浩平犯科帳 第三部 第七話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第七話「刺客」


詩子達が婦亜瑠後施設の潜入から戻り、仁義屋の面々はお七を含めてあばら屋に集まっていた。
「どうやら婦亜瑠後の力は相当なようだね」
詩子の報告を聞いて、氷上が口を開いた。
「まさか、幕府内にも入り込んでいるとは・・・しかもこんなに深く・・・」
茜もその恐ろしさに身を震わせている。
「お頭どうします?下手に突っ込んでは返り討ちにあうでしょうし、かと言ってこのまま黙っていても奴等から動きますよ」
「ふむ・・」
浩平の言葉に氷上は少し、考える素振りを見せた。
「確かに浩平に言う通りだ。奴等は間違いなく僕らの命を狙うだろう。それだけじゃない、奴等がこの日本を混乱に陥れたら、何人に罪のない人が命を落とすことか・・・・」
その場にいるものは全員、氷上の言葉に注目している。
「奴等の動きを止めるには、上のもの、つまり婦亜瑠後の創主を倒さなくてはならない」
「あの声の野郎か・・・」
浩平はあの声を思い出すと、体の奥底から怒りが湧いてきた。奴のために何人の人が人生を狂わせられたのだろう。
「操練所の守りが手薄な時を狙おう。あれだけの規模だと人の変動も大きいはずだ。決起は追って沙汰する。それでは各自解散」
氷上の声が途切れ、皆はあばら屋を出た。
「あ〜あ、これでわたしも仁義屋に加わったのね・・・」
お七が落胆した声で言った。
「何言ってんのよ。やることはかわらないんだし、連絡もしやすいからいいじゃない」
慰めているのか、詩子がお七に明るく声をかける。
「浩平、私達が戻る前に敵に襲われたそうですね」
「ああ、まあ俺の手にかかりゃあ雑魚同然だけどな」
「油断していると足元すくわれますよ」
「厳しいなぁ・・・」
浩平はげんなりした表情を見せるが、すぐに真面目な顔なり茜に聞いた。
「そう言えば、婦亜瑠後の奴等と接触したらしいじゃないか。不可視の力を使えるってい言う」
この言葉に詩子が口を挟む。
「そうそう、いきなり協力してくれって言うからびっくりしたわ」
「協力か・・・もしかしたら一緒に戦ってくれるかもな・・・・・・」
浩平達はそれぞれ婦亜瑠後との戦いに、思いふけながら帰路についた。



それから数日後。浩平の生活には何も変化が起きなかった。仁義屋からは何も連絡が来ず、婦亜瑠後も息を潜めているのか、表立った行動をとっていない。
「ふあぁ〜〜〜あ・・・おせえな〜南の奴なにやってんだ?」
浩平は番屋で見回りに行った南の帰りを待っていた。そろそろ帰宅しようと思っていた頃に、近くで喧嘩があったという知らせがあり、南が現場に向かったのだ。その時、浩平は髭の使いでここにいなかったのである。
「もうかえっちまうかな〜」
浩平がしびれを切らしたその時、住井が戸を開け飛び込んできた。
「大変だ、旦那!南が、南!」
「どうした住井?」
「南がやられた!」
「何っ!?」
浩平はその言葉に顔色を変えた。
「やられたってどういうことだ!?」
「喧嘩の仲裁に向かったらしいが、現場には誰もいなかったそうだ!代わりに変な女がいて、そいつに・・・」
「南はどこにいる!?」
「三丁目の町医者のところだ!息はあるらしいが、かなりやばいらしい!」
「くそっ!」
浩平は話を最後まで聞いてなかった。夢中で飛び出し、南の所に向かった。



「南!」
町医者の所の着いた浩平は、屋敷の南のいる部屋に飛び込んだ。
「先生!南は!?」
「これこれ静かにせんか、安心せい。一時は危なかったがもう大丈夫だ」
「よかった・・・」
白髪の老医の言葉に浩平は胸をなで下ろした。そして布団の南に目を向ける。
「旦那・・・すいません・・・」
弱々しい声で南は声を出した。
「馬鹿野郎・・・何で俺に言わなかったんだ」
「へへ・・・少しは役に立つとこ見せたかったんですよ・・・・・」
南は薄く笑った。
「ところで誰にやられたんだ・・・」
浩平の言葉に、南は表情を凍らせた。やられた時によほどの恐怖を覚えたらしい。
「・・・長い髪の女が・・・触れもせず俺を吹き飛ばしたんです・・・・・・まるで化け物だった・・・・・」
「まさか・・・」
浩平はすぐに思い立った。不可視の力に違いない。
「他に特徴はないのか?」
「これと言って他には・・・あっ、一つだけ言ってました・・・・・・」
「何だ?」
「ただ一言・・・あなたじゃないって・・・・・・・・」
そう言うと、疲れきったのか南は目を閉じ眠りに落ちた。一方浩平は南の言葉に衝撃を受けた。
「奴等目・・・・・」
女は婦亜瑠後の手先に違いない。どうやら偽の情報で浩平をおびき出そうとしたのだろう。浩平は立ち上がり、屋敷を出た。



浩平はあばら屋に向かうため堀沿いの道を歩いていた。先ほどから、心の中で警鐘が鳴っている。間違いない、狙われている。つと、浩平は不意に足を止め後ろを振り返った。
「出てこいよ。いるんだろ?」
その言葉に夜の闇から人影が姿を表した。まだ若い女だ。
「気配は消したはずなのに・・・」
「ふん、殺気がただよってるからな。見え見えだぜ」
「そうですか・・・ならば説明はいりませんね。あなたを・・・殺します・・・・・・!」
女は静かに、しかし力強く言い放つと手を横になぎ払った。
ブワァッ!
烈風が巻き起こり、浩平を襲う。
「!?」
浩平は辛くも横に跳躍しそれをかわす。しかし女の攻撃は止まらない。
ズガガガガガ!!!!
今度は衝撃波が地を裂きながら浩平に向かってくる。
「くっ!」
それを地面を転がり、辛くもかわした。そして懐から取り出した十手を投げつける。
「このっ!」
「・・・・・・」
バシ!
しかし十手は見えない壁にぶつかったかのように、地に落ちた。しかし浩平はあらかじめそれを予想していた。地面をさらに転がり、壁に立てかけてあった棒櫂を掴む。
「たあっ!」
それを両手で掴みながら浩平は突っ込んだ。櫂の長さなら近づかなくても十分射程に入る。
バシ!
十手と同じように浩平の攻撃は女に届かない。しかし浩平は櫂を振りおろしたまま膠着状態の入った。
「ぐううううううう!」
浩平は全力で力をかける。しかし女の障壁は破れない。
「無駄です・・・この壁を破れません」
女が静かに口を開いた。
「へっ!やってみなくちゃわかんねえだろうが!」
そして二人はピクリとも動かない。しかしその状態を女が解いた。
パシュウ!
突然、見えない壁が消え、女は素早く後ろに下がった。
「うわっ!?」
浩平は突然のことに体勢を崩した。だが素早く構え直す。
「くそっ!」
「誰かきました。今日のところは見逃してあげます。でも次は確実に・・・殺します」
バシュウ!
その瞬間女の手から衝撃波が放たれ。浩平はそれをもろに受け吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
その間に女は逃げ出そうとした。その女に浩平は声をかけた。
「待ちやがれ!名前ぐらい言いやがれ!」
その言葉に女は振り向いて言った。
「巨魁のお葉です・・・」
そう言って、夜の闇に姿を消した。
「くっ・・・またやられた」
悔しがる浩平だが、向こうから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「折原!大丈夫!?」
「お七と茜か・・・・・」
「すいません遅れました」
お七と茜である。二人は茜の予知により浩平の救援にきたのだ。
「敵は?」
「逃げられた・・・」
「だらしがないわね〜」
「でも無事だっただけでもましです」
浩平は立ち上がり、十手を拾った。
「ところでどうしたんだ?」
「助けにきたのよ、遅かったようだけどね」
「それともう一つ。決起の日が来ました」
「ほんとか!?」
「はい」
「あばら屋にいくわよ」
「ああ・・・」
ついに決着の日が来た。浩平は戦いに向けて、闘志を燃やしていた・・・・・・・。




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〜浩平の愚痴〜
浩平「く〜、今回はおしかったな〜」
負けたくせに・・・。
浩平「うるさい、ところでついにクライマックスに近づいたのか?」
ふっ、それはどうかな・・・
浩平「何?どういう意味だ?」
あっ、永遠の世界に行く時間だ!それじゃ!
浩平「まて〜!気になるじゃないか〜!」


次回浩平犯科帳 第三部 第八話「開戦」ご期待下さい!