ONE総里見八猫伝大蛇の章 第十七幕 投稿者: ニュー偽善者R
第十七幕「狐の奸計」


狐の罠にはまり天狗の魂を集めることになった浩平。山中でからす天狗達と戦うも、大天狗により止められ屋敷へと導かれた・・・・・・。


山道を天狗達に導かれるまま進むと、森の奥に突然巨大な屋敷が現れた。
「さ、ここじゃ」
大天狗が触れもしないのに、門が一人でに開いた。そのまま進むので浩平も後に続く。中庭はきれいに整えられ、雑草も生えずに花が群集している。

スタ・・・

何かの足音。浩平が音の方を見ると、そこには野生の鹿がいた。
「へえ・・・獣もいるんだ」
「山の獣は全て我らの仲間じゃ」
「ふーん・・・」
中に入り、大天狗の私室と思われる座敷に通された。大天狗は畳に正座したので浩平もそれにならう。大天狗の脇には側近であろう天狗も控えている。
「さて、まずはそなたの名を聞こうか?」
「浩平。じいさんは?」
「じいさんときたか!はっ、はっ、はっ!これはいい!」
大天狗は愉快そうに笑うが、側近の天狗は怒りを露にした。
「我らが長に何という口ぶり!」
「よい。蛾鵜(がう)お前は黙って話を聞いておれ」
「はっ・・・」
蛾鵜と呼ばれた天狗は不服ながらも従った。
「わしはここらの天狗の長、呈訊(ていじん)という者だ。浩平、まずそなたが闇雲を持ったいきさつを聞きたい」
「わかった」
浩平は乙音寺での闇雲との出会いと、これまでの妖怪達との戦いのことを話した。そして、狐との契約のことも。
「なるほど、お前さんは狐にいっぱい食わされたな」
「どういうことだ?」
「我らは人は襲わない。山の掟を破った者以外はな。考えてみろ、相手は狐だぞ」
浩平は合点がいった。話が上手すぎる。あんな人里近くで嫁入りが行われるとは思えない。
「人の魂と天狗の魂が近いはずがない。魂はそのものの魂。同じではないわ」
「くそーっ!はめられた!すまねぇ・・・罪もない天狗を殺してしまって・・・」
浩平は自分の愚かさと同時に罪悪感に襲われた。
「ふむ・・・やはりお前には命の重さを判断できるようだな・・・まさにまとめし者としてふさわしい」
「なあ、まとめし者ってどういう意味だ?俺剣のことについてあまり知らないんだが・・・・・」
「・・・それはそなたの宿地で知るが良い。ところで浩平、お前は自分の状況をいまだ理解していないな」
浩平の表情に訝しげな色が現れた。
「なぜ狐がお前をはめたのか考えてみろ。その剣は妖怪の生き血を吸う、大妖の気に狂わされた者どもはお前を襲うじゃろう。わしらは何とか逃れたがな。だが、大妖にとってその剣は目障りじゃろうからな」
「そうか・・・何でこんなことに気付かなかったんだ」
「進むがよい。そなたの道を・・・」
「ありがとう」
浩平は闇雲を掴み、立ち上がると長に一礼をして部屋を出ようとしたが、それを蛾鵜が呼び止めた。
「待たれい!人の子よ!」
「?」
「いくら長が許しても、仲間を殺されて黙っておれるか!」
「やめんか!蛾鵜!」
長が抑えるが、蛾鵜は止まらない。
「こればかりは聞けません!わたしと一騎打ちをしろ!それでわたしに勝つことができればいかしてやろう!」
「いいぜ、こっちに非があるんだ。拒否はできない」
「よいのか?浩平」
「ああ」
浩平の顔に迷いがないのを見て、長は溜め息をつくと立ち上がった。
「わかった・・・戦いを許そう。場所は中庭じゃ」


屋敷の中庭には天狗や山に住む妖怪達が集まっていた。浩平と蛾鵜の決闘を聞いて、敵を討てとばかりに駆けつけたのだ。中心では浩平と蛾鵜が睨み合っている。
「浩平・・・蛾鵜はわしの後継者だ。強いぞ・・・・・・」
判定を仕切る長が浩平に話しかけた。
「構わない。俺が悪いんだから・・・」
浩平はそう長に告げると、改めて蛾鵜と対峙した。びりびりとした緊張感が辺りに漂う。浩平はすらりと剣を抜いた。蛾鵜も錫杖を掲げる。
「それでは、始めぇい!」
長の声と共に、二人は間合いを詰めた。風を切るかのような勢いで駆け出し二人は武器をぶつけ合う。

キィン!

つばぜり合いの形になるが、そこから二人は打ち合う。

キィン!キィン!ガキン!

「なかなかやるな!小僧!」
「そっちこそ・・・!」
再び組み合う両者。だが、蛾鵜が錫杖の柄を返し先端を浩平の鳩尾に突き出す。
「ぐはっ!」
もろに浩平はそれを食らい、動きを止めた。

ドカッ!

「ぐっ!」
そこを蛾鵜が錫杖を振りおろす。回避しようとするが、浩平は肩口にそれを受けた。
「どうした!?小僧!この程度か!」

ドカッ!バキッ!

蛾鵜の容赦ない打撃に浩平は吹っ飛んだ。

ズシャア!!!

地に伏す浩平。蛾鵜が大きく錫杖を振り上げ飛びかかった。
「もらったぞ!」
浩平は体勢を素早く立て直し、剣を構えた。
「俺は・・・負けるわけにはいかない!」
蛾鵜の錫杖が振りおろされたと同時に、浩平が剣を突き出した。交差した一瞬、火花がほとばしった。

バキィィィーーーン!

「何ぃっ!?」
闇雲が錫杖は弾く。そしてその刃先は蛾鵜の左肩に突き刺さった。

ズブッ!

「ぐはあっ!」

ドサッ!

地に落ちる蛾鵜。そして判定が下った。
「この勝負、浩平の勝ちじゃ!」
その瞬間、化け物達の間にどよめきが起こった。不満の声、驚きの声。それらがないまぜになっている。
「浩平よ・・・そなたわざと外したな?」
「そんなことない・・・あれが精一杯さ・・・・・・」
「・・・それもよかろう・・・行け、まとめし者よ」
浩平は長の言葉に頷き走り出した。狐達のもとへ。
「蛾鵜よ、剣を交えて分っただろう?あやつの心を」
長は蛾鵜に向かい合うと、諭すように語りかけた。
「大妖の存在は我らもおびやかす。あやつは必要な存在なのだ」
「・・・仰せのままに」
蛾鵜は悔しそうにしながらも長の言葉に従った。


浩平が山を降り始めてすでに数時間が経っていた。すでに真夜中になり、人里は眠りに入っている。しかし、狐の村は違った。空を怪しげな鬼火が舞い、狐達が踊っている。そして神主狐の屋敷の前では神主狐と浩平を監視する狐、飛主が立っていた。
「本当に戻ってくるのでしょうか?あの小僧が」
「来るさ・・・鈴の音が近づいているからな」
神主の問いに飛主が答える。
「いくら何でも天狗相手に無事ではいますまい」
「腐っても剣の継承者だ。甘く見るな。それに戻ってきたら魂を受け取ればよいし、死んだなら新たな継承者が現れる」
「左様で・・・」
彼らにとって魂は何らかの意味を持つらしい。会話を続けていた二匹であったが、何かを感じたのか飛主の顔色が変わった。
「来たぞ。戻ってきたわ」
飛主はにやりと笑った。その手には浩平が易者から渡されたのと、同じ鈴が握られている。それに応じるかのように村の入り口の方が騒ぎ始めている。
「狐共・・・よくも騙したなーーーっ!」
闇雲を振りかざし浩平が村の中に飛び込んできた。怒りの形相で屋敷目がけて走る。何匹かの人狐が迎撃にかかるが、そんなものに浩平は構っていなかった。
「いたな・・・!親玉が!」
屋敷の前にいる飛主と神主狐を確認して浩平はさらに速度を上げた。
「てめえら・・・俺を騙したな・・・」
浩平は屋敷の前で立ち止まり、冷たい声で言い放った。
「ほお、気付いたか。さては天狗達と共謀したのかな?その割には一匹殺したようだがな」
「黙れ・・・!子供はどこだ・・・!」
飛主の言葉に浩平は怒りを露にした。だが、それに飛主は高笑いをする。
「はっ、はっ、はっ!子供も我らの企みだ!わたしが化けてたのよ!」
「何だと・・・」
浩平に殺気がみなぎった。
「天狗の魂は手に入れたようだな。渡してもらおう」
「誰が渡すか!お前等・・・何を企んでる・・・?」
「貴様に言う必要はない。渡さぬのならば力づくでも!」
飛主の形相が変わり、爪が鋭さを増した。
「行くぞ!」
飛主は爪を光らせ浩平に飛びかかった。牙をむき出しにし、一気に浩平に近づく。浩平はそれを迎え撃とうと剣をなぎ払った。

ヒュン!

しかし、その残撃を飛主は素早く飛びかわす。浩平は驚愕し頭上を見上げた。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・まだまだ甘いぞ!」

バリバリバリ!!!

飛主の目が妖しく光り、浩平に向かって突き出された指先から雷撃がほとばしった。

バチィ!

「ぐあああっ!」
胸元にそれを受けた浩平はよろめいた。そこに降下した飛主が爪を光らせた。
「もらった!」

ビシュッ!

「うっ!」
浩平の胸元に下げた珠玉がつかみ取られた。そして、三本の赤い横筋がひかれる。
「くくく・・・確かに頂いたぞ!」
飛主は素早い動きで神主の元に戻ると、神主狐に命令を下した。
「足止めは任せたぞ・・・わたしはあのお方の元に行く」
「お任せください」
飛主はそう言い残し、闇へと姿を消した。
「足止めだと・・・!」
「お前の相手は飛主様ではないよ。者ども!かかれい!」
神主狐の号令とともに、わらわらと武器を構えた狐達が現れた。その数は四匹。そいつらは一斉に浩平に襲いかかった。
「てめえら・・・邪魔だ!」

ザンッ!ザシュッ!

「ぎゃんっ!」
「うぐあっ!」
浩平に今まさに鉈と刀が振りおろされようとした直前、浩平の闇雲が恐るべき速さできらめいた。それは前方と右の狐の命を奪う。それに憶した二匹の狐が動きを止めた一瞬を狙って、浩平は跳躍した。
「死ねよ・・・」

シュパッ!

闇雲が一閃し、同時に二匹の首がぼとりと落ちた。
「そ、そんな!まさか・・・!」
神主狐があまりの浩平の強さに恐れ慌てる。浩平は神主狐にゆっくりと近づく。
「ひっ!た、助けてくれ!そ、そうだ!金ならいくらでもやる!宝石も!」
必死に命ごいをする神主狐。だが、浩平の裁きは。
「駄目だね・・・」

ドンッ!

心臓を一突きであった。断末魔の声を上げることもなく神主狐は絶命した。浩平は血をふき取り剣を鞘に収めた。
「さて、心配してるだろうな。あいつら・・・」すでに飛主の行方はわからなかった。世界には静けさが訪れ、闇の向こうには鬼火が行き先もなくただ迷い飛んでいた・・・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
一気に稼ぎました!これでだいぶ話が進む。
ちびみずか「ひきょうだよ」
いまさららいうな。
ちびみずか「そうだね」
さて、次回は澪が活躍(?)というか、メイン。それでは!最近卑怯になってますが(^^)
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第十八幕「迷い澪の災難」ご期待下さい!


解説

鬼火・・・今回は特に説明するものがないので、これにしてみた。説明することは・・・多すぎる。はっきりいってよくわからないというのが本音。地方によっていろいろな広義があるのだ。人魂だとか、悪いことの前兆、またはその逆。現代でも見る事は多い。プラズマで説明できるとか言う学者もいるが、ちゃんと視聴者に説明すれよ。