ONE総里見八猫伝大蛇の章 第二五幕 投稿者: ニュー偽善者R
第二五幕「怨念の廃墟 後編」


偶然立ち寄った無人の廃墟。そこで一夜を過ごすことになった浩平達だが、突然の妖魔の来襲により、瑞佳達に危機が迫ろうとしていた。


「くそ・・・ぬかったぜ!」
のっぺらぼう達は浩平達の存在に気付いていたのだ。屋敷を取り囲み、瑞佳達に襲いかかろうとしている。だが、不思議なことが一つあった。闇雲は確かに反応した。しかし、それは夜になってからのことであった。動きの遅いのっぺらぼう達が短い時間にここまで来るのは不可能だ。つまり、最初からこの村に巣くっていたことになる。ならば、なぜ昼間は反応しなかったのか?
(ちっ・・・面倒なことは後だ・・・)
今はのっぺらぼう達の出現のことよりも、どうやってここを切り抜けるかである。瑞佳達のいる座敷に、のっぺらぼう達がゆっくりと乗り込もうとしている。
「お前等・・・どこから湧いてきやがった!」

グシュウッ!

グジュッ!

浩平は何体かに剣を切りつけるが、致命傷にはならない。どうやら、首を落とすかばらばらにするしかないらしい。それでも斬った瞬間はのっぺらぼうの動きは止まる。その隙に部屋へと浩平は飛び込んだ。
「瑞佳・・・無事か!」
「浩平!これ一体何なの!?」
『気持ち悪いの!』
座敷にはすでに数体ののっぺらぼうが乗り込んでいた。瑞佳は周りに護符を敷き、結界を張っている。おかげでのっぺらぼう達は手を出すことができない。だが、所詮時間稼ぎ程度にすぎない。
「今助ける・・・!」
浩平が剣を振りかざした時、ものすごい殺気が浩平の背後を襲った。
「!?」
『ひひひひひぃぃぃぃーーーっっっ!!!死ねーっ!』

ブンッ!ブンッ!

「ひゅっ!」
浩平は感に任せてしゃがみこんだ。その上を何か鋭い刃物が掠め、浩平の頭髪が数本舞った。浩平はしゃがんだ状態から素早く立ち上がり、向きを変える。その瞬間、二つの斬撃が浩平を襲った。

キィン!ガキッ!

「・・・!」
『ひゃははははははーーーーっ!死ね!死ね!死ね!』
浩平は振りおろされた二本の研ぎ澄まされた包丁を、剣を横に掲げ受け止めた。浩平を襲ったのは、真っ白でほとんど残っていない頭髪で、しわしわの老婆であった。その表情はまさに鬼のような形相である。山姥姫だ。
「何者だ・・・!?」
『ひっひっひっ!殺してやる!』

ドフッ!

「ぐっ・・・!?」
浩平の鳩尾に山姥姫の蹴りが襲う。不意を突かれた浩平は思わずよろける。そこを山姥姫は逃さない。
『ひへへへひゃはははははーーーーっっっ!!!』

シュンッ!シュンッ!ブゥンッ!

ガンッ!ガキッ!キィン!

(こ、こいつ・・・強い・・・!)
滅茶苦茶に包丁を振り回す山姥姫だが、その斬撃の速さは尋常ではない。そして重い。

シュパッ!

「・・・くっ!」
包丁の切っ先が浩平の腕を掠めた。赤い鮮血が浩平の視界に飛び込んだ。
「浩平!」
瑞佳の悲鳴が聞こえ、浩平は怒鳴り返した。
「俺は大丈夫だ・・・!お前は結界を張ってろ!すぐに助ける・・・!」
だが、その言葉とは裏腹に山姥姫の猛攻は止まらない。

ドガアッ!

山姥姫に蹴り飛ばされ、浩平は障子を突き破り庭に吹き飛ばされた。受け身を取り起き上がる浩平。そこにとどめを刺そうと山姥姫が飛びかかる。後ろは池が控え逃げることもできない。
『ひゃははははははーーーーーーーーーーっっっ!!!貴様も歩く死体になるがええーーーーっ!』
「誰がぁーーーっ!」
迎え撃とうとする浩平。地を離れそこから二つの包丁を振りおろす山姥姫。

キィーーーーン・・・・・・

響き渡る金属音。闇雲を突き出し動きを止めた浩平。山姥姫は手前に降り立っている。だが、包丁は左手の一本しかない。浩平が一本を弾き飛ばしたのだ。そして、勝敗は・・・

ブシュウッ!

「ぐはあっ!」
胸から斜めに赤い線が走り、浩平の体から鮮血が飛び散った。後ろに崩れる浩平。その目は虚空を見つめている。

グラ・・・・・

(俺・・・やられたのか?)

バシャアアアアーーーッ!

大きな水飛沫を上げ浩平は水中へと落ちた。山姥姫はそれを愉快そうに見て、高らかに笑った。
『ひゃーはっはっはっ!くっ、くっ、くっ・・・人間なぞ全て死んでしまえーっ!』
狂気の声が辺りに響く。だが山姥姫は気付かなかった。浩平は闇雲を放してないことに・・・・・・・・。


一方、瑞佳達に迫るのっぺらぼう達はその数を増している。座敷にいるのですでに十数匹、外にいるのを含めたら二十を越えるだろう。
「駄目・・・!結界がもちそうにない!」
瑞佳は絶望の声を上げた。彼女の四方斜めに敷かれた護符。これらを媒介として結界を張っていた。だが、それにも限界がある。結界を突き破ろうとする力は増すばかりで、その勢いは留まることを知らない。
『あきらめちゃ駄目なの!』
「澪ちゃん・・・もしもの時はあなただけでも逃げてね。壁を抜けれるでしょ?」
『そんなこと言ったら駄目なの!』
瑞佳は恐怖に顔を真っ青にしながらも、健気に澪に笑顔を見せた。澪も例外ではなく、声が震えている。そんな彼女達の状況はさらに悪化することになる。
『ひっ、ひっ、ひっ・・・次はお前等じゃ・・・』
山姥姫が舌舐りをしながら座敷へと上がり込んできた。のっぺらぼう達は道を開けて広がった。どうやら山姥姫がのっぺらぼう達を操っているらしい。
『さて、いかにして死体にしてやるかな・・・切り刻んでやろうか?それとも首を跳ねるか?』
(浩平・・・!やられちゃったの!?)
澪の体を抱きしめ瑞佳は恐怖に震えた。澪はすでに声も出せなかった。


(ああ・・・冷たい・・・)
冷たい水の中、浩平の意識はまどろんでいた。
(このまま死ぬのか・・・?ついてないな・・・この剣を抜いたのが運の尽きだな・・・)
薄れる意識で悪態をつく浩平。不思議と死への恐怖は湧いてこない。

もし・・・

(・・・?誰だ?)
浩平の頭に誰かの声が響いた。
『もし・・・』
(・・・?)
今度ははっきりと聞こえた。だが、こんな池の中だ。まともな者ではない。
『もし・・・あなたはまだ生者ですね・・・?』
浩平は閉じていたまぶたを開いた。水底に沈む浩平に視界に、ぼやけているが人影が映った。
(誰だ・・・?)
浩平は心の中で問う。それでも相手には通じたらしい。
『わたしはこの池に投げ込まれ命を落とした屋敷の住人です』
浩平の視界がはっきりとすると、そこには重たい岩がくくりつけられ水面に浮かばないようにされた女の死体があった。思念はその骸から届いているようだ。
(何で、そこに留まっているんだ・・・?)
『姉のことが心配で・・・わたしはあらぬ疑いをかけられ濡れ衣の罪で、ここに投げ込まれました。それでわたしの姉は憎しみ身を鬼へとやつしました』
(その姉ってのは、あの婆さんか?)
『はい・・・昔は美しかった姉も憎しみにあんな姿に・・・』
女の声は泣いているようだ。それをこらえて女は言葉を続ける。
『姉はその恨みから鬼と化し、生きている者を全て憎しみました。そしてわたしを殺した者だけでなく、村の人々まで・・・姉に殺された人々はその怨念からか化け物へと変貌していました・・・お願いです!これ以上、あんな姉の姿を見るには耐えれません!どうか・・・!どうか!姉を楽にしてやってください!わたしはもう天に召される時が来てしまったのです・・・・・』
(でも・・・俺の力は・・・)
女の声が消え浩平が落胆した時、あの声が響きわたった。
『我は闇雲・・・妖魔の生き血を吸い、大妖を討ち滅ぼすもの・・・・・』
(剣が・・・!?)
浩平の右手に握られた闇雲の声が響く。
『我が意志に従え・・・さすればそなたを助けよう』
(どういう意味だ・・・?)
『そなたの心を・・・喰う』
(何っ!?)
次に闇雲から「何か」が浩平の体に流れ込んできた。抑え切れないほどの力と共に、別の誰かの意志。
(や、やめろーっ!)
だが、抵抗も虚しく浩平の意識は真っ白になっていた。それとは逆に浩平の体は変化が起きていた。胸の傷が恐るべき速さで塞がり、全身の筋肉が盛り上がる。そして、浩平の目は獣の目と化していた。

ザバアアアアアアーーーーーーーーッッッ!!!

勢いよく地上へと飛び出す浩平。水滴を舞いさせながら浩平は・・・
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!」
咆哮した。


『!?』
浩平の叫びはもちろん山姥姫にも届いていた。狂気の老婆にも動揺の色が走る。瑞佳の結界を破ろうと包丁を振り上げたその手も止まっている。
「い、今の何・・・?」
『わかんないのなの』
その答えはすぐにわかった。
「うがああああああああああーーーーーーーーーーっっっ!!!」

バキィィィィーーーーッッッ!!!

壁を突き破り、浩平がその姿を現した。獣を思わせる荒い息、獲物を狙う殺意の目。
『小僧・・・!まだ生きていたか!』
一瞬我を忘れた山姥姫だが、すぐに浩平を睨みつけた。そして、のっぺらぼうに命令を下す。
『やれいぃっ!』

オオオオオォォォ・・・

三匹ののっぺらぼうが浩平に襲いかかる。一匹が浩平の右手にまとわりつき、もう二匹が浩平の首と胴をしめにかかった。浩平は抵抗しない。
『ひゃはははーーーーーっ!どうした小僧!そのまま死ぬか!』
だが、浩平はにやりと笑い山姥を見すえた。
『!?』
山姥姫は不覚にも戦慄した。そして、浩平の攻撃が始まった。
「があああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっっ!!!」
自由な左腕を浩平は胴にからみつくのっぺらぼうの頭を無造作に掴み、その体を持ち上げた。

グググ・・・ブゥン!

ドカアッ!

投げ飛ばされたのっぺらぼうが固まる一団に衝突した。動きの遅い彼らがそれをかわせるはずがない。次に浩平は右手を掴むのっぺらぼうの頭をわしづかみにする。
「くくく・・・」
浩平が不適に笑った次の瞬間、

グシャアッ!

頭部を怪力で握りつぶし、肉片が辺りに飛び散った。頭を潰されのっぺらぼうは崩れ落ちる。そして首をしめ続ける最後の一匹。浩平は両手で首をしめる相手の腕を掴む。少しの間の後、浩平がぐっと力をこめた。

ボキィ!

だらりと崩れるのっぺらぼうの両手、次に浩平はその腹部に鉄拳を突き出した。

グチュウッ!

気味の悪い音を立てて、風穴が空いた。
『な、何じゃ!?子奴の力は!?ええいっ!奴の体を引き裂け!』
山姥姫の命令が下る。のっぺらぼう達は一丸となって浩平に襲い掛かった。だが、浩平は遊び相手を見付けたかのように不適に笑った。自由になった右手で闇雲を構える。
「ふううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーっっっっっ!!!!!」
浩平は闇雲を振り回しのっぺらぼうの壁に突っ込んだ。単純に剣を振り回すだけ、しかし、その力は桁違いだった。

バシュウッ!グチャアッ!

次々とのっぺらぼう達を屠る浩平。闇雲は妖魔を打ち倒すことに、歓喜しているかのように震えている。
『ひ、ひいいいいぃぃぃーーーーっっっ!!!』
座敷にいたのっぺらぼう達はほとんど倒され、山姥姫は錯乱した。包丁を振りかざし浩平に切り掛かる。
『きえええええぇぇぇぇーーーーーーーーーっっっ!!!』
山姥姫の包丁が振りおろされた。

ザンッ!・・・ボト

何かが落ちる音。浩平は揺るぎなくその場に立っている。落ちたのは、首の落ちた山姥姫である。

オオオオオォォォォ・・・・・

山姥姫が絶命した瞬間、のっぺらぼう達の体が溶けていく。怨念の支配から開放されたのだ。
「こ、浩平・・・?」
変貌した浩平に瑞佳がおそるおそる声をかけた。浩平がゆっくりとその方を見る
その瞳に漂うもの・・・殺気。
「まさか・・・わたしがわからないの!浩平目を覚ましてよ!」
「ぐるるるるるる・・・・・」
だが、浩平はゆっくりと瑞佳達に近づき闇雲を振り上げた。
「お願いやめてよ!」
『きゃあああーーーーーっ!』
まさに振りおろされようとした瞬間、浩平の自我が叫んだ。
(やめろおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーっっっ!!!)
「ぐっ!?・・・うああああああああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!」
突然頭を抱え、地を転がる浩平。その手を闇雲が離れた。
「浩平!しっかりして!」
「うおあああああああーーーーーーっ!み、瑞佳ーーーーーっっっ!!!」
「わたしだよ!わかるでしょう!?」
瑞佳が暴れる浩平の体に抱きつき、その腕を回した。その瞬間、浩平の自我は復活した。ぴたりと動きを止める浩平、そのまま疲れきり両腕を地に着けた。
「浩平・・・?」
「ああ・・・大丈夫だ。ちょっと・・・疲れただけだ」
浩平はそれだけ言うと、まぶたを閉じた。少しして寝息が聞こえ始める。
「一体どうしちゃったんだよ・・・」
瑞佳は浩平の額に手をに乗せる。浩平の表情は少年の色を残したいつもの顔だった。彼の横にはぴったりと闇雲が寄り添っていた・・・・・・・。




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なぜなにONE!
ちびみずか「ねえ、まだわたしよんでないんだけど」
え〜、今回はかなりのスプラッタ(^^;しかも暴走ということで、お子様には見せられません。
ちびみずか「む〜」
擬音が気持ち悪いんだよな〜。逆にlこれを狙ってるんだけど(^^;
ちびみずか「よみたいような、よみたくないような・・・」
ま、これはちびみずかには見せられないのは確か。次回からはちゃんとみせるよ。
ちびみずか「ほんと?」
ほんと、ほんと。これに力を注いだからね。次回は普通。
ちびみずか「ふーん」
ちなみに瑞佳様メインというわけでもない(^^;
ちびみずか「わたしは?」
確かに同一人物だけどさ・・・(^^)さて、今回は難色を示した方も多いでしょうが、嫌いにならないでね(^^)それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第二六幕「獣の悲恋」ご期待下さい!


解説

山姥姫・・・正確には山姥山姫。長いので胆略した。もちろん山姥のことをさす。逸話でもいろいろな話があるが、山の神だったり、憎しみから鬼と化したもの。さらには山奥の住人のこともさす。山爺というのもいた。本編もそれほど変更はないが、その力はかなりのものとした。参考資料柳田國男「妖怪談義」

のっぺらぼうその2・・・闇雲の反応が遅れたのは、山姥姫に操られていたため。昼間はただの死体として地で眠っている。

五戒の陣・・・オリジナル。瑞佳の使用した結界。左右縦横に護符を置き、それを媒介として術者が陣を発動。ある程度までは妖魔の侵入を防ぐ。

http://www2.odn.ne.jp/~cap13010/