浩平犯科帳 第二部 第八話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第二部 第八話「潜入」


江戸での神隠し事件を追い、浩平は失踪した友里の思念をたどって箱根に向かうことになった。江戸で、氷上の許可を得、番屋の方にも休暇の旨を伝えた。そして、浩平、茜、詩子はお七も含め旅を続けた。
「何で、わたしもいかなきゃならないのよ!」
お七が吠える。
「ここまで来といて、今さら何だよ。お前だって婦亜瑠後は敵だろ」
「あのねぇ、今回の事件が婦亜瑠後と絡んでいるかどうかも、はっきりしてないんでしょ?」
お七の反論に茜が仲裁に入った。
「でも、人助けという上では重要です」
「うっ・・・で、でもあんた達だって報酬が入らないんじゃ、意味がないでしょ?」
「婦亜瑠後が関係していれば、お金はいりません」
「だから、関係しているかどうかもわからないんでしょ・・・」
「ああ〜〜〜っ!もう、後戻りはできないんだから、やることやるのよ!」
詩子が、埒があかないので会話を打ち切りにかかった。確かに一行は、後戻りができない所まで来ていた。江戸を出発して、すでに一週間が過ぎようとしていた。もう箱根は目の前である。目的地の大月大社は、詩子の情報によると箱根の峠の中腹に位置しているらしい。

「あれがそうだよ」
詩子が鬱蒼とした山林の合間に見える、鳥居を指さした。しかし、鳥居の後ろにあるのは社ではなく、ぽっかりと口を開けた洞窟であった。
「ここからじゃあ、中の様子は見えないな。もう少し進んでみよう」
浩平は慎重に歩き出すが、茜が止めた。
「待ってください、浩平」
「どうした?」
「結界があります」
茜は足元の石をずらした。そこには陣が拭かれていた。
「これは侵入者を察知するものですね」
「じゃあ、これ以上進んだら、見つかるってことか?」
「いえ、もう見つかっています」
茜の言葉に反応したのか、頭上から黒装束の二人組が降ってきた。
「結界に気付くとは・・・貴様等、何者だ!?」
黒装束の男の一人が言う。
「結界なんてもんをしいてるんだ。てめえらこそ堅気のもんじゃねえな」
浩平が十手を抜き、構える。
「我らと戦うつもりか?」
「てめえら、婦亜瑠後か?」
「ほう?我々のことを知っているのか、ならばますます生かして帰せまい!」
二人組はそれぞれ忍刀を抜く。だが、茜が質問を続けた。
「まだ、聞きたいことがあります。友里さんは無事なのですか?」
「友里?ああ、名倉家の女か。さあな、今頃は洗脳も終わり発動体になってるころかな」
「発動体?何だそりゃ?」
浩平が疑問を口にする。
「ふん、様等には関係ないことだ。ここで死ぬのだからな!」
二人が浩平に斬り掛かろうとするが、
シュンッ!
「ぬっ!」
カンッ!カンッ!
小柄が二本投げられ、二人組はそれをたたき落とした。
「折原!こいつらはわたしに任せて!」
詩子が浩平の前に出た。
「しかし!」
「いいから、友里さんを助けて!」
「わかった!」
浩平は詩子の真剣な顔を見て、ここを任すことにした。そして、洞穴に向かって走り出した。
「いかせん!」
男の一人が妨害をしようとするが、詩子の小柄に邪魔をされた。
「お前たちの相手はわたしよ!二流の忍びが二人ならちょうどいい相手だわ」
「ぬかせ!」
詩子の挑発にのった二人組は、詩子に襲いかかる。その隙に浩平達は洞窟に潜入した。

洞窟内は外見とは裏腹に、内部は人の手が加えられ壁も床も天然の岩石とは思えなかった。
「これだけのアジトをもってるとはな・・・」
「かなりの組織力ですね」
その時、茜は前方からの危機を察知した。
「二人共気を付けてください・・・・数十歩先で敵がまちかまえています」
「何人だ?」
「少なくとも五人は」
浩平は洞窟の奥を見るが、壁の燭台の光りだけでは届かず、先は真っ暗であった。
「折原、そいつらはわたしに任せて、あんたは先に進みなさい」
「何言ってんだ!?」
お七の言葉に浩平は驚きの声を上げた。
「時間がないんでしょ?なあに、たかだか五人ぐらいじゃ、わたしはやられないわよ」
「お七・・・」
「じゃあ、任せたわよ!」
そう言って、お七は前方に向かって走り出した。それに慌てて浩平と茜も後を追う。先に進むと、少し開けた場所に出た。そこでは茜の言う通り、五人の黒装束が立ちはだかっていた。
「たあああああああーーーーーーーーっ!」
お七が鞘に収まった刀に手を添えながら、一人に駆け込む。そして、目にも止まらぬ速さで刀を抜いた。
ビシュウゥゥッ!
男はうめき声を出さずに絶命した。残った四人は突然の襲撃に慌てて、武器を構える。その間にもお七は次の標的にかかる。
「折原!今の内よ!」
「すまない!できれば殺すなよ!」
「無茶言わないで!」
浩平と茜はさらに奥へと進んだ。
ザシュッ!
「ぎゃーーーっ!」
お七は二人目を倒したようだ。

浩平と茜が奥に進むと、部屋のように作られた空間に出た。そこには寝台とがあり、回りには数人の女達がいた。女達は皆、うつろな目をしていた。
「友里さん!」
女達の中に、茜が友里を見つけたようだ。浩平はさらに部屋全体を見ると、一人の男の姿を見つけた。
「久坂玄瑞!」
忘れていない。いや、忘れられない男の名を浩平は叫んだ。その声に、久坂は振り返った。
「久しぶりだな、小僧。まさか、また会うとはな」
「なぜだ!なぜお前が生きている!」
久坂は含み笑いをしながら答えた。
「ふっ・・・表の世界では動きにくくなったのでな。影武者に死んでもらった」
「てめえっ!一体何を企んでやがる!」
「ふん、答える必要はない。さて、ここがばれたからには、こいつらを移さなくてはならないな」
「この娘達は連れて帰る!」
「できるかな?友里、こやつらを始末しろ。他の者どもは抜け道を使って脱出しろ」
久坂の言葉に、うつろな女達はのろのろと立ち上がり、久坂の後ろの戸に向かって歩き出した。だが、その中の一人だけ残った。
「友里さん・・・」
茜が呟く。だが、友里の瞳はうつろで、無気力な表情している。
「くっ、くっ、く、貴重な発動体だが、貴様等ならちょうどいい小手調べになる」
「くそっ!なめやがって!」
浩平は十手を構え、久坂に突っ込もうとしたが、しかし、
シュウゥゥゥゥゥゥーーーーー!
「うあっ!」
浩平は突然の衝撃波に吹き飛ばされた。
「くっ・・・何だ今のは!?」
見ると、友里が手を突き出し立っている。友里の髪は自然に浮き上がり、風もないのに漂っている。そして、友里の目は金色に輝いていた。
「まさか、不可視の力!?」
茜がその様子を見て叫んだ。
「ほう。そっちの娘はこの力を知っているのか?まあ、だからと言ってお前等の運命は死あるのみだ。やれ、友里!」
久坂の命令に反応して友里は手を振り上げ、一呼吸置くといきおいよく振りおろした。
ドガガガガガ!
友里の衝撃波は地面を引き裂きながら放たれた。そして、それはものすごい速度で浩平に向かっていく。
「危ないです!」
「茜!?」
茜が浩平の前に出て手を前に突き出した。衝撃波は茜を引き裂きくかと思われたが、
パシュウッ!
そんな音がしたかと思うと、衝撃波は茜の前で弾けた。
「何っ!?障壁だと!?ま、まさかそんな・・・」
それを見て、久坂は動揺している。この隙を逃すわけにはいかない。
「久坂ーっ!」
「ぬっ!友里!」
浩平が突進する。久坂は我に返り、友里に命令するが友里は反応しなかった。
ブウウウウウゥゥゥゥゥゥゥンンン・・・・・
「させません!」
茜が自らの波動で友里の動きを押さえ込んでいた。
「く、くそっ!」
「とりゃああああーーーーっ!」
浩平が十手を振りおろす。それは久坂の肩口に当たった。
「ぐっ!」
「とどめっ!」
「そうはいかん!」
久坂はそう言うと、恐るべき速さで後ろに飛びすさった。
「友里が使いものにならんのなら、わしが自ら打破しなければいけいな」
そう言って、久坂は仁王立ちをする。浩平は危険な匂いを感じ取り、近づけなかった。
「今までの強化体はある程度の、元の体にある程度の強さが必要だった。しかし、今ではそんな肉体の強度は関係なくなったのだ!」
メキメキ・・・
久坂の筋肉が発達する音が聞こえる。
「ぐおおおおおぉぉぉぉーーーーっ!」
久坂が雄たけびをあげる。その体は一回り大きくなっていた。
「いくぞっ!」
久坂が刀を抜き、飛びかかる。
「このっ!」
キィーン!
浩平は久坂の斬撃を全力で受け止めた。だが、久坂は反動を利用して飛びあがり、浩平の後ろをとった。
「もらったぁ!」
「くぅぅぅっ!」
浩平は体をひねり、対応する。
ガキッ!
何とか十手の柄にはさむも、それは一瞬のことだった。
「ふんっ!」
「ぐあっ!」
久坂が押し込むと、浩平は吹き飛ばされた。
「死ねいっ!」
久坂が刀を振り上げ、今にもその刀身は振りおろされようとしたその時、
「うあああああぁぁぁぁぁっ!」
「友里さん!」
近くから友里の絶叫が聞こえた。
「しまった!暴走している!」
久坂は動きを止め、うろたえ始めた。そして、浩平にとどめをささずに抜け道の方へと走り出す。
「浩平!逃げてください!このまま友里さんの力が放出されれば、この洞窟は崩壊します!」
「茜はどうするんだ!?」
「わたしはここで友里さんの力を押さえます!」
「そんなこと一人でさせれるかよ!俺も残るぜ!」
「浩平・・・」
そんな二人の会話をさえぎるように、友里の叫びはさらに激しさを増した。
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!」
「くっ・・・きます!」
シュゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!
友里の体から一気に力が解放された。洞窟内に一斉にひびが入り、岩が落ちてくる。
「茜っ!!」
浩平は茜をかばい上になった。
ドガガガガガ!!!
浩平と茜は落石にのまれていった・・・・・・。



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〜浩平の愚痴〜
浩平「久しぶりの戦闘だな」
人間離れしたな・・・・。
浩平「言えてる。ところで、発動体って、何だ?」
MOONの不可視の力みたいなやつ(笑)。時代劇っぽくないだろ?
浩平「自分で言うなよ」
いやあ〜、どうも時代にあてはめにくくてな。まあ流してくれ(笑)。
浩平「適当だな〜。ところで、友里の台詞が少ないけど」
うっ!痛いところを・・・・友里は由衣とからめたかったんだけど、ちょうどいいキャラがいなかったんで今回出した。
浩平「ちゃんと計画しろよ・・・」
俺にそんなもん求めても無駄だ。さて、次回でついに第二部最終回!この話のエピローグみたいなもんかな?すでにできあがってるんで、あまり間をあけないようにします。


次回浩平犯科帳 第二部 第九話「終幕」ご期待下さい!