浩平犯科帳 第三部 第六話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第六話「核心」


詩子達が、海軍操練所に潜入している頃。浩平は氷上の話に耳を傾けていた。
「さて、何から話そうかな?多すぎて困る」
「不可視の力についてお願いします」
「わかった」
そして氷上はゆっくりとした調子で語りだした。
「不可視の力とは、人の心の歪みから生まれたものなんだ」
「歪み?」
「そう、怒りや憎しみ、そして悲しみもね。これらの負の力から、望まれ生まれた忌むべき力さ。この禁断の力を婦亜瑠後は利用しようとしているんだ」
その時、浩平は疑問を持った。
「待ってください。茜もその力を使えますよね?あいつの力も心の歪みから生まれたんですか?」
「茜は事情が違う。根本的な力について話そう。たいてい力を扱う者は、憎しみや怒り等の破壊衝動からだ。婦亜瑠後はこれを利用しようとしている。茜の場合は血さ」
「血?」
「茜の血筋について聞いたかい?」
「ええ」
茜は将軍家茂の異母兄妹に当たる。だが、正式には認められず徳川姓は名乗っていない。
「時はさかのぼるけど、三百年前当時天下を納めた家康はこの力を使えたんだ」
「三百年前?」
「家康は信長との交流から、西洋の魔術と出会った。それが始まりさ。西洋の魔術も日本の妖術も、原理は同じ心の歪みなんだよ」
氷上は一息をつくと、再び語り出す。浩平は黙って聞いていた。
「家康には元々、力を扱う才能があった。そして儀式等を通して力を身につけた。でも、家康は不可視の力を危険に感じ、全ての資料を焼き捨てたんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!?資料がないのにどうして・・・」
浩平の質問に答えず、氷上は続けた。
「でも家康にも誤算があった。不可視の力は遺伝するんだ。それもなぜか女にね。家康はたくさんの子をもうけたおかげで、この力を絶やすことはなかった。例え、将軍に子がなかろうとも、傍系でも血はつながっているからね。だから茜は力を使える。そして、その力は望んだわけではなく今まで、徳川家の者が持っていた力が伝わっている。だから茜は色々なことができるんだよ。でも、婦亜瑠後は違う。心に傷をもった者達を利用して、不可視の力を発動させている。それも記憶を操作し、破壊衝動と命令に忠実に動くようにしている」
浩平は婦亜瑠後の企みに驚きを感じていた。にわかには信じられない話である。そして、氷上がなぜここまで詳しいのかも気になっていた。
「そこまでする目的は何です?」
「幕府の混乱、そして自らの復活による天下の統一さ」
「復活?」
どうも氷上はまだ何かを隠しているようだ。浩平が質問を重ねようとした時、
「むっ!?」
浩平は立ち上がり、十手を構えて戸口に向かいあった。殺気を感じたのだ。
「入ってこい!そこにいるのはわかっている!」
浩平が怒鳴ったと同時に、戸口を張り倒して三人の人影が表れた。
「なかなかやるな・・・奇襲をかけようとしたのだが」
後方の男が口を開いた。
「ふん、てめえらのせこい策なんか見え見えなんだよ」
「威勢のいいがきだ。お前から始末するか?」
(強化体の研究も途絶え、さらに発動体二人に謀反されたとならば、俺達の立場も危うい。ここで功をとっておかなければ・・・・)
それがこの男、高槻の心中である。そして中々かかってこない敵に、浩平はしびれを切らした。
「てめえら!さっさとかかってこい!こっちは話の途中なんだ!」
「そう急かすな。今望み通りに殺してやるよ。弐ノ八拾八、やれ!」
高槻が命令を下すと、前衛の男がゆっくりと刀を抜いた。その表情には例のごとく生気がない。浩平も間合いを取り、隙をうかがう。
「お頭・・・下がっててください・・・!」
そう言った瞬間、浩平は疾風のように飛び込んだ。十手では距離を取られると不利だからだ。
「だあああああああっ!!!」
キーン!
浩平は肩口を狙って振りおろす。その斬撃は敵の刀の横腹で受けられた。しかし、浩平は最初からそれを狙っていた。
「このおっ!」
接近した状態から空いた腹部にひざ蹴りを放つ。
ドフッ!
鳩尾に決まるが、その程度でひるむ相手ではない。今度は打ちつけた十手をさらに押し込む。
「ぬっ!?」
敵が浩平を押し返そうと力をこめた瞬間、浩平は自ら体をひき後ろに下がった。敵は刀が泳いだ形になり体勢が崩れる。
「はっ!」
浩平は相手の相手の右腕の着物を掴み、右足で踏み込み相手の懐に飛び込んだ。飛び込むと同時に腰を回転させ百八十度向きを変える。そして、
「うおりゃあああ!!!」
ひざを曲げた状態から、勢いよくひざをのばし相手を手前に勢いよく落とす。後の世で言う背負い投げだ。
ズドオオオンッ!
浩平は相手を巻き込んだ。そのため、敵は頭から落ちることになり気絶した。
「なっ!?ま、まさか強化体がやられるとは!?」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・、次はてめえらの番だ!」
「くっ・・・・・!おのれ!・・・し、仕方ない・・・。貴様!次はこうはいかんぞ!」
高槻は懐から何やら丸いものを取り出すと、地面に叩き付けた。その瞬間、球体が割れ煙が吹き出した。
「え、煙幕か!?」
浩平は煙を払いながらも、高槻を追おうとしたが、すでに高槻は姿を消していた。
「くそ!」
「あ〜あ、戸が壊れちゃったね」
「お頭それどころじゃないですよ。あいつら本格的に動き出してきたみたいですよ」
「そうだね。とりあえず今は詩子達の返りを待とう。それからでも遅くはない」
「はい・・・」
浩平は婦亜瑠後の動きに、闘志を燃やしていた。決着をつけるために・・・。しかし、浩平や仁義屋におそるべき刺客が迫っていた・・・・・・・。



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浩平「主役復活〜〜〜!いや〜何話ぶりかな〜、こんな暴れたの!」
気楽でいいよ。今回の話、氷上の台詞長くてつらいんだから。
浩平「そうだな。それにしても不可視の力の説明はわかりにくいな」
MOON本編とも設定が少し違うしね。まあ流しても大丈夫だろ(^^)
浩平「うわっ!適当!」
ほっとけ。今回は久しぶりに強化体使ったけど、弱くなったな〜(^^;
浩平「敵も発動体とかレベルアップしてるしな」
確かに不可視の力は人間離れしてる・・・。
浩平「なあ、話は変わるけど次回はどうなるんだ?」
うむ、次回は戦闘中心かな?あの人が出るぞ。
浩平「まあ、誰かはわかるよな」
それじゃさよなら〜


次回浩平犯科帳 第三部 第七話「刺客」ご期待下さい!

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