浩平犯科帳 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第十四話「懐古」

ガラッ!
いつものように開かれる雨戸の音。そして目の奥を突き刺すような陽光。
「ほらぁっ!起きなさいよぉっ!」
いつもの様にお瑞が浩平を起こす。
「・・・・・・」
浩平は何も答えない。
「浩平ったらっ!」
「起きてる・・・」
浩平は低い声で答えた。そして布団を抜け出し、着物を取る。
「どうしたの浩平?様子が変だけど・・・」
「何でもない・・・」
浩平の気分は何故か優れなかった。浩平は昨日見た夢の内容を覚えてなかった。ただ、懐かしい光景と声を感じた。
「行くぞ・・・」
「う、うん・・・」
いつもの様に朝食を済ませ、十手を取った浩平は長屋を出た。後を追うお瑞だが、浩平の様子に戸惑っていた・・・・・。

その日の昼。浩平は自身番屋にいた。
「すんません。昨日は風邪で寝込んじまって」
「お前のせいで、俺が見回りするはめになったんだぞっ!」
昨日休んだ南を、浩平がいじめている。
「いやあ、ほんとにすんません。でも旦那なんかこないだまで、ずっといなかったじゃないですか」
「何ぃ〜反抗するつもりかっ!こうしてやるっ!」
ゲシ!ゲシ!ゲシ!
浩平は南の頭を抱え、その頭を小突く。
「わあ〜〜っ!すんませんっ!」
コン、コン
その時、番屋の戸を叩く音がした。
「ん?お瑞かな?・・・」
「えっ!?」
浩平はお瑞の名に反応する南を離すと、戸口に向かい戸を開けた。
「よお、お瑞。おっ?澪も一緒か」
戸を開けると、そこにはお瑞と澪が立っていた。
「何で澪がいるんだ?」
「こっちに来る途中で会ったんだよ。浩平の所に来るつもりだったけど、道に迷ったんだって」
「おいおい・・・ここの場所がわからないなんて、すごい方向音痴だなぁ」
その言葉に澪は恥ずかしそうに、顔を伏せた。
「ところで、何しに来たんだ?」
澪は紙を取り出し、木炭で字を書き始めた。
『お昼一緒に食べるの』
澪の手には包みが抱かれている。
「ちょうど良かったな。今日はお弁当作ってないから、中原亭に行こうと思ってたんだ」
「お瑞、飯を作るのをさぼるなよ」
「何言ってるんだよ。いつもただで作ってあげてるんだよ」
「まあそんなことはどうでもいいとして、食うとするか。中にあがってくれ」
お瑞と澪が中に座敷にあがり、澪は包みを開いた。包みを開くと重箱があり、さらにその中を開けると豪華な料理が入っていた。
「おおっ!これはすげえっ!これ誰が作ったんだ?」
『座長さん』
「へえ、わざわざこんな豪勢なの作ってくれるなんて、いい人だな」
『昨日送ってもらったお礼なの』
「そうか、よしありがたく頂くとするか。南、お前も食っていいぞ」
「ほんとですか!?」
「ああ、ただし俺等が食い終わった後にな」
「・・・・・・・」
浩平のいじめはまだ終わっていなかった・・・・・。そして浩平達が食事を終えると(南は残った物を食べ始めている)、澪が浩平の腕を引っ張った。
「何だ?」
『見回りに行くの』
「またついてくるのか?大体、俺は見回りになんか行かないぞ」
すると、途端に澪の顔は泣きそうになった。
「ああ〜〜、わかったっ!行く!行くから泣くな」
澪の顔はまたもや一転し、明るくなった。
「わたしも行ってもいいかな?」
お瑞も同行を願った。
「勝手にしろ。南、今日は俺が午後の見回りに行くわ」
「わかりました」
「よし、んじゃ行くぞ」
三人は番屋を出た。

三人は番屋を出てから、いろいろな所に行った。小間物屋やら軒先の露店等、寄るたびに浩平とお瑞の財布は薄くなっていった。そして、夕暮れ時になると、今日もまた江戸川に来ていた。
「はあ・・・何で俺が澪のために金を使わなくてはいけないのだ」
「いいじゃない。澪ちゃんは喜んでくれたんだから」
お瑞が言うと、澪はうん、うんと笑顔でうなずいた。
「これじゃあ酒も飲めないぜ・・・」
「だめだよ。お酒は万病のもとだからね」
「百薬の長とも言うぞ」
「浩平は飲み過ぎるから毒なんだよ」
そんな会話をする浩平達を夕日が赤く染める。浩平はまたも昨日の感慨に襲われた。
(まただ・・・何が悲しいんだろう?・・・・・・)
浩平は黙りこくった。そんな浩平にお瑞が心配そうに声をかけた。
「浩平?どうしたの?突然黙ったりして」
「いや・・・何でもない。さて暗くならないうちに帰るとするか」
浩平が言うと、後ろから澪が背中に飛びついてきた。
「ぐあっ!・・・澪、抱きつくな!」
だが、澪は離さない。
「・・・まさかおぶってけ、って言うのか?」
澪はうん、うんとうなずいた。
「はあ・・・しょうがねえな・・・・・・・」
浩平はあきらめて澪を送って行くことにした。夕日は川の水面にきらめいていた・・・・・・・。

その夜。昨日と同じように、浩平は夢を見ていた。

ぼくはみさおに、ぼくとおなじ思いをさせたくなかった。だから、一大計画をぼくは企てたのだ。
「みさお、ぼくが父さんの代わりに下手人を捕まえてやる」
「あいかわらずばかだね、おにいちゃん」
「なんだとーっ!」
「ごめん、うそだよ。でも本気なの?」
「ああ」
「でも奉行所の人は相手にしてくれないよ」
「大丈夫だ。変装する」
「背が低いよ」
「長下駄をはく」
「無理だよ」
「大丈夫だって」
「ほんとに下手人をつかまえるの?」
「ああ、まかしとけ!」
父さんの仕事はおかっぴきだった。だから、みさおが父親のことを自慢できるように、ぼくがおかっぴきになって、下手人を捕まえて手柄をたてようとおもったんだ。ぼくは事件がおこる日が来るのを楽しみにしていた。

ガバアッ!
浩平は勢いよく起き上がった。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
浩平は荒い息をついている。顔には汗すら浮かんでいた。しかし、意識がはっきりするにつれて夢のことを忘れていった。
「何だ?・・・この感じは・・・・・・・」
浩平は自分が息をつき、汗をかいている理由がわからなかった。
「ふう・・・もう朝か・・・・・・」
雨戸の方を見ると、すき間から朝日が差し込んでいる。どうやらいつもよりは早く起きたらしい。浩平は布団からはい出ると、着物に着替えた。それから食事をとる。お瑞が来ていないので、米は炊いてないがおかずはあった。浩平は漬物やら何やらを口に放りこむと、十手をとり、お瑞を待たずに外に出た。

浩平は自身番屋に来た。中では昨日から泊まり込んでいたのか、南が寝ていた。
「おい、南。起きろ」
浩平は南の体を足で転がす。突然のことに、南は驚いて飛び起きた。
「うわっ!?・・・何だぁ、浩平の旦那か。びっくりしましたよ」
「すまん、ちょっとしたいたずらだ。南、昨日はここに泊まったのか?」
「へえ、ちょっと書き物が長くなって。ところで旦那、今日は珍しく早いですね」
「ん・・・まあな」
浩平は口ごもった。早起きをしたものの、気分はまったく優れなかった。だが、何故かそのことについては触れられたくなかった。これがお瑞を待たなかった理由でもある。お瑞ならすぐに浩平の変化に気付くであろう。
「南。今日は俺が見回りをするわ」
「えっ?いいんですかい?」
「ああ、まだ風邪が治ってないんだろう。ゆっくりしてな」
浩平はそう言って、まだ早い両国の町に出た。

浩平は行く当てもないまま歩いていた。見回りに出ると言ったが、浩平の目的は気晴らしであった。しかし、その目的を達することができずに、気持ちは沈んでいった。そんな浩平に突然後ろから声がかかった。
「あーっ!見つけたーっ!」
浩平が振り向くと、お瑞と澪が走ってきた。
「もおーっ!浩平ったら、何で置いていくんだよーっ!」
「いや、早起きしたから、早めにお役目に行こうかと・・・」
「手紙ぐらいかいといていいでしょーっ!」
「すまん。ところで、何で澪もいるんだ?」
「澪ちゃんがね、浩平にお芝居の稽古を見てほしいんだって」
お瑞が言うと、澪はうん、うんとうなずく。
「何だそりゃ?俺は芝居なんてしたことないぞ」
「教えてほしいんじゃなくて、ただ稽古している姿を見てほしいんだよ」
「うーん、何だかよくわからんがまあいいぞ」
浩平が承諾すると、澪は嬉しそうにな顔をすると浩平の腕を引っ張った。
「お、おい。もう行くのかよ・・・・・」
浩平は澪に引かれながら深山座に向かった。お瑞もその後に続いた。

夜。浩平は床につきながら、今日のことを思い出していた。深山座で澪の稽古を見ていたが、浩平はその澪のがんばりを素直に誉めてやりたかった。が、一方で朝から続く気持ちがさらに強まった。お瑞はそんな浩平にすぐに気付いた。鈍感なお瑞だが、いつも一緒にいるだけあって、浩平のことには敏感なのだ。浩平はお瑞に笑ってごまかし、その場をしのいだ。そして、稽古も終わると澪は舞台までの短い時間を浩平達と過ごした。澪は浩平と居るときはいつも笑顔だった。
(澪はがんばってるんだな・・・・・・・)
浩平はそんなことを考えながら眠りについた。そして、幼い日の夢を見る・・・・・・・。

みさおが病気になったのは、そろそろ変装道具をそろえなきゃな、と思い始めた頃だった。ちょっと直すのに時間がかかるらしく、屋敷の離れでみさおはすごすことなった。ぼくや母さんに移さないためらしい。
「おまえ、いつも腹出して寝てるからだぞ。気付いたときは直してやってるけど、毎日はさすがに直してやれないよ」
「うん、でも、お腹に落書きするのはやめてよ」
ぼくはいつも、筆でみさおのお腹に落書きしてから布団をなおしてやるので、みさおのお腹はいつでも、笑ったり、泣いたり、怒ったりしていた。
「だったら、寝相をよくしろ」
「うん。そうだね」
みさおの邪魔そうな前髪を掻き上げてやりながら、障子の外に目をやると、立派な松の木がある庭の風景を見渡せた。
そして秋が終わろうとしていた。



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〜偽善者の愚痴〜
俺「今回は浩平の愚痴を休んで、作者である俺(偽善者Z)の愚痴を書きます。まず最初に言いたいこと、ごめん、みんな!作品の感想を書けなくて!いや〜、これが俺の最大の悩みです。書こうとは思ってるけど、忙しくて書けないんです・・・大体、この作品長すぎなんだよ・・・・・・まだ一部だし。まあ二、三部はもう少し短くなる予定です。(信用しないほうがいいです)さて、次の愚痴はこの作品について。ここまで長いと徹夜なんてざらにあります。おかげで何書いてるのかわからなくなるがあるんですよ。だから、説明が足りなかったり、矛盾したり・・・・まあ、作者としてはあまり深いところをつっこまずに、気軽に読んでください。途中で面倒になるだろうけど・・・・・・・・。さてと、あまり長々と書かないで、予告ぅ!」

幼き日の記憶!過去との決別!江戸の闇を浩平が斬る!

次回浩平犯科帳 第十五話「決別」ご期待下さい!