浩平犯科帳 第二部 第四話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第二部 第四話「襲撃」


「いいか、皆の者!この襲撃に成功すれば、攘夷を反対する者もおさまるじゃろう!ここは皆の健闘に期待する!」
品川の旅籠で、高杉が勤王派浪士に言葉を掲げていた。高杉は明日、攘夷派浪士を従えて、御殿山に建築中のイギリス公使館の焼き打ちを行おうとしていた。勤王派にも攘夷を快く思う者はいない。そのため、公使館の襲撃をし、幕府への牽制を狙っているのである。襲撃前夜の高ぶる男達の中に、浩平はいた。
「はあ・・・」
浩平は一人、ため息をついた。浩平は先日、この襲撃に備えて京都から呼び戻された。すでに暦は十二月に入っていた。江戸に戻ったものの、浩平の気は晴れなかった。今までは本来の目的である敵討ちのことを、闇の情報屋に当たっていたが、何も聞かなかった。そして、流されるまま暗殺や辻斬りを続けていたが、夢の意識が強くなり、自分のしていることへの疑問が限界を達しようとしていたのだ。
「浩平、傷の方は大丈夫か?」
沈む浩平に高杉が声をかけてきた。
「ええ、この程度だったら何とかなるでしょう」
浩平は包帯を巻いた左の手の平を見せながら言った。
「そうか、まあ無理はせんことじゃ。こっちの手数はすくのうが、質はいい」
そう言って、高杉は酒宴の中心に入っていった。
「はあ・・・」
また浩平はため息をついた。
「元気がないね」
「うわっ!?」
突然の声に浩平は驚き、声を上げた。後ろを振り向くと、そこには浩平と年の違わないぐらいの、少年が立っていた。
「やあ」
「な、何だよ?」
「いや、君がさびしそうな顔をしてたから」
「してねえよ」
少年は屈託のない笑顔をのぞかせている。
「誰だ?お前」
「明日の襲撃に参加する者だよ」
「じゃあ、お前も攘夷派か」
「いや、違うよ。そんなものには興味はないからね」
「どういうことだ?」
「仕事だからだよ」
「雇われたってことか」
「そういうことだね」
少年はそう言って、浩平の隣に座り込んだ。
「おい、何で隣に座るんだ?」
「君ともう少し話していたいからさ」
「気持ち悪いこと言うなぁ」
だが、浩平も少し少年に興味が湧いた。理由はわからない。
「人を斬るのは好きかい?」
少年が聞いてきた。
「まさか」
「僕も嫌いだ。でも、君はなぜこんなことをしているんだい?」
「・・・・・わからない」
「それは君が、自分のしていることを拒否しているからだよ」
「何でそんなことがわかるんだ?」
「君が僕と同じ目をしているからだよ」
「?」
「はは、まあ、もう少しでわかるよ」
「何言ってんだ?」
「今日はここまでにしよう。また次の機会に」
「お、おい・・・」
そう言って、少年は立ち去ってしまった。
「何なんだ・・・?あいつ・・・」
浩平は不思議な少年を見送った。

翌日。高杉率いる攘夷派の面々は、御殿山公使館前のやぶの中で、様子を観察していた。襲撃の人数は十数人と、かなり少ない。だが、その分かなりの手練で構成されていることになる。
「よし・・・頃合いじゃな・・・皆の者、行くぞ!」
高杉が号令をかけ、志士達は一気に飛び出す。
「うおーーーーーーっ!」
「な、何だ!?」
見張りの者は、突然のことに対応しきれなかった。
ザシュッ!
「うあっ!」
数人の見張りはあっという間に斬られ、館の中に志士達は突入していった。そんな中、浩平は後続に位置していた。傷を心配した高杉の指示だ。今の浩平には、それがありがたかった。
(あいつ、どこにいるんだ?・・・・・・)
浩平は昨日の少年を探していた。しかし、前衛にいるのか、その姿は見えない。
「あれ?ここ、どこだ?」
考え事をしていたせいか、浩平は予定とは違う、館の廊下に入っていることに気付いた。
「戻るか・・・」
その時、浩平は後ろから殺気を感じた。
「死ねーっ!」
一人の侍が斬り掛かってきたのだ。
ザクッ!
「うぎゃあああーーーーっ!」
おたけびを上げたのは浩平ではなかった。男は右肘の先から血を流して、床をのたうち回っている。浩平が振り向きざま、男の右腕を斬り落としたのだ。浩平はとどめを刺そうとした。が、その腕を途中で止めた。
「・・・」
「なぜ殺さん!」
男は苦痛に顔をしかめながらも言う。
「情けのつもりか!?だが、このまま苦しみと生き恥をさらすならば死んだ方がましだ!」
男は威勢よく言うが、その顔は青ざめてきた。
「自ら死を選んではいけないよ」
「お前は・・・!」
浩平が振り向くと、昨日の少年が現れた。後ろには見知らぬ少女もいる。
「死は、人生を全うしてこそ訪れるものだよ。茜、手当てを」
「はい」
茜(二年前の頃)は、男に近づき傷口に手を触れた。
「な、何をする!?」
「黙っててください」
茜は男には構わず。目を閉じた。すると、茜の指先が光り、男の出血は止まった。
「こ、これは・・・?」
「記憶は消させてもらいます」
そう言うと、今度は男の額に手を置く。そして、再び目を閉じる。
「うっ・・・」
男はうめくと、気を失った。
「お、お前等はいったい・・・?」
浩平は疑問を問う。
「話は後だ。この館に火がつけられたから、早く逃げないと」
そう言って、少年と茜は浩平が来た道とは違う廊下の奥へと向かった。
「お、おい!そっちは違うぞ!」
「いいから、君も来るんだ」
「・・・・・・」
浩平は少年の後についていくことにした。少年の言葉には何か引き寄せられるものがあったからだ。

少年は館の抜け道を知っていたらしく、簡単に外に出れた。そして、浩平は少年の後に続くまま、館から少し離れた林の中に入った。
「お前等、何者だ?」
浩平は少年が立ち止まったのを見て、自分も止まり聞いた。
「ただの雇われ用心棒だよ」
「何が用心棒だ。刀もさしてないくせに」
浩平の言葉通り、少年は刀をさしていなかった。
「あっ、忘れてたよ。まあ、どうせ使わないからね」
「館の中で何してたんだ?それにその娘の力は・・・・・・」
「敵がいたからさ」
「敵?」
「そう、敵さ。もっとも、襲撃の前にいなくなってたみたいだけどね」
少年のつかみ所のない性格と、茜の不思議な力により、浩平は混乱していた。
「さて、あまりまごまごしてられないな。本題に入ろうか」
「何だよ、本題って」
少年はなぜかほほ笑むと、口を開いた。
「興味は持ってくれたようだね。僕には大して目的なんかないんだ。ただ、君の破滅を止めてあげようと思ってね」
「破滅?」
「そう、今の君はとても不安定だ。違うかい?」
「・・・・・・」
浩平は何も答えれない。
「君に出会ったのは、偶然じゃない。これは僕の考えだけど。どうだい?僕らと一緒に働かないか?」
「働く?何をするんだ?」
「仁義屋」
「仁義屋ぁ!?」
少年の言葉に、浩平は声を上げた。仁義屋と言えば、闇の世界で伝説と化している名だ。三百年前、全国で恐れられた組織であるが、いまだ続いているとは思えない。
「仁義屋って、あの仁義屋か!?」
「そう。戦国時代からつづいている老舗だよ」
浩平はめまいがした。あまりに現実離れしたことが続いている。
ピーーーーーッ!
その時、ふもとの方から笛の音が聞こえてきた。どうやら、騒ぎを聞きつけた奉行所がやってきたらしい。それと同時に上から、人が降ってきた。
「うわっ!?な、何だ!?」
「お頭!町方の奴等が来ました!」
詩子(二年前)だ。それに少年は慌てず答える。
「そうか、それじゃあ、そろそろ行かないと。多分、また会えるから返事はその時聞くよ」
そして、今まで黙っていた茜が口を開いた。
「京都で会えると思います」
「おい!待てよ!」
浩平は止めるが、少年達は足早に去ってしまった。
「わけがわかんねぇ・・・・・」
浩平は一人、林に残された・・・・・・。




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〜浩平の愚痴〜
ああ、最近ネタが詰まってきた・・・・・。
浩平「飽きてきたんだろ?このシリーズ」
うん。ちょっとな。
浩平「まあ、こんだけ長々やってりゃ飽きるわ」
あ〜、ギャグが書きたい・・・・・・。
浩平「ところで、次回はどうなるんだ?」
んあ?・・・そうだな、とりあえず浩平の過去の話は終わるかな。二部は続くけど・・・。
浩平「はあ・・・まだやんのか・・・・・・」


次回浩平犯科帳 第二部 第五話「仁義屋浩平誕生」ご期待下さい!