浩平犯科帳 番外編 第四話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 番外編 第四話「茜と団子」



「茜・・・茜・・・!」
「何ですか?詩子」
「今日も抜け出すの?」
「はい」
こんな会話が茜と詩子でなされている。しかし、普段とは違うことがあった。
「あんたねぇ・・・いくら城の生活がなじめないからって、あんまり抜け出したらそのうちばれるわよ」
「そうかもしれませんね」
「大体、家茂様のお叱りをうけるのはお目付け役のわたしなんだからね!」
「すいません。でも、兄上は優しい人ですから」
違うこと。それは茜の服装と部屋の様子である。まず部屋の様子は、茜の趣味なのかそれほど派手な感はうけない。しかし、その調度品はいかにも高級品な雰囲気を持っている。そして、徳川家の家紋がどれにもなされている。そして、茜の服装。いつもの町娘の格好ではなく、これもまた上等の絹であしらった逸品である。これと二人の会話でわかるだろうが、茜は徳川家の一族である。血縁で言えば家茂の腹違いの妹である。と言っても、それが発覚したのは最近のことなのだが。
「茜。今日はどこにいくの?」
「山葉堂に、浩平にごちそうしてもらう約束ですから」
「ふ〜ん・・・わかったわあまり遅くならないでね」
「はい」
詩子は障子を開け、部屋を出ていった。それを見送った茜は城を抜け出す準備にかかる。まず、たんすの奥から、質素な着物を取り出しそれに着替える。それから、引き出しからいくらかの金が入った財布を取り出した。
「あとは抜け道に行くだけです」
茜はそっと部屋を出る。茜の部屋は城の四階の奥に位置している。抜け道は城の堀にある。ここから誰にもみつからずに行くのは至難の業であろう。しかし、茜は懐から札を取り出し、何か呪詛をつぶやいて再び懐にしまった。
スタスタ・・・
そして、茜は堂々と歩き始めた。だが、城の者は全く素通りである。茜は術を使ったのだ。姿を消しているのではなく、周りの認識をなくしているのだ。つまり、存在をなくしていると言っていい。そしてそのまま城の堀の手前に出てしまった。
(うまくいきました・・・)
茜はほっとした表情を見せると、呪詛をつぶやく。どうやら術をといたらしい。茜はあまり仕事以外で力は好かなかった。ただし、今回は別だった。三カ月前、浩平と約束した山葉堂の団子を食べにいくのだ。
「楽しみです」
茜は笑みを浮かべながら、城壁の抜け道に入った。

「お邪魔します」
「あっ!?茜さん!?」
茜が浩平のいる番屋の戸を開けると、南が出迎えた。
「浩平はいますか?」
「旦那ですか・・・ちっ、いいなぁ・・・旦那は・・・」
「いないんですか?」
愚痴を漏らす南に茜の声は険を強めて聞いた。
「あっ、は、はい、います!旦那ーっ!茜さんが来てますよ!」
「聞こえてるよ。そんな大きな声出すな」
奥の座敷から浩平が頭をかきながら出てきた。どうやら昼寝をしていたようだ。
「あれ?茜今日はどうしたんだ?」
「忘れたんですか?約束」
「約束・・・・?ああ、団子のことか」
「はい」
「ちょうど腹も減ってたしな。よし、さっさと行くか」
「はい」
その時、南が口をはさんだ。
「あの〜・・・もしかして二人でおでかけですか?」
「おお」
「がーん・・・・」
この時、南は人生最大の衝撃を受けたに違いない。
「と、言うわけで南、留守番頼んだぞ」
そして番屋を出ていく二人を南は羨望と絶望の目で見送ったのであった。

「おっ、今日は空いてるな」
「よかったです」
浩平と茜は表通りに面した山葉堂に着いた。何人かの人々が腰を休めているが、席は空いていた。二人は早速座り、品書きを見る。
「え〜と・・・みたらしにごま、よもぎなんてのもあるな。ん?新しい団子もあるぞ」
「ほんとですか?」
「ほれ」
浩平は茜に品書きを見えるようにずらす。それを茜はのぞき込んで見る。
「え〜と、あんこにきなこ、それに・・・・・・何だこの団子は・・・・・」
浩平は品書きの一点に目を引きつけられた。そこに書かれているのは・・・・・・。
「砂糖をふんだんに使い、かえでの蜜をたっぷり・・・いかにも甘そうだな」
その言葉に茜の目が光った。
「それにします!」
「ほ、本気か?」
「はい」
茜の目は輝き始めた。本気である。
「ここは無難にあん辺りから挑戦しないか?」
「嫌です」
浩平は茜の決意が堅いもを知り、あきらめた。だが、一方で嫌な予感がしていた。
「ご注文はお決まりですか?」
売り子の娘がお茶を置きながら聞く。
「それじゃあこの団子を二人前」
「えっ・・・」
浩平は売り子の表情が一瞬止まったような気がしたが、思い過ごしだと流すことにした。
「わ、わかりました」
売り子は店の奥へと戻る。団子が来るまでの間、二人はお茶を飲みながら会話をしていた。
「なあ、詩子にも聞いいたんだけどさ。茜と詩子って普段は何してるんだ?」
「お茶とか生け花を、詩子はわたしのつきそいです」
「ふ〜ん・・・いいとこの娘さんなんだな」
「合ってますけど、多分浩平の考えとは違います」
「?」
その時、団子が来た。
「お待たせしました」
二人の前に、団子の盛られた皿が置かれる。
「これか・・・」
「おいしそうです」
表面的には普通である。特に匂いも発していない。
「それじゃあいただくとするか」
「はい」
二人は同時に団子を口に運んだ。しかし、その味は・・・・。
「うぐっ・・・!」
「おいしいです」
動きの止める浩平とは対照的に、茜の手は止まらない。
「なあ茜・・・これ甘すぎないか?」
「ちょうどいいです」
「いや、俺もどっちかって言うと甘党なんだが、これは・・・・・」
浩平はおいしそうに食べ続ける茜を、じっと見た。
(絶対食えんぞ・・・)
「食べないんですか?」
「いや・・・食べるけど・・・・」
もちろん浩平は食べ切れなかったのは言うまでもない・・・・・・。

その夜。江戸城の家茂の私室に茜は呼ばれた。
「また、抜け出したそうだな」
「申し訳ありません」
茜は素直に頭を垂れる。
「確かにお前には城の生活は慣れんかもしれん。だが、あまりこんなことが続くと臣下の者も黙っていないぞ。現にお前を迎えたのにも、不満を持つ者がいるからな」
「だから、徳川性は名乗っていません」
茜は元々、普通の町民として育った。父親はおらず、母親の手で育てられてきた。茜には生まれつき不思議な力があった。母親は力の正体を知っていたのか、力を使うなと日ごろから茜に言っていた。しかし、そんな母親も茜が十四の時、病によってこの世を去ってしまった。死を迎える時、母親は茜の力について全て話した。茜の父親のことも。驚くべきことに、茜の父親は現将軍家茂の父だと母は言った。その言葉を裏づけるように、母の死んだ後日に、母親が手配したのだろう城からの使者が茜を迎えに来た。その日から茜の城での生活は始まったのだ。しかし、当時も今でもそうだが、茜のことを心よく思わない者は少なくない。古参の者に多いのだが、茜の母親は下位の妾であり、その子供を迎えるのは徳川家の汚点だと考えているのだ。茜は決して望まれて生まれたわけではなかったのだ。
「わたしとしてはお前を徳川の血縁に迎えたいのだが・・・・」
家茂の言葉に茜は微笑を見せると言った。
「そんなものは関係ありません。私達の血がつながっているのは変わりませんから」
「そうか・・・兄妹だからな・・・・・」
家茂もわずかにほほ笑む。
「もう下がっていいぞ」
「はい、お休みなさいませ・・・兄上」
「ああ」
茜は静かに障子を閉め、部屋を出た。八月の空気は暑苦しく、重苦しかった。が、茜の心境はそれに反してわりと晴れていた。
(やっぱり、兄上は兄上ですね・・・・)
茜は今日の団子の味を思い出して、少し嬉しそうに笑った・・・・・・。




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〜茜の愚痴〜
茜について説明しきれなかったな。
茜「ちゃんとしてください」
いや、三部に関わるところもあるからさ。
茜「設定が強引です」
ぐあ・・・痛いところを・・・。
茜「大体、番外編で設定を書くのが間違いです」
しかたないでしょ・・・最初何も考えてなかったんだから。
茜「先が思いやられます・・・で、次回はどうするんですか?」
う〜ん・・・お七でいこうかと思ったけど、出番がけっこうあるからやめて、澪でいこうかと。
茜「思いつきませんでしたね」
またもや痛いところを・・・・・。
茜「それでは今日はこのへんで」
さようなら〜〜!


次回浩平犯科帳 番外編 第五話「深山座の危機」ご期待下さい!