ONE総里見八猫伝大蛇の章 第二十幕 投稿者: ニュー偽善者R
第二十幕「湖底の龍神 後編」


琵琶湖に眠ると伝えられる龍神、みづちを鎮めるための祭りが立ち寄った村で行われた。その儀式の真っ最中、伝説のみづちが湖底から姿を現し、生贄の娘、綾女をさらい再び水中に姿を消した。浩平はみづちに立ち向かうものの、太刀打ちできず意識を失ってしまった・・・・・・・。


浩平達が宿を借りている綾女の祖父の家では、まるで通夜のような暗い雰囲気が流れている。綾女の祖父は今にも泣きそうな表情を浮かべ、瑞佳と澪もいたたまれない雰囲気に押されている。そんな最悪の状況の中、浩平は意識を取り戻した。
「ぐう・・・」
背中に鈍い痛みが走り浩平はうめいた。
「浩平、大丈夫?」
「ああ・・・それよりも綾女さんは・・・?」
「あの妖怪にくわえられて湖の中に・・・」
瑞佳はつらそうに口を開いた。普通に考えればまず生きていない。
「ちくしょおっ!俺のせいで・・・!」
「お前さんのせいじゃない・・・龍神様は髪が生贄だけじゃ満足じゃなかったんじゃ・・・」
じいさんはあきらめたような表情を浮かべて、浩平をなぐさめた。
「じいさん・・・」
浩平はどうしようもない罪悪感に襲われた。一番つらいのは綾女の祖父に違いない。ここまで一心に育てた孫が突然さらわれたのだ。浩平は突然何か叫びたいような衝動に押され、闇雲を掴み外に飛び出した。
「浩平!?」
瑞佳の声も浩平には届いていない。浩平は無我夢中で、雨で泥になった道は走る。浩平の行き着いた先は琵琶湖であった。
「はあ、はあ、はあ・・・出てこい!くそ妖怪!もう一度勝負だ!そして綾女さんを返せ!」
しかし、湖面は静か波を立てるのみである。
「くそうっ!」

ダンッ!

浩平は悔しさのあまり拳を握り、地面を殴りつけた。浩平は自分が調子の乗っていたことを痛感した。今まで何匹も妖怪を倒してきたが、心のどこかに隙が出来ていた。自分の力量をわきまえ、避難させることに集中していればこんなことは起きなかったはずだ。
「くそっ!」

ダンッ!

もう一度、浩平が地面に拳を叩き付けた時、闇雲が鳴り始めた。

キィィィーーーン・・・

浩平は咄嗟に身構え後ろを振り返った。
「ふむ、妖気は完全に消したつもりなのだがな。さすがは闇雲といったところか」
「てめえはっ!?」
浩平から離れた木陰に、人狐の飛主が立っていた。浩平は反射的に柄に手をかけた。だが、それを飛主はゆっくりと近づき止める。
「今日はお前と戦う気はないよ。それどころか助けに来たのだよ」
「嘘をつけ!」
「本当だ。どちらにしても、今のままではお前の気持ちは収まりはつかないだろう?」
「くっ・・・」
浩平が言い返せないのを見て。飛主はさらに言葉を続けた。
「お前にいいことを教えてやろう。生贄の娘は生きている」
「何だって!?」
思いもよらないことを意外な者から聞いて、浩平は目を見開いた。
「今のところの話だがな。時が来れば娘は食われる。奴は娘の魂が最も熟した時に喰う」
「くそ!なら早くしないと・・・!でもどうすれば・・・」
いくら何でも、深い湖底まで潜れるはずがない。だが、飛主はその方法を知っていた。
「そのためにわたしは来たのだ。湖底までたどりつく方法はあるぞ」
「本当か・・・?何を企んでいる」
「少しは学んだようだな。確かにわたしはあるお方の命で、お前を利用しようとしている。だが、お前に危害を加えるつもりはない」
「良く言うぜ、ひどい目にあったけどな」
「あれも策の一環だ。最も、お前に力がなければ元も子もないがな」
浩平は飛主を信用する気はないが、その言葉を信じてもいい気がした。飛主が闇雲を狙う可能性はあるが、飛主の力なら真正面から挑んでも奪えるだろう。何よりも、綾女を取り戻さなければ気が済まない。生きている保証はないが。
「どうだ?のるか?」
「・・・ああ。やってやる」
浩平の言葉に飛主は薄ら笑いを浮かべると、茂みに向かって口笛を吹いた。

ガサガサ!

『出番かい?』
茂みから誰かが出てきた。緑色をした体表。水かきのついた手足。そして頭頂部の皿。河童である。
「こいつがお前を湖底まで案内する」
『へえ、これが音に聞く剣を持つ人間か。まだ子供じゃないか』
自分も子供ほどの身長のくせにそんなことを言う河童だが、今の浩平はそんなことに構っていられない。
「頼む!俺を湖底に連れてってくれ!」
『わかってるよ。それがおらの仕事だ』
河童は蓑ははいていて、その腰の部分に下げた壺の蓋を取り出した。その中に手を突っ込み、一粒の丸薬を取り出した。
『これを飲めば水中でも息ができるようになる。おら達の秘薬さ』
誇らしげにする河童から浩平は丸薬を受け取った。
「いいか、小僧。お前の力では湖底の龍神、みづちには勝てない。娘を取り戻したらすぐに戻ってこい」
「信用ないんだな」
「わたし達の狙いはそこにあるからな」
利用されているのがわかっていても、気持ちのいいものではない。それでも浩平は潜るしかなかった。
『いいか?行くぞ』
河童に急かされ、浩平は薬を飲むと河童の肩に捕まった。
「それと狐。俺は小僧じゃない。折原浩平だ」
「ふん、がきが一丁前のことを・・・それにわたしも狐ではない。飛主だ」
「また後でな!」

ザブンッ!

それを最後に浩平は河童と共に水中に飛び込んだ。飛主はしばらく湖面を見つめていたが、背を向けて茂みの方に走り出した。
(くくく・・・おもしろい人間だ。だからこそ剣を受け継いだのかもな・・・・)


一方、水中の浩平と河童は陸沿いに水中を沈んでいた。
(おい、何で水の中で会話できるんだ?)
『これが薬のすごい所さ。この薬は水を空気の代わりにするようなもんだ』
空気が音を伝えるように、水が鮮明に音を伝えてるらしい。浩平は河童に捕まり、湖底に向けひたすら沈んでいた。さすが河童だけあって、泳ぐ速さはものすごい。それでも水中から見える光景は何とも言えず幻想的であった。太陽の光りが魚達の鱗に反射し、きらびやかに輝いている。ただ難点なのは袈裟が水を吸い取り気持ち悪いことだった。もちろん水は冷たい。
(ところでよ、お前の名は?)
『三早希(さんさき)だ』
(ふーん)
うなずく浩平だが、今度は三早希の方が質問をした。
『何で他人のために命をかけるんだ?お前ただの旅の者だろう?』
浩平は言われて戸惑った。どうしてと言われても、答えようがない。ただ、自分の気持ちに従っただけでしかない。
(うーん、何て言うかよう。このままじゃ納得できないからさ。気持ち悪いだろう?知った人間が死ぬの)
『はあ、人間はわからないけど。お前さんは一番わからないぜ』
(ま、一番の理由はあんな綺麗な人が化け物に食われるのはもったいないことかな?)
『違いない』
浩平の言葉に三早希が笑い出した。それにつられて浩平も笑い出す。だが、その笑いも闇雲の鳴動で打ち切られた。

キィィィーーーン!

(近いな!)
『一気にいくぞ!』
三早希が速度を速める。すると、暗い湖底に巨大な洞穴があるのが見えた。その穴に闇雲は強い反応を示す。三早希はその洞穴に飛び込む。横穴になった通路を進むと、次第に登りになる。それに連れて幅は広くなっていく。そして彼らは湖水を抜け、外気に触れた。そこは巨大な鍾乳洞が形成され、苔がびっしりと発生し自ら光っている。おかげで奥に潜むみづちが確認できた。

グオオオオ・・・・・

みづちがうなる。どうやら予期しない来客に不機嫌らしい。
「綾女さん!」
浩平はみづちの懐に抱かれ、気絶した綾女が倒れているのを見た。巫女衣装そのままに横たわった体は、色こそ白いものの、しっかりと生気を感じさせた。どうやらみづちがその口の中に綾女を放り込んだため、溺れることなかったらしい。浩平は綾女の無事を確認し、胸を撫で下ろすとみづちに闘志を燃やした。何とか綾女を取り返し、ここから脱出しなければならない。
「行くぞ・・・」
浩平は闇雲を抜き放ち斬り掛かった。

ガアアアーーーッ!

みづちは綾女をつぶさないように、その巨大な尾を振ってきた。

ズズン!!

浩平は跳躍しそれをかわす。外壁に尾は叩き付けられ、洞窟内に揺れが生じた。浩平はみづちの背に降り立ち、剣を振りかざし走る。自分の身に取りつかれたみづちだが、綾女をかばっているため暴れることができない。
「・・・・・たあっ!」

ズシュウッ!
グアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッッッ!!!

浩平はみずちの頭目がけて飛びかかった。そして振り上げた剣を、みずちの右目に突き刺した。苦しみの声を上げるみづち、その隙に綾女のもとに降り立ち、浩平は綾女の体を抱えてその場を離なれ、水場に向かう。そこには三早希が待機していた。浩平は綾女の頬を叩き、綾女を起こす。
「綾女さん!起きて!」
「う、うん・・・」
綾女はうめいて薄目を開けた。
『早く逃げるぞ!』
三早希の差し出した丸薬を、浩平は強引に綾女の口に押し込んだ。今は細かいことにはこだわってはいれない。

ガアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!

怒りの声を上げみづちが追ってくる。巨体をひきずり、洞窟を揺らせながら向かってくるが、浩平達は水中に飛び込んだ。三早希につかまり水中を進む三人。だが後からみづちがものすごい速度で追ってくる。その差はぐんぐんと縮まっていく。
(追いつかれるぞ!)
『黙ってろ!もう少しで陸に上がる』

ザバァッ!

勢いよく湖面から飛び出す三早希。浩平は綾女を抱えて地を転がった。
「早く逃げるんだ!」
「は、はい・・・」
綾女はとまどいながらも浩平の言葉に従う。三早希は戦いには参加する気はないのか、茂みに隠れた。その直後。

ザバァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!
グアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!

みずちが大量の水しぶきを上げ姿を現す。その左目は憎しみの炎に燃えている。
「くそ・・・!飛主の奴どこにいった・・・・・・!」
飛主の姿は見当たらない。浩平は裏切られたと感じた。
「ちぃっ・・・!こうなったらやってやる・・・!」
浩平は闇雲を構え直した。そこにみづちが食らいついてくる。浩平は横に飛びそれをかわすが、そこに空を切り裂き尾が襲いかかった。

バキィィッ!

「うあっ!」

ズサアアアッ!

浩平はそれをもろに食らい地に倒れ伏した。
「くっ・・・読まれてた・・・!?」
肋骨がきしむ。ひびが入ったかもしれない。みづちははとどめをさそうと再び食らいついてきた。
「・・・このぉっ!」

ビシュッ!

闇雲を突き出し迎撃する浩平。みづちの首に一筋の線が走り、赤黒い鮮血が飛び散る。

ガアアッ!

づずちはさらに執拗に攻撃してくる。浩平は地を跳びはねそれを辛くもかわす。完全に劣勢であった。そんな彼らの戦いを眺める者達がいた。飛主と謎の女であった。
「助けにいかないのですか!?」
「いい。奴の力を見るにはちょうどいい」
「ですが、せっかくの魂が!」
「わたしの剣が目覚めても、奴の剣が目覚めなくては意味がないだろう?」
「・・・しかし、このままでは」
「剣に選ばれしまとめし者だ・・・あれから多少の成長はしているだろう?」
「・・・」
飛主は浩平の戦いを心配とも思える目で見ていた。

ドカアアアァァァッ!

「ぐはっ!」
またもみづちの尾が炸裂し、浩平は吐血した。
(やばい・・・死ぬかもしれない)
浩平は痛みに動きを止めてしまった。みづちは勝利を確信し、悠然と浩平に近づいた。
「浩平!逃げて!」
(瑞佳・・・?)
騒ぎを聞きつけ、瑞佳達がやって来た。瑞佳は危険も省みずこっちに走ってくる。

グウ・・・
バシィ!

「きゃあっ!」
みづちが近寄った瑞佳をうっとうしげに尾で払った。瑞佳の体は木の葉のように吹き飛ばされる。
「瑞佳!?・・・てめえええええぇぇぇーーーーーーっっっ!!!!!」
その瞬間、浩平の中で何かが切れた。怒りの目でみづちを睨み、闇雲を両手持ちし跳躍した。異常なまでに力が湧き出してくるのを浩平は感じた。だが、それは浩平が望んだ力である。みづちを倒すための。
「てめえみたいなのは・・・死ねえーーーーーーーっ!」

ズキャキャキャキャキャキャキャキャキャッッッ!ブシャアアアァァァーーーッッッ!!!
ギャアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!!!!

みづちの頭から腹部にかけて闇雲が伝う。みづちの巨体は一刀両断され、裂けた体から大量の鮮血がほとばしる。
断末魔を上げみづちが倒れ込んだ。
「ぜい、ぜい、ぜい・・・瑞佳!」
返り血を浴び力を使い果たした浩平だが、ふらつきながらも瑞佳に歩み寄る。
「瑞佳・・・」
瑞佳の体を抱える浩平。その表情には死の不安がよぎっている。まるで人形のように動かない瑞佳。横では澪も涙を浮かべている。
「起きろ!馬鹿!」
浩平は心の底からある感情が湧き出てくるのを感じた。それは今まで瑞佳に対し抱かなかった感情。
「起きろよ・・・!頼むから!」
浩平が首を落とし崩れ落ちた時。
「う、う〜ん・・・」
『生きてるの!』
「・・・てめえ」
腕の中で瑞佳が目を覚ます。浩平の姿を確認すると、うっすらとほほ笑んだ。
「あ、無事だったんだ」

ポカッ!

「いた〜い!何するんだよ!」
「この馬鹿!心配させるな!」
「馬鹿馬鹿うるさいよ!」
「うるさい!」
そんな二人を飛主と女は木陰から観察していた。
「不安定な奴だ」
それが女の評価である。深い意味があるのだろうが。
「これからも監視を続けろ」
「はっ・・・」
女はそのまま姿を消した。
「お前はだよだようるさいんだ!」
「そんなことないもん!」
「今度はもんもんかよ!」
「違うもん!浩平が余計なこというからだよ!」
「だよもん、だよもんうるさいぞ!」
二人にとってこの光景が一番普通なのかもしれない・・・・・。




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なぜなにONE猫!
あ〜、疲れた〜。今回は長いな。本当は三部作だったんだけどね。
ちびみずか「よむのつかれるよ」
ま、休みもかねて次回は短くいこうかな。さて、瑞佳様ラブラブSS(死語)と指摘されるこの作品ですが、一幕でもお知らせした通り、テーマの一つでもある愛を組み込んでいますが・・・実はこれは俺が単なる瑞佳様びいきなせいじゃなかったりします。その真相は・・・今後の話で明らかに(^^)
ちびみずか「また、のばす〜」
ふっ、ふっ、ふっ・・・ヒロインは一人ではないのだよ。
ちびみずか「それってうわきだよ」
子供がそんな言葉を覚えてはいけない!ま、ちゃんと計画してるようで計画していない俺ですが、それでは次回まで!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第二一幕「川底への誘い」ご期待下さい!

解説

河童・・・みなさんも知っているであろう妖怪。地方の分布も広く、祭られているところも多い。川の主とされたり、いたずら好き、または人や家畜に害をなす妖怪ともされる。分布が広いだけにその性格もさまざま。世の中には河童のミイラとかが出回っているが、ほとんどは手先の器用な日本人が作った贋作。それでも中には本物と思われるもの不思議なものもあるらしい。