ONE総里見八猫伝大蛇の章 第八幕 投稿者: ニュー偽善者R
第七幕「狐払い」

地蔵通りを抜け浩平達は四つ目の国、岩代に入っていた。だいぶ旅にも慣れ、浩平は闇雲の扱いにも慣れてきていた。


『ちょうちょなの!』
水田沿いの道を歩いていると、澪が蝶を見つけ追いかける。浩平と瑞佳にはそれがほほ笑ましく見えた。
「なんか春って、感じだな」
「そうだね。澪ちゃんと一緒だと余計そう感じるよ」
「さすが座敷童だな」
澪を見てほほ笑む浩平に、瑞佳は今まで気になっていたことを聞いた。
「ねえ浩平・・・」
「ん?」
「旅に出たこと後悔してる?」
浩平はその問いに沈黙した。浩平は今までの旅で何かを感じていた。まさに運命のように妖怪と出くわすのだ。自分が選ばれたことは認めざるをえない。それが浩平には癪に触るのだ。しかし瑞佳の表情にかげりが見えたのでこう答えた。
「ま、あの田舎寺で修業するよりはましかな」
「もう、今だって修業の一環だよ」
浩平が冗談めかして答えたので、瑞佳も笑って答えた。


しばらく歩き、陽が一番高く登った時刻、つまり正午に彼らはとある村に入った。
「檜夜(とや)婆さんの所に坊さんが来たらしい!」
「狐を払うのか?」
通りを急いでどこかに向かう村人の会話を聞いた。
「お坊さん?浩平のことかな?」
「まさか。でも、また妖怪退治をさせられるんじゃないだろうな」
「とりあえずいってみようよ」
一行は村人達が走っていった方向に向かった。すると、粗末な民家に一杯の人が集まっていた。人々はがやがやと騒ぎ合っている。浩平はその中の一人に話しかけてみた。
「すいません。何かあったんですか?」
「お?あんたも坊さんかい。実はな、ここの櫓夜婆さんが狐に取りつかれてんだが、旅の坊さんがそれを払うっていうんだ。でも、俺たちは邪魔だから閉め出されちまった」
「なるほど」
浩平は話を聞いている内に興味が湧いてきた。どうにかして中の様子を見たくなってしまったのだ。
「浩平、わくわくしてるでしょ」
「わかるか?」
浩平がにやりと笑って答えた。浩平は辺りを見回し、どこかのぞけるところがないか探す。そして、裏の窓を見つけた。浩平は窓の縁を掴み体を持ち上げ、中をのぞき込んだ。
「浩平〜、見つかっちゃうよ〜」
瑞佳の声は無視して、浩平は様子を観察した。布団に寝込んだ老婆と、その脇に浩平と同じような黒い袈裟を着込んだ少年が座っている。浩平と同じく剃髪はしていない。周りには家族だろうか、中年の夫婦もいる。
『わたしも見るの』
「ぐあっ!」
澪の思念が頭に響くと、浩平に重圧がかかった。澪が首に抱きついてきたのだ。
「お、重い・・・」
たまらず声を上げる浩平だが、その声に少年は浩平の存在に気づいた。
(やべ・・・)
しかし、浩平をとがめることもなく、それどころか少年はにこっ、とほほ笑み、再び老婆に向かい合った。
(何だ、あいつ・・・?)
少年は目をつぶり何かつぶやき始めた。次に、懐から数珠を取り出し、それを老婆の上で振る。すると、老婆は苦しみの声を上げた。だが、少年は構わずに除霊を続ける。
キィィィーーーン・・・
「何?」
闇雲が鳴り始めた。つまり妖怪が近くに存在するのだ。ずっと、何かをつぶやいていた少年だが突然目を開くと、数珠を老婆の上でぴたっと止めた。
「うがああああぁぁぁーーーっっっ!!!」
老婆はついに苦悶の声を上げた。いや、すでに老婆の声ではない。そして、老婆の左肩から煙のようなものが吹き出し、それは少年の数珠に吸い込まれていった。老婆は痙攣もおさまり、安らかに眠り始めた。
「終わりました」
少年が短く言うと、かたわらに置いた錫杖と編みがさを取り立ち上がった。
「あのお礼は・・・」
「いりませんよ」
少年はさわやかな笑みを残して戸口に向かう。扉が開かれると、村人のどよめきが起こった。浩平は中をのぞくのをやめ、地に降り立つ。
「どうだった?」
「あいつを追うぞ!」
「あいつ、って?」
瑞佳の言葉を無視して浩平は少年を追った。少年は村人達が引き留めるのを聞かず、早足で立ち去る。浩平はそれを呼び止めた。
「待て!」
少年は浩平を一瞥すると、短くついてこいと言った。浩平はそれに答えず後に続く。
「浩平!あの人がどうかしたの?」
後ろから瑞佳と澪が追いつく。
「あいつ・・・何か気になる」
浩平はそうとしか答えれなかった。理由はわからない。ただ、少年の存在に何かひかれるものがあった。そうこうしているうちに、少年は村を出て人気のない道に出た。すると少年は足を止め、浩平と向き合う。
「用はなんだい?」
「お前・・・何者だ?」
「いきなりそれかい?せっかちだね、まとめし者なのに」
「何!?」
少年の言葉を聞いて、浩平は驚いた。少年は自分のことを知っている、浩平は直感した。
「この剣のことを知ってるのか?」
「もちろん。そして君の使命もね」
少年が味方か敵かどうか、わからないが浩平は身構えた。
「警戒してるようだね」
少年の声は笑っているようだった。
「ちょうどいい・・・力を試させてもらうよ」
少年は編みがさを取り、投げ捨てる。そして、錫杖を前に突き立てた。浩平には錫杖がかすかに震えているのがわかった。そして、自らの闇雲も。
「き、共鳴しているのか!?」
「いくよ」
少年が錫杖を両手で握った一瞬、青白い炎が少年を包んだように浩平は見えた。だが、それを確認する間も与えずに少年が飛びかかってきた。その速さは人間のものではない。
キィーン!
金属同士がぶつかる音。浩平は闇雲を抜き、いや、闇雲が浩平に剣を抜かせたと言った方がいい。浩平は無意識に動き、なんとか少年の攻撃を受け止めていた。
「てめえ・・・化けの皮をはいでやる!」
浩平は組み合った状態から、少年の腹に蹴りを入れ間合いを取る。だが、続く少年の動きは速い。
ビュッ!ビュッ!ビュ!
再び間合いを詰め、踏み込んだ状態から空を切り無数の突きが繰り出された。浩平は体勢を整えることもできずにいくつもの残像で、斬撃を止めることができない。
ドカカカカ!!!
「ぐはぁっ!」
肩、胸、腹、顔面と少年の錫杖が浩平を確実にとらえる。たまらず浩平は後ろに吹き飛んだ。
「この程度かい・・・」
失望したように少年が言うと、膝を曲げ跳躍した。その高さは尋常ではない。
「くそ・・・!」
それをよろめきながら立ち上がり、浩平は見上げる。そして、同じく膝を曲げ飛んだ。
「なめるなぁぁぁーーーーーーっっっ!!!」
「何!?」
浩平は少年よりもさらに高く飛んだ。驚きの表情を見せる少年、浩平はそれを見てにやりと笑うと闇雲を振りおろした。
「くっ!」
ガキィィィ!!!
少年はそれを錫杖で受け止める。そして、重力と剣圧に押されものすごい速度で落下した。
ガツ!
少年は錫杖を地面に突き立て、それをばねに後ろへ飛び着地した。
「く・・・やるな」
対する浩平は全身全霊の一撃を防がれ、焦りの表情を見せた。
(まずい・・・強い)
浩平の背中を嫌な汗が流れた。しかし、事態は意外な展開に流れた。
「なかなかやるね、これだったらその剣を任せてもよさそうだ」
少年は笑顔でそう言った。殺気を感じず、戦う意志も見えない。浩平は拍子抜けした。
「一体・・・何者なんだ?」
「いきなり襲いかかって悪かったよ。僕は君の力を試したかったんだ。闇雲を受け継ぐ者としてふさわしいかね」
それに瑞佳が気づいて叫んだ。
「あっ!あなたは駄世門宗の人ですね!?」
「そういうこと」
「何ぃーーーっ!?」
浩平はこの時点でやっと気がついた。
「だ、騙された・・・」
「騙すつもりはなかったんだよ。ただ、本気で戦って欲しかったんだ」
「で、寺のもんが俺に何の用だ?」
「今の所はこれだけさ。それに君と会ったのも偶然だしね」
少年は妖怪退治をしながら修業をしていた所に、偶然浩平と村で出会ったのだ。多分、総本山から浩平と出会ったら、その力を試すように言われていたのだろう。だが、一つ納得のいかないことがあった。
「なあ、その錫杖は一体?」
闇雲と互角以上に戦った錫杖だ。そして、先ほどの共鳴も気になる。
「・・・古い錫杖さ。呪われたようなものだ」
少年は短くそう言って、編みがさを拾ってそれをかぶる。
「もういくのか」
「うん。でもまた会えるよ」
少年は背を向けて、歩き出した。
「名を聞いてなかったな」
その言葉に少年はくるりと体を回し言った。
「氷上シュンだよ」
「俺は浩平だ」
氷上は再び歩き出す。浩平達が氷上を黙って見送っていると、少し距離が離れた所で氷上が振り向き言った。
「そうそう、忘れてたけどさっきの戦いで、憑物を封じ込めた数珠落としちゃったんだ。そろそろ封印を破るだろうから退治してね!」
それだけ言うと氷上は背を向け走り出した。浩平達に一瞬の沈黙が訪れる。
「待て〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
しかし、現実とは非常なもので、道沿いの草むらから煙とともに噂の妖怪が現れた。
「くそー!あの野郎逃げやがった!」
浩平は鞘に収めた闇雲を再び抜いた。その時には妖怪は形をなしていた。煙状の白いものが人のような形をなしている。くだしょうだ。
「・・・はあっ!」
浩平は氷上に対する怒りに任せて斬り掛かった。しかし、その斬撃は実態のない煙をとらえることができない。
「く・・・」
動きを止めた浩平に、くだしょうがまとわりつく。煙は浩平の四肢を締めつけ、さらに首も絞める。浩平は動くことができずに苦しみの声を上げた。
「うあああ・・・・」
「浩平!」
『危ないのなの!』
瑞佳と澪は浩平の窮地に慌てふためいた。瑞佳は何とか浩平を助けることができないか、方法を模索する。
(ど、どうしよ〜!浄化の術はお札が貼れなきゃ駄目だし・・・でも、祓いの術なんか使えないよ〜!)
その時、瑞佳に道端に落ちる数珠を目にした。くだしょうを封じた数珠だ。
「こ、こうなったら!」
瑞可は数珠に向かって走る。そして、それを拾うと呪詛の詠唱に入った。瑞佳には祓いの術は知識にあるだけで、実際に使ったことがなかった。しかし、浩平の命を救うにはこれしかない。
「・・・鴛芭戒鹸破天・・・」
瑞佳はただ浩平のことだけを念じていた。ただ一つのこと、浩平を助けたい、と。
「・・・擾叡邪封・・・」
『はやくなの!』
瑞佳が詠唱している間に、すでに浩平の顔色は青くなり、抵抗する動きも弱々しくなっていた。
「祓!」
瑞佳は呪詛の詠唱を終え、数珠を浩平をとりまくくだしょうに投げつけた。成功するかどうかはわからない。それでも方法はこれしかないのだ。
きゅーーーん!
くだしょうに数珠が命中すると、煙からそんな声が響いた。そして、数珠に煙が吸い込まれてゆく。解放された浩平はがっくりと膝をついたが、気力を振り絞り剣を振り上げた。
「これで・・・終わりだ!」
ガツン!
数珠ははじけ飛び、同時にくだしょうも煙が蒸散するかのように消滅した。
「はあ、はあ、はあ・・・助かったぜ」
浩平は闇雲を鞘に納めた。
「浩平!大丈夫!」
ギュ!
「え?」
瑞佳が浩平に飛びついた。突然のことに浩平は体を支え切れず、後ろへと倒れた。
「お、おい、瑞佳・・・」
「もう駄目かと思ったんだよ!心配させないでよー!」
瑞佳の手が浩平の首にきつく回っている。浩平は顔を赤くしながらも、瑞佳の頭を撫でてやった。
「ごめん・・・でも助かった」
「死んだら駄目だよ・・・」
「ああ」
くいくい
浩平は自分の袖を引っ張られることに気づいた。そしてある事実に気づく。
「み、澪!?」
「あっ!」
瑞佳は澪の存在に気づき、咄嗟に浩平から離れた。
「い、いや・・・澪、これはだな!ただ無事を確かめあう儀式で・・・!」
「そ、そうなんだよ!」
おもいっきり動揺する二人、その顔は赤い。
『なんで顔が赤いの?』
「い、いや・・・あ、あはははは・・・」
澪の思念に二人は乾いた笑いでしか答えれなかった・・・・・・・・。



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なぜなにONE猫!
え〜と・・・最初にいっときます。ごめんなさい!ギャグにするつもりじゃなかったんです!ただ、たまにはこんな展開もいいかな〜、と思ってかいたらこんなのになりました(TーT)ラストは俺の趣味(^^;
ちびみずか「えいえんは・・・」
だ〜!それはやめろー!今回は反省してるから!
ちびみずか「つぎはちゃんとかく?」
もちろんです!約束する!
ちびみずか「みるくわっふる」
え?
ちびみずか「みるくわっふるでてをうってあげるよ」
なんで俺が・・・
ちびみずか「えいえんは・・・」
わかりましたー!おごります!おごりますから!
ちびみずか「わーい、やったー!」
うう・・・最近つっこみ茜ちゃんが入ってる。それにしてもミルクワッフルなんかあるのか?
ちびみずか「つくって」


次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第八幕「かまいたちの刃 前編」ご期待下さい!

解説

くだしょう・・・狐瓢の一種。老人にとりつき、たまにぬけだしていたずらをする。時によっては人を殺すこともある。払うことはできるのだが、再びとりつかれることもあるらしい。くだしょうにとりつかれたまま死んだ者は、とりついた部分がいつまでも暖かい。本編では戦闘用に書き直した。参考資料「本当にあった怖い話」(漫画じゃなく、体験談をのせたもの)

祓いの術・・・オリジナル。憑物を払うための初歩の術だが、割と難しい。瑞佳が成功したのは浩平を思うがゆえである。数珠等の触媒が必要。ちなみに術の詠唱は単に漢字並べただけ。

錫杖・・・氷上の持っていた錫杖を指す。氷上は呪われた、と言っているが今後(かなり後)に真相は解けるであろう。闇雲並みの力を発する謎の武器である。名前は別にある。