浩平犯科帳 第三部 最終話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 最終話「帰還」


茜と郁未は創主に支配されたお葉を追って、天守閣へと向かった。兄を目の前で殺され、茜の瞳は怒りと悲しみに燃えていた。
「茜さん・・・」
「はい・・・」
「憎しみを持ってはいけないわ。憎しみの心は人を滅ぼす」
「わかっています・・・」
郁未の言葉でいくぶん冷静さを取り戻した。
(そうだ・・・自分を見失ってはいけない・・・!)
そして二人は天守閣に出た。
「来たな・・・」
そこでは一人の髪の長い女が待っていた。お葉である。
「素晴らしい月とは思わないかね・・・?」
突然お葉が、いや姿はお葉でも、声と意志は創主のものである。お葉に促され夜空を見ると、月が不気味なほど赤く照らしていた。
「ずっとあの月を見て考えていた・・・人は愚かだ。肉親であろうと、傷つけ、騙し合い、殺し合う・・・・・・我はそんな世を救うのだ」
「それは詭弁よ」
郁未が否定した。
「あなたのことは人を苦しめるだけ、存在すらもたないあなたにこの世を動かす権利はないわ」
「我の存在がないだと・・・?」
茜も言った。
「死者に過ぎないあなたの世界ではないのです、ここは・・・元の世界に帰りなさい」
しかし、お葉は取り合おうとしない。
「ふん・・・貴様等は排除すべきだな・・・・・・郁未よ、この娘は知っているだろう?」
「お葉さんをどうしたの・・・?」
「我への忠誠の証だ・・・我が肉体となるべき資質を持ったものとしてのな・・・・・・・この力・・・試してやろう!」
ブワアッ!
旋風がお葉を包み込む。そして力を収束し、圧縮する。空気が変動し、巨大な水晶球が形成された。
「食らえ!」
ドガガガガガガガ!
「!?」
「これは・・・」
水晶球の衝撃が瓦を砕きながら向かってくる。二人は危険を感じ、障壁を張った。
バシィ!
衝突の衝撃があたりに舞う。何とか攻撃を防ぐものの、水晶球の勢いは止まらない。それどころか、どんどん増していく。
「くっ・・・これは!」
「強いです・・・!」
「はーっはっはっはっ!どうした!貴様等の力この程度か!」
お葉はさらに力を強める。その強さは空気を震わせ、次元を歪めている。茜と郁未も力を合わせ対抗するが、苦戦している。
「これじゃあやられちゃうわ!」
「浩平・・・はやくきてください・・・」



一方、浩平と沖田の戦いは最後を迎えようとしていた。
「沖田・・・なぜ命を奪う?」
「ふん・・・信念のためだ」
両者の息は荒く。至るところから血が流れている。これまでよほどの激戦を演じたのだ。
「信念だと?うそをつけ・・・」
「何だと・・・?」
「お前はただ憶病なだけだ!」
「黙れぇぇぇーーー!!!」
沖田は刀を中段に構える。決着をつもりなのだ。浩平もそれを感じ、十手を構えた。
「死ねぇいっ!」
両者は同時に駆け出した。次で勝負が決まるだろう。浩平は全身全霊の力で迎え撃つつもりだった。
「人を斬ることは自分を苦しめるんだーーー!!!」
「知ったようなことを!!!」
沖田の突きが繰り出され、浩平の十手が振りおろされた。
ドフッ!
鈍い音が響く。二人は体をぶつけたまま動きを止めた。
「ぐはあっ!」
沖田が大量の血を吐き出した。十手を沖田の胸にめり込ませた浩平は返り血を浴びた。
「沖田・・・お前はまだやり直せるさ・・・・・」
沖田の体は限界であった。結核に冒された体を、不可視の力で動かすものの、もう耐えれるものではない。
「ふん・・・わかっていたさ・・・・・」
沖田は血を流しながらも笑った。
「お前と戦って気付いた・・・俺は馬鹿だった・・・・・」
「・・・・・・」
浩平はゆっくりと離れる。
「行くのか・・・?」
「ああ・・・」
「そうか・・・」
ドサ・・・
沖田はゆっくりと崩れ落ちた。そして意識を失う直前に呟いた。
「俺を越える馬鹿はお前だがな・・・・・・死ぬぞ・・・・・・」
ポタ・・・ポタ・・・
浩平の着物の腹部が赤く染まっていた。そして奇妙なことにそこから背中にかけて銀色の刃が突き出ている。それは沖田の刀であった。
「俺には守るものがある・・・だから死ねない・・・・・・」
浩平は刀を抜くと、それを投げ捨てる。抜くときに、血が吹き出し、浩平は吐血した。
「がはっ・・・!ごほ!ごほ!」
浩平はよろめく。倒れそうになった浩平を支える者がいた。駆けつけたお七である。
「あんたその傷!?」
「へ・・・どうってことない」
「何言ってんのよ!はやく手当てしないと!」
「無駄なことはするな・・・今から戻ってどうする・・・?それよりも俺を上に連れてってくれ・・・・・・」
「・・・・・・」
お七は何も言えなかった。どう見ても致命傷である。上の階までもつかどうかさえ怪しい。何よりもお瑞の泣き顔見るのがつらかった。
「さあ・・・行くわよ」
お七は浩平に肩をかすと、ゆっくり歩き出した。なるべく衝撃を与えないように。階段を登る二人、なぜかその足は天守閣へと向かっていた。理由はわからない。ただ、そこが決戦の場だということを感じていた。
「!?」
「茜・・・郁未・・・」
驚愕するお七、血を流しながらも呟く浩平。天守閣に出た二人が見たのは、苦戦する茜と郁未、そして二人と対峙するお葉とその後ろの影であった。
「これは・・・」
『・・・を・・・・んだ』
浩平が戸惑っていると、不意に声が聞こえてきた。
「えっ・・・?」
それは聞こえたというよりも、頭に響いたという感じである。
『影を・・・・撃つんだ』
それは氷上の声であった。にわかには信じられないが、朦朧とした意識の中で浩平は理解した。
「お頭・・・・」
「えっ?何?」
横のお七は聞こえないようだ。浩平は懐から拳銃を取り出し、撃鉄を起こした。
「何それ!?」
「お七・・・俺の体を支えてくれないか・・・・・倒れそうなんだ」
お七は慌てて浩平の背中を支えた。浩平の頭には氷上の声が響いている。
『存在しないことを認めない意志を君の手でほうむるんだ・・・君ならできる』
浩平は狙いを定め、銃を定める。視界が霞み、照準が定まらない。それを気力で支える。
「生命を失いし、意志の存在よ!闇に還れ!」
浩平は叫んだ。そして引き金を引く。
ズキューーーン!!!
弾丸はお葉へと向かっていく。それはお葉を霞め、その背後の影へと吸い込まれるようにしてはじけた。
「ぐあああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
お葉が苦しむ。いや、影が苦しんでいる。お葉をとりまく影がお葉を離れた。
「おのれーーー!我が存在を撃つとは!できるはずがない!」
影は忌ま忌ましそうに声を響かせる。だが、浩平も叫んだ。
「茜ー!郁未ー!討てーーー!!!」
その言葉に茜と郁未は顔を合わせて、ありったけの力を集める。
「き、貴様等!我を討つのか!?」
シュウウウウウウウ!!!
二人の力が合わさり、巨大な水晶球が作られる。そして、呼吸を合わせてそれを放った。
ブワアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!
「ぐおおおおおおおおおおお!!!!!まさか!まさか!神であるわたしが!この信長がーーー!!!認めぬぞーーー!!!ぐおおおおあああああああああああああ!!!!!!!!」
閃光が辺りを包み、旋風が巻き起こる。激しい輝きの中で影は消滅した。だが、この旋風の中で、一つの不幸が起こった。
「きゃあ!」
突然の突風で、お七は体勢を崩す。その瞬間、浩平の体が手から離れた。
「お、折原!?」
浩平には自力で立つ力はなかった。風に押され、後ろに下がる浩平。しかし、そこには空しか存在しない。
フワァ・・・
浩平の体はゆっくりと地から離れる。そして・・・・・・落下した。
「折原ーーーーーー!!!」
「浩平!!!」
ザバーーーン!!!
浩平の体は下の堀へと落ちた・・・・・・。



あれからどれくらいの月日が流れただろう・・・?浩平は見つからなかった。水の中をくまなく探したが、見つかったのは十手だけであった。
「お瑞・・・今日も用意してるの?」
「うん」
お七が浩平とお瑞の暮らす長屋に来ていた。しかし、ここに住むのはお瑞だけであるが。お七は後悔した。あの時、自分が浩平を話していなかったら浩平は死んでいなかったかもしれない。周りは慰めてくれるが、お瑞の笑顔見る度につらくなる。お瑞は浩平の死が信じられなかった。最初聞かされた時は、何日も人前に姿を現さなかった。だが、泣いていたのはその間だけであった。それからお瑞は笑うようなった。しかし、それは痛々しい。そして、毎朝浩平の分の食事を用意するのだ。
「ねえ・・・どうして笑っていられるの?」
耐えれられなくなり、お七は聞いた。
「・・・約束だから・・・浩平は必ず帰ってくるって言ったんだよ。だからずっと笑っていてくれ、ってね」
「・・・・・・・」
お七は何も言えなかった。



ここはどこだろう・・・?とても懐かしい感じがする
-やあ、久しぶりだね
そうだな
-帰らなくていいのかい?
帰りたいさ
-ならどうして帰らないんだい?
帰れないんだよ
-そんなことはないさ
どうして?
-何でもできるんだよ、人は
そうか、そうだよな
-ほら、君を待っている人がいる
ああ・・・ずいぶん待たせたようだな・・・・・・
-さあ・・・行くんだ
うん・・・
-輝く季節へ・・・・・・・



あれから季節は巡り、また夏がやってきた。ちょうど一年がたとうとしている。世の中は動乱の盛りであるが、みなの生活はそれほど変わらなかった。お七は相変わらず中原亭で働き、茜は家茂の死により、城を追い出された。だが、茜はそっちの方が自由になれてうれしそうである。これからは普通の町娘として暮らすそうだ。詩子は追い出された茜と共に暮らしている。茜の側の方が楽しいのだろう。郁未は子供を産んだ。女の子である。わずかに過ごした少年の思い出とともに、静かに暮らすのだろう。晴香や由依も、日常へと戻っていた。過去にとらわれず、前を向いて歩く。大切な人を心に留めて。みさきも繭も澪も変わらない。でも、みんないろいろなことを経験し、成長しているのだ。だが、一人だけ季節を止めるものがいた。

にゃ〜ん!にゃ〜!
外で猫の声がうるさい。わたしがえさをあげている子だろう。でも、少し様子が変だ。えさはさっきあげたばかりなのに。とりあえずいつものように食事を卓に並べてと・・・いつものように二人分。でも、いつも一人分残る。そして悲しくなるのだ。泣きたくなるのだ。でも、わたしは泣かない。約束だから。いつか浩平は帰ってくる。周りから見たら気が触れていると思われているだろう。でも、そんな気がする。笑っていれば、浩平が帰ってくると信じて・・・・・・
にゃー!
まだ鳴き声がする。ほんとにどうしたんだろう?それになんだか誰かを呼んでいるみたいだ。わたしは戸口に向かい戸を開けようとした、しかし、わたしが開けるよりも先にそれは開いた。
「あ〜、腹が減った」
「えっ・・・」
信じらなかった。夢だと思った。
「できてるんだろ朝飯?」
何もなかったかのように聞いてくる声。わたしは泣きそうになりながらも答えた。
「うん・・・あるよ・・・毎朝作ってあるのに・・・・・・でも、帰ってこないから」
「すまなかった・・・」
謝罪の言葉。でもそんなものはいらない。なぜならうれしかったから、浩平が戻ってきてくれたから。
「でも、これからはずっと側にいるから」
わたしは返事を返さずに、浩平の胸に飛びこんだ。暖かい・・・。ここに浩平はいるのだ。
「泣くなよ・・・」
「うん」
わたしの季節は再び動き始めた・・・・・・・・・・。



浩平犯科帳 終


@@@@@@@@@@@@@@@@@@
〜浩平の愚痴F(ファイナル)〜
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
はあ・・・はあ・・・はあ・・・しゅうりょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜う!!!!!!!!!!!!!
バタッ!
浩平「お、おい!?」
はあ・・・はあ・・・す、すまん・・・・ちょっと酸欠で。
浩平「大丈夫か?」
ああ・・・しかしこの感動、例えようがないな。感動だよ感動!特にラスト!
浩平「長森視点のところか?」
ゲームの雰囲気を出しながらも、本編に組み込む。なんて強引なんだ(^^)
浩平「しかし、俺が生き返るとはな」
ふっ・・・万能なのだよ不可視の力は・・・・・・
浩平「だから時代劇じゃないんだよ」
いいじゃないか!クランクアップしたことだし。
浩平「まあそうだけどよ」
さて、四カ月近く連載した浩平犯科帳ですが、まじで終了!近々、裏話&全話通したなぜなに犯科帳2&F(ファイナル)を送ります!
浩平「いいのかよ。そんなことして」
いいんだよ(多分)(^^)それじゃ、全四十五話と長過ぎの犯科帳でしたが、応援(いたのか?)してくれた方々ありがとうございました!それでは!
浩平「また会おうぜ!」
さよなら〜〜〜〜!!!