浩平犯科帳 第二部 第六話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第二部 第六話「異変」


「またか・・・・・」
「またですね・・・・」
いつもの番屋で浩平が南の報告を聞いて落胆している。
「これで八件目ですよ・・・」
「何が起こってるんだ・・・?一体・・・」
今、江戸では神隠しが続発していた。それが浩平達を悩ませていた。神隠しは最近立て続けに起こっていて、手がかりは全くない。事件が全てつながっているのかもわからない。共通していることは、失踪しているのは皆、女であった。そのため、浩平は何か一連の事件に関連があるとにらんでいた。
(婦亜瑠後がからんでいるかもしれないしな・・・・・)
「旦那、俺もう少し聞き込みしてきます」
「いや、俺がいく。お前は休んでろ」
そう言って、浩平は外に出た。南は失踪した女達の家族や友人を当たってみたが、成果はあがらなかった。浩平は瓦版屋の住井の所にいくつもりだった。表通りを過ぎ、少し人通りの少なくなった通りに、住井の仕事場があった。浩平はその戸を開けた。
「邪魔するよー」
「おっ、浩平の旦那かい。ちょうどよかった」
瓦版屋には住井と数人の男達がいた。
「聞きたいことがあるんだが」
「神隠しのことかい?」
「ああ、知ってることでいい。礼はする」
「へえ〜、せっぱつまってるんだな」
住井は意地悪そうな笑顔を見せてから、口を開いた。
「ん〜・・・わかっていることといっても、ほとんどないぞ」
「役立たず」
浩平は背を向けて、外に出ようとする。それを慌てて、住井が止めて耳打ちをする。
「ちょっと待った・・・実はねたはあるんだよ。でも他の奴がいるからさ・・・外に出ようぜ・・・」
「わかった」
二人は外に出て、路地に入った。
「で、ねたって、何だ?」
「それがな、昨日神隠しにあった名倉家の娘の部屋に、書き置きがあったんだ」
「何っ!?そんなの聞いてないぞっ!」
「ああ、なぜか家族の者が隠していたんだ」
「書き置きの内容は?」
「さあな、そこまでは」
「ふむ・・・もう一度当たってみる価値はあるな」
「酒おごれよ」
それから二人は別れると、それぞれの持ち場に戻った。

浩平は一旦、番屋に戻った。お瑞が来るからだ。番屋には南はいなかった。どうやら、再び聞き込みにいったらしい。
「浩平ーっ、お昼だよーっ」
番屋の戸を開け、お瑞が入ってきた。
「おう、入れ入れ」
「お邪魔します」
座敷に上がり、お瑞は持ってきた包みを開けた。中身はおにぎりだ。
「浩平、最近めずらしく働いてるよね」
お茶を入れながらお瑞が言う。
「何だよ。めずらしく、って」
「だって、いつもは浩平寝てるもん」
「あのなぁ、俺だって給金もらってるんだぞ」
「そうだよね」
お瑞は浩平の言葉に笑みをもらした。
「でも・・・浩平が寝てる方が、江戸が平和な気がするな・・・・」
「・・・・・」
二人の間にしばしの沈黙が流れる。その沈黙を場を取り繕うと浩平が破った。
「最近、神隠しがはやってるから気をつけろよ」
「大丈夫だよ。浩平が守ってくれるもん」
「何言ってんだ。そんなに暇じゃねえ」
「ひどいよ〜」
こうして、つかの間の休息は過ぎていった・・・・。

浩平は住井の言っていた名倉家の屋敷に来ていた。名倉家は学者の家系で、巷では名門とされていた。浩平はその屋敷の前に立っていた。
「さて・・・どうしたもんか・・・・・」
屋敷の者が書き置きのことを話してくれるとは思えなかった。手がかりを隠匿したのだ、こんなことが奉行所に知れれば、牢獄行きにもなりかねない。それだけのことをしたのだから、書き置きのことをちらつかせても、知らぬ存ぜぬで通されるだろう。
「こうしてたってしょうがねえ。だめもとでいくか!」
浩平が屋敷の戸を叩こうとした時、後ろから声がかかった。
「折原何してんの?」
「どわぁっ!?な、何だ詩子か・・・気配を消して近づけ!」
「細かいことはいいじゃない。で、名倉家の前で何してのよ」
「聞き込みだ」
「ふ〜ん・・・じゃあ、書き置きのことを知ったのね」
「やはり知ってたか」
仁義屋では情報係として働く詩子だ。裏で、この事件について調べていたに違いない。
「お前こそ、こんな所で何してるんだよ」
「聞き込み」
「あのなぁ・・・岡っ引きでもないお前が、聞き込みなんて直接できるわけないだろ」
「それができるんだなぁ」
何かおかしそうに笑いをこらえながら、詩子は屋敷の戸を叩いた。
「ごめんくださ〜い!」
「おい!何してるんだよ!」
「いいから、いいから」
焦る浩平には構わず、すぐに屋敷の使用人が出てきた。
「どちら様しょうか・・・あっ!?これは柚木様!」
使用人は驚いた声を上げるが、すぐに声をひそめる。
「今日は一体どうしたのでしょうか?それに茜様は・・・・?」
「茜はきてないわ。今日は友里さんが神隠しにあったて聞いたから・・・・」
「さようでございますか。わざわざお越しにいただいて恐縮です。主人もお喜びになるでしょう・・・ささ、どうぞ中へ」
小声なので、浩平までには会話は完全に届かなかったが、どうやら詩子は名倉家と関わりがあるらしい。
「ほら、折原入るわよ」
その言葉に浩平の存在に気付いた使用人が言った。
「今日はお供の方もいらっしゃるのですね」
「お供?何のことだ?」
「いいから!早くきなさい」
詩子が腕を引っ張るので、浩平はひきづられるようにして、屋敷の中へと入った。

「これが友里の書き置きです」
主人の部屋へと通された浩平と詩子が、主人に書き置きのことをたずねると、あっさり書き置きを見せてくれた。
「拝見させていただきます」
詩子が手紙を取り、目を通し始めた。浩平はなぜか詩子のお供という立場になっており、後ろに控えていた。
(一体、どうなってるんだ?)
浩平は主人が詩子に対して、敬語を使っていることに気付いた。名倉家は名門なだけあって、かなりの身分である。その名倉家の主人が恐縮しているのだから、詩子は名倉家よりも高い身分ということになる。
「これだけですか?」
書き置きを読み終えた詩子が、主人に聞いた。
「はい・・・どこに行ったかもわかりません」
「そう言えば由衣さんは?」
由衣。浩平はその名に聞き覚えがあった。失踪したのは姉の友里で、確か下に由衣という妹がいたはずだ。
「由衣は今、親戚にあずけています」
詩子は問い詰めようと思ったが、主人が由衣の話題に触れた時、顔を暗くしたのでやめた。
「すいません。突然押しかけて」
「いいえ。こちらも何のもてなしもできなくて」
詩子は話を切り上げ、別れのあいさつを言った。

「なあ、書き置きには何が書いてあったんだ?」
屋敷を出て、帰り道を歩く浩平が詩子に聞く。
「『家族の絆を取り戻します』それだけ」
「何だそりゃ?それじゃあ、何の手がかりにもならないじゃないか」
「まだわからないよ。もう少し、名倉家は調べてみる価値があるわね」
「婦亜瑠後に関係するのか?」
浩平は一番気にしていることを聞いた。
「さあ、今のところは。でも何か掴んだらすぐに知らせるから」
「助かる」
そして、道を歩く浩平だがあることに思い出した。
「ところで、お前や茜は普段何してるんだ?」
浩平は今まで、仕事以外で二人に会ったことがない。
「ふふふふ、知ったらきっとびっくりするわよ」
「何だよ。言えよ」
「やだ。おもしろいから秘密」
「何だそりゃ?そう言えば茜はどうしてるんだ?」
その言葉に、詩子は思い出したように叫んだ。
「あっ!忘れてた!折原を呼んでもらおうと番屋に行かせたんだ!」

一方、浩平の番屋では・・・・・。
「いやぁ〜、しかしこんなお美しい方が旦那のお知り合いなんて」
南が茜の相手をしていた。南は茜を見て舞い上がっているようである。
「浩平がいないなら帰ります」
茜が立ち上がろうとするのを、南がなだめる。
「あ、あのもう少しで帰ってくると思いますよ!」
「その言葉は何回も聞きました」
「うっ・・・あっ、そ、そうだ!茜さん、一緒に昼でも食べにいきませんか!?」
「嫌です」
それから数分後、南の必死の説得もかなわず茜は番屋を後にした。そして、戻ってきた浩平に、南は泣いて飛びついた・・・・・・。



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〜浩平の愚痴〜
今回はあっさりしてるかな。
浩平「おい、偽善者」
何だ?
浩平「作品でも触れてるけど、茜と詩子って、普段何してるんだ?」
秘密!
浩平「何だよ。教えろよ」
だめ。番外編で書くから、それまで待ってろ。
浩平「う〜む・・・それだけびっくりするほどの設定なのか?」
いや、そうでもない(笑)。
笑って言うな!


次回浩平犯科帳 第二部 第七話「追走」ご期待下さい!