ONE総里見八猫伝大蛇の章 第二幕  投稿者: ニュー偽善者R
第二幕「旅立ち」


蔵の地下に封印されていた妖怪、大蜘蛛を同じく地下に納められていた剣、闇雲によって退治した浩平。彼の運命は劇的に変わることになる・・・・・・。


「きちんと整理された質素な部屋で、浩平は叔母であり、ここの住職である由起子と向き合っていた。その表情はいつになく真剣だ。
(やっぱりあの剣がまずかったのかな?)
「浩平・・・」
「はい!」
「そんなに堅くならなくていわよ」
いつもの叔母の声だ。浩平は少しほっとした。由起子は女だてらに住職をつとめるだけあって、修業僧達の前では厳しい。しかし、幼い頃から由起子に育てられきた浩平は由起子の優しさを知っている。
「剣を抜いたそうね・・・」
「う、うん・・・」
「そう・・・」
由起子はなぜか深くため息をついた。
「よりによってこの子が選ばれるなんてね・・・」
「由起子さん?」
「浩平」
突然打って変わった調子で由起子が名を呼んだ。
「駄世門宗乙音寺住職、お役目を司る者として命じます。伝説の破邪刀闇雲を携え、全国を巡り、駄世門宗総本山に行きなさい!」
「ちょ、ちょっと!?一体何?」
「あなたは選ばれたの・・・闇雲の導者としてね・・・・・・闇雲は妖怪の血をすすり、持ち主に力を貸す。そして妖怪を百匹倒した時・・・その役目に目覚める」
「・・・・・役目?」
浩平は由起子の真剣さにいつしか、真面目に聞いていた。
「闇雲の復活は来る大妖の復活を暗示しています。あなたは闇雲を覚醒させ、予言に伝わる大妖を打ち倒さなければなりません」
「俺がどうして・・・?」
「しかたないのよ。あなたは選ばれたのだから・・・」
「嫌だ!何で俺がそんなことを!」
浩平は突然の事態に強く拒否した。
「浩平・・・」
「嫌なもんは嫌なんだ!」
そう叫ぶと浩平は部屋を飛び出した。残された由起子はまたもため息をついた。
数刻後。
「どうですか?あいつは?」
「駄目ね・・・拒否するばかり」
入ってきたのは髭であった。
「どうします?いくら剣に選ばれたからと言っても、普通の人間と大差がありませんぞ?」
「それは大丈夫でしょう。そのための剣ですし、時間はあるのですから修業もできます」
「しかし、その旅に出ないのでは・・・」
「今の生活を続けることはできないでしょう・・・あの剣は妖怪の血を求め、邪を呼びます」
「そして八猫の残りの選者とともに世を救う・・・予言の一節ですね」


翌日。例のごとく浩平は屋根で修業をさぼっていた。昨日のことや、由起子の言葉を思い出すと気が滅入っていた。あの剣は今はここにはない。由起子の部屋に置いてきたのだ。
「浩平!」
その浩平に声をかける者がいた。瑞佳である。
「何だ・・・怖い思いしたのにまだここに来るのか」
「大丈夫だよ。浩平が守ってくれるもん」
笑顔を振りまく瑞佳。しかし、今の浩平にはそれもうっとうしい。
ドン!
「きゃ!」
屋根から勢いよく飛び降りる浩平、そして無言で瑞佳の横を通り過ぎた。
「浩平?どこにいくの?」
「どっか・・・」
浩平の足は山中に向かっていた。


うっそうとした山林の中、浩平はあてもなくぶらついている。どうも気が落ち着かないのだ。
(くそ・・・全部あの剣のせいだ!)
浩平は手にした枝で、高く伸びた草を払う。
(あの剣・・・『闇雲』とか言ってたな?)
剣が自分でしゃべるのもおかしいのだが、浩平ははっきりと聞いた。気味が悪く思うところだが、浩平はそうは思わなかった。そこが浩平のいらつく原因である。
「まるで運命みたいじゃないか!」
浩平は強制されるのが大嫌いであった。だから与えられた運命とかは、気に食わないのだ。
『ヒッヒッヒッ・・・!人じゃ・・・人の肉じゃ!』
突然頭上から気味の悪い声が聞こえてきた。浩平はとっさに身構える。
「誰だ!?」
『わしはこの森の主・・・わしの縄張りに勝手に入ったんじゃ、貴様の命をいただくぞ!』
バサバサ!
頭上から黒い影が降ってきた。そいつは浩平に向かって爪を光らせた。
シュッ!
「うわぁっ!?」
浩平は何とかそれをかわす。そして声の正体を確認しようとした。
『ヒッヒッヒッ・・・すばしこい奴だ!』
それは猿を一回り大きくしたような図体で、顔は老人である。妖猿だ。
「な、何でこんなところに妖怪が!?」
子供の頃から、この森にはよく遊びに来ていた浩平だが、一度も妖猿は見たことがない。確かにこの森には主がいると聞かされ、怒りを買ってはいけないと教えられてきた。
「くそ!ここは・・・逃げるが勝ちだ!」
浩平は背中を見せると、走り出した。いくら武術を習っているとはいえ、妖怪に勝てる
はずがない。熟練の法僧なら話は別だが。
『ヒッヒッヒッ!にがさんぞ!』
妖猿も浩平の後を追い始めた。
ヒュン!ヒュン!
妖猿は巧みに、木づたいに森を縫うようにして浩平を追う。そして降下しては爪を光らせる。
「くうっ!」
そのたびに傷を受ける浩平だが、何とか致命傷はさける。妖猿は狩りを楽しむかのように、すぐに木へと飛び移る。そのおかげで浩平は何とか森を抜け、寺の敷地内に入った。
「みんなー!妖怪だ!上僧を呼べ!」
「ようかい?・・・うわぁっ!?」
にわかには信じられない修業僧も、浩平を追ってくる妖猿を見て腰を抜かした。
「急いで髭を呼ぶんだ!」
「上僧様達は村にお勤めにいったよ!」
「くそっ!」
事態は最悪であった。しかし、浩平には頼るものが一つだけあった。
(何か癪に触るな・・・)
そんなことを思う浩平だが、周りでは出てきた僧を妖猿が攻撃をしかけている。
「ぎゃあっ!」
「うわあああ!!!」
その光景を見て、浩平は走り出した。剣の元へ。
「由起子さん!」
障子を開くが、そこには誰もいない。そして、壁には剣が立てかけられていた。
「おい、いいか!不本意ながらお前の力を借りてやる!」
浩平はそれをしっかりと握った。そして鞘を抜く。昨日と同じように、あの声が聞こえ、力が湧いてきた。
『倒せ・・・全ての妖魔を・・・・・我は力を貸そう』
浩平は中庭へと飛び出した。そして妖猿に向かって叫ぶ。すでに浩平の人格は変わっていた。
「弱妖め・・・俺が相手だ!」
『ヒッヒッヒッ!人間風情がほざいてくれる・・・よかろう、お前から喰ってやる!』
妖猿は牙を光らせ、飛びついてきた。浩平は剣を構える。
「うおおおおおおおおお!!!」
『ガアアア!!!』
シュパッ!・・・ボトッ
浩平と妖猿が交差する。そして響き渡る絶叫。
『ぎゃあああああああああ!!!!!腕がー!わしの腕がー!』
見ると、妖猿の右腕がすっぱりと切り落とされている。
「腕の一つや二つで騒ぐな・・・今楽にしてやるよ」
『ひいいいいぃぃぃ!!!』
浩平の口ぶりはまるで別人であった。そして浩平の振りかざした剣がきらめく。
ザンッ!
『ぐああ・・・』
妖猿はあえぐようにして絶命した。そして、大蜘蛛と同じように解けて、地に消えた。
「ふう・・・」
浩平は鞘に剣を納め、一息をついた。そして修業僧達の方を振り返った。しかし、傷ついた皆の目は白い。
「どうしたんだ?」
「お前のせいだ!」
「えっ?」
突然の言葉に浩平は状況が掴めない。
「昨日といい、全てはお前が引き起こしたんだ!」
「な、何言ってるんだよ・・・」
だが、後ろからも浩平を非難する声が聞こえる。そして、それはある結論にたどりついた。
「でていけ!」
「えっ・・・」
皆の声はいつしか重なりあう。浩平はそれに怒りを覚えた。
(人の気も知らないで・・・!)
「わかったよ!でてってやるよ!こんな辛気くさい寺!」
浩平は僧達に背を向け、自室へと向かっていた。


翌朝。いつものように起床(他の僧よりははるかに遅い)した浩平だが、彼を待ち受けていたのは日常ではなかった。
「・・・・何してんだ?瑞佳」
本堂では旅装束の瑞佳がいた。
「旅に出るんだよ」
「何でお前が?」
「だって浩平一人じゃ心配だもん」
断言する瑞佳。浩平は一瞬凍った。そしてあることに気付いた。瑞佳の手に持たれた袈裟着を。
「何だそれ?」
「浩平の袈裟だよ。ほら早く着替えて出発するよ」
そこに由起子が現れた。
「あなたが旅に出るって聞いて、瑞佳さんがついてくっ、て聞かないのよ。だからお供にと思ってね」
「そういうことだよ。それにほら、前から京にいってみたいって思ってたんだ」
「・・・本気か」
浩平は昨日の出来事から自室にひきこもり、帰ってきた由起子に寺を出ると伝えた。由起子は何も言わず承諾した。
「浩平。その剣はあなたを守り、導いてくれるわ。今は迷っていても、いつか道が開けるわ」
「・・・」
由起子の表情は毅然としながらも悲しそうである。浩平は無言で袈裟と、鞘に収まった剣を取る。昨日の出来事以来、彼の運命は変わった。
「よろしく頼むぜ、相棒」
浩平は不機嫌ながらもそうつぶやいた。これが浩平の旅立ちであった・・・・・・。




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なぜなにONE猫!
ちびみずか「だい2まくで〜す!」
ふう・・・区切りが大変。
ちびみずか「ねえねえ」
なんだい?
ちびみずか「これ100わいじょうつづくの?」
わかんない(^^)一話で何匹か妖怪倒すかもしれないし。
ちびみずか「ふ〜ん」
さて、旅立った浩平ですが、なにせ舞台は日本全国!どんな出会いがあることやら?そして立ちはだかる妖怪共との戦いは?
ちびみずか「それはじかいのおたのしみ〜!」
それでは!
ちびみずか「さよなら〜!」

次回ONE総里見八猫伝 大蛇の章 第三幕「蛇の執念」ご期待下さい!

解説

>闇雲
伝説の破邪の剣。持ち主を選び、妖怪の血をすすり、持ち主の力を増加する。治癒能力も高めるようだ。また、持ち主の性格も変わり、冷酷性が加わる。妖怪を百匹倒した時に真の力を出す。設定を聞けば、まるで獣の槍である。剣の名前は浩平の性格を表現であうものを、ということで決定。この剣についてはまだまだ秘密があるが、今後も説明していこうと思う。

>大妖
駄世門宗で語り継がれる世界を破滅へと導く破壊神。ちなみにこれは名前ではない。闇雲の復活と共に、復活をすると言われている。

>妖猿
オリジナル.。妖犬というのがいたので、似てるだろう、と勝手に起用。本編では、今まで森の神として森を守っていた。それがなぜか狂暴化。原因は今の所不明。

>駄世門宗総本山
山陰道の出雲の国に位置する。人目をはばかりひっそりと活動しているが、その組織力は計り知れない。