ONE総里見八猫伝大蛇の章 第三幕 投稿者: ニュー偽善者R
第三幕「蛇の執念」


乙音寺を旅立って、浩平は国境(くにざかい)を越えて陸奥の国へと入っていた。すでに旅立ちから一週間が過ぎようとしていた。


「瑞佳、大丈夫か?」
「う、うん・・・」
山道を歩く浩平は、少し遅れて後に続く同伴者の瑞佳に声をかけた。何とか野宿はさけようと、日暮れ前に次の村に入ろうと歩調を早めたため、女の足ではきつくなったのだ。
「息が荒いじゃないか」
「だ、大丈夫・・・」
(こりゃ、駄目だな・・・)
浩平は野宿を覚悟して、歩調を緩めることにした。寺を出てから、浩平には気になることがあった。どうも由起子は何かを隠している気がしてならない。浩平にとった態度も解せない。そして剣のことだ。今まで育った寺なのに、剣の伝承や逸話等一度も聞いたことがない。しかし、大人達は知っていた。大体、意志をもつ剣が存在していることさえ普通じゃない。だが、浩平は今の状況を作り出したこの剣を恨みながらも、持っているとどこか安心感があった。浩平の手にピッタリとなじむのだ。
(どうやら後戻りはできないようだな・・・)
浩平が思案に暮れていると、山道の視界が開け幅の広い川に出た。これぐらいだと船が必要だ。
「渡し守はいないのかな?」
「あっ、あそこに小屋があるよ」
瑞佳の差す方向には、納屋がある。今の時間に渡し守はいるだろうか?
「すいませーん!誰かいますかー!」
浩平が大声を上げると、中から一人の老人が出てきた。
「そんな大きな声を上げんで聞こえてるわ。なんじゃいったい?」
「あの、川を渡りたいんですけど…」
浩平がそう口を開くと、老人は顔色を変えた。
「やめとけ!やめとけ!船はここから一里もある!日が暮れちまう、そしたら…」
「そしたら…?」
老人は声を低めて口を開いた。
「夜に川を渡ろうとすると、水神様が現れるのじゃ…」
「水神様?」
「そうじゃ」
しかし浩平は一笑にふした。
「そんなもんでるわけないぜ」
「浩平どうするの?」
「野宿なんかできるか、もちろん渡る!」
その言葉に老人は慌ててまくしたてた。
「やめとけ!やめとけ!今まで何人も食われたんじゃ!」
「ならいっそのこと退治しなくちゃいけない」
「お主がか?」
老人は疑うがそれには瑞佳が反論した。
「それなら大丈夫ですよ。浩平は二匹も妖怪を倒したんですから!」
「ふうむ…まあ、どうしてもというなら」
老人はまだ信じていないようだが、船の許可をくれた。


二人はそれから老人の言葉どおり、一里ほど歩きさらに川幅の広くなった下流に出た。前よりも流れは強くなく問題なく渡れそうだ。川岸から船を出し、二人は川を渡り始める。浩平が櫂を操るが、変化はすぐに現れはじめた。
キィィィーーーーン…
浩平の頭に闇雲の鳴動が響き始めた。
「来る…!」
「え?」
その次の瞬間、突然川がうねり船がゆれだした。
「こ、浩平!川に大きな影が!」
「何!?」
見ると、水中に黒い大きな影があるのが見える。それは船の前に水飛沫を上げながら、その鎌首を現した。噂の水神だ。その巨大な蛇の姿は水をしたたらせ、表面がぬらぬらしている。
「で、でけぇ!」
「へ、へび…!?」
シャアアアーーー!!!
水神は舌をちろちろ出しながら威嚇の声を上げる。浩平もそれに答えるかのように、剣を抜いた。
「いくぜ…」
鞘から剣を抜き、夕日に刀身がきらめいた。そして浩平に妖魔を打ち倒す力が宿る。
「はあ!」
浩平は舟縁から跳躍した。大蛇の顔面めがけ闇雲を振り下ろした。
ブゥン!!!
「なに!」
水面に潜んでいた尾が浩平を襲った。浩平は弾かれ水面に叩き付けられた。
ザバーン!
キシャア!!!
水神はその浩平の体を追い、水中に首を突っ込んだ。
(なめるなよ!)
動きにくい水中だが、浩平は食らいつこう口を開いた水神の口内に、剣を突き立てた。
グオオオオオ!!!
口を閉じることもできず、水神は苦しさに水面から顔を出した。それと同時に水神が首を振るのを利用して、浩平も空中へと飛び出す。
「もらったぁ!」
浩平は完全に無防備になった蛇の顔めがけ、剣を突き立てた。
ドグン!
キイイイイィィィィィ!!!
鈍い感覚が浩平の手に伝わる。闇雲は水神の左目を貫いていた。水神は痛みに暴れ、浩平を闇雲ごと振り飛ばした。
「よっと!」
浩平は見事にそれを空中で一回転し、船に着陸した。その隙に水神は体をくねらせながら逃走に入った。
「まちやがれ!」
しかし、水神の移動で揺れる船に追撃はできなかった。
「逃がしたか…」
「でも無事だったからよかったよ」
安定した船の上で、瑞佳はほっと胸をなで下ろした。


何とか無事に川を渡ることができた浩平と瑞佳。しかし、濡れた着物を着替える等、余計な時間もかかり、日はすっかり暮れて空には三日月が浮かんでいた。
「今日は野宿かな・・・」
「浩平あそこに家があるよ」
「こんなところにか?」
前方には確かに、ひっそりと一軒の民家がある。
「助かった〜!」
「野宿しないですむね」
二人は何の疑いをもたず、民家の戸を叩いた。
トン!トン!
「すいませーん。一晩の宿をお借りしたいのですがー!」
しかし返ってくる返事はない。浩平は首をかしげた。
「いないのかな・・・」
「えー」
ガラッ!
「なにかな・・・・・」
突然戸が開き、中からしわがれた老婆が出てきた。
「うわあっ!?」
「きゃあ!」
驚きの声を上げる二人だが、老婆は顔色を変えず言葉を続けた。
「旅のもんかい・・・宿を借りたいとな・・・?まあ、道ももうわからんじゃろう。はいるがよい・・・」
老婆は静かにそう言って、中に入った。二人は顔を見合わせながらも、中へ入った。


パシャ・・・
水の立つ音が聞こえる。瑞佳は老婆のもてなしとして、湯あみをしていた。
「ふう〜、だいぶほこりっぽかったからな〜、気持ちいい!」
ザバー!
瑞佳がお湯をかぶる音とともに、座敷の浩平は煩悩と戦っていた。
(向こうでは生まれたまま姿の瑞佳が・・・はっ!?いかん、いかん、何を考えているんだ、俺は・・・)
浩平が前方の老婆を見ると、現実に引き戻された。
「娘さんが上がったらお前さんも湯あみするといい・・・わしはちょっと畑の方に行ってくる・・・・・」
老婆は曲がった腰を上げ、外に出ていった。しばらくすると瑞佳が戻ってきた。その頬はほのかに上気し、赤く染まっている。
「あー、気持ち良かった!浩平も入りなよ」
「あ、ああ・・・」
慣れない瑞佳の姿に、浩平は戸惑った。それをごまかすかのように話題を振る。
「な、なあ瑞佳。あの婆さん何か不気味じゃないか?」
「そうかなー、親切な人だよ」
「そうか?」
(まあ、この剣が反応してないってことは大丈夫だろ・・・)
浩平は今までの戦いから、闇雲が妖怪の存在を察知することに気付いた。そのせいもあって、浩平の警戒心は緩んでいた。


一方、民家から少し離れた畑では老婆が野菜を掘り起こしていた。
「久しぶりの客人じゃ、うまい飯をごちそうせんとな・・・」
老婆はややうれしそうにしながら腰を上げた。さびしい一人身で来客がうれしいのだ。
ズル・・・ズル・・・
その老婆の後ろから危機が迫っていた。
キシャアアア!!!


そのころ浩平は老婆の身に何が起きたのか知らず、湯あみしていた。当然、闇雲は壁に立てかけられ、浩平の手を離れている。そして、汗を洗い流すと座敷に戻った。しかし、浩平はうっかりして闇雲をおきっぱなしにしていた。
「あ〜、腹へった」
いろりでは老婆が鍋に火をかけている。
「今できますんで・・・」
老婆を見ると、浩平はあることに気付いた。先ほどとは違い、老婆は白髪を顔の片面に流している。まるで左目を隠すかのように。
「どうぞ・・・」
疑問を問いただす間を与えず、老婆は汁物の入った椀を差し出してきた。
「あ、どうも」
「いただきまーす!」
浩平と瑞佳は同時に料理を口にしようとするが、瑞佳はあることに気付いた。
「あっ、手洗ってないや。ちょっと、行ってきます」
そう言って腰を上げる瑞佳だが、その時には浩平はすでに汁物をのどに流していた。
「うまいですね、これ。何が入ってるんです?」
浩平は当たり障りのない話題を振る。
「何のこともありません・・・そこの畑の大根やら、葉っぱとかです・・・それと・・・・・」
「それと?」
その時には浩平は椀の中身を食べ尽くしていた。老婆はそれを確認して口を開いた。
「毒蛇の猛毒じゃ!」
「!?」
浩平はその時、自分の体の異変に気付いた。椀を落とし、体を抱え込む。視界がかすみ、手足がしびれる。それはだんだん全身に達して、ついには動けなくなる。
「くくく・・・いいざまじゃな小僧・・・わしの目の報いじゃ!」
老婆が髪をかきあげると、そこにはまだ癒えていないえぐられた眼窩があった。
「て、てめえ・・・あの時の・・・・・」
かすれる声で浩平は言った。
「どうじゃ?わしの毒は?動けまい・・・このまま喰い殺してやる!」
老婆が大きく口を開らくと、そこには鋭く光る牙があった。
(くそ・・・!剣さえあれば・・・!)
浩平は深く後悔した。その時、瑞佳が戻ってきた。
「浩平!?一体どうしたの!?」
倒れている浩平を見て、瑞佳は叫んだ。
「瑞佳・・・逃げろ・・・!」
「やだよ!そんなことできないよ!」
老婆は愉快そうにほほ笑みながら、口を開いた。
「安心するがええ・・・お前さんもこの男を喰ったら、すぐに喰ってやる」
「そんなことさせないもん!」
瑞佳は我を忘れて走り出した。そして老婆に思いっきりぶつかる。
「ぬっ!?」
老婆は不意をつかれて後ろに吹き飛ぶ。瑞佳は浩平に駆け寄った。
「大丈夫!?浩平!」
「馬鹿・・・逃げろ・・・!」
「わたしだって浩平の役に立つもん!」
瑞佳はそう言って懐から護符を取り出した。
「小娘が盛りおって!」
老婆はまさに蛇のように瞳を赤く輝かせていた。対する瑞佳は護符をもって、何かを一心に念じている。
「・・・音・・・戒・・・烈・・・」
「貴様から喰ってやる!」
老婆は牙をむき出しにして瑞佳に飛びついた。
「・・・升・・・罪・・・浄!」
瑞佳はばっ!、と護符を投げつける。
「こんなもの!」
老婆はそれを振り払おうとするが、護符はひらりとその手をかわし、老婆の胸にはりついた。
シュウウウウウゥゥゥゥゥゥーーーー!!!
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!!熱い!熱い!」
護符からは煙が吹き出し、老婆は苦しみに地を転がる。瑞佳が放ったのは護符を媒介とする『浄化』の術である。
「許さぬ!許さぬぞ、貴様等ーーー!」
老婆はそう叫ぶと、その本性を現した。肌の色が変わり、だんだんと巨大化していく。粗末な屋根は大蛇につい破られた。そして老婆の姿は消えうせ、ついには巨大な蛇の姿となる。
キシャアアアアアアア!!!
「こ、浩平!どうしよ!術が効いてないよ!」
「お前だけでも逃げろ・・・!」
シャアアアアア!!!
水神はがばあっと大きく口を開け、二人に食らいついてきた。
「きゃああああああーーー!!!」
「・・・剣よ!来い!」
浩平は強く闇雲を求めた。水神の牙がまさに目の前に達した時。
ドカアッ!
「!?」
壁を突き破り、闇雲が浩平の顔の横に突き刺さる。水神は驚きで動きを止めた。浩平は迷わず柄を握った。
「なめたことしやがって・・・」
浩平はゆっくり立ち上がる。体のしびれは消えていた。
「覚悟しやがれ!」
シャアアアアア!!!
浩平が瑞佳を突き飛ばし跳躍する、水神が浩平達のいた所に食らいついてきたのは同時であった。
「今度こそ・・・死ね!」
ドグンッ!
ギャアアアアアア!!!
浩平は右目に剣を突き立てた。そしてそのまま尾の方に向かって駆け出す。
グオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
水神は地獄の苦しみにのたうつ。浩平が剣を抜いた時、水神の体は真っ二つに裂けた。


結局、浩平と瑞佳は野宿をすることになった。たき火を囲んでいると、瑞佳はふとつぶやいた。
「剣を握っている時の浩平・・・ちょっと怖いな・・・・・」
「・・・そうだな」
たき火から舞い立つ火の粉が、夜空に舞い上がっていた・・・・・・・。



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ちびみずか「へびいやだー!」
俺もちょっと(^^;でもしかたないだろ。妖怪の起用に困ってるんだから。
ちびみずか「おばけいやだー!」
ほお・・・そんなに怖いかね?なら俺がとっておきの怖い話をしてやろう・・・
ちびみずか「いやー!」
あらら、走って逃げちゃったよ(^^)さて、感想いくかな。今回は戦闘中心ですけど、けっこうつらい(^^;あっさり倒したら短いし、かと言って何体も出したら話のつながりが悪い。と、言うわけでこんなのになりました。ちなみに瑞佳様のサービスカットはちょっとお気に入り(^^)次回はメインキャラが出ます!(誰かは秘密)さてと・・・おーい!ちびみずかー!もういじめないから帰っておいでー!
ちびみずか「ほんと・・・こわいはなししない?」
はっはっはっ!ほんとさ!かわりにえぐい話をしてあげよう!」
ちびみずか「それもいやー!」
冗談だって(^^)

次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第四幕「鬼の屋敷 前編」ご期待下さい!

解説

水神・・・オリジナル。よく昔話に出てくる蛇の妖怪。蛇の妖怪は、川の主に例えられたり、憎しみを抱いた女が姿をやつすことが多い。本編では川の主という設定である。今までは人を襲うことはなかった。妖猿と同じように、何かが起こっているのかもしれない。

浄化の術・・・オリジナル。瑞佳が使える基礎的な術。邪気を打ち払う。熟練の法僧になると、護符を用いない。