ONE総里見八猫伝大蛇の章 第十一幕 投稿者: ニュー偽善者R
第十一幕「呪いの炎」


かまいたちとの接触を経て、妖怪と戦うことに自問し始める浩平。その答えを見つけぬまま、北陸道の五番目の国越後に入っていた。


浩平達は海岸沿いの街道を進んでいた。海に面した土地なので、潮風が涼しい。季節も初夏を迎え、山側を見ると新緑が青々と埋め始めている。さらに時は夕暮れを迎え、海は黄金色に輝き、新緑の青もうっすらと赤みがかっている。
「天気のいい日は佐渡の島が見えるんだよ」
『さどって何?』
問いかけてくる澪の思念に、瑞佳は丁寧に答えてあげた。
「この海の向こうに浮かぶ島のことだよ。確か・・・金山が有名だっけ?ねえ、浩平?」
「金山ねえ・・・そこにいけば一獲千金だな」
「欲をもっちゃ駄目だよ。修行僧なんだから」
「待て。俺は坊主になった覚えはないぞ!」
慌てて否定する浩平。
「あっ、そうだったね」
陸奥の乙音寺を出てから、2カ月近く旅をしてきた浩平と瑞佳であるが、当時は真新しかった浩平の袈裟も裾はほころび、幾多の戦いで破れた所を瑞佳に縫ってもらっていたが、その個所も数多くなっている。瑞佳の着物も浩平ほどひどくないが、多少のほころびが目立ち始めている。澪は着物こそ本物であるが、途中から加わったので埃をかぶった程度である。
「ところでよ、そろそろ宿を見つけなきゃな」
「そうだね」
ひなびた漁村に入った所で、彼らは宿を決めることにした。漁村は粗末な家々ばかりだったが、その中でも三人は泊まれそうな家の戸を叩いた。
「すいませーん、一晩の宿をお貸し下さい」
「何だー?」
中からは真っ黒に日に焼けた巨漢の男が出てきた。
「ん?坊主か?」
「あの・・・宿をお借りしたいんですけど」
ちょっと憶して浩平は頼んだ。
「ああ、全然構わねぇぜ!狭い所だが入りな!」
男は快く浩平達を中に入れた。海の男は気がいい。


「ほ〜〜〜!出雲まで旅すんのか?すげえこった」
男に豪勢な海の幸をご馳走になりながら、浩平は自分達が出雲までいくことを話した。
「ところでお前等、長いこと旅してると不思議なもんにたくさんでくわしただろ?」
「ええ、まあ」
「ここにも出るんだぜ・・・」
声をひそめて、男が語り出した。
(また妖怪のことか・・・)
浩平は嫌な予感がした。
『何なの?』
浩平の気持ちを知って知らずか、澪が興味ありげに聞く。ちなみに、普通の人間には澪が妖怪だとわからない。
「この辺に妖怪が住む小屋があるらしい・・・そいつは村の人間になりすまし、泊まった旅人を食い殺すそうだ・・・」
ゴクリと誰かの唾を飲む音が聞こえる。
「や、やだなー、漁師さん怖がらせないでよ」
「いいや・・・本当だぞ・・・なぜなら・・・・・・・・俺がその妖怪だからだーーーー!!!」
「きゃあああああーーーー!!!」
『怖いのなの!』
くわっ!と表情を変える男であったが、悲鳴を上げる二人とは反対に浩平は涼しい顔をしている。
「はぁーはっ、はっ、はっ!冗談だ!いやー、若い娘を怖がらせるのはおもしろい!」
「何だぁ・・・」
『びっくりしたの』
ほっと息をつく二人。
「それにしても坊主、肝座ってるなー」
「そうですか?」
(闇雲が何も感じてないからな・・・)
そう思う浩平だが、どこか真実味を男の話し方は感じさせた。


夜もふけり、彼らは床についた。だが、眠りにつく前浩平は妙な倦怠感を感じた。
キィィィーーーン・・・
浩平は闇雲の鳴動で目を覚ました
コト・・・
(・・・?)
どこからか物音がして戸が開いた。
(妖怪か・・・?)
「生贄は・・・?」
「大丈夫です・・・薬でぐっすり眠らせてます・・・」
小声で小屋の男が誰かと話しているのが聞こえた。浩平は闇雲を掴もうと、枕元に手を伸ばそうとした。しかし、それはできなかった。
(しまった!?毒を盛られた・・・!)
浩平は首を回して辺りを見回そうとするが、それもできない。
キシ・・・キシ・・・
近づく足音、それも複数だ。浩平の背中に冷や汗が走る。
「お前はそっちをもて・・・」
浩平は両腕と両足を掴まれ、持ち上げられた。浩平は目を閉じ、眠ったふりをする。意識がある方が、まだ状況を理解できる。そのまま、浩平は外に連れ出されて何やら樽の中に入れられた。他の二人も別の樽に入れられたようだ。
「行くぞ・・・」
樽の紐に通された棒が担がれ、浩平は樽ごと浮いた。そして、進み出す。浩平はどうにかしてこの状況を打破しようと画策する。こいつらの目的はわからないが、まっとうな奴等ではないだろう。多分妖怪がらみだ。そして、生贄という言葉が男の会話から出ている。これは、浩平達を即座に殺す意図がないことを示している。薄目でだが、樽に入れられる直前、浩平は外の様子を確認したところ、少くなくとも五、六人はいた。その中にどれくらいの妖怪がいるかはわからないが。そして、闇雲は浩平と一緒の小屋から持ち出されていた。多分誰かが持ち運んでいる。そこまで考えた時、浩平の頭に澪の思念が響いた。
『大丈夫なの?』
(澪か・・・!?)
妖怪ではあるが、家の神、つまり精霊の一種である澪に毒が効くはずがない。澪は眠りから目覚め、浩平にだけ思念を飛ばしていた。
(澪、今は大人しくしていろ・・・こいつらの目的をさぐるんだ・・・!)
浩平は声を出すわけにもいかず、必死にそう念じた所、意外にも澪に通じた。
『わかったの』
それっきり澪は黙る。浩平も神経を張り詰めることに集中した。しばらく無言の行進が続くと、急に樽が降ろされた。どうやら目的地に着いたらしい。
「とりあえず牢に運べ、ごんごろう様にはわたしが報告する」
「はい」
そんな会話の後、三人は樽から出されて担がれて運ばれる。浩平は薄目で周りを見た。その風景は漁村ではなく、山側の農村であった。いくつかの民家が見える。そして、彼らは大きな屋敷に運ばれた。不思議なことに、屋敷の前には鳥居がある。屋敷の中に入ると、浩平達は地下の牢に放り込まれた。
ギー・・・
格子が閉められ、誰もいなくなり辺りには静けさが目立った。
「澪・・・動けるか?」
声をひそめて、浩平は呼びかけた。
『うん』
「よし・・・」
澪が体を起こす気配を感じながら、浩平は言葉を続けた。
「どこかに闇雲があるはずだ・・・それを探してきてくれ」
『わかったの』
澪は立ち上がり、うなずいた。そして、まっすぐ格子に向かう。そのままぶつかると思われた澪だが、その体はあっさりと格子を通り抜けた。澪の持つ、壁抜けである。
「姿は消せよ・・・!」
『うん』
体が起こせない浩平だが、気配で澪が姿を消したのを知った。
(それにしても・・・あいつらは一体・・・?)
疑問に思う浩平だが、答えがわかるはずもない。仕方ないので、澪の帰りを待つことにした。
(どううでもいいが・・・いつまで寝てるんだ?)
浩平は後ろで寝息を立てる瑞佳にため息をついた。


一方、闇雲を求めて屋敷を徘徊する澪は、とにかく部屋を手当たりしだい覗いていた。姿を消しているだけあって、その行動範囲は広い。そして、一際大きい、主人の部屋と思われる部屋に入った。そこには、奇異な世界が広がっていた。
「ごんごろうよ・・・生贄を三人連れてきたぞ・・・」
『御前に並べよ・・・』
部屋の奥には、囲いがあり薪火が赤々と燃えている。その前には小柄な人影がひざまずいている。驚いたことに、言葉を返したのはユラユラと揺れる炎であった。次に人影が頭を上げた。それを見て、澪はさらに驚いた。それは狐であった。それは着物をしっかりと着て、人間の言葉を話している。
『!?』
澪は息を止めるも、彼らの会話を聞き続けた。
「それでは・・・」
狐が立ち上がり、澪の方に向かってくる。だが、澪の姿は見えないが何かを感じて立ち止まった。
「はて・・・?この気配は一体?」
首をかしげる狐であったが、そのまま部屋を出た。澪はもう一度炎を見るが、それはただ燃えるのみであった。


「起きろ!ごんごろう様がお目通しになる」
地下牢に数人の男がやって来た。どうやら浩平達を連れ出すつもりらしい。格子を開け、中へと入ってくる男達。
「ほら、立て!」
男の一人が浩平の腕を掴もうと手を伸ばしたその時。
ドフッ!
「ぐえっ・・・」
男の鳩尾を、鞘に収まった剣がえぐっている。男はうめいて倒れ込んだ。
「お、おい、どうした!?」
だが、近くの男も続きの言葉を発せなかった。
「おらぁっ!」

ドコッ!

素早く立ち上がった浩平が、鞘ごと剣を振りおろす。鈍い音とともに、男は気絶した。
「き、貴様何故!?」
浩平はスラリと剣を抜いて、冷たく言い放った。
「ごんごろうっ、ていうのは誰だい・・・・・・?」
剣を抜いた浩平には、殺気が漂っている。それを感じたのか、男は慌てて口を開いた。
「こ、この村の主だ!」
「何故俺達をさらった・・・?」
「ごんごろう様は生贄を求めるんだ。それを叶えないと、水害を起こして米が駄目になるからだ!」
「そうか・・・」

ドゴッ!

男は気絶してバッタリと倒れた。浩平が剣を返し、それで打ったためだ。浩平は剣を収めた。
「澪、ありがとうな」
『どういたしましてなの』
闇雲を奪還した澪が、闇雲を届け浩平がそれを握ると、しびれは回復した。瑞佳はまだ、体を動かせないが眠りからは目を覚ました。
「どうやらごんごろうとか言う奴が原因らしいな」
『そうみたいなの』
「よし、瑞佳動けるようになったら、すぐにここを出ろ。俺は奴を倒す」
「浩平・・・」
瑞佳が小さな声で話しかけてきた。
「ごめんね・・・足手まといになって・・・」
「ばーか、いつものことだ」
「もう・・・自分は心配ばかりかけるくせに・・・」
瑞佳はわずかにほほ笑むと、力尽きたように地に伏した。
「さて・・・行くか。澪はここにいろ!」
浩平は闇雲を抜き、走り出した。階段を駆け上がり、広間を走り抜ける。行き先は炎の部屋だ。何人かの人間がいるが、それには構わない。ただ、炎に操られているに過ぎないのだから。

バンッ!

障子を勢いよく開け放つ浩平。部屋の奥では変わらず炎が燃え盛り、狐も控えている。
「何者だ!?」
狐が問いかける。浩平は剣を構え、ゆっくりと近づく。
「最初に忠告しとく・・・この村から手をひけ。でなかったら・・・殺す」
「ふん、貴様のようながきに何ができる?」
「聞かぬのだな・・・?」
「当たり前だ!」
「仕方ない・・・」
浩平は間合いを詰めに駆け出した。しかし、狐は憶することもなく叫んだ。
「馬鹿め!」
「!?」
狐の手前で、畳が盛り上がり、畳を突き破り何かが現れた。白い骨ばかりの骸骨がその体をさらす。狐の呼び出した式神だ。式神はゆっくりと一歩を踏み出すが、それとは逆に素早く腕をなぎ払った。

ブゥゥゥンンン!!!

浩平はそれを膝をまげてしゃがみ込んでかわす。
「のろいぜ・・・!」

カキィィーーーン!

浩平は膝を伸ばして、その反動を利用して勢いよく胴をなぎ払う。乾いた音を立てて、式神の胴は真っ二つになった。そして、闇雲にその力を吸われ煙を立てて消えてゆく。
「何!?その剣はまさか!?」
狐が驚きの声を上げて、闇雲を見る。
「次はお前だ・・・」
「これは思わぬ所で思わぬ者と出くわしたな・・・まあいい。ごんごろうよ!あの者をその炎で燃やし尽くせ!」
『わかった・・・』
炎は勢いよく燃え上がり、その囲いを飛び越えて浩平に襲いかかった。
「ふっ!」
炎がなめるように地をはい、浩平に襲いかかる。それを浩平は横にかわした。
「まさか、まとめし者が現れるとは・・・ごんごろうには足止めをしてもらうか」
浩平と炎の戦いを見ながら、狐は気付かれぬようにその場から姿を消した。
「この、炎風情が・・・!」
一方、浩平は苦戦していた。この手の形を成さない妖怪は、斬ることができずに打撃を与えることができないのだ。

ブワァッ!

「くううううっっっ!!!」
炎が焦る浩平を包んだ。地獄の熱さが浩平を襲う。
「ぬああああああっっっ!!!」
『くっ、くっ、くっ、苦しむがいい!我が恨みを思い知るがいい!』
炎に包まれながら、浩平は炎の怨念の声を聞いた。
(こいつ・・・!人間だったのか!?)
そして、浩平の頭に別の響いた。
『・・・心を討て・・・・・・・奴の怨念に埋もれた心を・・・・・・・・・』
それはあの時の声であった。寺の地下で妖怪を倒すために引き抜いた時に聞いた、闇雲の声だ。
『・・・この程度の妖魔に苦しむな・・・・・・お前の敵はこんなものではない・・・』
それきり闇雲の声は途絶えた。
(心を討つ・・・怨念をか!)
浩平は闇雲をしっかりと握った。そして、神経を研ぎ澄ます。炎の念を探す。浩平は感じた、昔処刑され恨みを残したままこの世を去った博打打ちの心を。
(そうか・・・だからお前は・・・だが、罪無き人を巻き添えにするのは許さない・・・・・・・!)
「そこだぁぁぁぁぁぁーーーーーっっっ!!!」
浩平は闇雲を炎の一点に突きを入れた。
『ぐおおおおおおおおおぉぉぉーーーーーーーっっっ!!!!!!!!』
断末魔と共に、炎がかき消えた。浩平は火傷を負いながらも、辺りを見回す。すでに狐はいない。浩平はよろめきながら歩き出した。
「人の怨念か・・・」
心の歪みは、時として死者の魂を妖魔へと変える。浩平はそれをまざまざと実感した。


「うわー、浩平ひどい火傷だよ!早く手当てしないと!」
浩平の火傷を見るなり、瑞佳はそう言って駆け寄ってきた。
「いって〜!あんまり触るなよ!」
「ほら〜、じっとして!」
強引に傷の手当てをされる浩平、嫌々ながらもそれに従った。彼らは村の者に多大な感謝を受けた。数十年前、この村のある博打打ちが村の掟に逆らい処刑された。罪自体は大したことないが、それを日頃行いが悪い博打打ちの処分に利用されたのだ。その恨みが現世に現れたという。あの狐はそのごんごろう火の出現と共に現れたらしい。そして、生贄を求め、それに従わないと水害を起こしたのだ。
「ねえ、結局何があったの?」
「お前はぐうぐう寝てたからな」
「人の事言えないよ」
「肝心な時に寝るなよ」
「浩平は普段も肝心な時も寝てるよ」
「何ぃーーーーーっ!」
「何よーーーーっ!」
「ふかーーーーーーっっっ!!!」
「ふーーーーーーーっっっ!!!」
『喧嘩はだめなの!』
二人の喧嘩は日常のように続いた・・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
ふ〜、今回は長め。ちょっと疲れぎみ。
ちびみずか「よむのつかれるよ〜」」
む〜、たしかに。でも分けるには短いからね。
ちびみずか「ねえ」
ん?
ちびみずか「てつやっ、てつかれる?」
ああ・・・俺は夜によわいからな。つらいぞ・・・だからチャットにもほとんど参加できないんだ。
ちびみずか「わたしもねるのはやいよ」
お子様だからね(^^)
ちびみずか「む〜」
でも、今のうちに書き溜めなければ(^^;さて・・・そろそろ解説の方にいかなきゃな。それでは!
ちびみずか「さよなら〜〜〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第十二幕「死神の舞う夜」


解説

ごんごろう火・・・本編の炎を指す。話をもとに書いたので、実際はどんなことをしたかは知らない。資料によると、越後本成寺には、五十野(ごんじゅうな)の権五郎という博徒が、殺された遺念といってこの名の燃える場所があるらしい。今では(三十年以上前)付近の農家ではこれを雨の兆しとして、これを見ると急いで稲架(はさ)を取り込むという。参考資料柳國邦男「妖怪談義」

狐・・・人狐をさす。本編では、今後も出る予定。こいつがごんごろう火を現世に呼び出し。何かをたくらんでいるようだが、一体?

式神・・・式神自体は有名だが、本編に登場した骸骨はオリジナル。今後もいくつかの式神が出る予定。陰陽術の一種。