ONE総里見八猫伝大蛇の章 第十二幕 投稿者: ニュー偽善者R
第十二幕「死神の舞う夜」


水の流れには魂が集まるという。人は死してなお、何を求めるのか?安らぎ、快楽、悲哀、激情・・・水の流れはそれらをゆっくりと、時には荒々しく包み込んでしまう・・・・・・・。


越後の山間で、浩平達は野宿の準備をしていた。なるべく宿に泊まれるよう旅をするのだが、どうしても野宿をすることがある。外敵から身を守りやすい地形を選び、浩平達は荷物を降ろした。
「薪集めてくるわ」
浩平はそう言い残し、林の中に入った。旅は浩平達を強くしていた。闇雲を抜かない生身の体でも、浩平の体は鍛えられ、旅の精神的な辛さにも慣れてきた。しかし、時としてそれは過信を生み、新たな危険をもたらそうとしていた。

さらさらさら・・・・・・

「川か・・・」
薪を拾いながら、浩平は水の流れを聞いた。何となく浩平はその方向に向かってみた。

さらさらさら・・・・・・

谷間の渓流が静かな時を刻んでいた。浩平はその絶え間ない流れをぼっと見る。理由はない。ただ、心が休まる気がしたからだ。
「浩平ー!どこー!」
「あっ、今戻るー!」
向こうから瑞佳の声が響く。浩平は薪を持ち直して、慌てて道を戻った。


その夜は他愛のない会話をして、すぐに床に着いた。疲れが出たのだろう。しかし、彼らには油断が生じていた。

キィィィーーーン!

(!?)
うつぶせに寝る浩平の頭の中に、強く闇雲が響いた。
(妖怪か!?)
浩平は闇雲に手を伸ばそうとした。
(何っ!?か、体が!?)
浩平の体を金縛りが支配していた。全身をだ。おかげで、近づく正体を見極めることができない。そして、歌が聞こえてきた。

・・・・・迎えに来たよ
・・・・・迎えに来たよ
・・・・・迎えに来たよ
・・・・・隠しに来たよ
・・・・・隠しに来たよ
・・・・・隠しに来たよ

輪唱のように続く声。それは歌とは言えないのかもしれない。感情がこもらず、ただ口ずさむのみ。

・・・・・一緒に行こうよ
・・・・・一緒に行こうよ
・・・・・一緒に行こうよ
・・・・・水の中に行こうよ
・・・・・水の中に行こうよ
・・・・・水の中に行こうよ

声が近づくと共に浩平を恐怖を襲った。足音は全くないのだが、浩平は自分のすぐ近くに何かがいるのを感じた。
(な、何だこいつら!?)

・・・・・さらってゆくよ
・・・・・さらってゆくよ
・・・・・さらってゆくよ
・・・・・お前の魂を
・・・・・お前の魂を
・・・・・お前の魂を

冷たい手が浩平の頬に触れた。そして、このままでは自分の命は「何か」に奪われることを知った。浩平は戦慄した。
(や、やめろ!・・・俺はまだ死にたくないんだ!やめろーーーっ!)
浩平の心の叫びは虚しく消えようとしていた。冷たい手が浩平の手をしっかりと掴んだ。
(やめてくれーーーーーっっっ!!!)

・・・・・・お米とぎやしょか人取って食いやしょかショキショキ

先ほどとは別の方から、そんな歌が聞こえてきた。今度は拍子をとった陽気な声だ。そして、足音と共に発せられた声。
『いかんな〜、見境なく魂を奪うのは死神の役目じゃないぞい。それにここはわしの縄張りじゃ』
場には不似合いな陽気な声。冷たい「何か」の手も緩んだ。
『まだ若いではないか。ほれ、若いの、これを食え』
声の方向から何かが飛んできた。
(小豆・・・?)
浩平は不思議に思いながらも、かろうじて指を動かしそれをたぐり寄せ、口に運んだ。その瞬間である。
「動く!?」
金縛りが解け、浩平に自由が戻った。浩平は驚くより先に、闇雲を掴んだ。そして、起き上がりざまに、自分に触れたものに向かって斬りつけた。

ビシュッ!

浩平の眼前には白装束の影がいた。浩平が剣を振るうと、その姿はかき消えるように消滅する。周りを見ると、すでに数十歩先に残りの二体は移動している。白装束を着た人影で、顔はなぜか確認できない。
「何だ・・・?あれは」
『死神じゃよ』
浩平はその声の主の方に振り返った。そこには人間の子供くらいの、全身が赤ちゃけたしわがれた小鬼がいた。小豆とぎだ。
「お前は・・・?」
『そう警戒なさんな。安心せい、ここらを縄張りにする弱妖だ。さっきの白装束は死神の仲間だ。低俗だがな』
浩平は小豆とぎに敵意がないのを悟って、剣を収めて礼を言った。
「何で俺達を助けてくれたんだ?」
『何、気が向いただけじゃ。それにあいつらは勝手にわしの縄張りに入り込んだからな』
小豆とぎはそれだけ言うと、背を向け歩き出した。
「お、おい・・・」
『気をつけろよ、若いの。これから先もまとめし者であるお前を狙って、数々の妖魔が襲ってくるじゃろう・・・しかし、くじけてはいかん』
「待て!どういう意味だ!?」
それには答えず、小豆とぎは歌いながら夜の闇に消えた。

・・・・・・お米とぎやしょか人取って食いやしょかショキショキ

「・・・・・・・・・」
浩平は不思議な気分に包まれながらも、自分の状況の危険さを改めて思い知らされた。
(俺は何も知らないんだな・・・・・・・)




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なぜなにONE猫!
今回は異色です〜!
ちびみずか「いったいなんだったの?」
俺もよくわからず(^^)実は現代の恐怖体験談をもとに書いてみたんだけど・・・・・・意味不明(^^;とりあえず、解説を見てください。さて、『みんなでつくろう血へどSS!』ですが艦長がご参加してくださいました。
ちびみずか「ありがとうございまーす!」
現在ONE猫はストック分を投稿しているので、みなさんの出演は一カ月ほど先になります。長らくお待たせすることになりますが、ご了承のほどを(^^;
ちびみずか「ごりょうしょうのほどをー」
作者を救済するためにも是非ご参加下さい。次回の方はうーん・・・また謎を残す展開かも。それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第十三幕「鈴の音に導かれて」ご期待下さい!


解説

死神・・・本編では死神と設定したが、実際はよくわからない。と、言うよりも恐怖体験談で聞いた話から考えたものだからである。体験談は、白装束の行列が真夜中の水場に出現したという話なのだが、白装束の幽霊、またはそれに関したものはかなり危険らしい。近づけば命はないとも聞いた。そこで死神と設定した。みなさんも白装束の一団と出くわしたら、近づかない方がよいであろう。

小豆とぎ・・・小豆洗いとも言う。水のほとりで小豆を研ぐ音がすることをこういう。またはこういう名の化け物がいて、そんな音を出すとも言われる。分布範囲が広く。知名度も高い。参考資料柳國邦男「妖怪談義」