浩平犯科帳 第三部 第十二話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第十二話「濁流」


「ぐおおおぉぉぉ・・・・・・・のあああぁぁぁぁぁ・・・・・・・」
そこは闇。光りを通さない闇の深淵。生きるものは存在せず、全てのものは闇に呑み込まれている。そんな世界でも存在しようと努力する意志があった。
「ぬうううぅぅぅ・・・・・・必ず・・・・・・必ず・・・現世に戻ろうぞ・・・・・・・・・」
その意志は憎しみ。全てを破滅へと導く存在であった。



婦亜瑠後施設、壱棟。郁未は自室で床についていた。晴香との戦闘を経て、彼女の体は回復へ向かおうと必死に眠っていた。
(あたたかい・・・誰かがわたしを撫でている・・・・・・)
覚醒していない意識がそうとらえていた。確かに誰かが郁未の頭を優しく撫でている。
(この感じ・・・お母さん・・・・・?)
それは適わぬ願いである。それでも郁未は心地よかった。
「ごめんね・・・」
聞き覚えのある声。安らぎ落ち着く声だった、まるで母のような。でも、郁未は知っていた母がこの世に存在しないことを、それに気付いた時、郁未は目を覚ました。
「起きたかい・・・?」
「うん・・・」
ぼやけた視界に少年の顔が写る。その顔はどこか寂しそうな笑顔だった。
「まだ体を動かさない方がいいよ。君は無理をしすぎだから・・・」
「ねえ・・・晴香はどうなったの?それに仁義屋の人達は・・・・・?」
「仁義屋は多分脱出したと思う。君の友達は・・・」
少年はいったん言葉を止めた。次の言葉が郁未を悲しませるだろうから、しかし黙っていても郁未は真実を掴もうとするだろう。それを少年は理解していた。
「・・・行方がわからない。ここで休ませている間、どこかに行ってしまったようだ。多分・・・創主に操られていたんだろう」
「そう・・・」
郁未はそれだけ答えた。悲しみはなぜか湧いてこなかった。晴香が死ぬはずない、そう心のどこかで感じていたからだ。
ドカア!
その時、部屋の扉が乱暴に開け放たれた。そして数人の男達が流れ込んでくる。
「反逆者、天沢郁未!謀反の罪で捕らえる!」
「!?」
恐れていた事態が発生した。自分達の動きは察知されていたことは知っている。しかし、最悪な状況である。そしてその郁未に後方にいた高槻が愉快そうに声をかけた。
「創主様はお籠りなされた。そのためしばらくは活動は我らでやるしかない。そこで和を乱すお前等には消えてもらう!」
「晴香はどうなったの!?」
「さあな、暴走してそこらで死んでるんじゃないのか?」
高槻は声をあげてわらいだした。そして部下に郁未を捕らえるように命じた。
「貴様には処刑が待っているぞ・・・」
「・・・・・」
郁未は部屋から連れていかれる際、少年の背中を見た。その背中は泣いているように見えた・・・・・・。



仁義屋の集合場所だった、いつものあばら屋。しかし、ここに皆がそろうことはないだろう。操練所の脱出に成功した浩平達は遺品の整理に来ていた。そこで浩平は氷上の手紙を発見した。手紙の内容は以下のようであった。
『この文を読んでいるということは、僕はこの世界に存在していないだろう。いや、最初から存在してないのかもね。僕は死んでいるのだから』
いつもの氷上しゃべり方のような文面である。
『突然のことに理解でいていないだろうから説明するよ。僕は三百年前、婦亜瑠後創主である信長公に仕えていた。彼は西洋文化に触れる内に、不可視の力とそれを扱う不思議な一族に出会ったんだ。その一族は人の姿を借り、信長公に監禁され利用された。信長公は家康公も巻き込み、不可視の力を得た。僕もだけどね。そして彼が望んだのは意志の存在。永遠に生き続けるためのね。でもそれは違う。彼は生きているのではない。肉体を持たない意志の存在等死んでいるに等しい。だから僕はこの世界にとどまろうとした。でも、それも限界だったよ。僕は肉体を失ったその時に、命の大切さ、生きることの素晴らしさを知ったんだ。その証拠に殺しは禁じていただろう?僕はもう存在しないけど、後は任せたよ。君達ならできるはずだ。君達に出会えて本当にうれしかった。ありがとう・・・さようなら』
これが手紙の全てであった。浩平は無意識の内にそれを握りしめていた。氷上の存在の大きさを今更気付いた。なぜいなくなってから気付くのだろう?その時、浩平は氷上の顔を思い浮かべた。そして気付く。
(そうか・・・あいつは親父だったのか・・・・・・)
氷上は今まで浩平を見守ってくれていたのだ。そしてそれに答えることができないことを知った・・・・・。



郁未は絶望していた。暗い牢獄の中で。あれから何日が過ぎただろう?捕らわれ、自分の信じていたものが壊されてから郁未の心は凍っていた。
『奴は人間じゃない!』
高槻の言葉を信じたくなかった。少年が自分の復讐の対象に加わったことを。
(でも・・・それもできないだろうな・・・・・・)
郁未はうつろにそう思った。自分の処刑が近いことを知っているからだ。
「き、貴様!なぜ力を使えるんだ!?」
外でそんな声が聞こえる。見張りの声だ。しかし、それを郁未は他人事のように聞いていた。
「やってみればなんとかなるものだね」
少年の声も聞こえる。
(まさかね・・・助けにくるはずがないよ・・・・・・あいつが)
「止まれ!それ以上来るな!」
「止まるのかい?」
「ち、違う!力をつかうなあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
グシャア!
それは幻聴ではない。しかし、それでも郁未は信じられなかった。少年の姿を見るまでは。
「やあ、起こしたかい?」
「そんな・・・どうして・・・?」
少年はいつもの笑顔でほほ笑む。しかし、その両手はちぎれ血が垂れている。
「どうして・・・どうしてわたしを助けるの?」
「希望だからさ」
少年は牢の前に立つと、力を発して格子を砕く。
「さあ、行くんだ・・・郁未」
「いや・・・あなたも・・・」
その郁未の言葉を、少年が自らの唇で止める。
「僕の最後のわがままだよ。さ・・・痛みで気が狂ってしまいそうだ。だから行くんだ。郁未・・・僕はいつでも君の側に・・・・・」
ズバーーーーーン!!!
銃声が響き、少年は言葉を止めた。永遠に・・・。
「いやーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
崩れ落ちる少年。郁未はそれがゆっくりと見えた。そして、力を解放した・・・・・・。



人の感情に関係なく月日は流れるものである。例え傷が癒されなかろうとも。すでに暦は八月を迎えようとしていた。浩平は日常に戻っていた。婦亜瑠後の動きもあれから止まっている。肩の傷も癒え、浩平の生活は平和だった。
「浩平・・・」
「なんだ?」
「ううん・・・やっぱりなんでもない・・・」
浩平は更けゆく夜を、お瑞のひざ枕でぼんやりと過ごしていた。お瑞の肌の暖かさを感じながら、浩平は幸せに浸っていた。だが一方で悲しくなる。全ては終わっていない、次は命の保証がないだろう。お瑞の側にいるのもこれが最後かもしれない。そう戦いの日は再びやってきたのだ。
「なあ、お瑞・・・今年も夏祭りいこうな」
「うん・・・」
「花火も見ような」
「うん・・・」
「だから・・・」
「・・・」
「ずっと笑っていてくれよ」
「うん」
お瑞は全てを知っている。浩平は半年前の戦いの出発で書いた手紙に、仁義屋のことを書いた。
「俺は必ず帰ってくるから・・・」



「遅かったわね」
お七の声だ。ここはあばら屋。ここに集まるのも半年ぶりである。
「すまない。状況を説明してくれ」
浩平は前方の茜を促した。
「婦亜瑠後が動き出しました。それも兄上を狙って・・・」
茜の言葉は怒りに震えている。
「最近・・・兄上が病床にふけっているのですが、様子が変なんです。多分・・・創主の力だと」
「確信は?」
「兄上を邪悪な影がとりまいてます・・・」
「ふむ・・・」
そこで詩子が茜に代わり話し出す。
「今、家茂様は大阪城にいるのよ。でも、城の者が婦亜瑠後の息のかかった奴等なの」
「本当か?」
「高槻とか言う幕僚が頭角を現し始めたのよ」
そこで茜が口を挟む。
「なぜか兄上には会わせてくれないんです。他の側近達も」
「なるほど、大阪城か・・・でも四人で攻めれるのか?城の守りは全員婦亜瑠後の奴等なんだろ?」
「はい・・・」
その時、戸から声が発せられた。聞き覚えのある声だ。
「数は関係ないわ。量より質よ」
戸口を開け入ってきたのは。
「お前は!?」
「郁未さん!」
詩子が名前を口にする。
「お久しぶりね、仁義屋のみなさん。今度はわたしが助けさせてもらうわ」
全ての決着をつける日がついに来た。最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた・・・・・・・。




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〜浩平の愚痴〜
あっ、なんか感動的(^^)
浩平「なにいってんだ。MOONのパクリじゃないか」
そうせめるな。このシリーズは一応、ONE&MOONがベースだからな。
浩平「でも死んだの高槻じゃないな」
奴にはまだやることがあるから。どうせやられるけどね(^^)
浩平「定番だね」
さて、犯科帳最後の戦いが始まります!次回はとにかく戦闘!沖田と浩平の因縁、最後の壁お葉!その他雑魚戦など(^^)気合入れてかきます!でもめちゃくちゃ(^^;浩平犯科帳、ラスト2です!


次回浩平犯科帳 第三部 第十三話「決戦」ご期待下さい!