遠い蛍火-6- 投稿者: 偽善者Z
だるい・・・頭がボーッとして、何だか熱っぽい・・・・・。どうやら風邪をひいてしまったようだ。昨日は川ではしゃぎすぎたかな・・・・・?
「浩平さん、大丈夫ですか?」
「ああ・・・・・・」
俺は弱々しい声で、枕元の由依に答えた。責任を感じているのか、朝から由依は俺の看病をしてれている。
「女将さんがおかゆ作ってくれるって、言ってますけどどうします?」
「いらね・・・・・」
確かに俺には食欲がなかった。昨日の夕食も、眠りに入ってから起きることができず食べていない。
「駄目ですよ。ちゃんと食べなくちゃ。ここまで持ってきますね」
そう言って、由依は部屋を出ていった。俺は目を閉じた。体に力が入らず、何も考えることができない。いや、少し違うか・・・・・。目を閉じると、意識しなくてもあいつの顔が思い浮かんでくる・・・・・・。忘れられないんだな・・・・・。
(どうしてるかな・・・あいつ・・・・・)
俺はそのまま眠りの世界へと落ちていった。



「ほらぁっ!起きなさいよーっ!」
いつものあいつの声・・・聞こえなくなってからどれくらいになるだろう?それほど時間はたっていないが、俺には何年にも思える。
「もー、浩平ったらいつまでも起きないんだからぁ・・・これじゃあ高校の時とかわんないよ」
あいつのあきれた声・・・それさえも心地よく聞こえる。
「学校遅れちゃうよー」
俺をせかす声・・・全ては日常のことだった。それが俺達にとって、とても大切であることに気付くには長い時間が必要だった。
「浩平がいいんだったら・・・いいよ」
全てを変えたあの言葉・・・俺はそれからあいつを傷つけた。
「わたしは浩平じゃないと駄目なんだよ・・・」
俺達を結びつけた言葉・・・俺はあのとき、あいつの側にいようと誓ったのに・・・。
「さよなら・・・」
幸せの終わりを告げた言葉・・・もう戻れないのか?俺はお前のことが今でも、いや、前よりも好きなのに・・・。ずっと、ずっと側にいようと誓ったのに・・・・・・・。馬鹿だ。俺は本当に馬鹿だ・・・・・・。



誰かが側にいる・・・そう言えば、前にもこんなことがあったな・・・。俺が風邪をひいて寝込んだときに、あいつは看病してくれったけ。その時俺は絆を求めたんだ・・・・・・。あの時のように、もう一度・・・・・・。
「みずか・・・・・」
俺は薄目を開けた。視界はぼやけている。誰かが俺をのぞき込んでいる。俺は腕を伸ばし、その両肩を掴み抱き寄せた。
「きゃあっ!?」
「えっ?」
俺は腕の中にいる由依を見て、状況を理解した。そうだ、ここは旅館だ。俺の部屋ではない。もちろんあいつがいるはずもない・・・・・。
「あ、あの浩平さん・・・・は、離してください」
「えっ、あ、すまん・・・」
俺は由依を解放してやった。その瞬間、体に力が入らず俺は再び布団に沈んだ。俺は仰向けの状態で、由依の顔を見た。いきなり男に抱き寄せられたんだ。やはり、顔が赤い。
「あ、あの・・・」
「何だ・・・?」
由依は何かをためらっているが、思い切って聞いてきた。
「誰かの名前を言ってたようですけど・・・恋人ですか?」
どうやら俺はうわごとで、あいつの名を言っていたらしい。そして由依とあいつを間違えたようだ。
「まあな・・・」
「そうですか・・・・・・」
由依はそれきり沈黙した。何か気まずいので俺は聞き返した。
「それがどうかしたか・・・・・・?」
「いえ・・・別に・・・・・」
会話は続かない。仕方ない、起きていても無駄なのでまた寝るかな・・・・・。そう思った時、由依が話しかけてきた。
「浩平さんは・・・どうしてこの村にきたんですか?」
突然の質問だ。普段の俺なら適当に誤魔化すのだが、今の俺はなぜか素直に答えていた。
「・・・俺達の願いの場所だから・・・・って言っても、この間ふられたけどな・・・・・・」
「そうだったんですか・・・」
「お前は・・・?」
「わたしは・・・昔大切な人ときた場所だから・・・あの川で願ったんです・・・・・・・」
「男か・・・?」
「違います。姉です。もう死んじゃいましたけど・・・・・」
「そうか・・・」
由依も知っているのだ。大切な人を失う悲しさを・・・・・。
「でも変ですよね。あの川の伝説は恋人の願いをかなえるのに、姉妹で願ったんですから。だから適わなかったのかな・・・」
由依は寂しそうに笑った。
「どんな願いをしたんだ・・・?」
「ずっと二人で一緒にいようねって・・・・・」
今度は俺が沈黙した。かなわなかった願い。傷ついた心。それは俺よりも深いだろう。
「すいません。こんな話しちゃって」
一転して由依の声は明るくなる。
「でも、今は悲しいとか寂しいって、気持ちじゃないんです。確かに姉が死んだことはつらいですけど、くじけずに前を向いて歩いていこうって、決めたんです」
「強いな・・・・・・」
「そんなことないですよ」
俺の意識はそこまでだった。弱り切った俺の体力は再び眠りへといざなおうとしていた。
「・・・二人で・・・願わないか・・・・・・」
「えっ?」
俺はこれだけ言うと、意識の底へと落ちていった・・・・・・・。




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6話目です。さあ一体。二人はどうなってしまうのか?このまま落ちるとこまで落ちるのか?(^^)う〜ん、瑞佳様の出番は一体いつ?