浩平犯科帳 第三部 第三話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第三話「追跡」


詩子は林の中をひたすら走り続けていた。女を追って、すでに数時間が過ぎようとしている。
(けっこう遠くまで来たわね・・・・・・)
詩子にはまだ余裕がある。その点から見ても一流の忍びだと言える。対して、女の方もある程度の訓練は受けているようだが、その足は重くなっている。そして突然視界が開けた。林を抜けたのだ。
「これは・・・・」
詩子は高い傾斜から見える世界に驚いた。そこに広がっていたのは、入り江につくられた広大な施設であった。しかし、この近辺にこんな施設があるのは知られていない。
「そう言えば浦賀に海軍操練所がつくられるって、話があったわね」
情報収集を行い、さらに城で茜の護衛をしている詩子は、この秘密裏の施設を知っていた。
(これが婦亜瑠後のアジトだったとしたら・・・・)
幕府にも婦亜瑠後が潜入していることになる。考えられない話ではなかった。新選組の一部にも関わっていたことからも、その可能性は十分にある。
「あれは・・・!?」
茜は入り江の海岸沿いに停泊する船に、さらに驚かされた。それは木造りの粗野な船ではなく。小型であるが、間違いなく蒸気船であった。
(まさか黒船が・・・)
船は到着したばかりで、中から乗っていた人々がぞろぞろと出てきた。しかし不思議なことに下船してくるのは、異人ではなく日本人の娘であった。そして、娘達の目はうつろで生気がない。ちなみに詩子と海岸の距離はかなり離れている。それでも詩子の視界にとらえることができるのは、その鍛えられた視力に他ならない。
(婦亜瑠後・・・奴等の目的は一体・・・・?)
詩子は敷地内に潜入してみることにした。



一方。氷上に呼び出された浩平はあばら屋に来ていた。
「手ひどくやられたようだね」
「すいません・・・」
浩平は頭を下げる。氷上に申し訳なかったわけではなく、自分の腕が通じなかったのが悔しいのだ。
「別に責めてるわけじゃない。頭をあげなよ」
「はい」
浩平が頭を上げるのを確認してから、氷上は話しをきりだす。
「婦亜瑠後がついに動き出したみたいだね。そろそろ決着をつけなくちゃいけないみたいだ」
「決着・・・?一体あなたと婦亜瑠後に何があったんですか?」
「・・・」
浩平の問いに氷上は沈黙するが、やがて口を開いた。
「時間があるわけではないけど、まだ残されていると思うんだ。だから、君に話すこともできない」
「どういうことですか?」
「君には不可視の力について知ってもらう必要がある。それから話すことにするよ」
「奴等の力について知ってるんですか!?」
浩平の声は自然と強まった。
「長い話しだから心して聞いてよ
「はい」
氷上はゆっくりと語り出した・・・・・・。



再び浦賀の操練所。詩子は施設内の中庭に潜入していた。敷地内には三つの練と、高くそびえる塔が一つ建っていた。詩子は練の外壁近くを調査していた。しかし、練には格子一つなく、入り口も見あたらなかった。入り口はどうやら、先ほどの娘達が入っていった海側の練にしかないのだろう。
「これのどこが操練所なのよ・・・怪しいなんてもんじゃないわね」
詩子が立ち止まったその時、後ろからものすごい風圧が生じた。
「!?」
詩子は考えるより先にその場を飛びすさった。
ズゴウッ!
轟音と共に、詩子のいた地面が深くえぐられていた。
「誰っ!?」
詩子は咄嗟に懐の小柄を構えた。
「なかなかやるわね。ここまで晴香を追ってきただけのことはあるわね」
そこにいたのは美しい一人の少女であった。長い髪が風になびいている。
「誰っ!?」
詩子はもう一度聞く。
「わたしは双身の郁未。あなたは仁義屋ね」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、あなたたちぐらいしか、ここを突き止めれるのはいないわよ」
「ふ〜ん、けっこう見る目あるじゃない。わたしは詩子、柚木詩子」
そんな自己紹介が行われ、二人はわずかにほほ笑むが、すぐに真剣な顔に戻る。
「あなたが婦亜瑠後の手の者なら、婦亜瑠後について話してもらうよ!」
「わたしも知りたいところなんだけどね」
詩子は小柄を二本、郁未に投げる。そして、懐から匕首を取り出し、間合いを詰める。
(これなら・・・!)
詩子は時間差攻撃を狙っていた。先の小柄をおとりにし、郁未に力の集束時間を与えないのだ。
「はっ!」
バシ!バシ!
案の定、郁未は左手を横になぎ払い、衝撃波で小柄を打ち落とす。
「えいっ!」
詩子は郁未に匕首で斬り掛かった、しかし。
バシュウッ!
「きゃっ!?」
詩子は衝撃波に吹き飛ばされた。郁未は右手を突き出し立っている。
「そ、そんな二撃目なんて・・・!速すぎる・・・・!」
「これでも不可視の力の扱いは、婦亜瑠後でも一、二を争うのよ」
郁未は詩子の戦法を読み、最初の衝撃波を弱く撃ったのだ。確かにその様子からかなりの手練れだと言える。
「・・・わたしをどうするつもり?」
「どうもしないわ。ただ、わたしに協力してもらうわ」
「えっ?」
詩子は拷問を覚悟していた。しかし、郁未の言葉は予想外だった。
「婦亜瑠後のことについて知りたいんでしょ?それはわたしも同じなのよ」
「でも、あなたは婦亜瑠後の者じゃ・・・・」
「わたしは婦亜瑠後に忠誠はないわ。あるのは復讐だけよ」
郁未の言葉が冷たさを帯びた。詩子は郁未に協力してもよいと考えていた。悪いようには見えなかったし、何よりも自分を殺さなかったからだ。
「いいわ、協力する。で、何をすればいいの」
「ここで行われている発動体について調べて欲しいの」
「発動体?何それ?」
「詳しくはわからないけど、不可視の力を取り込んだ者の総称らしいけど」
「あなたもその一人なのね」
カン!カン!カン!
その時、施設内の警鐘がなり出した。
「なに!?」
「わたしにもわからないわ・・・でも普段こんなことは起きない」
「それじゃあ・・・」
「核心につながるかもね」
「中で起こってるみたいだけど、どうやって入るの?」
「棟内には抜け道から入れるわ、ついてきて」
郁未の後に詩子は続く。一体、ここでは何が待ち受けているのか・・・・・?




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〜浩平の愚痴〜
浩平「何でこんなに詩子の出番が多いんだ?」
そういう話しだから。
浩平「しかも郁未まで出てるし」
う〜む・・・ますます時代劇じゃなくなっているな。
浩平「駄目だ、もう修正きかん・・・」
いまさらできるかよそんなこと。未来は前向きに考えるものさ!
浩平「何か不安・・・・」


次回浩平犯科帳 第三部 第四話「再会」ご期待下さい!

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