ONE総里見八猫伝大蛇の章 第六幕 投稿者: ニュー偽善者R
第五幕「鬼の屋敷 後編」


立ち寄ったひなびた村で妖怪退治を請け負った浩平。屋敷の座敷童の澪と接触し、枕返しを倒すも、突然現れた巨大な手により、浩平は意識を失った。


『こうへい!』
(誰だ・・・?)
浩平のぼやけた意識に、誰かの呼び声が聞こえる。
『浩平ったら!』
(もう少し寝かせろよな・・・)
浩平は条件反射的にそんなことを思った。
「起きなさいよ!」
(瑞佳?)
今度ははっきりと聞こえた。浩平はもぞもぞと体を動かそうとするが、突然の鈍い痛みにうめいた。
「うっ・・・」
「大丈夫?」
浩平は目を開いた。
「ここは・・・?」
「危なかったんだよ浩平。嫌な予感がしたから、追いかけたら倒れてるんだもん。もう少しであの妖怪に食べられちゃうところだったんだから」
「そうか・・・」
浩平はやっと理解した。どうやら突然の手に投げ飛ばされ気絶した浩平は、瑞佳に助けられこの民家に運ばれたらしい。生身の体だったので、痛みがひどい。瑞佳が多少治療してくれたようだが。
「あの子は・・・澪はどうした?」
「澪?ああ、あの子のおかげで助かったんだよ。あの子が妖怪を止めてくれたから」
「澪が止めた・・・?」
そこら辺の事情はわからないが、とりあえずは助かったらしい。
「ありがとうな・・・」
「えへへ」
瑞佳の笑顔を見ると、浩平は体を起こそうとした。
「あっ、まだ駄目だよ」
「時がない」
浩平は痛みをこらえながら体を起こそうとした。そして枕元の闇雲を確認して、その柄を掴んだ。手にぴったりとくる感触。闘志が湧いてきた。
「よし!今度はやられねえ!瑞佳頼みがある」
「何?」
「あの屋敷には結界が張ってある。その呪源を探してくれ。それと屋敷の持ち主のことも」
「それがどうしたの?」
「いいから頼んだぞ」
そう言って浩平は外に飛び出した。


相変わらず屋敷の周囲は濃い妖気が漂っている。
「今度こそ・・・」
浩平は意を決して足を踏み入れた。屋敷は相変わらず暗い、しかも浩平が眠っている間に夕暮れを迎えていた。浩平は迷うことなく奥の部屋へと向かう。先ほどの戦闘で破壊された畳や障子が散らばっている。
えぐ、えぐ・・・
泣き声が聞こえる。浩平はその正体はわかっていた。
「澪・・・」
『きちゃだなの!』
頭に響く思念。澪のものだ。
「安心しろ。今度は大丈夫だ」
『だめ!』
浩平が澪の言葉を無視して部屋に足を踏み入れた時、家全体から声が響いてきた。
『性懲りもなくまたきたか・・・小僧、今度は容赦しないぞ!』
ドガアアアッ!!!
壁を突き破り、黒い巨体が現れた。その体は剛毛に覆われ、筋肉が隆々としている。そしてその醜悪な顔の額には、一本の角が突き出ている。鬼だ。
「殺せるもんなら殺してみな・・・」
浩平も闇雲を抜き、戦闘体勢に入る。浩平と鬼はにらみ合う。その間に澪が割って入った。
『二人とも駄目なの!』
『うるさい!守り神様を奪う者は誰一人として逃がさん!』
「二人じゃなくて一人と一匹だろ・・・」
『違うの!この人は・・・』
『殺す!』
澪の制止を聞かず、鬼は浩平に突進してきた。そして爪を光らせ腕を振り上げる。
ブン!・・・ドガシャ!
鬼の振りおろした爪は、床を軽々と打ち壊す。恐るべき力だ。跳躍しそれをかわした浩平は攻撃に移る。闇雲を目の高さに構え、水平にする。
「うおおおおおおおおおっっっ!!!」
浩平はそこから鋭い突きを、何条も繰り出す。
『ぬうっ!』
鬼は腕を組み、防御する。浩平の斬撃は鬼の体を切るが、ぶあつい肉体にはばまれ致命傷には至らない。それでも切り口から鮮血が飛び散る。
『小僧ーーー!』
「ふん・・・」


一方、浩平に調べ物を頼まれた瑞佳は聞き込みをしていた。
「屋敷の持ち主?ああ、役升様か・・・」
「どんな人なんです?」
村人に瑞佳は問い詰める。
「昔はいい人だったよ・・・村の貧しい者にはお恵みをほどこしたりな、でもかわっちまった・・・」
「何があったんです?」
「役升様は子どもができなくてな・・・守り神様が住むようになってからは、それはよう守り神様をかわいがった・・・。普通の人間にゃ見えんが役升様には心を許していたらしい。でも、愛しすぎたんだろうなぁ・・・守り神様が出ていくのが怖くて、結界をしいてしまったんだ」
「結界?」
浩平の口から出た言葉を聞いて、瑞佳は問い返す。
「ああ結界だ。でもそのせいで守り神様は、役升様が金目当てだと思ったんだろう。そのせいで姿をお隠しになったんだ。それ以来役升様の性格は暗くなり、どんどん老け込んだ」
「その持ち主は今どこにいるんですか?」
「死んだわ」
その言葉を聞いた瞬間、瑞佳の心に不安が走った。


『ぐおおおおおおおおおっっっ!!!』
左腕を切り落とされた鬼が、苦しみの声を上げる。
「次でとどめだ・・・」
剣を構える浩平の前に、澪が立ちふさがった。
「どけ・・・」
『駄目なの!』
「・・・?」
先ほどから澪の行動が読めない。ここにいるのが怖いはずなのに、なぜか鬼をかばおうとする。
『この人は人間なの!』
「何・・・?」
『この人は憎しみで姿を変えただけなの!』
『うがああああああああああああっっっ!!!』
しかし、怒りに身を任せた鬼はが突っ込んでくる。浩平は澪を抱きかかえて横に飛んだ。
「一体どういうことだ?」
『この屋敷の主人なの』
「なるほど・・・」
その言葉で浩平は納得した。憎悪を抱き命を落とした者は、その魂は天に召されない。そして、その怨念が肉体ごと鬼へと身をやつすのだ。
「おい、鬼。お前に人の心があるんなら、澪を解放してやれ。結界は俺が壊してやる」
『守り神様は誰にもわたさん!』
鬼は説得を聞かず、浩平に向かってきた。
「所詮、妖怪は妖怪か・・・」
『殺す!殺す!殺す!』
鬼は残った右腕を振り払う。しかし、浩平はすでに跳躍している。そして鬼の眉間めがけ闇雲を突き立てた。
『うごおおおおおおおおおおおおっっっ!!!』
壮絶な断末魔を上げる鬼。その体からは煙が立ち上っている。闇雲が血を吸っているのだ。そして、どんどん消えていく鬼の姿だが、浩平と澪は最後に残ったものを見た。そこには温和そうな老人が立っている。しかし、その姿は半透明で向こうが透けて見える。
『おじいちゃん・・・』
澪の思念が浩平に伝わる。老人に向けたものだろうが。老人はにっこりとほほ笑むと、ゆっくりとその姿を消した。天に召されたのだろう。
「澪・・・」
浩平は名前を呼ぶが、それ以上かける言葉がなかった。澪は泣いていた。
(大切な人だったのか・・・?)
浩平の胸が痛む。
「こうへーい!大丈夫!?」
後ろから瑞佳の声が聞こえてきた。
「瑞佳か・・・」
「屋敷の周りの結界は壊したよ。妖怪は退治したの?」
「ああ・・・」
その時になって瑞佳は澪が泣いているのに気付いた。
「どうしたの?悲しいことがあったの?」
えぐ、えぐ・・・
「ほら、お外にでるんだから、泣いていたらみんなに笑われるよ?」
ひっく、ひっく・・・
「夕日がきれいだから、見にいこ?ね」
澪はこくりとうなずき、瑞佳にしがみついた。
(驚いた・・・妖怪をてなずけるなんて)
浩平は瑞佳の後ろ姿を見てそう思った。


「いやー、ほんとにありがとうございました!これでこの村もまた栄えます!」
村人達は浩平の報告を聞いて満足なようだ。
「これはほんの心づかいですが・・・」
村人は浩平にずっしりとした袋を渡した。金属のかすれる音も聞こえる。
「いいんですか?」
「はい」
「ありがとうございます!」
資金不足の二人にとってはうれしい限りであった。そして、浩平と瑞佳は再び旅立つ。
「妖怪退治って、金になるんだな」
「あんまり調子に乗ってると怪我するよ」
「もうした」
そんなことを言い合いながら歩く二人だが、前方の木陰から誰かが見ているのに気付いた。
「ねえ、浩平。あれって・・・」
「澪だ・・・」
浩平達が気付いたのを知って、澪は姿を表した。
『つれてってなの』
「は?」
『一緒にいくの』
澪は浩平の首に抱きついてきた。
「うわ!?く、苦しいって!」
「あはは、なつかれちゃったねー。浩平」
こうして浩平の旅に新たな仲間が加わることになった・・・・・・・。





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なぜなにONE猫!
あー、戦闘なげー。
ちびみずか「あたらしいなかまだね」
やっぱ、めんどいよなー。100話なんてできるのかな?
ちびみずか「みおちゃんがなかまになるなんて、いがいだね」
ちっ、途中で暴走すっかな・・・
ちびみずか「はなしをきく!」
こつん!
はい・・・
ちびみずか「みおちゃんのとくいわざとかあるの?」
うーん、そのうちわかるだろう・・・
ちびみずか「てきとう・・・」
とりあえず次回をお楽しみにってとこかな。それじゃ、
ちびみずか「さよなら〜!」

次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第六幕「地蔵通り」ご期待下さい!

解説

鬼・・・今回の場合、純粋な鬼ではない。本編中でも語られていたが、元は人間。それでも妖怪に含まれる。よく逸話では変化して人を食うことが多い(しかも女)。時代によって鬼の姿も違い、中には羽根を持った鬼もいた。本編ではさまざまな鬼が出る予定。