浩平犯科帳 第二部 第二話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第二部 第二話「京都」


時は文久二年十一月。

浩平は月明かりの注ぐ中、道の真ん中を歩いていた。人気は全くない。そんな静まり返った京都の町を歩いていた。しばらく歩いていると、家々の壁の間隔は狭い。浩平は同じ所をぐるぐる回っているような気がした。だが、そんな不安はすぐに打ち消される。前方の交差点である、少し開けた土地に数人の集団がいるのを見つけた。浩平は少し安心するが、すぐに気を引き締めた。これからが仕事である。
「おそかったな、浩平」
「すいません、桂さん」
浩平は集団の中心人物と思われる男に詫びた。
「遅刻するとは護衛はつとまらんぞ」
「すいません」
浩平はまたも謝る。いいわけをしようかとも思ったが、やめた。この桂と言う男に逆らってもいいことはない。この桂の名は、小五郎。長州藩の出身で、勤王派の中心人物である。後の世でも、木戸孝允と名を変え、明治維新の重要な役割を果たす。
「いいか、刺客がどこから狙っているのかはわからん。しっかり護衛しろよ」
「はい」
浩平は長州藩の出身でもなければ、勤王派でもない。それどころか、政治のこと等どうでもよかった。ただ、江戸で世話になった高杉晋作に頼まれて、桂達の護衛をしているに過ぎない。先ほど、桂達はある旅籠で勤王派の集会を開いてきた。京都市中には新選組等の幕府側の目が光っている。そんな中、こんな目立つ行動を取るということは、京都内での勤王派の力が強くなっていると言える。
ザッ、ザッ、ザッ、
桂達は無言で道を歩く、浩平はその最後尾を歩いていた。しばらく歩いていると、桂は足を止めた。
「浩平、仕事だ」
「はい」
浩平は腰に差した刀に手を添えた。浩平は後方から発せられる殺気に気づいていた。桂もそれに気づいていたのだ。桂達は再び足を進めるが、浩平は一人その場にとどまっていた。そして後ろを振り向く。
「出てこいよ」
その言葉に物陰から三人の男が現れた。男達は皆、白と青の羽織に縦縞の袴をはいている。新選組だ。
「一人で残るとはいい度胸だな」
男の一人が言った。そんな男に浩平は挑発するように言った。
「ごたくはいいからさっさとかかってこいよ。こっちは忙しいんだ」
その言葉に男共は顔色を変えた。
「何を!長州の犬が!」
「覚悟!」
新選組の者はそれぞれ刀を抜き、斬り掛かってきた。しかし、浩平は憶することもなく刀を抜く。
「うおーーーっ!」
京都の路地は狭い。そのため複数が同時に攻撃するのは不可能だった。一人目は刀を振り上げ、そのまま振りおろそうとした。
ザシュッ!
「ぐあっ!」
しかし、浩平は一瞬だけがら空きになった胴を、素早く抜いた。
「おのれ!」
次の者が間を置かずに斬り掛かってきた。
キィーーン!
浩平は袈裟懸けに下ろされた相手の刀身を受ける。
ドカッ!
そして、相手の腹に蹴りを入れ距離を取る。そこに鋭い突きを繰り出した。
ズンッ!
「うぐっ!」
刀は相手の心臓を一突きにした。
「うわああああーーーーーー!」
最後の一人が、次々に仲間を倒されたのを見て、発狂したかのように襲ってきた。相手は無我夢中で刀を振り回す。
「・・・」
ズバアッ!
浩平は無言でその胴を抜いた。
「ぐあああぁぁぁ・・・・・・」
男は崩れ落ちた。浩平は倒れた男の羽織で刀を拭くと、鞘におさめた。新選組の奴等は全員絶命していた。先ほどの腕前から見ると、隊長はいなかったようだ。多分、見回りの分隊であろう。
「・・・」
浩平は男達の死体を冷たく見下ろすと、ゆっくりと歩き出した・・・・・・・。

「無事だったか」
藩邸に帰ってきた浩平に、桂が声をかけた。ここは桂の部屋である。
「隊長ならいざ知らず、あの程度ではやられませんよ」
「そうか」
桂は短く答えた。
「どうだ、明日俺と一勝負しないか?」
「えっ?」
桂は浩平に試合を持ちかけてきた。
「俺はまだお前の実力がわからん。他にもどこの馬の骨かもわからないお前を使うのに反対の者もいる。だからだ」
「・・・」
浩平は自分がどう思われようが、どうでもよかった。金に興味があるわけでもない。だが、桂と勝負はしてみたかった。桂は神道無念流の使い手で、道場の塾頭であると聞いていた。浩平は最初に桂に会った時に、その隙のなさから、桂の強さを肌で感じていた。
「わかりました。お受けしましょう」
浩平は少し考えてから、そう答えた。
「よし、明日の朝一番にだ」
「はい」
そう言って浩平は立ち上がると、桂の部屋を出た。そのまま、浩平は藩邸の奥にある自分の部屋に向かった。藩士でもなく、ただの雇われの身である浩平には、まるで物置のような部屋が与えられていた。それでも浩平はいっこうに構う様子もなく、着物も変えずに刀だけ置くと、そのまま布団に入った。
「みさお・・・」
布団にくるまりながら、浩平は亡き妹の名をつぶやいた。そして、夢の世界へと落ちていった。

正月をぼくは一人で過ごした。みさおは正月を過ぎても、離れで療養していた。みさおはますますやつれていった。
「みさおー」
「・・・お兄ちゃん」
「見舞いにきてやったぞ」
「・・・ありがとう」
からから・・・
みさおの枕元では風車が回っている。
「・・・お母さんは?」
「相変わらずだよ」
「そう・・・お母さんのことも心配してあげてね」
「ああ、わかってる」

俺はみさおが元気になると信じていた・・・。だから、下手人を捕まえる約束も忘れていなかったし、用意もしていた・・・。

浩平は悲しみの中、目覚めた。涙は流れていない。もう枯れてしまったからだ。浩平は妹の夢をいつも見ていた。繰り返し、繰り返し、妹と過ごした夢を。
「・・・」
浩平は無言で起き上がり、着物の乱れを直す。少し遅く起きたみたいらしい。浩平は刀を腰に差すと、外に出た。今日は桂との試合がある。
「来たか」
庭に出ると、桂が待っていた。周囲には話を聞きつけた藩士達も集まっている。桂は着物の脇をひもで縛り、木刀を立てて立っている。どうやら、準備運動は終わったらしい。
「すいません。遅れました」
「いや、そうでもない」
桂は口元に笑みを浮かべている。浩平はいそいそと脇にひもを通し、木刀を持ち、軽く素振りをする。
「いいですよ」
「ほう、もういいのか?」
「ええ、とっさに動けなきゃ使いものにならないですよ」
「頼もしいことだ。試合は三試合、先に二本先取した方の勝ちだ」
「わかりました」
二人は距離を取り一礼すると、木刀を構える。桂は下段に構え、浩平の出方を待っている。実力を見定めようとしているのだ。浩平は逆に上段に構える。
(無謀だな・・・)
桂は意外そうな顔をした。
「てやぁっ!」
浩平は小細工なしに、突っ込む。
カンッ!
「うっ!・・・」
木刀同士がぶつかる乾いた音が鳴る。桂は浩平の斬撃を受け止めたが、その重さにうめいた。下段に構えてなければ、対応できなかっただろう。
「うおおおおーーーーっ!」
「くっ!・・・」
浩平は連続で打ち続ける。桂はそれを何とか受け流す。一方、周囲の藩士達はその攻防にどよめいていた。まさか、桂がここまで苦戦するとは思っていなかったのだ。
「はあっ!」
バキィーーン!
「ぬっ!?・・・」
気合一閃、浩平の一撃が桂の木刀を弾いた。周囲にざわめきが起こった。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
浩平は荒い息をついている。そんな浩平に桂がにやりと笑みを浮かべた。
「やるな、しかし次はこうはいかんぞ」
二本目が始まると、先ほどとは逆に桂から仕掛けた。中段から突きを繰り出したかと思うと、そこから面打ちへとつながり、上、中、下段と連続で打ち込む。
「うわっ!?」
浩平は桂の鮮やかな技にあっさり一本取られた。
「強いですね・・・」
浩平は素直に負けを認めた。
「ふふ、三本目があるぞ」
三本目はすさまじいものになった。両者が突っ込み、互いの斬撃がぶつかる。周囲はこの戦いにのまれていた。
ガキッ!
つばぜり合いになり、二人の動きは止まった。
「いい腕だ!だが、まだ技が荒いな」
桂は浩平に向かって言うと、体を横にずらす。
「なっ!」
浩平はバランスを崩し、倒れ込む。そこに桂の木刀が突き立てられた。
「勝負あったな.。だが、俺が先に一本取られるとは・・・実戦では俺の負けだ」
少し悔しそうな表情をして、桂が言う。周囲は興奮して二人に駆け寄った。皆、浩平の戦いぶりに納得したようで、称賛の言葉をかけていった。そして、人気がひくと桂が浩平に言った。
「浩平、後で俺の部屋に来い。話がある」
桂はそう言い残し、その場を去った。
「ふう・・・さすがだな・・・・・・」
これほどの腕をもつ桂に護衛はいらないだろう。しかし、浩平を護衛にするのは理由があった。普段。勤王派と敵対する新選組から、手を出してくることはない。表向きにではあるが。しかし、何かちょっとした怪しいことがあると、奴等は容赦しなかった。そのため、藩とは無縁の浩平を使い、何かがあっても長州藩とは関係ないとするためである。浩平は木刀を置くと、朝食を取りに行った。

朝食後。浩平は桂の部屋に来ていた。
「ただいままいりました」
「む、来たか」
浩平は障子を開け、中に入った。桂は綺麗に整頓された部屋で、あぐらをかき座っている。
「まあ、座ってくれ」
「はい」
浩平は桂の前に正座した。
「話というのはな、この手紙なんだが」
桂は浩平に手紙を差し出した。手紙は高杉からの物で、浩平は中身を見る。
「・・・これは」
「うむ、お前の名は書かれていないが、どうやらお前の力が必要らしい」
手紙には、高杉が近く、品川御殿山で建設中の、イギリス公使館を襲撃することが書かれていた。そのための援軍を求めていた。しかし、襲撃は少人数によるものなので、腕の立つ者が求められていた。また、奇兵隊の組織についての報告がなされていた。
「俺が行くんですか?」
「高杉が言ってんだから、しょうがあるまい」
浩平は京都に来てから、それほど日がたっていない。それなのに再び、江戸に戻されては納得がいかない。が、恩のある高杉からの頼みである無視するわけにはいかない。
「まあ、まだ先の話だ。考えておけ」
「はい」
浩平は江戸に戻るかどうか思案に暮れた・・・・・・。


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〜浩平の愚痴〜
なんか中途半端だな。
浩平「いつものことだ」
それもそうだな。
浩平「で、次回は?」
うん、夢の続きが中心だ。
浩平「まあ、ここはゲームが元だから、展開はわかるよな」
甘いわーっ!俺がそれだけですむと思うかぁ!
浩平「何ぃ!?」
みさおの死にさらに父親の死についても絡むのだぁー!
浩平「で?」
それだけだ。
バキッ!
ぐあっ!・・・じ、次回タイトルを・・・・・・。

次回浩平犯科帳 第二部 第三話「憎悪」ご期待下さい!