浩平犯科帳 第三部 第八話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第八話「開戦」


夜の闇がその濃さを増し、皆が寝静まった頃。浩平の長屋ではまだ灯りがついていた。
「・・・・・・・」
浩平は一人、卓に向かって無言で手紙を書いている。そのかたわらではお瑞が静かな寝息を多々をたてていた。
「ごめんな・・・」
浩平はその寝顔を見て、ぽつりと呟いた。そして防寒用の蓑を被ると、冷え込む外へと足を踏み出した。命をかけた戦いへと・・・・・・。



その頃海軍操練所、婦亜瑠後婦亜瑠後施設内の郁未達の集合場所では。
「晴香さん遅いですね」
「そうね・・・」
先に着いた二人は晴香を待っていた。しかし今日はずいぶんと来るのが遅い。郁未は嫌な予感がしていた・・・・・・。



郁未達が危惧するその晴香は、今弐棟内のとある部屋に来ていた。そこには精練の間と書かれた札がかけられている。
「どういう風の吹き回し?わたしをここに呼び出すなんて?」
「相変わらずきつい言葉だな」
奥から男が姿を現した。その男は・・・
「あんたをここで殺してもいいのよ?高槻・・・」
晴香の声は鋭さを増している。
「兄を殺された恨み・・・忘れはしないわ・・・・・・!」
「ふん、裏切り者風情がたわけたことを・・・」
「何ですって!」
怒りに身を任せ晴香は力を解放しようとした。が、しかし、
「これは!?力が封じられている!?」
その声に高槻は声をあげて笑い出した。
「はっ!はっ!はっ!発動体も力が使えなければ、ただの小娘だなぁ」
「一体何をしたの!?」
「いいだろう教えてやる。この部屋には創主様の布陣が敷かれているのよ!お前の力を封じるためになぁ!」
晴香ははっとして周りを見渡した。言葉通り、部屋の四隅には護符が打ちつけられている。
「わたしをどうするつもり!?」
「どうもしないさ・・・ただ、本来の役目をしてもらうのさ・・・発動体としてのな・・・」
その次の瞬間、晴香の周りの空気に異変が起こった。
「うっ・・・!」
何かが押しつぶしてくるような感覚。晴香は意識を失った。
(郁未・・・由依・・・ごめん・・・・・・)
薄れゆく意識の中で、晴香は今は亡き兄、良祐の顔を見た・・・・・・・・。



一方、操練所へと向かう仁義屋の面々とお七達は、
「何もこんな樹海を歩くことないでしょー!」
声はお七のものだ。
「声が大きいぞ、もう敵地は近いんだから」
詩子の掴んだ情報によると、婦亜瑠後の操練所では大規模な人員編成が行われたらしい。さすがに表向きには幕府の海軍ともあれば、内情報告はなされているようだ。しかし、それが本当である保証はないが。それでも浩平達は信じるしかない。人員編成となれば人の出入りも大きく、内部では混乱も起こっているだろう。それを狙って夜襲をかけるのだ。
「ところでどう思う?あの三人のことを」
浩平は隣で黙々と進む茜に聞いた。
「実際に会わないことには判断がつきません。でも協力してくれると思います」
「でも一度俺達は襲われてるからなぁ・・・」
浩平の不安はそこにあった。多分上の命令か何かで動いたのだろうが、考慮すべき点でもある。
「見えましたよ」
茜の言葉通り、林木のすき間から海沿いに面した広大な施設が見えた。
「あれか・・・」
浩平は気を引き締めた。そして皆に命令を下す。全権は浩平にゆだねられていた。
「よし、予定通り詩子とお七が潜入して偵察、同時にあの三人と接触!それから合図と同時に俺と茜が突入する!」
「任せといて!」
「報酬だしなさいよ」
「・・・わかりました」
それぞれが返事を返す。
「行け!」
浩平の号令と共に、お七と詩子が駆け出す。
「大丈夫でしょうか・・・?」
「悪い予知はしてないんだろう?」
「はい・・・」
それでも不安は残る。その一方で浩平は出発前の氷上の言葉を思い出した。



「多分僕も駆けつけるよ」
「えっ?」
意外だった。氷上が直接仕事に関わることはまずない。
「それまで無理はしないでくれ」
「は、はあ・・・」



浩平が気になったのは氷上の様子が今までと違ったことだ。言葉のことではない。その存在の希薄感である。今までに感じたことのないその感じは、例えるなら、そうまるで死人のような雰囲気を持っていたのである。
(馬鹿馬鹿しい・・・)
浩平は自分の考えを振り切った。そんなことがあるはずがない。現に氷上は存在するのだから。
「さてと・・・合図を待つか・・・・・・」



お七と詩子は城壁内の潜入に成功していた。情報通り、人員の異動のおかげで警備はいくらか手薄になっている。二人は前に使用した抜け道へと向かった。
「壱棟はどこなの?」
「西側」
お七の質問に詩子は短く答えた。そして二人は無言のまま地下通路を進む。さすがに緊張が二人を支配していた。だが、その二人の存在に気付く者がいた。



「・・・侵入者・・・がいる・・・・・・・わかっているな・・・・・・・・」
暗闇の中声だけが響く。
「お前の・・・・役目は・・・・・・」
「奴等を殺す」
声より先に答えた者がいた。それは・・・・・、
「頼むぞ・・・晴香よ・・・・・・」
暗闇の中、金色に光る晴香の瞳。そこには刃物のような冷たさを漂わせていた・・・。



「けっこう広いわね〜」
「何のんきなこといってるのよ。早く郁未さんの居所に見つけないと」
「はいはい」
お七と詩子は郁未に接触するため壱棟に来ていた。壱棟は他の棟に比べれば、部屋数も少ない。だが、目立った動きはできないので行動が制限されていた。そしてまっすぐな通路を進んでいると、
カン!カン!カン!
突然棟内に警鐘が鳴り出した。慌てふためく二人。
「何!?」
「気付かれた!?」
お七の予想は当たっていた。走り出す二人の前方に三つの守衛が見えた。
「いたぞー!」
「捕らえろ!」
「くっ!」
「お七やばいわよ!後ろからも来てる!」
「最悪ね!」
見ると後ろからも同じく三人。完全に挟み打ちだ。
「六人か・・・やるしかないわね。後ろは任せたわよ詩子」
そう言い放つと、すらりと刀を抜いたお七は猛然と突進した。
「邪魔よ!」
ズバッ!
「ぎゃっ!」
閃光が一線、まず一人目の胴を抜く。
「く、くそっ!」
お七の後ろから男が斬り掛かる。だが、お七は返す刀でそれも斬り倒す。
「三下は黙ってなさい!」
ザンッ!
「ぬあああああっ!」
「よくもーーーーっ!」
キーン!
三人目の振りおろした斬撃を、刀の横腹で受ける。しかし、膝を伸ばし一瞬でそれを返すと袈裟懸けに斬る。
「たあっ!」
ズシャアッ!
「がはっ!」
一方、詩子も奮闘していた。
シュッ!シュッ!
小柄を連投し、相手を寄せつけない。そして、敵がひるんだ所で匕首を取り出す。
「はっ!」
詩子は軽やかに跳躍すると、着地と同時に二人を斬り付ける。
「うっ!」
「おのれっ!」
詩子の攻撃は少しだけ斬った程度であるが、それで十分であった。
ズサッ、ドサッ!
二人の男は意識を失った倒れた。詩子の匕首には速効性のしびれ薬が塗ってあるのだ。だが、もう一人敵は残っていた。
「もらった!」
「しまった!」
詩子は着地に気を取られ、隙ができていた。
ザシュッ!
「ぐあああああっ!!!」
断末魔の声を上げたのは、詩子ではなく男の方であった。お七が長刀を投げつけたのだ。それは男の心臓を一突きであった。
「まだまだ甘いわね。詩子」
「だからって、あんたみたいに容赦なく人を斬る気はないわよ」
「ま、ここがわたしと仁義屋の違いかな?」
危機を乗り越えた二人は、冗談を言い合うがすぐにその表情はこわばった。とてつもない殺気を二人は感じていた。
「何・・・?この感じ・・・」
「どうやら主賓はこれからのようね・・・」
お七は言いながら刀を構え直す。そして前方の通路の奥の闇を見つめる。殺気はそこから出ていた。そして二人は見た・・・。暗闇に光る金色の瞳を・・・・・・・・。




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〜浩平の愚痴〜
浩平「久しぶりのチャンバラだな」
うむ。少しは時代劇にしないとな。
浩平「でもこの様子だと次回はやばいな・・・」
わかる?いや〜全くその通りでさ(^^)まあ、とりあえず次回は先頭オンリー!
浩平「ほお、俺の出番は?」
ふっ、めずらしくあるのだよ。しかもチャンバラ。
浩平「えっ?不可視の力と戦うんじゃないの?」
それは別の奴。お前はお前で戦ってもらう。
浩平「よ〜し!腕がなるぜ!で、相手は?」
秘密(^^)多分みんな忘れてるかな?
浩平「まさか・・・あいつか?」
真相は次回!それじゃさよなら〜!


次回浩平犯科帳 第三部 第九話「激戦」ご期待下さい!