浩平犯科帳 第三部 第十一話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第十一話「消滅」


「浩平・・・」
「はい?」
浩平の肩の手当てを手伝う氷上は、浩平に話しかけた。
「君は江戸にもどるんだ」
「こんな肩の傷ぐらいどうってことないですよ」
「そうじゃない。君にはまだやるべきことがある。そのためにはここを離れなきゃいけない」
「どういうことです?でも、お頭が行くっ、ていくのに俺がいかないはずがないじゃないですか。とことん付き合いますよ!」
「浩平・・・」
氷上は浩平の瞳を見て、その心がゆるぎないことを知った。
「わかったよ。でも、危なくなったらすぐに脱出するんだ。みんなを連れてね」
「お頭・・・まさか」
「さ、いこうか」
氷上は浩平の言葉を振り払うかのように歩き出した。浩平を不安が襲っていた。



「ここだよ」
少年はお七達を壱棟内のとある壁の前に連れてきていた。だが、そこには爪でひっかいたような跡があるだけで、他には何もない。
「何にもないじゃない」
案の定、お七が疑問を口にする。
「あるさ。本能だけが知る創主への道がね」
その言葉を裏づけるかのように、茜が口を開いた。
「感じます・・・この先に邪心と欲望の存在が・・・・・・」
「わかるようだね。君にはそれを打ち倒す役目がある」
「あなたは一体何者ですか?」
少年はその問いには答えずに言った。
「さあ、行くんだ。全ては君自身でしるんだ」
そう言って、少年は背を向けてその場を去る。
「どうする?」
「・・・行くしかないです」
「行くっ、て茜ちょっと!」
茜は詩子の制止を聞かずに、力を収束し始めた。そして、解放する。
ズゴオオオオオンンン!!!
轟音と共に、壁が崩れる。その先に見えるのは・・・
「道・・・」
お七は思わず呟いてしまう。壁の向こうには一本道が続いていた。
「行きましょう・・・」
茜は先行して歩き出す。続いて、詩子、お七と進む。彼らは全くの無言で進む。そして彼らの目の前に現れたのは、真っ黒な鋼鉄製の扉であった。いや、扉というのは語弊があるかもしれない。扉には取っ手もなく、すき間すら見当たらないからだ。
「どれはどうしたら・・・」
「吹き飛ばします」
言うや否や、茜は再び力を収束しようとしたが、辺りに声が響き始めた。
「騒がしいな・・・・ここを知るとは・・・奴め・・・よかろう・・・・・・我に刃向かう・・・小娘ども・・・・・・来るが良い・・・・・・」
ズズズズズ・・・・・・
言葉が途切れると、扉は真ん中から左右に別れ開いた。
「いくわよ・・・」
「うん」
「はい・・・」
そして、彼らが踏み入れた世界とは・・・
「何これ!?」
「こんなところに・・・」
「花畑・・・」
そう、そこには一面の花が咲き誇っていた。花以外は見当たらない。
「どうかね・・・我が世界は・・・」
声は響くが、やはり姿は見えない。
「こんなのどうでもいいのよ!姿を現しなさい!」
お七は刀を構え叫ぶが、声は愉快そうに返してきた。
「くっ、くっ、くっ・・・とうにわたしは・・・いるのだよ・・・・・・この世界自体がわたしだからだ・・・・・・」
「ふざけてんじゃないわよ!」
「理解に乏しいか・・・いいだろう・・・・・・その身を持って・・・我が存在を思い知らせてやる・・・・・・」
「うるさい!」
お七は駆け出すと、めちゃくちゃに刀を振り回す。その度に花達が斬られ宙に舞う。
「お七さん!危ないです!」
その時、茜が周りの異変に気付き叫んだ。しかし、それは遅い。
「えっ?」
バシュウ!
突然、旋風が巻き起こり、衝撃波がお七を吹き飛ばした。
「きゃああああっ!」
お七はもろにそれを食らい、気絶した。
「お七!」
詩子が駆けよろうとするが、同じく茜が叫ぶ。
「詩子!」
「!?」
グシャアッ!
詩子は間一髪、その場を飛びすさる。詩子がいた場所は地面が陥没し、土がえぐられていた。茜の声が少しでも遅かったら、詩子の頭はつぶされていただろう。
「目障りな・・・・・受け継ぐ者め・・・しかし・・・・・・わたしに適うかな・・・・・?」
ゴオオオオオオオオオッッッッッッ!!!
辺りの花を突然の竜巻がかき消してゆく。
「詩子!お七さんを連れて、逃げて下さい!」
「茜は!?」
「創主を倒します!」
茜は障壁を作るために、力を収束する。この竜巻を耐えるには全力を使うしかない。
「・・・・・・・!」
ガリガリガリガリ!!!
茜は広範囲に渡って、障壁を作り出した。その障壁に竜巻はぶつかり、立ち往生している。しかし、茜も次の行動に移れず苦戦している。
「茜!」
「はやく!詩子!」
「くっ、くっ、くっ・・・この程度で我を倒そうとういのか・・・・・・笑わせてくれる!」
次の瞬間、竜巻はさらに勢いを強めた。
バキーーーーン!!!
「きゃーーーーーーー!!!」
何かが割れるような音が茜は吹き飛ばされる。障壁を張っていたおかげで、致命傷はさけられたが。
「くっ・・・強すぎます・・・・・・」
「言っただろう・・・ここは・・・・・我が世界・・・我に適う者は・・・・・・・いないのだ」
絶対絶命である。茜の力も通じず、全ては創主の手にかかっている。
「とどめだ・・・勇敢な乙女達よ・・・・・・」
辺りの空気が重く変動し始める。
「・・・・・」
茜と詩子は死を予感した。しかし、希望をもたらす声が聞こえた。
「まだあきらめちゃいけないよ」
「そうだぜ!お前等はまだ生きてるんだぞ!」
浩平と氷上だ。
「お頭!」
「浩平・・・」
詩子と茜はそれぞれ名を呼んだ。すると、空気は正常に戻り、創主の動揺した声が響いた。
「ついに・・・きたか・・・」
その声に氷上は冷静に返す。
「お久しぶりですね・・・信長公・・・・・・」
氷上は確かにそう言った。三百年以上も昔、夢半ばに散った魔人、織田信長。もちろん生きているはずがない。浩平達は突然の事態に驚く。
「お頭!信長っ、て・・・」
氷上は浩平の言葉を無視して、声を上げた。もちろん姿の見えない声に向かってである。
「三百年前・・・僕はあなたを止めるべきでしたよ」
「・・・蘭丸・・・・・我に刃向かうか・・・・・・・・」
今度は声が氷上をそう呼んだ。森蘭丸。信長に使え、最後を共にしたといわれる麗人。同じくこの世に存在するはずがない。
「その名を使うのはやめて下さい。もう捨てましたよ」
「ふん・・・滅び行く姿をとどめ・・・・・・お前は何を望む・・・せっかくの力を・・・・・・無駄に現世に存在するために使いおって・・・・・」
「気付いたのですよ。滅び行く間際で、命の大切さと生きることの素晴らしさを。それをあなたにも教えるべきだった・・・あの時、力の行使を止めていれば・・・・・・・・」
氷上は三百年前の情景を鮮明に思い出していた。



時は1582年本能寺、家臣明智光秀の謀反により信長は火中に身をゆだねようとしていた。
「信長様!はやくお逃げください!今なら間に合います!」
信長の寝床に蘭丸が飛び込む。その姿は今の氷上と全く変わらない。
「蘭丸・・・わしに背を向けて逃げろと言うのか?」
「しかし、信長様!」
「くっ、くっ、くっ!家康もやってくれるは、不可視の力を恐れ全てを闇に葬ろうとは・・・わしもろともな」
何がおかしいのか信長は笑い始める。
「蘭丸よ。人の寿命等たかだか五十、今天下を取ってもたかが知れている」
「まさか・・・」
蘭丸はその時点で察しがついた。信長の企みを。
「わしは至高の存在になるぞ!火に焼かれ鳳凰のようによみがえるのだ!蘭丸よ、ついてきてくれるな?」
「・・・・・はい」
蘭丸は迷いながらもそう答えた。忠誠を誓う君主に聞かれればそう答えるしかない。しかし、それは最大の後悔をもたらすのだが。
「ふっ、ふっ、ふっ・・・我は今こそ神になるのだ!」
「・・・」
信長は不可視の力を用い、現世の姿を捨て意志の存在となろうとしていた。何百年、何千年と存在するために。
「はーはっはっはっ!」
信長の嘲笑が炎に包まれながら、高らかに響いた。



「信長公・・・あなたを倒せないまでも、力を封じて見せます!」
「たわごとを・・・その骸に等しい身で・・・何ができる」
氷上は側にいる浩平に落ち着いた声で話しかけた。
「君達はここをすぐ離れるんだ」
「お頭!でも・・・」
その浩平に氷上がすっ、と拳銃を差し出した。
「餞別だと思ってくれ、弾は五発残っている」
浩平はそれを受け取るが、その時わずかに手が触れた。氷上の手は死人のように冷たい。いや、すでに氷上の体は滅びようとしていた。意志の存在になるのを拒否し、形を残そうとしていた結果だ。もう、時間は残されていない。
「お頭・・・あんたは!」
「そんな悲しい顔をしないでくれよ。さあ、いくんだ。もう敵は待ってくれない」
浩平は有無を言わせない氷上に従うしかなかった。浩平は共に戦いたかった。しかし、今戦っても犬死にだ。
「浩平・・・行きましょう」
茜もそっとささやく。その表情はつらそうであった。
「わかった・・・」
浩平は気絶したお七を担ぎ、拳銃はしっかりと懐に納めた。
「お頭!必ず戻って来てくださいよ!」
「うん・・・きっとね」
浩平が最後に見たのは氷上の笑顔だった。
「いくぞ・・・蘭丸・・・いや・・・!氷上駿!」
「!」
ズズズズズズズズズズズ!!!!!
辺りの地面が突然揺れ出す。しかし、氷上は動じない。氷上は全ての力を解放しようとしていた。自分の姿をとどめている最後の力を。
ビシュウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
氷上の体が一瞬輝いた。そして次の瞬間。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!
力がぶつかり、辺りをその巨大な余波が呑み込もうとしていた。あたりは閃光に包まれ、壁もくずれ落ちてゆく。それは施設内にも及んでいた。
「やばい!」
それは浩平達も危険にさらしていた。中庭まで必死に走る。さらに走り続け、最初のがけに着いた。
途中、婦亜瑠後の配下の者を何度か見た。しかし、彼らもそれどころではなく慌てふためいていた。
「郁未さん達は無事よね」
「きっと・・・大丈夫です」
詩子のつぶやきに茜が答えた。しかし確信はない。
「お頭・・・」
浩平もぽつりと呟いた。その顔は泣きそうである。しかし泣くことは許されない。まだ戦いは終わってないのだから。
浩平の脳裏に氷上の笑顔がよぎった・・・・・・・。




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〜浩平の愚痴〜
わけわからないです(^^)しかも話が飛躍しすぎ。
浩平「自分で言うなよ。しかし信長には驚いた」
そうだろう。ここまでくるのはほんと長かった!最初から信長や家康、蘭丸の設定は決まってたからな〜。
浩平「ところでさ。一体氷上はどうなったの?」
う〜ん、本編じゃ語りきれなかったからな。他にも説明できてないし。
浩平「どうするの?」
一応『なぜなに犯科帳』で説明するよ。まあそういうことで・・・長々続いてきた犯科帳もラスト3!大詰めです・・・!


次回浩平犯科帳 第三部 第十二話「最後の晩餐」ご期待下さい!