浩平犯科帳 第三部 第十三話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第十三話「決戦」

慶応二年八月二十日、第二次長州征伐に向け家茂は大阪城に入城していた。しかし、原因不明の病に冒され床に伏せていた。そして、大阪城は決戦の場になろうとしていた。

「詩子、敵の配置はどうなんだ?」
城壁の外の樹に登り、偵察をする詩子に浩平が聞いた。
「けっこうな数よ、そこら中にうろついてるわ」
「中に入るのも一苦労だな」
郁未を加えた浩平達は、何とかして城内に入ろうと躍起になっていた。しかし、打開策は見つからない。
「茜、抜け道とかないのか?」
「ここにはきたことがないので…」
「そうか…」
落胆する浩平に郁未が提案してきた。
「ねえ、囮を出すってのはどう?」
「囮?誰がするんだ、危険すぎるぜ」
「彼女がいるじゃない」
郁未が指す先には…お七がいた。
「わたし!?ちょっと、なんでそんな役目をわたしが!?」
「大丈夫よ、わたしが援護するわ」
「そうはいってもね…」
やはり不服なお七だが、この状況を打破するにはそれしかない。
「お七、頼むぜ。江戸に戻ったら酒おごるからよ」
「期待してないで待ってるわ」
お七は覚悟を決めたのか、軽く笑いかける。
「よし、お七と郁未が城門を突破。その間に俺達はここから潜入する!」
段取りは決まった。後は行くのみ。
「みんな江戸に帰ろうな!」
それが合図であった。お七が駆け出し、少し離れた距離で郁未が援護に入る。
「はああああああああああっ!!!」
スチャ!
お七は握りに手を添える。
「何者だ!?」
二人の門兵のうち一人が槍を構えるが、お七はときの声をあげながら特攻する。
シュパッ!
一気に間合いを詰め、目にも止まらぬ速さで刀を抜いた。そして返す刀でもう一人を斬る。
「ぐふ!?」
「ぬがあ!」
ドサ!ドサ!
門兵は崩れ落ちるが、お七の動きは止まらない。
「お七さん!門を吹き飛ばすわ!離れて!」
後ろから郁未の声が聞こえた。お七は考えるよりも先に行動した。
ドフウ!!
郁未の手から衝撃波が発せられ、門を打ち砕く。
「なかなかやるわね」
お七が話し掛ける。
「そっちこそ、援護はいらないみたいね」
「ふふ、さあこれからが本番よ!」
お七は刀を構え再び足を進める。彼女を止める者は誰もいなかった。



一方、お七達が暴れてくれている間に、浩平達は城内の潜入に成功していた。それでもまだまだ家茂への道は遠い。廊下を走り階段を目指す三人。だがすぐに数人の武士は立ちはだかる。しかし、そんなものに構っている暇はない。
「おらおら!どきやがれ!」
ドガッ!
浩平は前衛の男に飛び蹴りを放ち、そのまま踏み倒す。その後ろから茜達も続く。
「邪魔っ!」
シュアッ!
身を低くかがめ、詩子が男達の間を縫うように駆けぬけ、同時に匕首で斬りつける。
ドサ!ドサ!バサ!
その後から男達は次々に倒れる。
ドン!ドン!ドン!
階段を駆けのぼる音。浩平は嵐となって上を目指していた。



ザク・・・ザク・・・
お七達の戦いで、動くものいなくなった中庭の砂利を踏み締める者がいた。ぼろぼろの着物をまとった逃亡生活の慣れの果てである。
「良祐・・・全てが終わったらあなたの所にいくからね・・・・・」
晴香は生きていた。創主に操られるも、その適性が認められなくなり命を狙われた彼女であるが。辛くも脱出し、ここに至る。事情は郁未とともに脱出した由依から聞いていた。由依とは偶然出会ったのだが、ずいぶん表情が変わっていた。何か吹っ切れたような顔だった。
「くっ!まだ侵入者がいたのか!?」
後ろからそんな声が聞こえてきた。
「止まれ!仁義屋か!?」
晴香は答えずにゆっくりと振り返る。その瞳は金色に輝いていた。
「邪魔な存在・・・」
グシャアアア!!!
晴香は何もなかったかのように歩き出した。



その晴香の存在を郁未は感じた。
(この感じ・・・晴香?)
「どうしたの?」
何かを考え込む様子の郁未に、お七が問いかける。
「何でもない。ところでみんなはもう上までいけた・・・」
ゾク!
郁未は言葉を続けれなかった。突然の戦慄に足を止めたほどだ。
「まさか・・・あの人が・・・・・・危険だわ!はやく行かないと!」
「郁未・・・何を感じたか知らないけどお客さんよ」
見ると、上から三人ほどの侍が降りてきた。
「これ以上は通さん!」
「くっ・・・」
「郁未・・・わたしがひきつけるわ。あんたは行きなさい。力を無駄に使うことわないわ」
「・・・・・・・お願い」
郁未はお七に感謝した。三人はきついであろうが、お七の腕なら乗り越えれるだろう。それに今は時間が惜しい。
「さあ、行きなさい!」
お七はそう言って、抜き身の刀で突進した。
「はあーーーーー!」
バンッ!
「なにぃ!?」
ザシュウッ!
お七は跳躍し、敵のど真ん中に突っ込んだ。そして刀を振り回す。次々と斬り倒すお七、しかし、今度は階下から新手が現れた。
「さあ、どんどんかかってきなさい!」
お七がひきつける間、郁未は階段を登っていた。郁未は存在を感じていた。全ての根源である邪悪の意志と、それに操られるまま、その手を血に濡らす悲しき存在を。



浩平達は家茂の私室への最後の階段へとたどりついていた。だが、その階段の前には二つの人影が立ちはだかっていた。
「そこまでだ!仁義屋の諸君!」
一人の男が独特な不快感を与える声を上げる。
「あなたは・・・高槻!」
茜がその男の名を呼ぶ。江戸で何度か見たことがあるのだ。そして浩平は高槻の制止を聞かずに突っ込む。
「時間がないんだ!」
「ふふん、相変わらず威勢がいい・・・しかし、この娘の命がどうなってもいいのかな?」
もう一人の男が、誰かを腕に抱いている。そしてその首もとに小刀を突きつけていた。
「由依さん!?どうしてここに!?」
「ふん、婦亜瑠後から逃げ出せるわけがなかろう。どうだ、手を出せまい?手を出したらどうなっているかわかっているだろう?」
「みなさんごめんなさい・・・」
由依が恐怖に耐えながらも、一同に詫びる。情けないのだ、自分がみんなの足手まといになっていることが。
「貴様〜!この最低の野郎が!」
「浩平、抑えて下さい・・・」
茜も悔しそうな表情を見せる。
「俺達をどうするつもりだ・・・?」
「とりあえず牢獄に入ってもらうさ。裁きは創主が下す。武器を捨て・・・」
と、その時。
ブワッ・・・ドゴオオオオオオッッッッッ!!!
突然浩平と高槻の間の床板が一瞬盛り上がり、轟音とともに破裂した。
「何だー!?これは一体!?」
飛び交う木くずに顔を覆いながら高槻が叫ぶ。
「今よ!あの娘を助けなさい!」
郁未が階下からここに降り立った。今の爆発は彼女の力である。浩平は郁未の言葉を聞き、すぐに行動に移した。
「高槻ー!」
ここからお瑞の元へ走っても間に合わない。飛び道具が欲しい。それを浩平は持っていた。氷上から受け取った拳銃を懐から取り出す。
ズキューン!
「ぎゃっ!」
弾丸はお瑞を捕らえた男の肩に命中する。男は小刀を落とした。その隙に詩子が走り出していた。
「折原!由依さんは大丈夫よ!」
詩子の言葉に浩平は安堵する。それとは逆に高槻がうろたえる。
「くっ、くそー!」
高槻は脱兎のごとく階段に向かう。それを別段追撃をかける気はなかった。所詮婦亜瑠後がなければ何もできないのだ。
「由依さん・・・大丈夫?」
茜が詩子に抱かれた由依に声をかける。
「はい・・・ごめんなさい・・・」
安心したのか、由依は気を失った。茜も安堵しわずかにほほ笑む。
「詩子、この娘を安全な所に連れてってくれないか?」
「ええ〜、ここまで来てそれ?」
「すまない」
「仕方ないなぁ・・・」
詩子は不満であったが、浩平の真剣な顔を見て拒否することはできなかった。
(何だかんだ言って、優しいんだから・・・)



「はあ・・・はあ・・・はあ・・・くそ!なぜわたしがこんな目に!」
脱出した高槻であるが立ちはだかる者がいた。
「むっ!?」
その姿を見て、足を止める高槻。その表情はすぐに恐怖に変わった。
「お、お前は!?・・・来るな・・・来るなぁー!」
晴香はゆっくりと近づく、兄の敵を討つために。
「た、助けてくれー!」
懇願する高槻。しかし、それが最後の言葉となった。
メキィ!
不快な何かの折れる音。
シュワアアアァァァーーー!!!
そして烈風に巻かれ、高槻の体は切り刻まれてゆく。
「愚かな男・・・」
晴香はそう呟いた。高槻の哀れな最後であった。



家茂のいる階にやっと着いた三人。いくらかの守りがいたが、ものの数ではなかった。
「あそこが兄上の部屋です!」
茜の声は心なしかうれしそうである。これで兄を救うことができるのだから。
「よし!行くぞ!
だが横合いからものすごい殺気を感じた浩平は、咄嗟に十手を構えた。
ガキーン!
金属音をい立てて、浩平は繰り出された突きを受けた。浩平はすぐにわかった。誰から放たれたものか。
「沖田ー!」
「勝負だ!折原浩平!」
ついに激突の時が来たのだ。
「茜!郁未!お前等は先に行け!」
それは浩平の意地である。どうしても沖田とは決着をつけたいのだ。そしてそれを止めることは、茜達びはできない。
「浩平・・・みんなが待ってますからね」
「おう!」
そして、浩平と沖田は離れる。
「肩の傷はいいようだな」
「おかげさんでね。そっちも労咳は大丈夫なのか?」
「ふん、例え命燃え尽きようともお前を倒す!」
ダッ!
沖田はそう言って駆け出す。浩平も迎え討とうと間合いを詰めに入った。
「うおおお!」
「どりゃー!」
沖田は上段に、浩平は低い姿勢から十手を振り上げる。
キーン!
ぶつかり合う二人。そこから鋭い斬撃を二人は打ち合う。その度に火花が舞う。
「もうこんなことはやめろ!沖田!」
「今更おじけついたか!」
「違う!お前だって気気付いてるはずだ!」
「!?」
ビシイ!浩平の一撃が沖田の肩を打つ。痛みにこらえながらも。沖田はひかない。
「婦亜瑠後は邪悪であることを知っているはずだー!」
「黙れぇ!今更生き方をかえれるかー!」
浩平は打ち合う度に気付いていた。沖田が苦しんでいることを。生に執着するため、自分が間違っていることに気付くが、後戻りできずにいることを。



「兄上!」
病室に飛びこんだ茜と郁未であるが、そこでは衝撃的なことが待っていた。
「うっ・・・」
家茂がうめく。その体には女がのしかかり、顔を寄せていた。女が顔を上げる。・・・女は生気を吸っていた。
「くくく・・・これで我が望みは達せられる・・・世が混乱し、救いを求めた時に我は復活する・・・・・」
それは女の声ではなかった。だが、聞き覚えがある。そう、創主の声である。
「受け継ぎし者よ、そして反逆者よ。天守閣で勝負だ・・・」
そう言って、女は素早い動きで姿を消した。茜は動けなかった。なぜなら実の兄が今命を終えようとしているから。
「兄上ー!」
家茂に駆け寄る茜。その茜に家茂は手をさしのべた。
「兄上しっかり!」
「茜・・・そんな顔するな・・・・・・綺麗な顔が台無しだぞ」
家茂「は笑いかけようとしたが、それはできなかった。
「兄上・・・今、医者を・・・」
「いい・・・それよりもそばにいてくれ・・・・・・」
「・・・・・」
茜はそれに従った。茜は悟った。家茂がもう長くないことを。
「茜・・・わたしは兄らしいことはできなかったな・・・・・・」
「そんなことありません・・・」
茜はいつの間にか涙を流していた。
「お前は笑顔が似合う・・・だから泣くな・・・・・・」
家茂の手がはらりと落ちる。その時、一つの命の火が消えた。
「兄上ー!!!」
慶応二年八月二十日、十四代将軍徳川家茂死亡。歴史上それは病死と記録される。そして郁未は女を知っていた。一時期婦亜瑠後内で、同じ棟で暮らしていた知人。
「お葉さん・・・」
最後の戦いが始まろうとしている・・・・・・・・・。



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〜浩平の愚痴〜
さあ!ついに大詰めも大詰め!戦いに続く戦い!長々続いたこの駄作(^^)
浩平「自分で言ってんじゃねーよ」
今回、かなりまじです!
浩平「あ〜あ、やっと終わるのかこのシリーズ」
そこ!まだ話は終わってな〜い!特に浩平!お前のラストはどうなっているのかわかっているのか!?
浩平「なに?なんかあるのか?」
あるさ・・・すごいあるさ!
浩平「それは一体?」
秘密。
浩平「ひっぱるんじゃね〜!」
お楽しみは最後までだよ(^^)それじゃ犯科帳最後の予告!さあ、ついにきました最終回!!!


次回浩平犯科帳 第三部 最終話「帰還」ご期待下さい!