ONE総里見八猫伝大蛇の章 第八幕 投稿者: ニュー偽善者R
第八幕「かまいたちの刃 前編」


ズササササササササッッッ!!!
闇夜に林の中を駆け抜ける音。
「?」
帰り道を急ぐ狩人がその音に気付き、後ろを振り向いた。だが、その表情は一瞬で恐怖で凍りついた。
ヒュッ!
空を切り裂き何かが振りおろされた。そして、黒い影が闇に消えた。残されたのは血まみれで倒れる狩人だけであった・・・・・・。


浩平、瑞佳、澪の三人は岩代の山中に入り山道を歩いていた。ここを抜ければ岩代の中心部に入り、市が見えてくる。久々に旅の人の多い所に来るので、彼らの足取りは軽かった。
「もうすぐ町だね」
「ああ、久しぶりにゆっくりするか」
『おいしいものたべるの!』
うえぇぇぇ〜〜〜ん・・・・・!
楽しげに会話をしていると瑞佳は、道横の林の中から泣き声のようなものを聞こえた。
「ねえ、何か聞こえない?」
「ん?何も聞こえないぞ」
うえぇぇぇ〜〜〜ん・・・・・!
「ほら!林の方からだよ!行ってみようよ!」
「やめようぜ、妖怪だったらどうするんだよ・・・」
「それだったらなおさらだよ。それに昼間から妖怪なんてでないよ」
(ここにいるんだけどな〜)
浩平は澪のことを考えたが、あえて反抗しない。どうせ瑞佳のことだ。ほっといても声の方に行ってしまうだろう。
「わーったよ。ついてくよ」
「ありがとう」
(またやっかいごとに巻き込まれるんだろうな・・・)
浩平の予想は的中することになる。
うえぇぇぇ〜〜〜んんん!!!
声の主は薄暗い林の中ですぐにわかった。その大きな泣き声で導かれたのだ。
「どうしたの?」
林の中に一人の少女がしゃがみこんでいた。浩平の見た感じでは澪と同じぐらい、もしくはさらに年下といったところか。
「ひっく、ひっく!」
少女はしゃくり上げるばかりで何も答えない。
「ほら、誰もいじめたりしないから」
瑞佳の優しい声に、少女は顔を上げた。
「名前は?」
「繭・・・」
鼻をすすりながら少女は、かぼそい声で名を言った。
「まゆ・・・いい名前だね」
瑞佳は屈託のない笑顔を見せる。その表情に繭は警戒心は解けたらしい。
「こんな所で何をしてたの?」
瑞佳が問うと、繭の目にまたも涙が浮かび始めた。
「う・・・うっ、みゅ〜が・・・みゅ〜がいないの・・・」
「みゅ〜?」
繭が泣きそうなのを見て澪が繭に走り寄った。
『泣いたら駄目なの』
澪の思念が響くと、繭は驚いて顔を向けた。そこに浩平は話しかけた。
「なあ、何か困ったことがあるなら話してみな」
浩平は自分で言いながらしまった、と思っていた。結局自分で難儀を背負っているのだ。浩平の心中を知ってか、知らずか、繭は今にも泣きそうな表情で口を開いた。
「みゅ〜を・・・みゅ〜を探してほしいの」
浩平達は話を詳しく聞くことにした。


「つまり・・・そのみゅ〜とかいう、いたちがいなくなったわけだ」
「うん」
繭の説明はどこか大雑把で、内容を掴みにくかったが何とか概要は掴めた。繭は森に友達がいるらしい。それは人間ではなくいたちのような動物で、繭はみゅ〜と呼んでいた。
「それを探してくれと・・・」
「うん」
繭の話によると、みゅ〜はここ数日の間姿を見せてくれないらしい。それだけなら大したことではない。問題はみゅ〜は喋れるということだった。つまり、ただのいたちではない。おそらく妖怪であろう。そこが浩平の首を素直に縦に振らせなかった。だが、浩平の葛藤も瑞佳と澪によって払いのけられた。
「悩むことなんてないよ、浩平。困ってる子がいるんだから、助けてあげなきゃ」
『助けるのなの』
「きっと、繭にはとても大切な友達なんだよ。妖怪だからって関係ないよ」
瑞佳の言葉に浩平は決心した。
「よーし、わかった!探してやる!繭、感謝すれよ!」
そう言ってぐしぐしと、繭の頭を撫でる浩平。繭はなぜかうれしそうに、
「みゅー!」
と言った。


「そっちいたかー!?」
「ううーん!いなーい!」
林の中を手分けをして探す浩平と瑞佳。澪と繭は迷うと危ないので、林の外で二人で遊ばせている。浩平達は必死になって探すもなかなか見つからない。そうこうしている内に、日が暮れてきた。
「もう暗くてわからないな・・・」
「一旦戻ろうよ。繭を家に送らなきゃいけないし」
「そうだな」
寄ってきた瑞佳の提案に浩平はうなずいた。
「繭ー、そろそろ戻るぞー!」
浩平は澪と追い駆けっこをする繭に呼びかけた。その声に繭は振り向く。
「ほえ?」
「ほえ、じゃない。今日はもう暗いからな、また明日だ」
「いや」
繭は拒否の姿勢を崩さない。困った浩平に、瑞佳が諭しに入った。
「ねえ、繭。もう夜だからみゅ〜はきっとご飯を食べに帰ったんだよ。繭もお腹空いたでしょ?」
「うん・・・」
「それにあんまり遅くなると、お母さんが心配するよ」
「・・・」
お母さんと聞いて、繭の表情は複雑なものになった。それでも瑞佳の説得は通じ、繭は家に帰ることにした。
「どうせなら泊めてくれるといいんだけどな」
「厚かましい事考えちゃ、駄目だよ」
繭の家はふもとの村にあった。繭の案内で家の前まで来た浩平達だが、どうも繭は先ほどから落ち着きがない。
「う〜・・・」
「どうしたの?繭」
問いかける瑞佳だが、繭はうつむくばかり。かと言って、いつまでも家の前にいるわけにもいかず、浩平は戸口を叩く。
「すいませーん」
「はい?」
中からは母親にしては若い、かなりの美人が現れた。ついその美しさに見とれる浩平。
「あの、どちらさまでしょうか?」
「浩平!」
「あっ、い、いや、旅の者なんですが、娘さんを送り届けに来たんですが・・・」
「これは、これは!わざわざお坊様の手をわずらわせるとは、とにかく中にお入り下さい。繭、お礼を言うのよ」
だが、繭は瑞佳の腰にしがみつきう〜、とうなるばかり。浩平は困った顔をして頭をかいた。


繭の母親の誘いで、浩平達は中に入ることにした。だが、繭は囲炉裏を囲むこともせず、奥の部屋に閉じこもってしまった。浩平は繭の林での出会いと、繭のことについて聞いてみた。繭の母親は、華穂と名乗り、浩平達の質問にゆっくりと答えた。
「あの娘は、繭はわたしの娘じゃないんです」
浩平はそれには別に驚きもしなかった。華穂は繭を産んだにしては若すぎる。
「あの娘の本当の母親は、妖怪に殺されたんです・・・」
「妖怪?」
「本当に妖怪かどうかは分りません。見たのは行商に行っている夫だけですから、でも繭は殺された直後の母親の亡骸を見たんです。切り裂かれて、血まみれになった・・・・・」
「そんな・・・ひどい」
瑞佳は自分のことのように、顔を青ざめる。
「それ以来です。繭が心を閉ざすようになったのは。わたしだけでなく、他の人間にも打ち解けません。あなたがたぐらいですよ、繭がなつくのは」
(何で澪といい、変わった奴になつかれるんだろう?)
そんなことを考える浩平だが、現実に戻ってもう一つ質問した。
「繭の友達だという、妖怪は一体何です?」
「さあ、実際に見たことはないです。繭には危ないからあそこには行ってはいけないと言っているんですが・・・」
それからしばしの沈黙が流れた。それを打ち壊すかのように、華穂が声を上げた。
「もう暗いですし、今日はここにお泊まり下さい。繭もその方が喜びます」
その提案を断る者は誰もいなかった。


その夜。浩平達が泊まることに繭は大喜びだった。華穂に豪華に鍋をご馳走になり、浩平達も満足していた。そして、夜がふけるまで繭の相手をしてやり、先ほど疲れきった一同は眠りに入った。だが、彼らに襲いかかる魔の手が近づいていた。

ズサササササササササッッッ!!!
(待ってくれ!あの娘には手を出さないでくれ!)
ズサササササササササッッッ!!!
(黙れ、凪!貴様の甘い考えは人間と交わるせいだ!)
ズサササササササササッッッ!!!
(そうよ凪!流兄さんの言う通りよ!)
ズサササササササササッッッ!!!
(流兄さんも、吹姉さんも一体どうしたんだ!?)
ズサササササササササッッッ!!!
二匹の影が闇を走り、それを追うようにして一匹が走る。彼らの向かう先には繭の家だった。


キィィィーーーン・・・
「!?」
枕元に置かれた闇雲が鳴き始めた。浩平は目を覚ますと、それを掴み外に飛び出した。
「何か来る!」
浩平は山の方向を見つめた。
「どうしたの・・・?浩平」
浩平の様子に気付いた瑞佳が外を覗いてきた。
「家に入っていろ!」
浩平は緊張していた。これから来る妖怪は並大抵のものではない。そして、それは来た。夜の風となり、つむじ風を巻きたてながら。
ズサササササササササッッッ!!!
「来たか!」
二匹の白い獣が浩平の目の前に現れた。普通のいたちよりも一回り大きい体。その白い毛は月光に光り、その瞳は殺気にみなぎっている。かまいたちだ。
『坊主がここで何をしている・・・?』
二匹の内、大きい方が語りかけてきた。
「それはこっちの言葉だ。妖怪が何のようだ?」
『その内の娘の命を奪いに来た』
「ふん、事情はわからんがそんなことをさせるわけにはいかない!」
浩平は闇雲を引き抜いた。刀身が月光を反射し、白々と光る。
『ただの人間ではないな・・・しかし!邪魔をする者は殺す!』
二匹のかまいたちは腕を鋭い鎌へと変え、浩平に斬り掛かった。
ズザザザザザッッッ!!!
キシィン!
(速い!?)
正面から来たかまいたちの鎌を何とか受けるも、後ろからもう一匹が回り込む。
『死んでもらうわ!』
「くぅ・・・!」
浩平は力任せに正面のかまいたちを振り切り、後ろに対応する。
ガツン!
二匹のかまいたちは、攻撃を受け止められたのを見て一旦離れ、今度は浩平の周りを駆け始める。
ズザザザザザザザザザザザッッッ!!!
二匹の動きはつむじ風を起こし、辺りに烈風が舞う。そして、二匹のあまりの速さに浩平はとらえ切れなかった。
「ど、どこだ・・・!」
シュウッ!
いくつもの残像から、一匹の鎌が繰り出された。横合いからの攻撃に浩平は対応しきれない。
シュパッ!
「うっ!」
右腕をかすめる刃、鮮血が飛び散る。そして、
『死ね!』
ザシュッ!
完全な死角、真後ろから鎌が振りおろされた。
「うあああああああっっっ!!!」
背中をざっくりと斬られ、浩平は崩れ落ちる。
『とどめを刺そうよ、兄さん』
『ああ』
二匹は動きを止め、浩平に向かって鎌を振り上げた。
『待て!待つんだ!』
『む!?凪か!』
そこにもう一匹のかまいたちが立ちふさがった。二匹とは違い、腰には壺を下げている。
『どけぇい!凪!』
『嫌だ!何でこんなことをするんだ!昔は人間を切ることを嫌ってたじゃないか!?』
『どきなさい!凪』
三匹の口論は続く、そこに騒ぎで起こされた繭が外を覗いた。
「ほえ?」
「あっ!駄目だよ繭!」
だが、繭の視線は止めることはできない。そして。繭がその光景を見て叫んだ。
「みゅー!みゅー!」
「え?」
繭は瑞佳の腕を振り切り、外に飛び出した。
『繭!?来ちゃ駄目だ!』
『ちょうどいい、向こうからやってくるとはな。凪、見ていろ。今ここで、あの娘を斬ってやる!』
かまいたちの一匹は繭に向かって鎌を振り上げた。
『やめろ!』
キィーン!
『凪!貴様!』
走り寄る繭に、鎌が振りおろされたが、もう一方のかまいたちの鎌でそれは防がれていた。
『この娘には手を出させない!』
『我らを裏切るつもりか・・・!よかろう・・・今日はひいてやる。しかし、次に会った時は貴様も・・・斬る!』
ズササササササササササササッッッ!!!
そう言い残し、二匹のかまいたちは走り去った。そして、残った一匹に繭が飛びついた。
「みゅー!」
『繭、久しぶりだな』
「みゅー!みゅー!」
自分と同じ大きさのかまいたちの毛皮に、顔をうずめる繭。その顔は歓喜に溢れていた。
『繭。今はそれどころじゃない。あの人を助けねば』
「浩平!」
家から瑞佳が浩平に走り寄った。浩平はうつべせに倒れ、辺りは血の海と化している。
「ああ・・・浩平・・・目を開けてよ!ねえ!」
瑞佳は自分が血まみれになるのも構わず浩平の体を抱きかかえる。浩平はぴくりとも動かず、目を開けない。
「浩平ーーーーーーーーっっっ!!!」
夜の闇に瑞佳の叫びがこだました・・・・・・・・・・。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@
なぜなにONE猫!
ふー、まさかタイトル間違えるとは(^^;まねき猫さんの指摘がなければ大変なことになってたな。まねき猫さんありがとうー!
ちびみずか「さらにさくひんの矛盾もばれてるしね」
むむっ!漢字を使えるようになったな、ちびみずか!FCに入ったことだし祝福しよう!わー、パチパチ・・・
ちびみずか「素直によろこべないんだけど・・・」
まあ、気にするな。とりあえずかまいたち編に入ったわけだけど・・・
ちびみずか「パクリだね」
その通り!その気はなくてもなぜかうしとら・・・(^^;
ちびみずか「力がないんだよ」
ごもっともで・・・さて、次回もこれの続きということで・・・それでは!
ちびみずか「さよなら〜!」

次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第九幕「かまいたちの刃 中編」ご期待下さい!


解説

かまいたち-その一・・・現代でも起きる現象。突然皮膚が切れるが、血が出ないという現象。真空状態だと、科学的には言われているが、謎なことも多い。昔は三匹の鎌を持ったいたちのようなものが、最初の一匹が人を転ばし、二匹目が鎌で切る。そして、三匹目が薬をつけるので血がでないと言われていた。本編では三匹全員が鎌を持つ。もちろんうしとらから影響受けているが、人間には変化しない。