやける視界が鮮明になるとそこが暗い洞窟であることがわかる。
(どこだろ?ここ・・・)

ゴソッ

「!?」
暗闇の中で何かがうごめいた。瑞佳は身を固くして緊張した。
「だ、誰!?」
しばしの沈黙の後、返事が返ってきた。
『・・・うほっ』
「うほ?」
『うほっ、うほほ』
そんな獣の声と共に、声の正体が姿を現した。
「きゃあっ!」
『うほ・・・』
瑞佳の前に姿を現したのは真っ黒に全身を毛で覆われた一匹の大猿であった。村人達の言っていたひひである。
『うほ、うほ、うほほほっ!』
「な、何っ・・・?」
瑞佳は警戒するが、ひひは別段襲いかかることもなく瑞佳にあるものを差し出した。
「これ・・・お花?」
『うほ』
瑞佳はそれをおそるおそる受け取る。花は真っ白な百合の花であった。
「くれるの?」
『うほ』
「ありがとう」
『・・・・・』
瑞佳の笑顔に、ひひは照れたように顔をうつむいた。
「あなたはいい子だね」
『うほほっ!』
ほめられたのがわかるのか、ひひはうれしそうに声を上げる。
「あなたが助けてくれたんだ。ありがとう、それじゃあわたしはいかなきゃならないんだ」
『・・・・・』
瑞佳のその言葉を聞いて、ひひの表情は落胆した。
「どうしたの?」
『・・・・・』
ひひは答えず、沈黙が流れる。それを打ち破るかのように外界から声が響いた。
「瑞佳ーーーー・・・・・・」
遠く聞こえる浩平の声。瑞佳の表情が喜々としたものになる。
「浩平!助けに来てくれたんだ!」
それとは逆にひひの表情た怒りのものに変わった。
『うがあっ!』
「きゃあっ!?」
瑞佳の体を乱暴に小脇に抱えるひひ。そして、声の方へと走り出した。


「この辺りがひひの住みかだ」
村人の言葉に浩平は辺りを見回すが姿は見えない。しかし、闇雲が反応した。
キィィィーーーン・・・・!
「来た!みんな気をつけろ!」
浩平の言葉に村人達は慌てて鋤や桑等を構える。

ザザッ!ズササッ!

向こうから木立を揺らして黒い影が走ってくる。それと共に闇雲の反応も強まった。

ヒュオオオオオーーーー・・・・・・・

影が枝を飛び跳躍した。そして浩平は見た。ひひに抱えられた瑞佳の姿を。
「瑞佳!」
「浩平!」

ドサッ!

ひひが地に降り立つ。その目は怒りに燃えていた。
『ぐるるる・・・・』
ひひは低くうなる。
「瑞佳!そいつから離れろ!こいつは近隣の村を襲う化け物だ!」
「えっ?違うよ。この子はそんなことじゃないもん。だって、助けてくれたんだよ」
だが、ひひは急に瑞佳を地に放った。そして、村人達に襲いかかる。
『うきぃぃぃーーーーーい!』
「うわあああぁっ!」

ベキッ!

ひひの発達した右手が空を切る。続いて何かが折れる音。村人の一人が首を不自然に曲げて倒れた。続いて、傍らの村人に爪を振りおろす。

ザシュッ!

「うぎゃああああーーーーーーっっっ!!!」
「うわああああぁぁぁーーーーっ!」
それを見た残りの村人達は恐れをなして逃げ出した。ひひはそれを追うともしない。なぜならひひの標的はただ一人だからだ。
「俺とやろうってのか・・・?」
すでに浩平は闇雲を抜いている。間合いを計りながら、ひひを見据える。
「駄目だよ!人を傷つけたら!あなたはわたしを助けてくれたじゃない!」
瑞佳がひひの前に立ち、必死に戦いを止める。だが、ひひは鬱陶しげに瑞佳を払った。
「きゃあっ!」
地に伏す瑞佳。それを見て浩平の目に怒りが宿った。
「貴様・・・殺す!」

ダンッ!

地を蹴り浩平が飛び出した。低く構えて相手の出方に対応する。一気に間合いを詰め、浩平は剣を横に薙ぎ払った。

ブンッ!

『うほっ!』
ひひはそれを跳躍しかわす。そして、宙返りをして見事着地する。
『うがあああーーーっ!』
ひひが爪を光らせ浩平に飛びかかる。
「・・・」
浩平は闇雲を低く構え、その場に立ち止まっていた。まるで嵐の前のように静まる浩平の闘気。
(・・・一撃で決める!)
『きーーーっ!』
ひひの爪が浩平の脳天に注がれようとした瞬間、一筋の光りがきらめいた。

ドグッ!・・・ドサァッ!

地面に落ちるひひの体。胸から血を吹き出しながら、ひひは絶命した。浩平の繰り出した突きが心臓を捕らえたのだ。
「そ、そんな!どうしてだよ!」
瑞佳がひひの亡骸に駆け寄る。その瞳には涙が溢れていた。
「どうして・・・!?わたしを助けてくれたのにぃ・・・!」
瑞佳は言葉を続けることが出来ずに泣き伏した。それを見る浩平の胸には再び妖魔を倒すことへの疑問が降りかかっていた。なぜ、妖怪を倒さなければならないのか?それは時に苦痛となって浩平に返ってきた・・・・・・・・。





@@@@@@@@@@@@@
なぜなにONE猫!
はい!後味の悪い展開になりました二六幕!
ちびみずか「えーん!かわいそうだよー!」
これもONE猫のテーマの一つなのだよ・・・人間と妖怪の壁を越える絆は存在するのか?それを元にかいたのだが・・・・・
ちびみずか「かなしいね・・・」
答えはいまだ見えず。やばい!暗いぞ!話をかえなくては!
ちびみずか「じかいは?」
うむ。なんと次回はSS作家さんゲスト出演第一号!ゲストは・・・パルさんです!
ちびみずか「おまたせしました〜〜〜!」
一体どんな登場になるのか・・・?それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 第二七幕「血を恋う者」ご期待下さい!


解説

ひひ・・・本当は漢字が存在するのだが、古語なので見当たらず。一説には山男のみまちがいとう説もある。だが、全ては謎に包まれている。本編では大妖の妖気に侵され凶暴化していたが、瑞佳様に一目ぼれをしたという設定。しかし、その気持ちに気付かれることもなく、嫉妬で浩平や村人に襲いかかり絶命。悲しい存在だが、全てがハッピーEDにいくとは思えないという作者の考えが表れている。参考資料柳田國男「妖怪談義」