ONE総里見八猫伝大蛇の章 第十八幕 投稿者: ニュー偽善者R
第十八幕「迷い澪の災難」


狐達の罠からも逃れ、自分が妖怪達に狙われる身分だと気付いた浩平。しかし、彼の知り得ることは少なく今はただ出雲を目指すのみであった・・・・・・。


浩平達は関を抜け、次の国へ入っていた。今は険しい山道で休息している。手頃な岩場で弁当を広げる浩平と瑞佳。何やら討論しているようだが・・・。
「わたしのおにぎり食べたでしょうー!」
「そんなばっちいことするわけんないだろー!」
原因はただ一つ、浩平が瑞佳のおにぎりを噛ったのではないかという、疑惑が生じたのだ。無論、浩平が隙を見てかぶりついたのだが、白を切っているのだ。二人の争いは意地のぶつかり合いになりつつあった。
「ほらぁっ!ここに歯形がついてるもん!」
「何ぃ!」
「何よぉ!」
「ふかーーーっ!」
「ふぅーーーっ!」
牽制し合う二人だが、話に外れていた澪は退屈していた。

ガサガサ

『あっ!うさぎなの!』
澪は茂みから現れたのうさぎに目を惹かれた。だが、浩平と瑞佳の唸りあいに驚きまた隠れてしまった。
『追いかけるの』
澪はうさぎに夢中になり茂みの向こうに走り出した。そんな澪に気付くことなく二人の喧嘩は続く。
「がーーーっ!」
「うーーーっ!」
唸るのに夢中になっていた二人だが、やっと本来の目的を思い出し我に返った。
「何やってんだ・・・?俺達」
「おにぎりのことじゃなかったっけ?」
「何かどうでもよくなってきたな」
「どうでもよくないよ!ねえ澪ちゃん?」
瑞佳が振り返るがそこには誰もいない。
「あれ?どこいったんだろう・・・」
「そのうち戻ってくるだろう」
楽観する浩平だが事態は深刻な方向に流れるのであった。


『待ってなの〜!』
澪は無邪気にうさぎの後に続く。うさぎは襲われると思っているのか、逆に逃げるばかり。そして道脇の茂みに飛び込んだ。もちろん澪も続く。

バサッ!

『?』
だが、そこで澪は不思議なことに気付いた。自分はまっすぐ立っているつもりなのだが、視界が下を見ている。さらに不思議なことに、その広がる光景は天と地が忙しく回っている。つまり澪の体は地を転がっていた。茂みの先は急な坂だったのだ。
『助けてなの〜〜〜〜〜っっっ!!!』

ガサガサガサッ!バサッ!バササッ!

木の葉を揺らし、小枝を折りながら澪は落下していった・・・・・・。


「いたかっ!?」
「ううん、どこにもいないよ!」
澪の不在に気付いた浩平達は、草の根をかきわける勢いで澪を探したが、依然澪は見つからない。日は暮れ始め、辺りを闇が支配しようとしていた。
「まずいな・・・」
「後探してないのは斜面だけだよ」
「まさか死ぬことはないだろうが・・・瑞佳いくぞ!」
「うん!」


『う、うう〜ん・・・』
ぼやけた視界がだんだんと鮮明になる。それと共に澪の意識はしっかりとしてきた。
『・・・?』
体を起こした澪は辺りを見回す。真っ暗である。
・・・ひ、えぐ、えぐ・・・
自然と涙が浮かんでくるが、それをぐっとこらえる。澪は何とか冷静になろうと、自分の状況を理解しようとした。
『ここはどこなの?』
真っ暗で分らない。
・・・ひっく・・えぐ、えぐ・・・
半泣きになるが何とかこらえる。次に澪は自分の服装を見た。
『ぼろぼろなの・・・』
着物は転がったせいで、泥だらけになっている。
・・・つー・・・・・
一筋の涙が澪の頬を流れた。それ以上の涙が出ないようさらにこらえる。澪は何とか浩平と合流するため、進むことにした。斜面を登るのは無理だ。仕方なく上り道の方に歩くことにした。着物の泥を払い落とし、よろよろと歩き始める澪。
『怖いの』
澪の思考はこの一念に捕らわれていた。

ガサ!

何かが茂みを揺らす音。それにびくっと反応する。
『ふええ〜〜ん・・・』
半泣き状態でも、必死に進む澪。だが、けなげな彼女に対して神様はさらに試練を与えた。
『・・・?』
澪の前方の暗闇で何か明かりのようなものが飛び交っている。それも数個である。それは規則性がなくふらふらと辺りを飛び回っている。澪はその明かりに安心し、その方に向かったが。
『!?』
澪の見た明かり。それは人魂であった。
『きゃああああああーーーーーーっっっ!!!』
人魂を確認した澪はその瞬間脱兎のごとく走り出した。森の中へと分けいる澪。澪は涙を流すのを忘れて走るのみ。

キキキ!

澪の騒がしさに蝙蝠がけたたましく騒ぎ出す。そんなものも澪の恐怖を増加させた。
『いやなのーーーーーーっっっ!!!』
だが・・・真の恐怖はこれからだった・・・・・・。

ボトッ

『?』
澪の頭上、樹木の枝から何かが落ちてきた。澪は足元に落ちたそれを恐る恐る見ると・・・
『きゃああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっっ!!!!!』
落ちてきた物体。それは切り落とされた馬の首であった。澪は声の限り叫び、道なき道を走り出す。だが、後ろから場に合わない馬の蹄の音が響いてきた。

バカラッ!バカラッ!

悪路のはずをどんどん距離を縮める蹄の音。恐怖に耐えれなくなり澪はついに振り向いた。そこには首を切り落とされ血を滴らせた馬が迫っていた。澪は恐怖のあまり気絶しそうになるが、後ろから天の助けとも思える浩平の声が響いた。
「澪ーーーーーっ!伏せろーーーーーーっっっ!!!」
澪は考えるより先に行動に移した。その直後、抜き身の闇雲がものすごい速度で通過した。

ブシュウッ!

闇雲は首無し馬の胴に突き刺さり、首無し馬は声こそ出さないものの苦しみに地を転げ暴れ出す。
「澪!無事か!?」
「怪我はない!?」
浩平と瑞佳が澪に駆け寄る。
『ふええええ〜〜〜〜〜んんん』
澪はせきを切ったかのように、涙を流しながら浩平に抱きついた。
ひっく!ひっく!えぐ、えぐ!
「よしよし・・・怖かったろ」
澪の頭を浩平が優しく撫でてやる。瑞佳も澪を慰めてあげる。浩平は澪を瑞佳に渡すと、闇雲を拾いにいった。すでに妖魔の遺体は溶け消えている。
「澪の悲鳴のおかげで早くわかったぜ」
『怖かったの!』

ポカ!

澪がげんこつで浩平を叩く。
「ははは、でも無事でよかったぜ」
「駄目だよ。はぐれたりしちゃ」
澪はうー、と顔をしかめるが反省をしているのか反論はしなかった。こうして浩平達は多少の回り道をすることになった・・・・・・。



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なぜなにONE猫!
異色作です〜。
ちびみずか「みおおねえちゃん、だいかつやくだね」
活躍なのか?単にいじめただけのような・・・
ちびみずか「じぶんでいわない」
ふー、作家さんが出演するのはいつの日か(^^)
ちびみずか「がんばってね」
うむ。次回は・・・かの有名な琵琶湖での戦い。強敵が浩平を襲う・・・いや、まじで。それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」

次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第十九幕「湖の龍神 前編」ご期待下さい!


解説

首無し馬・・・越前、壱岐島。四国でも阿波でも出現する妖怪。神様が乗って、又は馬だけで、又は首の方ばかり飛び回るという話もある。起用したのは出現地方に合わせたため。参考資料柳國邦男「妖怪談義」