浩平犯科帳 番外編 第七話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 番外編 第七話「冬の吐息」


暮れも押し迫った十二月の暮れ。町中は年越しの準備に忙しい。浩平達も仕事納めに走っていた。
「浩平、今年の正月はどうするの?」
お瑞が浩平に話しかける。今日はお瑞の配達の手伝いをしている。年末のためどこの家も多めに注文してくるのだ。
「ああ・・・どうせ家でごろごろしてるって」
「はあ・・・そんなんじゃいつまでたってもお嫁がこないよ」
「いらねえよ」
いつもと変わらぬ様子で二人は配達を続けた。そして、一通り家々を回った後、休憩がてらに二人は苅田神社に来ていた。
「うう・・・寒い・・・お瑞〜さっさと帰ろうぜ」
浩平は身を縮ませながら言う。
「も〜、そんなんじゃ雪が降ったらどうするんだよ」
「その時はその時だ」
浩平はそう言いながら、何げなく境内の御神木を見上げた。それは何百年も変わらずここに鎮座している。
「なあ、覚えてるか。昔ここでかくれんぼしたの」
「あっ、もしかして真冬にやったやつ?」
「そう」
浩平はうなづきながら、言葉を続ける。
「確か雪がすげえ積もって、雪だま投げたりしてたけど俺が言い出したんだよな」
「そうそう浩平が、冬らしいことをするのはやめだ!とか言ってね」
お瑞は懐かしそうに呟く。
「俺が雪の中にずっと隠れて、凍えそうになったし」
「ふふ、あの時はびっくりしたよ。いきなり雪の中から飛び出てくるんだもん」
「まあけっこうばかなことしてたな」
「今もしてるよ」
「なに〜〜〜〜!」
「きゃっ!ごめん」
浩平が殴るようなまねをしたので、お瑞は身をかかえた。子供のようにじゃれる二人、浩平とお瑞はそんな関係が永遠に続くと思っていた・・・・・・。



その夜。浩平は届けられたある手紙をじっと見つめていた。
「・・・・・・・」
浩平はずっと無言であった。手紙の内容のせいであろうか?
「・・・・・・・」
浩平はそのまましばらくじっと手紙を見つめていた。その顔には迷いが生じていた。



翌日。今日は朝からかなり冷え込んでいる。浩平はお瑞が来る前に目を覚ました。昨日あまり寝られず、朝の寒さに起こされたのだ。浩平は布団から出ると、軽くのびをする。今日は仕事納めであった。
「浩平〜、朝だよ。・・・あれ?もう起きてる」
しばらくして、お瑞がやって来た。
「めずらしいね」
「ああ、たまにはな」
お瑞の笑顔に浩平はぎこちない笑みで答えた。
「どうしたの?」
いつも顔を会わせてるだけあって、その微妙な変化にすぐ気付いた。
「いや、今日は冷えるから」
「あはは、そうだね。もしかしたら雪が降るかも」
そんな会話の間に浩平は準備を整える。
「よし、行くとするか」
「うん!」



「いや〜、外は冷えますね〜」
自身番屋で見回りから戻ってきた、南が火鉢に駆け寄る。
浩平は奥の座敷でぼおっとしている。
「旦那、どうしたんですかい?」
「ん?いや、何でもない」
「そうですか。あっ、そうそうこの間茜さんと会ったんですよ!いや〜、やっぱりかわいいですね〜!」
南の言葉も浩平には届いていなかった。浩平の心は嵐のように荒れていた。そして昼になると、お瑞が来た。
「こんにちわー」
「旦那ー!お瑞さんがきましたよー!」
そんなやりとりがされて、お瑞が座敷に上がってきた。
「それじゃあ、俺は見回りに行ってきます」
気をつかってか、南はまた外に出た。
「浩平〜、少しは仕事しなよ」
「ああ・・・そうだな」
浩平の返事は素っ気ない。
「今日は仕事納めなんだから、これじゃあ年を越せないよ」
そんなことを言いながら、お瑞は食事の準備をする。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
それから、二人は食事を取りながら何げない話を続けた。だが、今日の浩平はいつもとどこか違った。
「ねえ・・・浩平いつもより変だよ」
「そうか?」
「うん・・・」
お瑞は何かを敏感に感じていらしい。少しの間、二人に沈黙が流れる。その沈黙を浩平が破った。
「なあ、お瑞」
「なに?」
「俺がどこか遠くに行ったらどうする?」
「えっ?」
突然の言葉にお瑞は自分の耳を疑った。
「浩平どこかいっちゃうの!?」
その問いに浩平はしばらく黙っていたが、口を開く。
「いや・・・どこにもいかないよ」
「そ、そうだよね」
お瑞は安心したかのように息をついたが、その表情には不安が生まれていた。



二日後。正月も間近に迫り、町中が今年のことを振り返る大みそか。浩平の長屋では
「・・・・・」
浩平は卓の上に何度も読み返し、くしゃくしゃになった手紙を置いた。そして、夜の両国へと長屋を抜け出した。
ガラッ!
その数刻後。お瑞が浩平の長屋にやってきた。
「浩平〜!おそば作りに来たよ!」
だが、部屋には誰もいない。お瑞は嫌な予感がした。そして卓の上の手紙に気付き、それを手に取る。
「!?」
その手紙の内容にお瑞は息を止めた。



一方浩平は苅田神社に来ていた。人気は全くなく、境内は静まり返っている。浩平は神木のたもとに立ち、夜空を見上げた。
(どうすればいいんだ・・・・・?)
浩平は迷っていた。原因は手紙にある。手紙の差出人は高杉晋作からであった。内容は下関の挙兵に際し、浩平にも参加してほしいということであった。浩平に参加するつもりはなかった。しかし、恩ある高杉の頼みを断るわけにもいかない。だが、最大の原因は別にあった。それは・・・・・。
「つかまえた・・・・・・・」
後ろから、誰かが抱きついてきた。浩平にはそれが誰かわかっている。
「浩平すぐにどこかいっちゃうんだもん・・・わたしを置いて・・・・・・・」
「すまん・・・・」
浩平が悩んでいたこと、それはお瑞との別れであった。もし、高杉のもとに行けばお瑞とも今生の別れになるかもしれない。そう考えた時、浩平は自分の中の本当の気持ちに気付いた。
「俺はいつもお前にひどいことしてたな・・・」
浩平は怖かったのだ。自分の気持ちを押さえられなかった時、今までの関係がくずれることが。浩平は振り向いて、お瑞の体を抱きしめた。
「何もいらない・・・お前がそばにいてくれるだけで・・・・・・」
「あっ・・・雪だ・・・・・」
お瑞の言葉に浩平は空を見上げた。言葉通り、真っ白な雪が降り降りてきた。



二人は神木のたもとに座っている。
「はあ〜・・・」
お瑞の吐息が白く空気を染める。
「何してるんだよ」
浩平は優しくほほ笑みながら、それを見ている。
「・・・わたしね、知ってたんだよ。浩平が一昨年何をしてたか」
「・・・・・」
お瑞は浩平の辻斬り時代のことを指していった。
「わたしずっと浩平のこと見てたから・・・ずっとそばにいたから・・・」
「いいのか?俺で」
「わたしは浩平じゃないと駄目なんだよ」
「俺も・・・お瑞じゃないと駄目なような気がする・・・」
浩平はお瑞の肩を抱き寄せた。二人の吐く白い息が、浩平の視界の夜空をかすめていた・・・・・・・。




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〜愚痴の前に感想番外編〜
やっと終わったか・・・番外編。この番外は実は、今回の話をかくためにかいたんですよね(^^)。ついでに、普段出番がないキャラを救済しよかと(^^)でも全然ネタがない・・・・・。三部からは真面目(?)にかいてるんで、みなさんこのめちゃくちゃ長い(ギネスにでも挑戦するつもりか?)犯科帳に御付き合い下さい。では愚痴の方をどうぞ!

〜瑞佳様の愚痴〜
瑞佳「わあ〜私が主役だ〜、でもちょっと恥ずかしいな・・・」
おお!これは瑞佳様ではありませんか!
浩平「ちょっと待て!何で長森に様がつくんだ!?目隠し団じゃなかったのか?」
黙れわき役。あっちの方は留美様で、こっちは瑞佳様なんだ。ささ瑞佳様狭い所ではありますが、VIPルームへ。
浩平「なんじゃいそりゃ!」
瑞佳「でもいいのかな?こんな目立って」
何を言いますか!この番外編はこの話を書くために企画したのですぞ!
浩平「それ・・・ほんとだろ」
黙れわき役。瑞佳様、偽善者特製のミルクティーでも!
瑞佳「わあ、ありがとう」
浩平「てめえ・・・この差は何だ・・・」
さっきからうるさいぞわき役。大体何でお前がここにいるんだ?
浩平「ボディガードだ。お前は長森に何をするかわからんからな」
ふっ・・・俺が瑞佳様に危害を加えるわけがなかろう。
瑞佳「あっ、偽善者さん」
はいはい!何でございましょうか!?
浩平「おい・・・」
瑞佳「番外編はこれで最終話らしいけど、三部はどうなるの?」
よくぞ聞いてくれました!三部は少し時間が進んでます!そして〜・・・
浩平「なあ、長森。それ一口飲ませてくれ」
瑞佳「いいよ」
そこ!人の話を聞け!あっ!?貴様、瑞佳様と同じ所に口をつけたな!
浩平「ふっ、お前の魂胆等見え見えだ!どうせ間接キスでも狙ってたんだろ」
お、おのれ〜!そのものズバリじゃないか・・・
瑞佳「偽善者さん、続き」
はい!三部は婦亜瑠後との全面対決です!戦いは思いっきり人間離れして、時代劇をかけ離れます(^^)
浩平「この計画性ゼロ男が・・・」
瑞佳「じゃ、完成めざしてがんばってね!」
ありがとうございます!
浩平「それじゃお開きだな」
瑞佳「さよなら〜」


次回浩平犯科帳 第三部 第一話「日常」ご期待下さい!