遠い蛍火-2- 投稿者: 偽善者Z
俺はなんのこともない小さな村に着いた。何もないが、俺にとっては大切な思い出がある。俺は駅を出ると、空を見上げた。俺の心とは正反対なさわやかな秋晴れだ。おれは歩き出した。とりあえずこの村には、一週間ほど滞在し、いろいろ整理しようと思っている。
「ん?」
旅館に向かって歩いていると、あるものが見えた。
「ん〜〜〜・・・とれないですぅ〜〜〜!」
「お姉ちゃんがんばれ!」
高校生くらいの小柄な女の子が、木にひっかかった風船を取ろうと苦戦している。かたわらには風船の持ち主であろう、男の子もいる。
(あの背の高さじゃ無理だろ)
女の子は必死にジャンプしてつかもうとしているが、それは徒労に終わった。しゃうがない・・・。
「よっ」
俺は少し背伸びして、風船を掴んだ。そしてその風船を男の子に渡す。
「ほれ、ぼうず」
「ありがとうお兄ちゃん!」
男の子は満面の笑みを浮かべる。
「あの、ありがとうございます」
高校生風の少女もお礼を言う
「いや、別に」
「お姉ちゃんもありがとう」
「わたしはなんにもしてないよ」
「ううん、とろうとしてくれただけで十分だよ!」
そう言って、男の子は風船を手に走り去ってしまった。
「お前の知り合いじゃないのか?」
「違います。あの子が風船を取ろうとしてたから、取ってあげようと思って」
「まあその背じゃ無理だろうな」
「むっ!」
俺の言葉に少女は反感を覚えたようだ。しかし、小さいものは小さい。
「おおきければいいってわけじゃないです!」
「だからって、小さい方がいいわけじゃないだろ」
「む〜〜〜!」
少女はかなり不満な表情を見せる。なかなかおもしろいが、こんなところで油を売るわけにもいかない。
「さて、そろそろ行くかな。じゃな、貧乳」
「どこ見てるんですか!」
俺は少女には構わず、さっさと歩き出した。後ろから追ってくる気配はない。
(顔はけっこうかわいかったけどな・・・)
俺はそんなこと考えながらも、二度と会うこともないだろうと思っていた。



それから少し歩くと、俺は小さな旅館に着いた。と言っても旅館と言うよりは、民宿に近い。まあ値段は安いからしばらく滞在するにはちょうどいい。
「すいませーん。予約していた折原ですがー!」
「あっ、いらしゃいませ。ようこそ石塚館へ。お荷物お持ちします」
女将が出てきて、荷物を受け取ろうとしたが俺は断った。荷物と言っても着替えが何着か入った。リュックしかないからだ。俺は女将に導かれ、部屋に向かった。
「それでは何かありましたらおよび下さい。それから食事は7時頃です」
「わかりました」
誰もいなくなった部屋で、俺はとりあえず窓辺に立った。秋のさわやかな風が俺の頬に触れる。
「ふう・・・」
俺はため息をついた。駄目だ、どうしても思い出す・・・・・・。実はこの村には、去年あいつと二人で来たのだ。その時は夏であったが。俺がこの村に来たのには理由があった。去年ここでした願いがかなうように願って・・・・・・。
「すいませ〜〜〜ん!予約してた名倉ですぅ〜〜〜!」
階下から聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
「ま、まさか・・・」
俺は確かめるために、一階へと降りた。そこで目にしたのは・・・。
「ああ〜〜〜〜っ!!!あの時の貧乳女!」
「貧乳は余計ですぅ〜!」
俺は驚きに目を見開いた。向こうも同様である。
「あらあら、お二人とも知り合いですか?奇遇ですね〜」
女将が少しずれたことを言っている。
「あなたがどうしてここにいるんですか!?」
「お前こそ!」
「わたしはお客です!」
「俺もだ!」
世の中は狭い。俺はつくづくそう思った・・・・・・。



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あれ?シリアスのはずだったんだけど・・・まあいいか(^^)。さて、二話目です。名前は出てませんが、多分わかるでしょう。由衣です。さて、これからどんな絡みがあるのか?ふっ、ふっ、ふ、けっこう意外(?)かも・・・・・。