ONE総里見八猫伝大蛇の章 第九幕 投稿者: ニュー偽善者R
第九幕「かまいたちの刃 中編」


かまいたちと交流をもつ少女、繭と出会った浩平。しかし、繭の命を奪いに来たかまいたちによって浩平は傷を負った。


「起きてよぉ・・・、浩平・・・」
血まみれの浩平の体を抱く瑞佳の顔は、すでに涙でくしゃくしゃになっている。その瑞佳にこの場に残ったかまいたちの一匹、繭がみゅーと呼んでいるかまいたちが話しかけた。
『娘さん、お取り込みの所悪いが、その人を繭の家の中に運んでくれないか?薬をつけなければ』
薬と聞いて、瑞佳ははっとして顔を上げた。
「浩平は助かるの!?」
『ああ、処置が早ければ』
瑞佳はかまいたちの言葉を聞いて、すぐに浩平を繭の家の中へと運びこんだ。
「何かあったのですか・・・!?きゃあっ!」
『繭の母親か』
「い、いたちが喋った・・・」
騒ぎで起きた華穂は、血まみれの浩平を見て驚愕する。さらに後ろからかまいたちが現れて、言葉を発したものだから気絶をしてしまった。
『怖がらせたら駄目なの』
そこに澪が現れた。かまいたちは思ってもいなかった同族の登場に目をむいた。
『座敷童?これはめずらしい』
「そんなことよりも浩平の手当てを!」
瑞佳の声にかまいたちは我に返った。
『それでは始めよう』
かまいたちは腰に下げた壺に前足を突っ込み、そこから深緑色の流動体を取り出した。それを座敷に寝かせた浩平の背中の傷に塗り付けた。
「これで大丈夫なの?」
『小僧の体力がもてばな』
皆が浩平を見守る中、薬の効果は現れ始めた。水が蒸発するように傷口から煙は発し、みるみるうちに出血が止まり、それどころか傷口が収まり始める。
「う・・・」
浩平がうめいた。それに反応して瑞佳が呼びかけた。
「浩平!浩平!大丈夫!?」
だが、それに答える浩平の答えはいまいちずれていた。
「あ・・・?瑞佳?俺は一体・・・?」
「浩平!」
瑞佳は浩平が無事なのを確認して、たまらず抱きついた。
「お、おい・・・瑞佳」
「もう危ないことしないって、言ったじゃない!」
「・・・」
「もう知らないよ!」
「ごめん・・・」
浩平は瑞佳の体を抱いたまま、体を起こした。そして、瑞佳の体を離すとかまいたちに向き合う。
「お前が繭の言っていたみゅーだな」
『その呼びはやめろ。凪と呼べ』
どうやら繭は特別らしい。
「お前やあのかまいたちとはどういう関係なんだ?」
『・・・・・』
しばらく黙っていた凪だが、ぽつりとつぶやいた。
『二人にあそこまでもったんだ・・・お前にならできるかもな』
そして決意したかのように口を開いた
『お前に頼みがある』
「何だ?」
『あの二匹のかまいたちを殺して欲しい』
「!?」
同族を殺すのを頼む妖怪等聞いたことがない。周りの者は一同驚いた。
『あの二匹はわたしの兄と姉なのだ兄の流が転ばし、次に姉の吹が鎌で切る。最後にわたしが薬をつけて、縄張りを侵した人間のみをおどかして過ごしていた。しかし、最近彼らが突然変わったのだ。昔は人を傷つけるのを嫌っていたのに、好んで人を殺めるようになってしまった。それも理由がわからんのだ。性格は狂暴になり、鎌の鋭さも増している』
「お前はどうなんだ?」
『わたしは前と変わらない』
浩平は思い当たることがあった。自分が妖怪に出くわすことが多いのも、何か関係している気がする。由起子の話していた大妖の復活とつながっているのかもしれない。
『頼む!彼らは血の味を知ってしまったのだ!わたしでは止められない!このまま彼らに人を斬って欲しくないのだ!』
凪の真剣さは浩平にしっかりと伝わっていた。浩平は闇雲を取り、立ち上がった。
「浩平?」
浩平の行動に、瑞佳が不思議がる。
「凪・・・お前は間違っている。俺はあいつらを殺したりしない」
『そうか・・・駄目か』
凪は落胆して頭を落とした。しかし、浩平の言葉は続く。
「何ぼやっとしてんだ。早くあいつらの所に案内しろ」
「えっ?浩平断ったんじゃ・・・」
「俺は殺さない。代わりに救いにいくんだ」
『ふん・・・まあ、いいか』
そう言って凪は浩平の肩に飛び乗った。
「お、おい」
『早くいけ』
「ちっ、仕方ねえな」
「浩平」
戸口に向かった浩平に瑞佳が声をかける。その声に浩平は足を止めた。しかし、振り向きはしない。
「・・・次は負けちゃ駄目だよ!」
「もちろん」
浩平は振り返って笑顔を見せた。
「みゅーも戻ってきてね」
これは繭だ。こうして浩平とかまいたちの凪という、不思議な組み合わせは戦いに向かった・・・・・・。


「なあ、まだか?」
『静かに、そろそろ近い』
浩平の肩に乗った凪は声を潜める。彼らは凪の案内で山奥へと入っていた。月はすでに傾き始め、夜明けが近い。
『しかし、お前も物好きだな』
「何で?」
『一度やられた相手に殺されにいくんだぞ?』
「やられねえさ」
浩平はにやりと笑って答えた。
「俺にはこれがついてる」
浩平は鞘に収まった闇雲を握りしめた。


(兄さん・・・流兄さん・・・)
(何だ?吹)
(人間の匂いよ、それに凪の匂いも・・・)
(本気のようだな・・・)
(どうするの?)
(行くぞ!)
ズササササササササササッッッ!!!
林の中を二つの影が動き出した・・・・・・。


キイィィーーーン・・・・
「来た・・・!」
浩平はかまいたちの接近を悟った。そして、闇雲を引き抜く。
「凪!降りろ!」
浩平がそう言った瞬間。
シュッ!・・・ガキィン!
闇の中から空を切り裂き、何かがよぎる。それをすでに動き出していた浩平は剣の横腹で受け止めた。
『小僧・・・!性懲りもなく!』
「てめえは兄貴の方だな・・・・・」
浩平と流は剣と鎌で互いに組み合う。
『兄さん!話し合おう!だからこれ以上人を殺さないでくれ!』
しかし、凪の願いは打ち砕かれる。
『甘いわよ!凪!』
『上!?』
凪が見上げると、吹が鎌をきらめかせ急降下してきた。
『やめろ!姉さん』
キィン!
鎌と鎌がぶつかり合う。凪の目は悲しみに染まるが、吹には殺気すら漂っていた。
「兄弟喧嘩するならよぉ・・・人に迷惑かけるな!」
『ぬっ!?』
浩平は刃を弾き、間合いを取る。そこに雄たけびを上げ突っ込んだ。
「うおおおおおおおおあああああああっっっ!!!!!!」
シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッッッ!!!!!!
浩平は目にも止まらぬ速度で斬撃を繰り出す。その速さはこれまでの比ではない。
(こ、こいつ・・・!前よりも強い!?)
パキィィィンンン!!!
かろうじて受け流す流だが、ついに浩平の一撃が流の鎌を打ち割った。
『な、何!?』
「何が不満かは知らないが・・・人を殺すのは止めろ・・・人間だって、お前等をむやみ嫌ってるわけじゃないんだ」
『黙れ!』
流は一瞬の隙を突いて、飛びすさった。
『兄さん!?』
それに吹も続く。
流はこの場を逃げ出そうとしていた。
「待て!」
浩平はそれを追うと、駆け出す。次に流は信じられない行動に移った。
『吹、先に待っていろ・・・』
『えっ?』
流は後ろを併走する吹の首を掴んだ。そして、力任せに浩平に投げつける。
「!?」
グサッ!
浩平は迎え撃とうとしていなかった。しかし、破邪刀としての本能か、闇雲の刀身が浩平を守るように前へと向かい、その刃先に吹の首もとが突き刺さる。
『・・・に、兄さん』
吹は見開いた目を痙攣させながら、つぶやく。そして、その頭ががっくりと崩れた。
「あ、あああ・・・・・・・」
刀身を伝わって流れる血。浩平の手は震えていた。浩平の心には自我しかない。
『兄さん!何故だ!?何故こんなことを!?』
『お前にはわからるまい!凪!俺はこれから人間共の市に行くぞ!そこでたくさんの首を斬ってくる!』
流はそう言って走り去った。残された浩平と凪は呆然としていた。
「なぜだ・・・何故こんなことができる?」
浩平の声は乾いている。
『うう・・・吹姉さん・・・』
凪は泣いていた。血まみれになった吹の亡骸に身を寄せて。しかし、その亡骸も少しすると、かき消えるようにして消滅した。
「凪・・・すまん・・・」
『いい・・・これがわたしの望みだからな・・・』
凪の声は震えていた。一方、浩平は初めて妖怪を斬ったことに後悔していた。
(何故、妖怪を殺さねばならないんだ・・・・・?)
その問いに答える者は誰もいない・・・・・・・。




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〜なぜなにONE!〜
ちびみずか「え〜ん、かわいそうだね〜!」
ああ、まれに見る感動シーンだ!でも、古典的(^^;もう一工夫欲しかったな。
ちびみずか「でもひどいよね!あのおっきいかまいたちさん!」
うーん・・・そうとも限らない。
ちびみずか「なんで?あんなわるいやつなのに?」
まあ、そこは次回のお楽しみってとこかな
ちびみずか「む〜」
それでは!次回かまいたち編最終回!
ちびみずか「おたのしみに〜!」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第十幕「かまいたちの刃 後編」ご期待下さい!

解説

かまいたち・その2・・・今回はない!と言いたいところだが、ミニ知識。現代でもたまに起こるかまいたち現象。あれは本当に真空なのだろうか?実は、大きな謎がある。真空状態だと血が出ないのは証明できるらしい。しかし、その後の傷の治りが異常なのである。体験者の話によると、裂けた傷はすぐにふさがるのだが、そしてその傷あとは消えないらしい。しかも、通常の切り傷よりもはるかにくっきりとしているのだ。あなたは妖怪の仕業だと思いますか?