浩平犯科帳 第三部 第一話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第三部 第一話「日常」



ガラッ!
雨戸が開かれ、眩しい朝の日差しが長屋の中に差し込む。
「ほらぁっ!起きなさいよーっ!」
いつものようにかかるお瑞の声。
「ぐーっ・・・」
そして、いつものように続く浩平の寝息。
「起きてってばぁーっ!」
ガバアッ!
「うわっ!?」
浩平は布団をはがされ、真冬の冷たい空気の中に体をさらした。
「う〜・・・寒い・・・・」
「ほら、風邪ひくよっ!」
お瑞から着物を受け取り、浩平はお瑞の目の前で寝巻きを脱ぎ始める。
「きゃっ!浩平こんなところで脱がないでよっ!」
「夫婦なんだから、別にいいだろ」
「親しき仲にも礼儀ありだよ!」
夫婦。そう浩平とお瑞は夫婦になっていた。二人が寄り添うようになったのは去年の二月。現在は慶応二年の二月。二人が夫婦になって、すでに一年が過ぎていた。
「はやく朝ご飯食べようよ」
「ああ」
二人の生活に大きな変化はなかった。一緒に住むようになったものの、朝は前とおなじように浩平は起こされ、朝食はお瑞と食べ、昼になるとお瑞が昼食を届ける等と以前と変わらない。二人の会話も特別なことはない。変わったのは、夕飯も一緒に食べるようになったことと、笑顔が増えたことである。
「浩平、今日もはやいの?」
「ん?ああ、事件が起きなければな」
「そう、じゃあはやく帰ってきたら、お七さんの所にいこうよ。今日は宴会を開くんだって」
「宴会?誰が言い出したんだ?」
浩平は聞きながらも、すでに目星がついていた。
「柚木さんだよ」
「はあ・・・やっぱり・・・・・」
詩子は去年の事件以来、すっかり酒にはまったようで月に一度は中原亭で宴会を開くのだ。費用は各自持ちだが。
「大体、茜はお姫様なんだから金出してくれてもいいのに」
「無理いっちゃだめだよ。お姫様だって、自由にお金を使えないんだから」
「へいへい」
浩平は朝食を食べ終え、十手を持って立ち上がった。
「んじゃ、いってくらぁっ!」
「いってらっしゃい!」
浩平の背中をお瑞が笑顔で送った。



「うーす」
「あっ、旦那おはようございます」
番屋で南が出迎えた。ここでも浩平の生活に変化はない。いつものように昼寝をして、気が向いた時に見回りに出るのだ。
「旦那見ました?こないだの深山座の芝居。おもしろかったらしいですよ」
「ふ〜ん・・・」
南の話に浩平が適当に相づちを打つ。最近はそれほど目立った事件は起こらなかった。盗み等はまあまああるのだが、殺し等は一カ月に一度あるかないかである。例えあったとしても、浩平達は下手人を捕まえるだけなので後は奉行所に任せていた。
「それじゃあ、見回りにいってきます」
「はいよ」
南も去り、浩平は眠りにつくことにした。



浩平が何事もなく一日を過ごし、約束の時刻がきた。もう冬なので日が沈むのも早く、中原亭には、見知った面々がそろっていた。一番最後に来た浩平とお瑞が来たころには、すでに酉の六つ半(午後七時)であった。
「遅いわよーっ!折原!ひっく!」
「遅いです」
怒声は詩子のものである。すでにでき上がっていた。茜も飲んでいるようだが、全く普段と変わらない。
「おいおい・・・もう飲んでるのか?」
「うるさいわねー」
ぐいぐい
浩平の着物の袖を引っ張る者がいた。澪である。
『こんばんわなの』
澪は紙に木炭で字を書いて見せる。
「おお」
「こんばんわ、澪ちゃん」
お瑞が律義に礼を返す。
「浩平ちゃんもきたことだし、はやく宴会始めようよ」
みさきが待ち切れず声を上げる。
「みさきあんた、料理が食べたいだけでしょ」
「ひどいよ〜、雪ちゃん」
その時、給仕役でありながらも、この宴会に参加しているお七が店の奥から現れた。
「折原が来たみたいね。それじゃあ始めましょうか」
「おお〜っ!!」
その場にいた者全員が声を上げた。



宴会は例のごとく、時間がたつたびに修羅場と化した。
「きゃはははは!澪ちゃんの顔へ〜ん!」
「きりたんぽ下さーい!」
「あんたどんだけ食べてるのよ!」
「みゅ〜っ!」
「きゃあ〜〜〜〜〜〜っ!痛いっ!痛いっ!」
「旦那〜っ!よくもお瑞さんを〜〜〜〜〜〜っ!」
「茜さん!俺と一緒になってください!」
「嫌です」
詩子が澪の顔に筆で落書きをし、みさきの料理の注文とそれを止めるお雪の声、神奈川から今日のために呼ばれた繭がお七の髪を引っ張り、ひそかにお瑞を思っていた住井が浩平に対する不満を叫び、南の求婚を茜が即答で拒否する等と、もう場はおさまりがきかなくなっていた。
「すごいな・・・」
「すごいね・・・」
そんな中、お瑞に酒を制限されている浩平と、酒を飲まないお瑞は冷静だった。
「まるで獣だな」
「ふふ、そうかもね。でもみんな楽しそうだよ」
「そうだな・・・」
浩平は心底そう思った。この一年間と半年、婦亜瑠後の活動はなりをひそめた。だが、浩平はその間の平和な時を過ごす内に、言い知れぬ不安にかられていた。いずれは婦亜瑠後が動き出すであろう。その時、今の生活が壊されるに違いない。また、大切なお瑞を巻き込むこともありえるだろう。浩平はこの平和が永遠に続くことを願った。しかし、浩平の願いはいとも簡単に打ち消されることになった・・・・・・・。




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〜浩平の愚痴〜
浩平「やったぜ!久しぶりの主役復活!」
ふ〜・・・元気だなこいつ。こっちは三部の構成考えるのに忙しいのに・・・・。
浩平「ふっ・・・番外編の間、影が薄かったからな。三部で暴れさせてもらうぜ」
へいへい・・・それにしてもよく三部まで書いてこれたよな〜。我ながらすごいな。
浩平「長いだけだ」
それを言うな。大体このシリーズ、ラストはすでに書き始めた当初から決まっていたからな。覚悟はしていたんだが。
浩平「げっ!最初からここまでひかせるつもりだったのか?」
まさか、二十話ぐらいで終わるかと思ったけど、色々追加されてこんなになってしまった。
浩平「ギネスにのるつもりか・・・ところで三部の展開は?」
婦亜瑠後との全面対決。もちろんお気づきの方が多数であろうが、あの三人もでるぞ。
浩平「うっ・・・やっぱり」
と、言うわけで次回をお楽しみに!


次回浩平犯科帳 第三部 第二話「発端」ご期待下さい!

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