浩平犯科帳 第三部 第五話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第五話「窮地」


婦亜瑠後の海軍操練所の地下に、網のようにはりめぐっている地下通路の交差点が、郁未達の集合場所であった。
「遅かったわね」
詩子、郁未、由依の三人よりも先に、一人の娘が待っていた。
「ごめんなさい。いろいろあって」
「そう、あまり詮索はしないわ。時間もないことだしね。ところでそっちの娘は?」
娘は詩子を指して言った。
「晴香は知らなかったわね。こちらは・・・」
郁未の言葉に、両者を知っている由依が答える。
「こちらが柚木詩子さん。で、こっちの凶悪そうなのが・・・」
ゴツン!
「痛いですぅ〜・・・」
「由依・・・あなた死にたいようね・・・・・」
晴香のげんこつが飛び、由依が頭を抑える。
「ちゃんと言います・・・柚木さん、こちらが私達の仲間の晴香さんです・・・」
「詩子さん、あなた仁義屋ね」
自己紹介も終わると、晴香が単刀直入に聞く。
「よくわかったね。確かにわたしは仁義屋だよ」
「ふ〜ん、気配が江戸から追ってくる気配に似てるからそうだとは思ったけど」
晴香はさらりと言ってのける。どうやら、晴香も郁未と同じように相当の実力者らしい。
「よく討たなかったわね、晴香」
「命令は出てなかったし、それにそろそろ私達の動きも婦亜瑠後にばれ始めてるからね。郁未も同じこと考えてたんでしょ?」
「ええ、まあ」
「そう言うわけで、詩子さん。早速ことを始めてもらうわ。調べて欲しいのは不可視の力についての、詳しい情報」
その言葉に詩子はある疑問を抱いた。そしてそれを口にする。
「あなた達自身が身につけてるんじゃないの?」
不可視の力を持つ郁未達自身が、その力について知らないのは不思議である。この質問に郁未が答える。
「この施設で行われているのは、不可視の力を身につけるための鍛錬なのよ。私達もその鍛錬を受けたんだけど、いつの間にか身についてたわ」
「つまりその鍛錬方法に秘密があるのね」
「そうなんだけど・・・その鍛錬については全くわからないの。何をしていたのか覚えてないのよ。わたしだけでなく、晴香や由依も」
「記憶の操作・・・」
詩子はすぐに思い立った。確かに婦亜瑠後ならそれぐらいのことはできるだろう。
「わかったわ。何とか調べてみるわ、それじゃ!」
詩子はさっそうと地下通路を駆け出した。
「気を付けて下さいね〜!」
その背中を由依の声援が見送った。
「晴香・・・いいの?」
「いいも何もあなたはそのつもりなんでしょ?」
「でも失敗したら・・・」
「郁未。もう創主は私達のことに気付いてるわ。あなたの復讐はもう始まっているのよ」
「・・・・・・」
郁未はその晴香の表情に不安と影を見いだしていた。
「今日は解散しましょう。明日またここで」
そう言って晴香を参棟に向かった。仕方なく郁未と由依もそれぞれの場所に戻った。



「今日は遅いお帰りだね」
郁未が一棟の自室に戻ると、同居人の少年が声をかけてきた。
「いろいろあったのよ・・・」
郁未は疲れた声で答える。
「危険なことをしているようだね」
「気付いてるのね?」
「まあね」
少年の瞳は不思議な獅子色に輝き、髪も白みがかった青色である。少なくとも日本人ではない。
「ねえ、そろそろ核心を教えてくれてもいいんじゃない?」
郁未は部屋の座敷に上がって、少年の前に座った。
「焦ることはない。それに核心はすでに君自身の中にある」
「どういう意味?」
「そんなことより、君が接触した仁義屋の娘だけどすでに気付かれている」
「何ですって!?どうして早く言わないの!?」
郁未はすぐに部屋を飛び出そうとした。しかし、その腕を少年がとらえる。
「離して!」
「君が行ったら、君も捕まる。それに彼女だって一人じゃない」
「仲間が来てる、ってこと?」



「ふ〜、けっこう広いわねここ」
詩子は今参棟にる。あれから小一時間ほど、施設内を探索していた。だが、それほどめぼしいものは見つけていない。そして、直線の長い通路を進んでいる時。
ヒタヒタ・・・
先から数人の足音が聞こえてきた。詩子の敏感な聴覚がそれを捕らえた。
(まずい・・・!)
詩子は元の道を戻ろうとしたが、後ろからは明かりがゆっくりと近づいてくるのが見える。
(はめられた!?)
詩子は辺りを見回した。だが、直線で隠れるところは全くない。
(やるしかないようね・・・)
完全な挟み打ちで状況はとても不利である。詩子は小柄を抜き、後方の明かりの方に投げ放った。
シュン!シュン!
ドサッ!
「うっ!?」
二本の小柄は、先頭の男に命中し、男は倒れた。
「くっ!賊を捕らえろ!」
男達は殺気立ち、詩子に向かって走ってきた。詩子は小柄を投げる暇もなく匕首を抜いた。
「やってやるわ!」
詩子は覚悟を決めた。



ひどい頭痛と吐きそうな胸やけに、詩子の意識は覚醒に向かった。
「・・・・・う・・・・・・・・」
詩子はゆっくりと目を開いた。ぼやけた視界がゆっくりと鮮明になっていく。どうやら気絶していたらしい。
「ここは・・・・・・」
「お目覚めかな?」
近くで男の声が聞こえた。詩子は咄嗟に身構えようとしたができなかった。手を拘束され動かせないのだ。詩子が目で辺りを見ると、ここが殺風景な牢屋の所だとわかる。そして数人の下毘た笑いを浮かべる二人の男が見えた。
「ここは・・・?」
「精練の間だ。しかしお前のような女が賊でよかったぜ」
詩子はその言葉で状況がわかった。詩子は戦いに破れ、ここに入れられたらしい。敵は刃物を使わず、詩子を生け捕りにしたのだ。
「わたしをどうする気?」
詩子は嫌な予感がしていた。
「我ら婦亜瑠後い逆らうお前等のような奴は、精神の鍛錬が必要だからな」
そう言って、男の一人がゆっくりと近づく。そして、その手が詩子の装束にかかった。
「いや!やめて!」
「へっ!観念しな!」
男がそのまま装束を引き裂こうとしたその時。
ドガアアアアアアァァァァッ!
突然、詩子の前方の扉が吹き飛び、後方の男もろども押しつぶした。
「な、何だ!?」
「詩子!大丈夫!?」
「茜!お七!」
助けに来たのは茜と詩子である。
「お、おのれ〜!」
男が腰のわき差しで二人に斬り掛かった。
ザシュウ!
「ぬがあああ!」
お七がスラリと刀を抜き、一刀のもとに斬り倒した。
「二人とも助かったわ!」
「今は和んでいる暇じゃありません。すぐに逃げましょう」
「でも・・・」
何かを言いかける詩子をお七が制す。
「追ってはすぐにくるわ。それにアジトがわかっただけでも十分だわ」
「・・・・・」
詩子は仕方なく、脱出することにした。



「侵入者に・・・・・逃げられたよう・・・・・・・・・」
「そのようです」
暗い部屋の中、声が響き渡る。その声に頭を垂れる一人の女がいた。暗闇で顔は確認できない。
「あの三人も・・・・謀反を起こし始めた・・・・・・」
「・・・・・・」
「誰かが・・・止めなければならない・・・・・・」
「はい」
「あの邪魔な・・・・・仁義屋もな・・・・・」
「はい」
声の気配は消えた。そして、女は立ち上がった。声の意志に従うために・・・・・・・・。



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〜浩平の愚痴〜
浩平「二話連続で出番なし・・・・・」
瑞佳様も出番なし・・・・・
浩平「てめえ〜!ちゃんとかくんじゃなかったのか!?」
だから書いたろ!(お前がいないけど)
浩平「これじゃあ、主役の座が詩子に取られる!」
安心しろ。次はお前の話だから。
浩平「信用できん・・・・」
まあこんな奴はほっとくか、さて次回は不可視の力についての秘密が九割ぐらい解けます!そして浩平も久しぶりに戦闘です!
浩平「九割って?」


次回浩平犯科帳 第三部 第六話「核心」ご期待下さい!