浩平犯科帳第二部第一話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第二部 第一話「過去」


声に導かれ、浩平の思考は記憶の闇へと落ちていく・・・・・。

ザシュウッ!
「があああぁぁぁ・・・・・・」
断末魔の声とともに、人の倒れる音がする。
「悪いな・・・これも仕事でな」
倒れた男を見下ろしながら、刀を握り、立つ男がいる。浩平である。まだ、少年っぽさが強い顔をしている。浩平は男の着物で刀を拭くと、刀を鞘におさめた。そして、夜の人気の少ない江戸の通りを足早に去った。そして、浩平の行き着いた先は、古びたしもた屋であった。
「役目は終えたぞ」
浩平は中に入るとそう言った。中では明かりはロウソク一つの、暗い部屋に一人の男が座っていた。
「ご苦労だった。これが金だ」
男は浩平に向かって、袋を投げた。浩平はそれを受け取る。袋の中ではじゃらじゃらと金属音が鳴っていた。
「次の仕事は?」
「三日後だ。深川の料亭で、勤王派の会合が行われるらしい。お前はその勤王派の中心人物、高杉晋作を消せ。これが似絵だ」
「わかった」
「気をつけろ、高杉は剣の達人だ。後、くれぐれもこの仕事については・・・」
「わかっている。誰にも言わない」
浩平はそう言うとしもた屋を出た。浩平は両国の自分の長屋に向かった。

時は二年前、文久二年十月。浩平が十五の頃である。このころの浩平は元服したばかりで、岡っ引きはしていない。仕事にはつかず、表向きにはいわゆる浪人をしていた。しかし、闇の仕事に手をつけていた。仁義屋ではない。勤王派の暗殺である。先ほどのしもた屋での男は、左幕派の密偵で浩平に暗殺の指令を出しているのだ。だが、あくまで浩平は幕府とは無縁の立場である。

浩平は自分の長屋に戻ってきた。刀を押し入れに隠すと、浩平は床についた。浩平の身分は侍ではない。父親は岡っ引きだったので、帯刀や切り捨ても認められていない。そのため刀を隠しているのだ。だが、刀を隠すのにはもう一つ理由がある。幼なじみのお瑞だ。お瑞は浩平が暗殺していることを知らない。浩平は汚れた自分を、幼い頃から支えになっていたお瑞に知られたくなかったのだ。お瑞がいなかったら、浩平は生きることを破棄していたかもしれない。なぜなら、浩平は夢を見るからである。悲しい過去の・・・・・・。

「わっ!?部屋間違えた!」
「あってるよ。お兄ちゃん」
「えっ、みさおか?」
「うん」
久しぶりに離れにきたぼくはおどろいた。みさおの体があまりにもやつれていたからだ。みさおの顔はやせて、別人のようであった・・・・・・・。

ガラアッ!
いつものように雨戸が開かれ、まぶしい朝日が飛び込んでくる。そして、いつもの声。
「ほらぁっ、起きなさいよぉー!」
お瑞だ。
「うー・・・」
浩平は眠気と、夢の悲しみでだるかった。
「ほらぁっ!」
バフッ!
「ぐあっ!」
浩平の顔に座布団が押しつけられた。たまらず、浩平は起き上がった。
「ほら、早くご飯食べてよ」
起き上がった浩平の目の前には、やはりまだ幼さの残るお瑞がいた。
「お前なぁー、俺は仕事がないんだから昼まで寝させろよ」
「だめだよ、ちゃんと朝起きないと体に悪いんだよ」
「へいへい・・・」
浩平は仕方なく布団から、はい出る。どうせ、お瑞が帰ったらすぐに寝るのだ。
「ねえ、どうしておばさんの屋敷を出たの?」
食事を取る浩平にお瑞が聞いた。
「別に。あそこにいたら商売やらされるからな」
浩平の伯母は、品川で質屋を開いていた。なかなかの評判で屋敷も広い。浩平はその伯母に家族が死んでから、元服するまで育てられていた。お瑞とも伯母の紹介で出会った。浩平は十四の時、伯母の所を出た。そして、この一年間剣の修業をして、今の闇の仕事に出会った。偶然ではない。浩平が家を出て、剣の修業をしたのもそのためである。なぜ闇の仕事をするのか?それは妹の死が関係していた。
「それじゃあ、わたしは行くよ。浩平も遊んでないで、早く仕事見つけなよ」
そう言って、お瑞は長屋を出ていった。実家の米屋を手伝うためである。
「あ〜あ・・・」
食事を終えた浩平は、あくびをすると座布団を枕に眠りに落ちた。みさおの夢は見ない。いつも夜に見るのだ。

二日後。亥の四つ(午後十時)に、浩平は深川のある料亭が見える路地裏で、張り込んでいた。会合があるという情報は確からしく、数人の侍風の男達が中に入っていた。月は雲に隠れている。
「あっ・・・あれは・・・・・」
浩平は息をひそめた。料亭から、男達が出てきたのだ。浩平は幕府の密偵からもらった似絵を見た。そこに描かれた顔は、確かに男達の中に含まれていた。そして、男達は何やらあいさつをすると、その場で解散した。
「あいつか・・・」
浩平は高杉を追うことにした。高杉は自分が命を狙われているのは知っているはずである。しかし、その歩みは恐れることもなく堂々としている。
「手ごわそうだな・・・」
浩平はつぶやいたが、ここでひくわけにもいかない。浩平は人気がないのを確認すると、刀を抜いて高杉に後ろから声をかけた。
「高杉晋作!」
「むっ!?」
高杉は驚いて振り向く。その手は素早く柄に置かれている。
「お命、いただくっ!」
浩平は一気に突っ込んだ。そして、鋭く袈裟懸けに振り下ろす。
ガキィーーン!
「何奴じゃ!?」
高杉は浩平の剣を受け止めながら聞く。
「辻斬りだ!」
「自分で名乗る者がおるかっ!」
浩平は高杉の剣を弾くと、一旦離れた。そして、再び斬り掛かる。今度は中段から、上段への二段突きだ。
キン!キィーン!
高杉はそれらを受け流すと、がら空きになった浩平の腹を抜いた。
ドグゥッ!
「ぐはあっ!」
鈍い音がして浩平は倒れ込んだ。高杉は逆刃に返していたのだ。
「ふう、おんしゃなかなかやるのぉ」
高杉は自分を殺そうとした相手に、気軽に声をかけた。
「なぜ・・・殺さなかった」
「おんしゃの剣は左幕派のもんじゃない。打ち合った時にわかった」
その時、隠れていた月が顔を出した。そして、月明かりに照らされた浩平の顔を見て、高杉は驚きの声を上げた。
「おおっ!?まだ子供じゃないか!・・・う〜む、やはり幕府とは無縁のようじゃの」
「・・・」
浩平は何も言わなかった。
「いくつだ?」
「十五だ」
「う〜む、この年でその腕とは・・・殺すには惜しいのぉ・・・」
高杉は考えるような仕種をすると言った。
「よし!おんしゃ、わしの隊に入れ!」
「はあ?」
浩平は間の抜けた声を出した。高杉の言ったことが信じられなかった。
「明日の夕暮れに荒川で待っている」
そう言って、高杉はさっさと歩き去った。浩平は追撃もせずにその場に座り込んでいた。
(何だ?あの男・・・でも悪い奴じゃなさそうだな・・・・・・・)
浩平は高杉の大物ぶりに、惹かれるものを感じていた。
「暗殺・・・失敗したな・・・・・・」
浩平は報告が憂鬱だった。

翌日の昼。浩平は荒川に来ていた。昨日、密偵には仕事の失敗についてしか話さなかった。密偵は怒ることまなく、浩平を帰した。金は渡さなかったが。
「ふう・・・来るのかあの人・・・・・」
浩平は幕府には未練等ない。勤王派にも興味があるわけではない。ただ、高杉といるとおもしろそうな気がしただけであった。そして、しばらく待つと高杉が現れた。
「おお〜、来てくれたか」
高杉は浩平がこの会合のことを漏らしていたら、命がないのに浩平がいることに喜びの声を上げた。
「ここに来たっちゅうことは、わしの隊に入るっちゅうことだな?」
「えっ?・・・あ、ま、まあ」
浩平は高杉の勢いにうなずいてしまった。
「そうか、そうか!よ〜し、おんしゃはわしのそばで面倒を見よう!え〜と、名前はぁ・・・」
「折原浩平です」
「そうか!よろしく頼むぞ、浩平!」
高杉は浩平の肩を力強く叩いた。

その夜。密偵に呼ばれた浩平はしもた屋に来た。
「来たか。次の仕事は・・・」
「待ってくれ」
浩平は男の言葉を止めた。
「俺は今日限り、この仕事をやめる」
「何だと!?貴様何を言っているのだ!」
「この仕事をやめる。それだけだ」
浩平はそう言って、その場を去ろうとした。
「貴様!」
男は刀を抜き、斬り掛かってきた。この場で、浩平を消そうと言うのだ。
ザンッ!
浩平は振り向きざま、刀を抜き男を斬った。そして、刀を拭きその場を去った。

それから一カ月。浩平は高杉のもとで過ごした。高杉は奇兵隊の組織中で、その人材を江戸で探していたのだ。高杉は浩平に剣術や、政治の情勢について話してくれた。政治についてはおもしろかったが、興味はもたなかった。そして、ある日のこと。
「浩平、京都に行かないか?」
「えっ?」
突然、稽古の最中に高杉が言い出した。
「実は、京都で桂が護衛を探しているんじゃが、それをおんしゃにやらせたいのだ」
桂、浩平は何度かその名を聞いた。長州勤王派の中心人物だ。
「なぜ、俺何ですか?」
「桂は藩とは関係のない者を希望なんじゃ」
浩平は少し迷った。別に江戸には未練はない。あるとすればお瑞のことだが、それも大したことではない、浩平は思った。だから、決めた。
「わかりました。行きます」
「そうか、それはありがたい。でも、おんしゃと離れるのは寂しいのぉ」
「俺もです」
「まあ、今生の別れでもあるまい。気にせず行ってこい!」
「はい!」
力強く浩平は答えた。

数日後。浩平はお瑞に旅に出るとだけ告げ、江戸を去った。未知なる京都に向け・・・・・・・・。



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〜浩平の愚痴〜
あー、疲れた。やっと二部か。
浩平「ほっとする暇はないぞ。さっさと質問にいくぞ」
へいへい・・・
浩平「第二部の狙いは?」
う〜む、いいことを聞いた。二部は浩平の過去についてが中心だ。仁義屋や岡っ引きになった経緯についても書くつもりだ。
浩平「なるほど、そこで歴史上の人物が生きるわけだな」
いや、単なる俺の趣味だ。
バキッ!
ぐあっ!・・・意識が薄れる前に次回タイトル・・・・・。


次回浩平犯科帳 第二部 第二話「京都」ご期待下さい!