ONE総里見八猫伝大蛇の章 第十九幕 投稿者: ニュー偽善者R
第十九幕「湖底の龍神 前編」


妖怪と戦い、澪が迷子になる等、なかなか出雲までたどりつけない浩平達一行であるが、やっと近江に達し、都も目と鼻の先である。浩平達は休息もかねて噂に名高い近江の名所、琵琶湖に来ていた・・・・・・・。


ザー・・・

「そうか〜、これが海のような湖か〜」
「・・・・・」
『・・・・・』

ザー・・・

「うんうん、来たかいがあるな。そうだろ?」
「雨で・・・」
『何もわからないの』
「・・・・」
運悪く天候は最悪であった。梅雨時なのが災いし、大雨が視界を隠しせっかくの光景を台無しにしていた。湖面から水靄が立ち何も見えない。浩平達は琵琶湖に面した集落で宿を借りた。
「まあ、明日晴れたら見れるだろう。今日はゆっくりしようぜ」
『つまんないの』
不満気な顔を見せる澪だが、浩平は取り合わず畳に寝転んだ。
「お前さん方はついとるぞ。明日は龍神様を祭る祭りがあるんじゃ」
宿を借りたじいさんがほほ笑みながら声をかけた。それに瑞佳が応対する。
「でもこの雨で祭りなんかできるんですか?」
「ああ、この雨は龍神様が降らしているんじゃ。それを鎮めるための祭りだ。だから明日は祭りのために龍神様が雨を止めてくれる」
「ふーん、生贄でも捧げるのか?」
浩平が冗談半分に言ってみた。
「その通りじゃ」
「ほんとに!?」
自分で言っておきながら驚く浩平。
「ほっ、ほっ、ほっ・・・生贄と言っても若い娘の髪を一房湖に祭るだけじゃよ」
「びっくりさせるなよ」
「すまんすまん。この年になるとどうしてもな〜」
愉快そうに笑うじいさん。
「じいちゃん。その性格よくないよ」
戸が開いてじいさんをたしなめる声がかかった。浩平が声の方を見ると、そこには雨に濡れ、水をしたたらせる娘が立っていた。
「わしの孫の綾女(あやめ)じゃ」
「へえ・・・」
浩平はぼぉっとして戸口の綾女に見とれた。浩平が思ったのはただ一つ。
(美しい・・・)
可愛いとか、そういうものではない。まるで人形のように白い肌。漆黒の美しい髪。絵に描いたような美女である。
「どうかしました?」
綾女が浩平の視線に気付き、ふっと笑いかけた。その笑みは均整を崩すことはない。
「い、いえっ!何でも・・・」
完全に舞い上がっている浩平に、瑞佳が小声で話しかけた。
「浩平って、こういう女の子が好みなんだ・・・」
「あ?別に俺はそんなんじゃないぞ・・・ただ、綺麗だなと・・・」
「浩平にはもっと引っ張ってくれるような人が似合ってるよ・・・」
「あの娘は違うのか・・・?」
「そんなのわからないよ」
そんな二人の会話を聞いていたのかどうかはわからないが、じいさんが口を開いた。
「綾女は明日髪を捧げる身じゃ。だから手を出すなよ」
「えっ?もったいないよ。そんなに綺麗な髪なのに・・・」
瑞佳が自分のことのように残念そうな顔を見せる。
「いいんです。髪は切ってもまた伸びるし、このまま雨が降ったんじゃ湖が見れないでしょ?」
「でも、女にとって髪は命だよ」
「だからこそ生贄になるんじゃ」
じいさんが締めくくり、この話は終了した。この夜はみんなで囲炉裏を囲み、楽しく食事をした。だが、そんな彼らを家の遠くから観察する者がいた。飛主である。
「・・・・」
雨に打たれながら、何やら考え事をする飛主だが、意を決したのか湖とは逆の林の奥に消えた。そして飛主が向かった先には小さな祠があった。
「・・・わたしです。飛主です」
「・・・入れ」
祠の戸を開き中に入ると、そこには女が座っていた。暗くて顔は見えない。
「奴等はどうした?」
「湖近くの民家に泊まりました」
「まずいわね・・・」
女の声は聞き覚えがある。あの時の易者の声である。ここまで飛主と共に浩平を追っていたのだろう。
「まさか奴等もここに来るとは・・・・」
「いかがいたします?」
「よもやあれほどの魂を見逃す手はないわ・・・それにあいつにあの妖怪は倒せない」
「確かに・・・」
「機を待って仕掛ける。それまで監視を続けなさい」
「わかりました」
飛主は一礼をして、祠を出た。暗い祠の中一人女が残る。その傍らには古びた剣が鞘に収まり、置かれている。浩平の闇雲と同じ、大陸製である。


「すげー、ほんとに晴れた」
空を見上げると、青空が雲一つなく広がっている。湖の岸には祭壇が設けられ、周りには村の者だけでなく近隣の住人も集まっていた。浩平達は祭壇近くの前列にいた。

チリーン・・・チリーン・・・

鈴の音が鳴り響き、続いて笛の音も聞こえ始めた。祭壇の正面の群集が割れ、向こうから神主達が管弦を奏しながら歩いてくる。その最後尾を巫女姿の綾女がしずしずと進む。
「お〜、綺麗じゃのぉ・・・死んだ娘婿のも見せてやりたかった・・・」
「じいさん、綾女さんの両親は・・・」
「早くに亡くしてしまってのう・・・わしが男手一つで育てたんじゃ・・・」
じいさんはまるで嫁入りを見るかのような目で綾女を見つめている。

チリーン・・・チリーン・・・

演奏と共に舞を踊る綾女。その姿は天女と見紛おうかというほどである。舞ながらだんだん祭壇に近づく綾女。祭壇の前に来ると、懐から小刀を取り出し、流れる動作で髪を束ね小刀をあてがう。まるで舞の一連の動作かのようである。そしてぐっと力を込める。おおっ、と民衆から喚声が響いた。綾女の黒髪が一瞬広がり、その身から離れた。
「切っちゃった・・・」
瑞佳の潜めた声が隣で聞こえた。綾女は祭壇に切ったばかりの髪を置いた。その時、浩平は湖の湖面を見た。湖面に一つの大きな波紋がたったのを、浩平は気付いた。
(波紋・・・?)

キィィィーーーン!

(闇雲が!)
闇雲がこれまでにない強い反応を示した。浩平に緊張の汗が流れた。
「じいさん・・・龍神ってのは姿を見せるのか?」
「いや、見せないが・・・?それがどうかしたのか?」
「みんな!逃げろ!」
浩平は腹の底から声を出した。群集にどよめきが起こるがそれはすでに遅い。

ザバアァァァーーーーーーーッッッ!!!

盛大な水しぶきを上げ、それは湖面に姿を現した。蛇のような鱗を持ち、蛇よろも遥かに巨大な体。巨木並みの大きさである。何よりもそれは逸話のみづちにそっくりであった。みずちは群集を見回す。そして咆哮する。

グオオオオオオオオオオオーーーーーーーッッッ!!!

「り、龍神様だーーーっ!」
村人達は逃げ出す者、腰を抜かす者等が続出し混乱を極めた。無論、一番近くにいた綾女も驚きのあまり動きを止めている。
「ちぃっ!さっさと逃げろ・・・!」
闇雲を抜き放った浩平が綾女に駆け寄った。

ガアアアアアアアアーーーーーッッッ!!!

それを見たみづちは再び咆哮を上げ、顎をかっと開き牙を剥き出しにして食らいついてきた。
「ふっ・・・!」
浩平は綾女を突き飛ばし、剣の横腹を盾に構える。

ドガアッ!

「つうっ!」
もちろんその程度で防げるはずがなく、浩平は無残にも吹き飛ばされて後方の樹木に叩き付けられた。闇雲がその手を離れて浩平は気絶した。
「きゃーーーっ!」
「綾女!」
綾女の悲鳴がこだまする。何とみづちがその口に綾女をくわえたのだ。牙は立てていない。
「綾女さん!」

ザバアアアァァァーーーーーーッッッ!!!

再びみづちが湖底に姿を消した。綾女を連れたまま・・・・・・・・。




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なぜなにONE!
さ〜て!今回の敵は強いぞ〜!なんせ龍だからな。
ちびみずか「かてるのかな?」
うーん、そこら辺は秘密。謎の女も絡むしね。
ちびみずか「だれなの?」
ヒロインの誰か。って、キャラ違うけのはあえて公言したくないだけ。正式に登場したらちゃんとキャラ通りです。
ちびみずか「そういえば、わたしはでるの?」
ちびみずかが?うーん・・・どうしようかな〜。出してみたい気もするが・・・
ちびみずか「だして!」
うーん・・・やっぱ駄目。面倒。
ちびみずか「えいえんは・・・」
だーーーっ!それはやめい!わかった!何とかするから!
ちびみずか「ほんと?」
ただし外伝でな。
ちびみずか「なにそれ?」
いや、何となく。とりあえず、しばらくは出番なし。さてと、次回は近江編の続き!それでは!
ちびみずか「さよなら〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第二十幕「湖底の龍神 後編」ご期待下さい!


解説

みづち・・・空想上の生き物、龍の一種、以上。参考資料「大日本語辞典」