ONE総里見八猫伝第二四幕 投稿者: ニュー偽善者R
第二四幕「怨念の廃墟 前編」


都でみさきと別れ、浩平達は再び出雲目指して進み始める一行。しかし、瑞佳は浩平の態度の変化に戸惑い始めていた・・・・・。


「浩平。・・・ねえ、浩平!」
瑞佳が前を歩く浩平の背に呼びかける。しかし、浩平は振り返らない。
「浩平!聞いてるの!?」
「ん?・・・あ、ああ・・・悪い聞いてなかった」
「もう、どうしたんだよ。この間から変だよ」
「いや、俺はいつも変だぞ」
「自分で言ってどうするんだよ・・・」
呆れた瑞佳の声。表面的にはそれほど二人には変化はない。しかし、瑞佳は浩平にどこかよそよそしさを感じていた。
(ほんとにどうしたんだろ・・・?)
鈍感な瑞佳にも都でみさきと何かがあったのは察しがつく。それは予想もつかなかったが、何か例えようのない不安を感じていた。
くいくい
「どうした?」
澪が浩平の袖を引いた。澪は前方を指していった。
『村が見えるの』
「おっ、ほんとだ。よーし、あの村までどっちが早いか勝負だ!」
浩平はそう言うや否や走り出す。
『ずるいのなの!』
澪は文句を言いながらもそれを追って駆け出した。瑞佳はそんな二人をほほ笑ましく思いながらも、どこか寂しげな表情を浮かべた。


『つ、疲れたの・・・』
澪の足ではもちろん浩平に適うはずがない。浩平は加減して走ったのだが、澪は荒い息をついている。
『どうしたの?』
浩平の様子がおかしいので呼びかけた。浩平は澪に答えず、村の様子を見て一言言った。
「誰もいない・・・」
そこは荒れるに任せた廃墟であった。家屋は腐り欠け、風にさらされ続けている。人の気配もあるはずがなく、鼠一匹すらいない。浩平と澪が呆然とする中、瑞佳が追いついた。
「はあ、はあ、はあ・・・はやいよ〜」
「瑞佳、何おかしい」
「何が?」
「村の様子だ」
「ほんとだ、誰もいない・・・」
無人の廃墟。だが、捨てられた雰囲気はない。その証拠にそこらには干したままの野菜や、子供達の玩具も転がっている。
「嫌な感じだな・・・」
妖怪の気配とは違う、もっと暗いおぞましい何かが三人を圧迫する。重くかかった灰色の雲をそれを増幅させる。
『ここは嫌なの』
「そうだな、さっさとここを出るか」

ポツ・・・ポツ、ポツ

浩平がそう言い出すのを待っていたかのように、水滴が天から降りてきた。
「大変、雨だよ」

ピカッ!・・・ガシャアッ!ゴロゴロゴロ・・・・・!

「きゃっ!」
『雷なの!』

ザーーーーーッッッ!

「やばいぜ!どこかで雨宿りしよう!」
突然の夕立であった。彼らはとにかく道を走り、雨宿りをできる所を探す。そこらの家々はもう崩れかかっているので、どうも不安だからだ。そして、彼らは村の奥に位置した比較的まともな屋敷に向かった。
「ふー、ここなら大丈夫だな」
崩れた門を過ぎ、屋敷の玄関へと入る。
「やっぱり誰もいないね」
瑞佳の言葉通り人の気配は全くない。ざっと庭を見回してみると、荒れた庭と池がある。貴族の別荘だったのだろうか。

ザーーーーーッッッ!

雨音はさらに強くなっている。軒先程度ではついに防げなくなってしまった。
「まずいな・・・ここは中に入るか」
『何か嫌なの』
「仕方ないだろ」
「そうだね」
澪は気乗りしないようだが、ずぶ濡れになって風邪をひくわけにもいかないので屋敷に入ることにした。中は見た目ほど荒れてはいなかった。それどころか、囲炉裏には中身こそないものの鍋がつられている。
「誰かいるんじゃないの?」
「そうは思えないけどな」

ザーーーーーッッッ!

雨は一向に止む気配がない。厚い雲で隠れてわからないが、もう夕暮れのはずだ。
「今日はここで寝るか・・・」
「それもしょうがないね」
『でも、ちょっと嫌なの』
ここなら雨を防ぐどころか、十分な寝床が確保されている。それでも、雰囲気は確かに嫌なので浩平は闇雲に手をかけてみた。
(何もないか・・・)
闇雲は無口に黙ったままである。妖怪の気配はないのだが、言い知れぬ不安を感じさせた。

シトシト・・・

深夜。三人は座敷を利用して川の字となって眠りについていた。普通、年頃の娘が同じ寝床で寝るのは抵抗を受けるはずなのだが、浩平と瑞佳ぐらいになるとそんなものを意識しない。澪は少し意味が違うが。

(・・・・・変だ)
浩平は眠りから目覚めていた。どうも、空気が違う。枕元の闇雲に目をやるとわずかに反応を見せていた。

カタカタカタ・・・・・

寒さに震えるかのような動き。闇雲の反応はいつもの鳴動とは違い、何か迷いめいたものを感じさせた。浩平は訝しげに思いながらも柄を握り、二人を起こしに掛かった。
「瑞佳・・・!澪・・・!二人とも起きろ・・・!」
小声ながらも鋭く言い放つ浩平。
「う、う〜ん・・・」
『何なの?』
浩平の声に緊張を感じ、二人はすぐに起きた。
「何かおかしいんだ・・・様子を見てくるからお前等はここにいろ」
「浩平・・・」
「何だ?」
立ち上がり、座敷を出ようとした浩平に瑞佳が声をかけた。
「気をつけてね・・・」
「ああ」
浩平は瑞佳の声に応え、廊下へと出た。夏のべったりとした空気が胸元を撫でた。気色悪い感じに浩平は身の毛をよだせた。それでも気を引き締め門の方へと向かう。

ォォォォォ・・・・・・・

「?」
地なりのような唸り声、浩平は足を止め耳をひそめた。

ォォォォォ・・・・・・・

ズル・・・・・ズル・・・・

唸り声と共に、何かをひきずる音も聞こえる。浩平は無意識の内に柄に手をかけた。そして、次の瞬間闇雲の鳴動が始まる。浩平は無言で廊下の角を曲がった。そして、浩平の視界に飛び込んできたのは・・・・

オオオォォォ・・・・・・

ズル・・・ズル・・・

ォォォォ・・・・・

屋敷へと押し寄せる肉塊の集団、これが浩平が最初の印象であった。

ズル・・・ズル・・・

オオオオオオオォォォォォ・・・・・・

唸り声と引きずる音の正体。それは肉が腐り溶け、原形をとどめていない死体の集団であった。肉が落ち骨がむきだしになったその手足と、ぼろぼろになった着物から人の形を成していた。だが、その溶けた肉に顔はうずもれている。のっぺらぼうである。
「な、何だこいつら!?」
浩平はたじろぐが闇雲を抜き、彼らに立ちはだかる。
「お前等・・・目的は何だ・・・?」

オオオォォォ・・・・

ウオオオオォォォ・・・

ズル・・・ズル・・・

のっぺらぼう達は浩平の姿を確認して、そっちの方向に足を向ける。だが、その動きは緩慢で鈍い。
「ちっ・・・聞く耳もたずかよ」
庭に押し寄せるのっぺらぼうは十数匹、浩平はそれに憶することなく剣を構えた。浩平のとった判断とは、
「蹴散らすのみ・・・!」

ダッ!

膝を折り曲げ集団に向け、跳躍する浩平。暗闇に闇雲の刃がきらめいた。だが、

グチュッ!

ブシャアッ!

「・・・!?」
闇雲はのっぺらぼうの体をとらえるも、その溶けた肉を切り裂くのみで手ごたえがない。そして、痛みを感じることのない彼らは浩平を取り囲む。

ォォォォォォ・・・・

ズル・・・ズル・・・

手を広げて浩平に掴みかかるのっぺらぼう達、浩平の額に焦りの汗が浮かんだ。

きゃあああああーーーーーーーっっっ!!!

「瑞佳!?」

遠くから聞こえる悲鳴、浩平ははっとしてその方向を見る。のっぺらぼう達に構っている暇はない。
「てめえら・・・どけーーーーーっ!」

ブシュッ!

ザシュウッ!

ゴキッ!

おそるべき速さで剣を振り回す浩平。左右正面と近づくのっぺらぼうに刃が光った。正面の首が飛び、右の胴を真っ二つにする。左の腕を骨ごと叩き落とした。その隙にのっぺらぼうの壁が崩れ、道ができる。浩平はそこに突っ込んだ。

オオオォォォ・・・・・

ズル・・・ズル・・・

ォォォォォ・・・・・

無事なのっぺらぼう達が執拗に浩平を追う。その手をかいくぐり、浩平は瑞佳の元へ走る。
「浩平ー!助けて!」
「瑞佳ーーーっ!」
瑞佳と澪に妖魔の魔の手が迫ろうとしていた・・・・・・・・。




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なぜなにONE!
今日の一言。擬音が気持ち悪い(^^;
ちびみずか「いやだよ〜こんなの」
俺だってスプラッタはいやだ。説得力ないけど
ちびみずか「なんかさくふうがあぶないよ」
趣味悪いからね(^^)
ちびみずか「おうえんへるよ」
大丈夫!最初から多分いない!
ちびみずか「かんそうかいてくれるひといるよ」
ありがたいよな〜、感想は。あれがなかったらやる気がおこらん。
ちびみずか「じぶんもかこうね」
善処します・・・次回は続き。のっぺらぼうを越える強敵が・・・!それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 第二五幕「怨念の廃墟 後編」ご期待下さい!


解説


のっぺらぼう・・・本編ののっぺらぼうとみなさんが認識するのっぺらぼうとは違うだろう。資料によれば殺された死体の怨念が集まり、死体置き場の死体達が集合し妖怪と化した。なぜ闇雲が反応に遅れたかは次回で明かすことにする。