浩平犯科帳 第三部 第十話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第十話「死闘」


婦亜瑠後施設内に潜入した浩平と茜。先に潜入したお七と詩子に合流するために、中庭をただ走り続けていた。
「茜、あいつらの居所わかるか!?」
「多分・・・東の方角、東側の建物です!」
「よし!」
壱棟に向かう二人、彼らにたちはだかる者がいた。
「むっ!?」
浩平はピタリと足を止めた。茜もそれにならう。
「どうしましたか?」
「敵だ・・・」
月明かりの向こう。深い闇の中からそれは現れた。
「てめえ・・・!?まさか!」
「久しぶりだな・・・」
「沖田総司!」
新選組一番隊隊長として京都の勤王派に恐れられ、浩平とも剣を交わった。しかし、結核をわずらい前線をはずれ歴史の表舞台から身を消した男が、今浩平の目の前にいた。
「まさか、再びあい見えるとは思わなかったな。あの時の雪辱・・・今ここで返す!」
「なぜ!お前が婦亜瑠後に!?まさか強化体に・・・!」
「ふん・・・そこまで落ちぶれてない。ただ、病に伏しのたれ死ぬ等、俺には許せんのだ!」
沖田は洗脳は受けていなかった。その病に冒された身を、婦亜瑠後に助けられその配下に加わったのだ。
「婦亜瑠後に手を貸すなぞ、そこまでして生に執着するか!」
「黙れ!」
次の瞬間、二人は同時に駆け出した。浩平は十手を構え、沖田は柄に手を添えた。
「うおおおおおっ!!!」
「たあああああっ!!!」
キーーーーン!!!
沖田が刀を抜き放ち、浩平がそれを受け止める。火花が飛び散り、金属音が鳴り響いた。
「浩平!」
「茜!お前は先に進め!」
「でも!」
「いいから!」
ドカッ!
浩平は沖田に低い蹴りを加え、距離を取った。
「お前のしていることは、罪もない人を苦しめるだけだ!」
「婦亜瑠後はそれ以上の人々を救う!」
沖田は横に刀を構え、斬り掛かる。
「わからずやっ!」
シュン!
沖田が刀を横になぎ払う。それは空を切り裂き、浩平を襲った。だが、浩平はしゃがみ込みその斬撃をかわす。
「だあっ!」
懐に飛び込み、沖田の後ろに回り込む浩平。そこに十手を打ちつけた。
「甘いわっ!」
ガキッ!
沖田は体をひねり、返す刀でそれを防ぐ。そのままつばぜり合いに陥る。
「うおおおおおおおおおっ!」
「ぬううううううううううううっ!」



一方、お七と詩子は安全な場所を求めて、壱棟内をさまよっていた。しかし、郁未と晴香を抱えているため目立つ行動ができない。
「向こうの方で火薬の音がしたぞ!」
「中庭で沖田が戦闘しているらしい!」
「創主様の守りを固めろ!」
棟内では巡回員達の怒声が響いている。お七達はそれを物陰から観察していた。
「このままじゃ見つかるわね・・・」
「どうするの?」
「折原達も手一杯のようね」
状況は最悪であった。しかし、そんな彼らに意外な助けが現れた。
「お困りのようだね」
「誰!」
二人は後ろを驚いて振り向く。全く気配を感じなかったのだ。
「怪しい者じゃないよ」
そこには笑顔を浮かべる不思議な少年が立っていた。青みがかった白髪に、金色の瞳。怪しくないはずがない。
スチャッ!
お七は刀を構えようとするが、それを少年は止める。
「警戒しないでくれよ。僕は郁未の同居人だ。少なくとも君達の敵ではない」
「あなたが・・・」
詩子は納得できた。郁未から少し不思議な同居人の話を聞いていたからだ。
「ともかくここはまずい。僕の部屋に運ぼう」
お七達は少年の言葉に従うことにした。とりあえず今はこうする他道はない。
「詩子!お七さん!無事だったんですね!」
その時、少年とは別の方から茜がやってきた。
「茜!折原は!?」
「・・・敵と戦っています」



浩平と沖田の戦いは続いていた。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
「ぜえ・・・ぜえ・・ぜえ・・・」
両者は荒い息をつく。これまでの戦いは全くの互角であった。
「さすがにやるな・・・」
「てめえこそ・・・」
二人はお互いににやりと笑う。
「そろそろ決めるか・・・」
「望む所だ!」
二人は同時に間合いを詰めようと駆け出す。
「これで最後だ!折原浩平!」
「怨念で人を救えるはずがない!」
「お前を殺ってからそうする!」
沖田は駆けながらも、刀を中段に構える。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーっ!!!」
「まずい!?」
沖田は浩平の十数歩手前で大きく踏み込んだ。浩平は慌てて防御に入る。浩平は次に繰り出されるものに気付いた。
シュッ!
空を切り裂く鋭い突きが放たれる。
キン!
浩平はそれを受けるが勢いに負けて、十手を弾かれた。そして沖田の攻撃は終わらない。
シュウッ!
二撃目、さらに鋭い突きが繰り出される。
シュパッ!
「くっ!」
浩平は身をよじり回避するが左腕をかすめた。そして最強の三撃目。
「もらったぁ!」
ズブッ!
「ぐああっ!」
沖田の刀が浩平の左肩を貫いた。痛みに浩平は顔をゆがめる。
ドカッ!
浩平の腹に蹴りを入れる沖田。崩れ落ちる浩平。
「とどめだ・・・」
「ぐう・・・」
冷たく言い放ち、沖田が刀を振り上げた。
(お瑞・・・すまん・・・・・)
浩平は死を覚悟した。そして、今まさに沖田の凶剣が振りおろされようとした時。
ズキューーーン!
「ぬっ!?」
銃声が響き、沖田が手を抑えてしゃがみこんだ。その手からは血が流れ落ちている。
「誰だ!」
沖田が振り向いた先には・・・
「間に合ったようだね・・・」
「お頭!」
拳銃を構え、月明かりに立つ氷上がそこにいた。
「お、おのれー!」
「まだ、やるかい?これ以上戦うのなら僕だって容赦しないよ」
「覚えておれ!」
沖田は刀を拾うと脱兎のごとく走り出した。氷上はそれを特に追いかけもしない。
「お頭・・・ありがとうございます」
「礼はいいよ。茜達はどうしたんだい?」
「すでに潜入しました」
「そうか、じゃあいこうか」
まるでどこかにでかけるような口ぶりで氷上は言った。
「どこにですか?」
それにつられ浩平は間抜けにも聞いてしまう。
「創主のところさ」
氷上はさらりと口にした。



「ここが僕らの部屋さ」
少年に連れられ入った部屋は、何とも殺風景であった。窓が一つもないのだ。
「どうして私達を助けたの?」
「僕は別に婦亜瑠後に加担しているわけではない。ただ捕縛され利用されているだけさ・・・」
お七の問いに答える少年だが、次には自虐的な笑みを浮かべて呟いた。
「僕も郁未やこの娘達を利用しようとしているかもね・・・・・・」
「えっ?」
「いや、なんでもない。ところで君達は創主を討つために、ここに来たんだろう?」
「なぜわかるの?」
「彼の考えていることはわかるさ・・・」
少年は意味のわからない答えを返す。
「創主のところにいくなら、案内するよ」
「いいのですか?」
茜の問いに少年は笑って答えた。
「力を受け継ぐ君にならわかるだろう?これが運命であることを・・・・・・・」




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
〜浩平の愚痴〜
今回は少年の台詞で終わったな。しかも気になる終わり方(^^)
浩平「負けた・・・剣での勝負で・・・」
ふっ、何を落ち込んでいる。戦いは終わってないぞ。
浩平「まさか沖田がでてくるとは・・・」
こんないいキャラ使わない手はないだろ。おかげでお前の出番増えてるし。
浩平「あのときは俺が逃げたからな・・・次は勝つ!・・・でも次って?」
それは秘密。それじゃ次回までさよなら〜!
浩平「本当に最終回近いのか?」


次回浩平犯科帳 第三部 第十一話「消滅」ご期待下さい!