遠い蛍火-8- 投稿者: 偽善者Z
二人で一夜を過ごした次の朝。(別に関係を持ったとかわけじゃないからな)俺は溜っていた思いを吐き出したせいか、気分が晴れていた。
(礼をいわなくちゃな・・・)
俺は由依に感謝していた。今の現実に絶望し、未来を見ていこうとしなかった俺の目を覚ましてくれたような気がする。今なら俺と同じように、今を逃避しているあいつを説得できるかもしれない。そんな希望が俺の中で湧いていた。
「由依ー、入るぞー」
俺は礼の言葉でもいおうと、彼女の部屋の戸を開けた。しかし、
「なっ・・・?」
そこには誰もいなかった。それどころか荷物も全てなくなっている。ここは由依の部屋には間違いない。
「くっ!」
俺はすぐに飛び出し、女将のもとへと走る。
「女将さん!由依は!?もう一人の客は!?」
「えっ、ああ、あのお嬢さんでしたら二時間ほど前に出発しましたけど」
「どこにいったかわかります!?」
「さあ〜、でも、もしかしたら駅にまだいるかもしれませんよ」
俺は女将の言葉等聞いていなかった。旅館を飛び出し、駅へと走る。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
全力で走るせいか、息がとても苦しい。でも、今は走るしかない。線路沿いの道を走っていると、前方に駅が見えてきた。しかし、そこには列車も止まっている。
「くそっ!」
俺は駅に飛び込むと、改札を無視してプラットホームに出た。
「お客さん!切符!」
後ろから駅員の声が聞こえる。俺はその声をかき消すように怒鳴った。
「ゆいーーーーーーーーーー!!!!!」
すると、先頭の車両の方から声が聞こえた。
「浩平さん!?どうしてここへ!?」
由依は窓から顔を出し、驚きの表情を見せる。俺は息もつかず駆け寄った。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・由依・・・」
「浩平さん・・・」
俺は苦しくて、言葉が言い出せなかった。しかし時間はない。
「お前に・・・礼が言いたくて・・・」
「そんなわたし何も・・・」
「いや、お前は気付かせてくれたんだ。俺が憶病になっていたことを・・・」
「浩平さん・・・」
黙り込む二人だが、由依が明るい表情を見せていった。
「いやですよ、そんな暗い表情みせちゃ、最後の別れじゃないんだから」
「由依・・・」
「きっと来年も会えますよ。その時は蛍が祝福してくれます。浩平さんとみずかさんを・・・・・」
俺は何も言えなかった。なぜかはわからないが由依の表情はどこか寂しそうだ。
「あなたと・・・もっとはやく出会っていればよかった・・・・・・」
その次の瞬間、由依は瞳を閉じ、窓から体を乗り出して俺の顔に近づいてきた。
「!?」
一瞬、二人の唇が重なる。一瞬のことだが、それは永遠の時の長さに感じられた・・・・・・。
そのわずかな後、列車は動き出した。
「わたしが願ったことは・・・浩平さんの本当の笑顔を見ることです・・・・・・」
それが俺が最後に聞いた由依の言葉だった。俺の唇にはまだあいつの唇の感触と、暖かさが残っていた・・・・・・・。



さらさらさら・・・・・・・
俺はまたこの川に来ていた。すでに日は暮れ、辺りは闇に包まれている。ここに来たのはとくに理由はない。ただ何となくだ。
(俺はあいつの気持ちに答えれなかった・・・・・・)
俺は由依にどこか罪悪感を感じていた。そして同時に実感する。俺はあいつが・・・瑞佳のことがやっぱり好きなんだと・・・・・・。あいつに会いにいこう・・・どこに留学したとしても、俺はあいつを迎えに行く。そして、ここに来るんだ・・・・・。蛍に祝福されるために・・・・・・。
「浩平・・・」
俺は一瞬空耳だと思った。聞こえるはずがないと思った。だが、振り向いた俺の目の前にいるのは・・・・・・。
「み、瑞佳!?どうしてここに・・・・・・?」
「えへへ・・・戻って来ちゃった・・・・・」
会いたかった、でも会えなかった最愛の人が今ここにいる。俺は言葉を出せなかった。
「七瀬さんから聞いたんだ。浩平講義にも出ないで、失恋旅行してる、って・・・・・」
「馬鹿・・・」
俺はそれだけ言うと、瑞佳を抱きしめた。瑞佳は抵抗しない。
「馬鹿は浩平だよ・・・。わたしにさびしい思いさせるんだもん・・・」
「そうだな・・・」
今の俺に何もいらなかった・・・。ただ瑞佳の温もりが愛しい・・・。
「どうしてここにいるのがわかった・・・・・?」
「どうしてだろうね。自分でもわからないんだ。ただ浩平の声が聞こえた気がして、それで思いついたのが・・・・・・」
「ここってことか」
「うん・・・」
瑞佳は俺の胸に深く頭をうずめてきた。俺はそれを優しく受け止める。
「ねえ・・・」
「うん?」
「去年ここでお願いしたよね・・・?」
「ああ・・・」
「どんなお願いしたの?」
去年、そして今年も俺が願ったその願いは・・・・・・
「最愛の人の笑顔を一番近くで見れるように・・・かな・・・・・・」
「わたしも・・・」
瑞佳の声は少し照れていた。俺は月明かりの中、瑞佳を強く抱きしめた。そして、顔を上げた恋人の唇に自分の唇を寄せた。
初めてのキスのように懐かしい味がした・・・。
俺はまた道を間違うかもしれない・・・・・・でも逃げ出すことはない。人は同じ間違いを繰り返すのだから・・・・・・。


蛍の季節は遠くないだろう・・・・・・・。



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しゅうりょ〜〜〜〜う!!!終わりました!遠い蛍火!ふう・・・こういうの慣れてないから苦労したなぁ・・・。さて、見事(?)失恋(?)に終わった由依ですが、実は最初は浩平が由依に一度転がるという展開だったんですよ。しかし、それだと瑞佳様があまりにもかわいそうなのでやめました(^^)おかげでものすごいくさい展開です(^^)う〜ん、犯科帳に続き瑞佳様シナリオを続けてかくことになるとは・・・。今後は犯科帳一本でいこうと思ってます。ただし、ここではね・・・くっ、くっ、くっ・・・・・・この言葉の意味を知りたければ目隠し団までくることだ!それではさらばだ!!!

目隠し団への道
http://www2u.biglobe.ne.jp/~wkichi/index.htm

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