ONE総里見八猫伝大蛇の章 第二三幕 投稿者: ニュー偽善者R
第二三幕「追われ身の天女 後編」


道中寄り道もかねて都に入った浩平達一行、そこで貴族の娘みさきという娘に出会った。みさきに願いを聞き、高峰山を目指す浩平だが、みさきを追う兵士達に追われ瑞佳と澪とはぐれてしまった・・・・・・・・。



パチッ!・・・パチパチ!
焚き火が火花を立てながら燃え盛る。浩平とみさきはそれを囲んで野宿をしていた。すでに夜は完全に更けてしまっていた。野犬や妖怪に襲われてみさきが怪我をしたら大変である。
「ちょっとお腹すいちゃったな。実は逃げ出してから何も食べてないんだ」
「そうか、乾飯ぐらいならあるぞ」
「何それ?」
浩平は貴族らしいみさきの言葉に苦笑しながら、荷物から乾飯を取り出した。
「これだよ」
「固いね、食べれるの?」
「頑張ればな」
「それじゃあ頑張ってみるよ」
みさきはそれを小気味よい音をたてて口にほおばった。
「うん、なかなかおいしいよ」
「まだまだあるからな」
「ありがとう」
火を囲みながら、浩平はみさきに対する疑問を聞いてみることにした。
「何で家を逃げ出したんだ」
「実はね、わたしを妻にしたいって、人がいるんだよ」
「嫌いなのか?」
「違うよ。わたしは目が見えないから苦労をかけちゃうしね。それと・・・」
「それと?」
浩平は先を促すが、みさきは少し考えた後ぺろっと舌を出して笑って言った。
「ごめん。忘れちゃった」
「何だよ、それ」
みさきにつれられて浩平も笑い出す。
「でもさ、求婚を断っただけで普通追いかけ回すか?誰だよ相手」
「帝」
「ふーん・・・って、えーーーーーーーーーっっっ!!!」
あっさり口にするみさき、浩平は軽く流すがわずかな間の後、驚きに声を上げた。
「み、み、帝って!?何で断ったんだよ」
「だからいろいろあるんだよ」
「はあ・・・」
浩平は溜め息をついて、事態の深刻さを思い知った。帝の命に逆らったのだ、場合によっては命がない。しかし、帝の求婚を断るほどの理由があるのだろうか?
「な、今からだったらまだ間に合うぞ」
浩平がそう言うと、みさきは悲しげな表情を見せた。
「浩平君もそんなこと言うんだ・・・」
「い、いや・・・あの」
みさきの表情に浩平は戸惑いを隠せない。
(まいったな・・・)
少し悩んだ浩平だが、意を決してみさきに告げた。
「わかった。とことんつき合うよ・・・」
「ありがとう」
「はあ・・・もう寝るわ」
浩平は疲れきり地べたに寝転んだ。それからみさきも地に伏す気配がして、しばらく沈黙が流れたが、浩平はもう一つだけ聞いてみることにした。
「なあ・・・何で高峰山に行くんだ?」
「・・・・・」
しかし、返事はない。浩平は寝てしまったのだろうと判断をつけたが、遅れてみさきから一つの言葉が発せられた。
「浩平君・・・わたし信じてるからね」
「・・・どういう意味だ?」
「・・・・・」
やはり返事はない。しばらくみさきの言葉を待っていたが、その内本当に寝息が聞こえてきた。
「はあ・・・」
浩平は今日何度目かの溜め息をついて眠りについた。


翌日。二人の足取りは強行軍であった。朝から歩き続けて、やっと山腹に達した。すでに日は傾き始めている。浩平が驚いたことに、みさきはここまでぴったりと浩平についてきた。女の足ではとっくに音を上げているだろう。
「ふー、先輩すごいなー」
「うん、動くのは好きなんだ」
しかし、さすがに息も切れ始めている。浩平も足がだるいので休憩をすることにした。手頃な岩場に腰かけ、山麓を見下ろす。
「けっこう綺麗だな」
「風も気持ちいいしね」
浩平は何となくふもとの山道の方を見下ろした。
「やばい!奴等もうここまで来ている!」
浩平達が来た道には十数人ほどの武装した兵が進んでいる。多分、ふもとまで早馬を飛ばして来たのだろう。その一団の中に浩平は見知った顔を見つけた。
「瑞佳!?澪もいるじゃないか!?」
はぐれた二人が一団に捕らえられている。その意は成すのは・・・
(人質か・・・?)
だが、ここでみさきを渡すわけにはいかない。
「行くぞ!早く頂上まで行かないと!」
「うん」
浩平とみさきは休む間もなく立ち上がり、再び歩き出した。彼らが目指す頂上には何があるのだろうか?


道を急ぐこと数時間、ついに山頂に近づいた。空には黄金に輝く満月がかかり、ゆるやかに流れる雲がたなびいている。
「そろそろだな・・・ここに何があるんだ?」
「・・・・・・」
しかし、みさきは複雑な表情を浮かべ、何も答えない。
「そろそろ教えてくれてもいいじゃないか」
浩平の懇願にみさきは遠慮気味に口を開いた。
「お迎えが・・・来るんだ・・・・・」
「お迎え?」
浩平は聞き返す。帝の使いのことだろうか?しかし、それでは逃げる意味がない。
「お月様・・・綺麗?」
「ん?・・・ああ、綺麗だぞ」
そう答えるが、浩平は月のことを何も言ってないのに気付いた。
「わかるのか・・・?」
「何となくだけね」
わずかに笑うみさき。その笑みはどこか寂しげである。二人は道を進むまま見晴らしのよい、開けた土地に出た。
「浩平君・・・一日だけだったけどほんとに楽しかったよ」
「何を言ってるんだ?」
浩平はみさきの意図が全く掴めない。だが、みさきは浩平のそばを離れ数歩歩く。そして、天に掛かる満月を見上げる。
「・・・わたしいかなきゃならないんだ・・・もっと浩平君と旅できたらよかったのに・・・・・・」
「!?」
その時である。月からまさにみさきに注ぐかのように、閃光が降りかかる。黄金色の月光に照らされ、みさきの姿はまぶしくて見つめられない。
「・・・ごめんね」
みさきの顔は見えないが、悲しげであることだけはわかった。そして、
「迎えに来たわよ、みさき」
「雪ちゃん・・・」
いつの間に現れたのか、光を身にまとい、一人の天女が空に浮かんでいた。その天女にみさきが懐かしげな声を上げる。
「全くあんたが下界に落ちたもんだから、こっちは大変だったのよ」
どうも言葉使いは天人を感じさせないが、今の浩平にとってはどうでもいいことだった。
「ちょっと待て!一体どういうことだ!?」
「みさき、この人間は?」
「浩平君、助けてもらったんだ」
「そう」
天女は浩平の方を向いて、口を開いた。
「みさきがお世話になったようね。この子は不意に下界に落ちてしまって、不浄の物を見ないように目が見えなかったのよ。でも、それももう終わり。みさきは天界に帰るのよ」
「それでいいのか・・・?」
「・・・」
浩平の問いにみさきは黙るばかり。その沈黙を破り、向こうから男達の声が飛んできた。
「いたぞー!みさき様だ!」
「何としても連れ帰れ!」
それを見た天女はうっとうしげに言い放つ。
「面倒な奴等ね。仕方ないわ、手荒なことはしたくないけど・・・」
そう言って羽衣の袖から一つの種を地に落とした。
「下賤なる者どもからこの身を守り、駆逐せんことを命ず!」
その言葉の次の瞬間、種は急速に成長し木の形を成した。さらにそこから根が足に、枝が手に変化し目と口は生じた。
『御意』
そう短く答え、天女の兵、古木は兵達に向かって歩き出した。
「うおおっ!化け物だ!矢を放てー!」

ヒュンッ!

何条もの矢が放たれ、古木の幹に突き刺さる。しかし、それだけである。古木は矢をものともせず進み、その手である枝で男達をなぎ払った。

ズパアッ!

「ぎゃあっ!」
「げふっ!」
一撃で何人もの兵が倒れていく。それでもなお、古木は止まらない。
「やめろ!人を傷つけるな!」
「雪ちゃんやめて!」
「無駄よ。あれはすでにわたしの手を離れた」
浩平の言葉に天女は取り合おうとしない。
「さ、みさき。その内迎えの雲が降りるわ」
「・・・雪ちゃん」
「くそーっ!」
浩平はみさきに気を取られながらも、古木を止めに向かった。
「これ以上はやらせない!」
そう言って闇雲を抜き放ち、地を蹴る。まさに枝が振りおろされようとした時、浩平の剣がきらめいた。

ザクッ!・・・ボト

『ぬう?』
枝の一本を切り落とすが、枝は無数にある。
「浩平!みさきさんは!?」
「瑞佳・・・?お前等どうしてここに・・・?」
後方から数人に兵達と共に、瑞佳と澪がやって来た。
「話は後だ・・・!今は・・・こいつを倒す!」
浩平は古木と向き合った。そこにちょうど枝が振りおろされる。
「ふっ!」

バシィ!

浩平は跳躍しそれをかわす。枝は地を打ち、土をえぐった。
「お前の相手をしている暇はない・・・」
『ぬかせ!』
地に降り立った浩平は、古木の猛襲をかいくぐり懐に飛び込んだ。
「・・・このっ!」

ズキッ!

『ぐおおおおーーーーっっっ!!!』
幹の中心を狙い剣を突き立てた。その心を捕らえられた古木は急速に枯れ始め、地に倒れ伏した。浩平は剣を鞘に戻し、形振り構わずみさきの元に走り出した。それに瑞佳と澪だけでなく兵達も続く。
「信じられない・・・!人間が古木を倒すなんて・・・でも、まあいいわ。迎えも来たようだしね」
見ると、注ぐ月光とは別に新たに一筋の光りが差し込み、黄金の雲が降りている。
「雪ちゃん・・・わたし帰らないと駄目なのかな・・・」
「みさき・・・あなたが残りたいと言っても、天界にはするべきことがあるのよ。さあ、この羽衣をまといなさい。そうすれば楽になるわ」
天女が自分とまとうのと同じ羽衣を差し出した。みさきは悲痛な表情でそれを見つめる。
「みさき様は行かせるなー!」
そこに兵達が天女に向かって矢を放った。天女に降り注ぐ矢。

バシッ!バシッ!

しかし、それは全て弾かれたかのように地に落ちる。天女は無言で兵達に手を突き出した。

キーーーーン!

何かが張り詰める音が辺りに響く。それと同時に兵達の足が止まり、どよめきが起こった。
「な、何だ!?体が・・・!」
兵達は突然体の動きが止まり、混乱し始める。それは浩平達も例外ではない。
「きゃっ!ど、どうなってるの!?」
『体が動かないの!』
「くそ・・・!」
浩平はそれでもなお、みさきの元に駆けつけようと必死に動こうとした。
(動け・・・!頼むから!あの人は・・・悲しそうな顔をしてるじゃないか!)
浩平は次にみさきの手が羽衣にかかったのを見た。
「くおおおーーーーーっ!」
全精力をかけて大きく足を踏み出す浩平。そして、再び走り出した。
「浩平君!」
「そんな!?あの人間は何者なの!?」
みさきの歓喜の声と、天女の驚きの声。
「みさきーーーーーーーっっっ!!!」
「浩平君!」
ついにみさきの元まで後一歩まで達したその時、

ズシャアアアッッッ!

「ぐふっ!」
「雪ちゃん!」
浩平はとてつもない重圧がおしかかり、地に伏して動けなくなってしまった。
「く、くそ・・・」
「ごめんなさいね・・・みさきの気持ちはわかるけれど、このままでは天界と下界の均衡が崩れるのよ・・・」
「い、行かせるものか・・・!」
それでも浩平は地をはいみさきに手を伸ばす。天女は悲しげな顔を見せると、手を振り上げた。
「雪ちゃん駄目!わたし帰るから!」
みさきが天女の前に立ち、それをふさぐ。みさきは今度は浩平に向かい、膝を折り曲げた。
「浩平君・・・ごめんねこんなことに巻きこんじゃって・・・」
「いいのか・・・?」
「わたしにもやらなきゃならないことがあるんだ。・・・・・・うれしかったよ、わたしなんかのために・・・こんなに、こんなに!」
みさきは言葉を続けることができず嗚咽する。それでもみさきはあふれそうな涙をこらえて、言葉を続けた。
「信じてよかったよ、浩平君を・・・絶対に・・・思い出すからね」
「思い出す・・・?」
浩平の問いを聞かず、みさきは浩平の顔を手探りで確認し自らの唇を寄せた。ほんの触れる程度だったが浩平の息は止まった。
「それじゃあね・・・浩平君」
それが別れの言葉だった。すっと立ち上がったみさきに天女が羽衣をかけた瞬間、みさきの体が光りに包まれた。そして・・・みさきの顔から迷いも消えた。雲に足をかけるみさき、その瞳は浩平すら視界に捕らえない。
「うそだろ・・・」
浩平は直感した。みさきが人間界での生活や、自分のことを忘れてしまったということを。登ってゆくみさきの乗った雲。だんだんと月に近づき、その姿は小さくなっていく。そして、降り注ぐ月光が波がひくように消滅した。
「・・・・・・」
浩平は動けなかった。体の束縛はすでに解けているが、心に降りかかる何かのせいで何もできなかった。ただ、後ろでは男達の信じられない光景を見たざわめきが聞こえる。
「浩平・・・」
なぐさめるような瑞佳の声。浩平は顔を合わせることができない。
(なぜ・・・?)
「これで・・・よかったんだよ・・・・・」
浩平は答えることができずに、ただ沈黙するのみであった。


浩平達はその後、役人達に捕らえられしつこく尋問された。だが、自分達も事態が信じられずおとがめはなかった。それでもみさきの逃亡を手引きしたことで、こぴっどく説教されたが。翌日、彼らは再び旅立った。
「ねえ、みさきさんと何してたの?」
瑞佳が浩平に近づき耳打ちした。遠くからでは浩平とみさきが何をしていたのか分らなかったのだ。
「いいこと」
「何それ?」
「いいこと、って言ったらいいことなの。よし、そろそろ行くか」
浩平は荷物を担ぎ歩き出した。
『待ってなの〜!』
澪が慌てて浩平の後を追う。鈍感な瑞佳は浩平の言葉の意味が理解できず模索する。
「いいことって、何だろ?」
何故か気持ちいい感じがしない。
「ほらぁっ!瑞佳置いてくぞ!」
「あっ!待ってよ!」
瑞佳は自分の荷物を取り、慌てて浩平の背中を追った。
(この気持ち・・・何だろうな・・・・・・?)
浩平は牢屋での眠りの中で夢を見た。もちろんみさきの夢だ。



「浩平君、ごめんね」
「あやまってばかりだな」
何故か声が聞こえるだけで、姿は見えない。
「そういえば・・・綺麗だったぞ、とても」
「ありがとう・・・」
照れた声が闇から返ってくる。
「絶対に・・・また会おうね」
「約束だぞ」
「うん」



それで夢は終わりだった。単なる夢なのかもしれない、それでも浩平は再会を信じていた。
浩平は自分の唇をなぞってみる。それはいつもの自分の唇だが、まだみさきの唇の感触が残っている気がした・・・・・・・。




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なぜなにONE!
ちびみずか「あれ?わたしまだ読んでないのに終わってるよ?」
はっ、はっ、はっ!これぞONE猫のテーマの一つ、愛だ!あっ、ちびみずかは悪影響が出るから読んだら駄目(^^)
ちびみずか「む〜、見たいよ〜!」
だ〜め!さて、ファーストキスは見事強引に(^^)みさき先輩がもってきました!・・・と思った方、それは違うよ(^^)誰かはわかると思うけど、それは今後の展開で。
ちびみずか「ねえ、ねえ。けっきょく、だれがヒロインなの?」
それは秘密(^^)ほとんどの方が瑞佳様だと思ってたでしょうけど・・・そうとは限らないのだよ(シャア風)とか何とか言って実はまだ決まってなかったりする(^0^)は〜はっはっはっ!
ちびみずか「わらいごとじゃないよ〜」
それにしてもまたみさき先輩の出番が少ないな〜(^^;だいぶ後(俺のだいぶ後は本当しゃれにならないくらい後です)に再び登場する・・・かも。
ちびみずか「ねえ、ねえわたしのはなしはどうなったの?」
未定(^^;
ちびみずか「む〜」
それでは今日はここらで!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第二四幕「怨念の廃墟 前編」



解説


古木・・・オリジナル。カプセル怪獣を意識して起用。名前が全然思いつかないので、こんな名前になった。天人の番犬みたいなものだが、これも妖怪の数にくわえて欲しい。

天女・・・参考はもちろん竹取り物語。本編の天女はもちろん深山先輩。神通力を持っているのはみなさんもわかるでしょう。みさきが下界のことを忘れてしまった羽衣も、竹取り物語から起用した。最古の文学なのに綿密な話である。

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