浩平犯科帳 第三部 第四話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第四話「再会」


カン!カン!カン!
棟内でも警鐘は鳴っている。詩子は郁未の後に続き、地下道を歩いていた。地下道は人工のものでかなり整っている。
「ねえ、婦亜瑠後を憎んでるのにどうしてここを出ないの」
「知りたいことがあるから」
郁未の素っ気なさに詩子は質問をしそこねる。それから二人は無言であった。
「多分ここね。何かがおこってるのは」
郁未は交差点を通り、奥にある階段を示した。
「どこに繋がってるの?」
「参棟」
そう言って、郁未はさっさと先に階段を登り出す。詩子も後に続く。そして、二人は薄暗い蔵の中に出た。
「ここは?」
「参棟の蔵よ。いい?ここから先は何が起きてるかわからないわ。くれぐれも注意して」
「うん」
二人は慎重に蔵を出ると、棟内の通路を歩き出した。通路には燭台が置かれ、それほど暗くはないが、窓が全くなく月明かりは入ってこなかった。
「おかしいわ」
「何が?」
「棟内に殺気がみなぎっている。それに、守衛の奴等ももっといていいはずなのに・・・」
郁未は異変の正体を知ろうと、走り出した。突き当たりを曲がり、その先の通路が二つに別れていたので、詩子は郁未を見失った。
「一人にしないでよ〜」
通路の奥は明かりが届かず、よくわからない。仕方なく詩子は右の道を行くことにした。



一方、詩子を追って、茜とお七が林の中を早足で進んでいた。茜は一旦城に戻ろうかと思ったのだが、詩子の危険を予知した。
「ねえ、ほんとにこの道でいいの?」
「はい。詩子の思念をたどってますから」
茜は氷上の命で、詩子の支援に向かっていた。
「ところで折原はどうしたの?こういうことはあいつの役目でしょ?」
「浩平は・・・別の用があって・・・」
茜は口ごもった。氷上に呼ばれた浩平が、何をしようとしているのか見当もつかない。
「今は・・・進むのみです」
「そうね」



再び操練所。通路を進む詩子は凄惨な光景を見た。
「これは・・・・・」
黒い着物を着た婦亜瑠後の守衛が血まみれになって倒れている。その体は何かに押しつぶされたようである。
「ぎゃああああああーーーーーっ!」
「何っ!?」
向こうで男の叫びが聞こえた。詩子は思わず駆け出していた。それほど遠くはない。詩子は自身も気付いていないが、嫌な汗が流れていた。何か言いようのない危険感を感じていた。
「暴走体はどこにいった!」
「絵瑠歩戸の方にむかったようだ!」
(まずい・・・!)
向こうから男達の声が聞こえてきた。詩子は見つかるわけにはいかないと、近くの扉を開け、そこに飛び込んだ。室内は真っ暗である。と、その闇を切り裂くかのような少女の声が聞こえてきた。
「こないでください!」
おびえた声だ。だが、詩子はその声に聞き覚えがあった。
「それ以上近づいたら・・・わたし・・・」
「待って!その声・・・もしかして由依さん?」
「えっ?・・・」
詩子は少女のことを知っていた。少女の名は名倉由依。学問の名門名倉家の次女である。そして、一年前浩平達と死闘を演じた友里の妹である。名倉家は幕府に出入りする関係で、茜が城を抜け出した時に城下に住む名倉家に世話になっていた。そのため、茜はもちろん茜の護衛を兼ねる詩子にも、友里や由依とも面識があったのだ。
「柚木さん!?どうしてこんなとこにいるんですか?」
「それを聞きたいのはこっちの方よ。まさか由依さんまで婦亜瑠後と関わってるなんて・・・・・」
詩子は名倉家の主人の態度を怪しみ、しばらく調査をしていたのだが由依の所在はわからなかった。
「ところで外の方はどうなってるんですか?」
「え?え〜と、よくわからないんだけど、とにかく危険なことは確かだわ。由依さんはここで待ってて」
「あのわたしもいきます。何だか胸騒ぎがして・・・姉が絡んでいそうで・・・」
「友里さんが?まさか、生きてるの?」
「当たり前じゃないですか」
そう言って由依は扉の方に向かった。
(まさか・・・生きているなんて)
詩子は信じられなかった。あの洞窟の落盤をどうしのいだと言うのだろう。確かにあの後探索しても、友里の死体は見つからなかった。しかし、詩子はにわかに信じられなかった。



その頃、郁未はその友里と対峙していた。
「友里さん・・・暴走してしまったようね・・・」
友里の目は金色に輝き、髪が自然に浮き上がっている。
「いたぞ!」
「始末しろ!」
その時、後ろから守衛が駆けつけた。守衛達の中には、刀を持っている者もいる。
「邪魔よ・・・」
友里がそう一言いうと、友里の周りから粉塵が巻き起こった。その瞬間。
グシャ!
そんな音とともに、守衛達は血まみれに押しつぶされ、崩れ落ちた。
「友里さん、これ以上人を殺させるわけにはいかないわ」
郁未は静かに言うと、自らも力を解放し始めた。
「あなたも邪魔するの・・・」
二人に緊張が走る。その時、向こうから声が聞こえてきた。
「郁未さんやめてください!お姉ちゃんも正気に戻って!」
「由依!?どうしてここに!」
今まさに両者の力が放たれようとした時、間に由衣が立ちはだかった。
「くっ!」
郁未は何とか、由衣を射程から外そうと必死になった。一方、友里の方は。
「・・・・由依・・・・・・」
そう呟くと、急速に力が収まり友里は倒れ込んだ。
ズガァァァンンン!!!
その脇を郁未の衝撃波が通り、壁に大穴を開けた。
「ふう・・・由依どうしてここに?」
「お姉ちゃんがいるような気がして・・・」
由衣は友里の側に寄りながら答えた。
「一体なんなの?それに友里さんが生きていたなんて」
駆けつけた詩子が郁未に話しかける。
「そのことについては後にしましょう。ここじゃあまずいわ。そうね・・・由依、弐棟の方に友里さんを運ぶわよ」
「あっ、はい」
「話しはそれからね」
郁未が詩子の方を向いて言った。



由依の生活する弐棟の由依の部屋に、友里は運びこまれた。今は布団に寝かせ安静にしている。
「ねえ、友里さんはどうなったの?」
「多分・・・力に耐えられなくなって暴走したのよ」
「茜と戦った時もそんなことになったようだけど・・・よく生きてたわね」
「婦亜瑠後に回収されたんでしょ。当時の発動体は友里さんしかいなかったから」
(ここは・・・・・)
遠くから人の話し声が聞こえ、友里は目を覚ました。
「うっ・・・」
起き上がろうとしたが、ひどい頭痛と疲れでそれはできなかった。
「あっ!お姉ちゃん、大丈夫?」
見るとそこには由衣がいる。
「由依・・・どうして・・・・・」
「お姉ちゃん・・・わたし・・・」
何かを言いかける由依だが、郁未が口を挟んだ。
「起きましたか?友里さん」
「あなたは確か郁未とか・・・柚木様!?どうしてここに!?」
郁未の後ろにいる詩子を確認して、友里は驚きの声を上げた。
「いろいろあってね。ここにいるの」
「友里さん、由依はずっとあなたを看病してました。あなたが目覚めるまで起きないと言って、そろそろ心を開いてもいいじゃないんですか?時も残ってないし・・・・・・」
「そうね・・・時はないわね・・・・・」
両者は沈黙した。
「わたしと詩子はここを出るわ。由依後は任せたわよ」
「はい!」
そう言って郁未と詩子は部屋を出た。
「いいの?」
「何が?」
「由依さん達のことよ」
「大丈夫よ。あの娘達は姉妹なんだから・・・・・」
郁未の表情には自分が決して手にできなかったものに対する羨望が見られた。
「ところで、友里さんに時がないってどいうこと?」
その問いに郁未はわずかに沈黙した。
「多分・・・彼女は死ぬわ・・・・・」
「えっ!?」
郁未の突然の言葉に詩子は驚きの声を上げた。
「ど、どうして!?」
「不可視の力に体が耐え切れないのよ・・・不可視の力は心の歪み。それは人の命も狂わせる・・・・・・」
「・・・・・・」
友里もこのことを知っているだろう。だからこそ残された時間を由依と過ごすことにしたのだ。



数刻後、部屋から由依が出てきた。
「由衣、大丈夫?」
「大丈夫です!わたし強いですから!」
由依の表情は意外にも明るかった。
「友里さんはどうしたの?」
「いきましょう」
「えっ?」
郁未の問いに、由依はそう返した。
「どういうこと由依さん?」
「今は私達の目的をかなえましょう。それがお姉ちゃんのためにもなるから・・・・・」
郁未と詩子は由依の言葉に言葉を出せなかった。しかし、郁未は何かを振り切るように言った。
「そうね。今は進みましょう。とりあえず晴香と合流しましょう」
そう言って郁未は歩き出した。その後に詩子が続く。最後の由依は一度部屋の方を振り返り、再び歩き始めた・・・・・・。

さらに数刻後、同じく友里が部屋から出てきた。しかし、その顔色は悪い。
「・・・・・・・」
ふらふらと歩きながら、どこかへ向かう。
「どうせ死ぬなら・・・あの娘に迷惑はかけられないしね・・・・・・」
友里に死の恐怖はなかった。ただ、妹に過去にこだわらず心を開けたことがうれしかった。
「・・・・」
友里は精練の間と書かれた部屋の前まで来た。そして扉を開く。自分の最後の場所として・・・・・・・。



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〜浩平の愚痴〜(の前に)
あちゃー・・・思いっきりMOONになっちまった。今回はMOONを知らない人はきついでしょう。多分知っているとおもって細かい所をはぶきました。(勝手ですいません)今回感想いらないや・・・かなり不満の作品なんで

改めて浩平の愚痴
浩平「うう・・・ついに出番がなかった」
ふっ、お前は二部でかっこよすぎたからな。ちょうどいいわ。
浩平「てめえ・・・殴るぞ」
うっ、こ、怖い。
浩平「俺の出番はおいといてだ。何だ!今回の話は!」
す、すまん!俺も今回はあまりまとめれなかったんだ。次回はちゃんと書くから!
浩平「ほんとだな?」
もちろん!(書けないかもしれない・・・)
浩平「今、心の声が聞こえたぞ・・・」
そ、そんなことはない!それじゃあまた次回!
浩平「あっ、ごまかしたな!」


次回浩平犯科帳 第三部 第五話「窮地」ご期待下さい!