浩平犯科帳 第二部 第三話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第二部 第三話「憎悪」


京都での生活がが始まり、数日がたった。浩平は護衛もこなし、長州藩士とも多少は会話できるようになっていた。特に問題はないように見えた。表面的には・・・・・・・。

ガバアッ!

浩平は布団から飛び起きた。また夢を見たのだ。浩平は額の汗をぬぐうと、ため息をついた。
「ふう・・・」
問題のないように見える浩平だが、内面は荒れていた。理由はいろいろあった。まず、人を斬ることに嫌気がさしていること。これは今までにもあった。江戸にいた頃も、暗殺や辻斬りを行っている自分がわからなくなったことがある。まだ若い浩平は、それに耐えられなかったかもしれない。だが、支えとなるお瑞のおかげで破滅だけはしなかった。しかし、京都に来てお瑞と離れ、浩平の精神は弱まっていた。そして、最大の理由はみさおの夢である。これは前者につながる。精神が弱り、浩平はみさおの夢に強く引き込まれていた。みさおが死んで、長い年月がたっていた。浩平は忘れていようとしていた。ある程度は立ち直れたが、完全にはできなかった。そして、京都に来てその呪縛は強くなった。
「・・・そう言えば、桂さんに呼ばれてたな・・・・・・・・」
浩平は着物の乱れを直し、部屋を出た。粗末な自分の部屋を出て、浩平は桂の部屋に向かう。庭では数人の藩士が稽古をしていた。浩平は横目でそれをちらりと見ると、廊下を通り過ぎようとした。しかし、後ろから声がかかった。
「おい、浩平!こっちだ」
桂だ。どうやら稽古組に混ざっていたらしい。浩平は慌てて、後ろを戻った。
「どうだ、お前もやってみないか?」
桂はさわやかな笑みを見せて、浩平に言った。
「いえ、遠慮しときます」
「そうか、まあいい。おお、話があったんだな。よし、稽古はここまでにしよう」
桂は木刀を置き、肩紐を解いた。そして、手ぬぐいで汗を拭く。
「すまんが、後は頼む」
桂は周囲の藩士に言うと、さっさと歩き出した。浩平もそれに続く。
「話とは何でしょうか?」
桂の部屋に入ると、浩平は聞いた。
「うむ、実は今日大切な会合がある。わたしはそれである人物と会わなければならない」
「護衛をしろと?」
「まあ、そうなんだが、少し違う。護衛は会合する相手だ」
「?」
浩平は事情が掴めなかった。会合相手にも護衛はついているだろう。それなのに、わざわざ自分の護衛を与えるのが分らなかった。
「相手の名は久坂玄瑞。吉田松蔭先生の生徒だ。時間は追って沙汰する」
「わかりました」
浩平は一礼して桂の部屋を出た。

子の5つ時(七時半頃)。桂は、料亭青田屋で久坂と会合をしていた。桂の後ろには浩平が控えている。
「薩摩との協力が上手くいくだろうか?」
「だからといって、今の長州だけでは勝てまい。会津藩はうるさいしな」
桂と久坂が何やら、今後の藩の指針について話していた。浩平は全く話についていけず、置物と化していた。
「そうだ。久坂さんに紹介しなければ。おい浩平」
「あっ?は、はい」
突然名前を呼ばれ、浩平は慌てた。
「久坂さん。こいつが今日の護衛です」
「折原浩平です」
「ほう・・・若いな」
久坂は少し驚いた顔を見せた。
「藩内でお主意外で最も強い者を、護衛にしてくれとは言ったが、まさかこの者が」
「いやいや、浩平は侮れませんよ。なにせ、わたしから一本とりましたから」
「ふむ、それはすごいな」
久坂はまだ納得していないようである。
「まあ、襲われればわかりますよ」
「そんな時が来ないのを祈るよ」
桂と久坂は声を上げて笑った。

それから一時。会合も終わり、浩平は久坂を旅籠まで送るため、夜の京都を久坂と二人歩いていた。護衛は浩平以外に誰も居なかった。
「他の護衛はいないんですか?」
「いない。この方が人目につかないからな」
「でも、何かあったら・・・」
「だから、最強の者を頼んだのだ。お主がどれほどの者かは、いずれわかるがな」
浩平はその言葉にひっかかりを覚えた。それに、久坂の態度は先ほどから襲撃を恐れる風もなかった。度胸があるのか、しかし、久坂の剣の腕はそれほどでもない。二人はそれからしばらく無言で歩いた。と、浩平は前方の人影に気づいた。新選組だ。数は三人。
「嫌なのが来ましたね」
「倒せそうか?」
「何とか。俺が引きつけますから、久坂さんは逃げて下さい」
「それはできん。あんな殺戮集団に背を向けるとは、それにお主の腕を見ると言っただろう?」
久坂はにやりと笑った。
(何、馬鹿なことを言ってるんだ・・・・?)
浩平は久坂を不思議に思った。そうこうしている内に、新選組の奴等が近づいてきた。ここで逃げれば確実に斬られる。
「やるしかないようだな・・・・・・・・」
浩平は体中の神経を研ぎ澄ませた。
「おい、そこの者。こんな時間に何をしている?」
新選組の一人が声をかけた。が、浩平は何も言わず、刀を抜いた。ここは時間稼ぎをして、久坂の逃げる時間を作らねばならない。
「むっ!?賊か!」
隊の者は一斉に刀を抜く。しかし、道は狭く攻撃は一人づつである。
「でやあああああああーーーーーー!」
仕掛けたのは浩平からであった。一気に踏み込み、鋭い突きを繰り出す。狭い壁と壁の間では、これが有効なのだ。
ザクッ!
一人目の喉元を突き、あっと言う間に片づける。そして、勢いを殺さず二人目に体当たりをかけた。
ドガァ!
「のわっ!?」
不意をつかれた男は吹っ飛び、壁に叩きつけられた。浩平は三人目の攻撃に備え刀を構えた。しかし、三人目の攻撃は来なかった。三人目は刀を構え、立っていた。その体からは鋭い殺気と、隙の無さを漂わせていた。
「中々やるな。だが俺はこうはいかんぞ」
「た、隊長・・・」
二人目の男が男をそう呼んだ。
(ちっ、隊長かよ・・・)
新選組の隊士の腕はそれほどでもない。だが、隊長となるとその腕は達人並みである。
「新選組一番隊、隊長、沖田総司。お相手いたす」
沖田はそう言って、刀を中段に構えた。浩平も中段に構え、先に仕掛けた。
「だあああーーーーーーーーっ!」
浩平は先ほどのように、突きを繰り出した。全身全霊の一撃である。
ガキィーーーン!
沖田はそれを刀の横腹で受けた。
「何!?」
浩平は驚愕する。
「速いな・・・しかし、この程度ではっ!・・・・・」
沖田は刀を弾き、間合いを取った。そして突きを繰り出した。
「はっ!」
チッ!
浩平よりもさらに速い突きだった。浩平はそれを肩をかするも、何とかかわした。だが沖田の突きはそれだけでは終わらなかった。二撃目がさらに繰り出される。
「うっ!」
キィン!
浩平はそれを刀で受ける。が、咄嗟のことに浩平は刀を弾かれる。そして、三撃目。これが沖田の得意とする三段突きである。これを行えるのは沖田以外、誰もいない。
「これで最後だっ!」
「誰がっ!」
浩平は手を突き出す。沖田の剣はそれを貫いた。
ズシュッ!
「ぐっ!」
浩平は痛みにうめくが構ってられない。一瞬、沖田の動きが止まったところを狙い足を振り上げ、沖田の顔面を蹴り上げた。
バキッ!
「ぐあっ!」
沖田はたまらずよろめいた。その時、後ろから久坂の声がかかった。
「逃げるぞ!」
浩平はその声に反応して走り出した。後ろは見ない。久坂と共に迷路のような路地を走る。そして、追っ手がないのを確認して立ち止まった。
「なぜ逃げなかったんです」
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・い、言ったろ。お前の腕前を見るって・・・」
久坂は完全に息があがっている。浩平は着物を破り、手に巻く。血は地面に点々と後をつけていた。
「まずいな、これじゃあ後がつく・・・久坂さん。早く行きましょう」
「大丈夫だ。追っ手はこないだろう」
なぜか久坂は自身ありげに言った。
「どういうことですか?」
「何となくだ・・・それにしても、これほどの強者が見つかるとはな・・・・・・」
最後の言葉は独り言のようで、浩平には聞こえなかった。そして、浩平は気づかなかった。先に歩き出した浩平の背中で、久坂がにやりと笑ったのを・・・・・。

その夜。久坂を送り、自分も寝床に戻って、傷の手当てを行い、やっと痛みのひいた浩平は眠りについた。そして、夢を見た。


「みさおー」
「お兄ちゃん・・・」
ぼくはいつものように、離れにきていた。みさおはまるでしかばねのようにやつれていた。みさおの体はいっこうによくならず、血をはいたこともある。
「お兄ちゃん・・・」
「なんだ?」
「岡っ引きになる約束おぼえてる?」
「ああ、下手人を捕まえるってやつか」
「うん・・・あれ、今日やろうよ」
「今からか?どうやって?」
「下手人はこのこけし・・・この前棚から落ちてきて、頭をぶつけたんだ・・・・・」
「わかった。それなら十分悪行だな」
ぼくは急いで蔵にいき、中から前々から準備していた道具をとりだした。そして離れに戻り、みさおの部屋の前で着替える。父さんのつかっていた着物を来て、長下駄をはく。そして、父さんの十手をもって部屋に入った。
「やいやいやい!この極悪人が!」
ぼくは部屋に飛び込み、重い十手を振り回し、こけしをうちつけた。こけしは衝撃でふっとんだ。
「逃げるな!」
「・・・」
ぼくはこけしを踏みつける。みさおはそんなぼくの様子をじっと見ている。
「みさおのおでこに傷をつけるとは、何事だ!」
ぼくはこけし相手に何をやっているのだろうと思いつつ、そんなことを言っていた。
「うっ・・・」
その時、みさおがうめいた。その顔は痛みに耐えているようである。
「つっ・・・はうっ・・・」
苦しむみさおだが、ぼくは何もしなかった。みさおが苦しいとか助けてとか言うまでは、ぼくはただ見ているだけだ。
「さばきはお上にまかせる!」
ぼくは苦しむみさおの横で、こけし相手にたんかを切る。
「くっ・・・お兄ちゃん、痛いよ、苦しいよ、助けて・・・・」
ぼくはその言葉に、十手も振り投げ、みさおに駆け寄った。

みさおの葬儀で、ぼくは泣かなかった。母さんは最後まで、姿を見せなかった。そして、一人になった時、みさおの風車を見て、みさおが死んだことの悲しみを知った。

ぼくはみさおに、いい兄でいられたんだろうか?
父親の代わりのような。
多分なれなかった気がする。
ぼくは兄であり、父ではないから。
みさおは寂しかっただろう。
父親がいないから。
どうして父親がいないんだろう?
そうだ・・・父さんは殺されたんだ。
だから、父親がいない。
だから、みさおは寂しかった。
だから、ぼくは憎む。
父さんを殺した奴を。
だから、俺は闇の仕事に手をつけた。父さんが殺されたのは、仕事中のことだった。俺はその時、その場にいた。父さんを殺した奴には、首筋に刀傷があった。俺はそいつを見つけ、復讐をするために闇の世界に入った。この方が、奴に出会えると思ったし、斬ることだってできるからだ。何よりも岡っ引きになることはつらかった。みさおとの約束があるから・・・・・・。


「・・・・・・・」
浩平はいつの間にか、覚醒していた。頬には涙の後があった・・・・・・・。



@@@@@@@@@@
〜浩平の愚痴〜
浩平「何か、ONEのキャラがほとんど出ないな」
う〜ん、やっぱりそう思うか?
「誰だって思うぞ」
まあ俺の趣味だと思って、流してくれ。
「適当だなぁ・・・」
ほっとけ。
「ところで、新企画があるんじゃなかったのか?」
ああ、そうだった。実は、あまりにも一度使われたキャラの出番がないので、番外編を作ることにした。
「ほう」
まあ、本編みたいに長くしないで、短くだけど。中にはギャグ物もあるかも。
「で、いつ書くんだ」
多分、二部の後かな?まあ、かなり微妙。じゃ、次回タイトル。


次回浩平犯科帳 第四話「襲撃」ご期待下さい!