浩平犯科帳 第一部 第十三話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第十三話「夢」


翌日。浩平はいつものごとく番屋にきていた。しかし、いつも先にきている南がきていなかった。
「おかしいなぁ・・・これじゃあ見回りに行く奴がいないじゃないか」
浩平は自分が動く気はさらさらない。浩平が南を待っていると、番屋の戸が開いた。
「遅いぞみな!・・・あっ、髭さんでしたか。すんません」
入ってきたのは南ではなく髭だった。
「いや、かまわねえよ。南は風邪で休むそうだ」
「それじゃあ見回りに行く奴がいないですよ」
「何言ってんだ。お前がいるだろ」
「俺ですか?」
「そうだ。たまには行ってこい」
「へいへい・・・」
浩平は仕方なく立ち上がった。さすがに上司である髭の命令を無視するわけにもいかない。

浩平は番屋を出て、両国をふらふら歩いていた。見回りといってもたいしてすることはないのだ。昼になるといったん番屋に戻り、お瑞と昼食を食べた。お瑞は浩平が見回りをしたことにとても驚いた。
「浩平!?何か悪い物食べたの!?」
「何でそんなに驚くんだよ。ほれ、午後も見回りあるんだから早く食え」
「ねえ、わたしも一緒についてっていい?」
「あ?何で?」
「だって浩平が仕事してるの見たことないもん」
「店の手伝いはどうすんだ?」
「大丈夫だよ。今日はもう配達終わったから」
「しょうがねえな。勝手にしろ」
浩平は内心、話し相手になる者ができて都合が良かった。見回りをしていても退屈だったのだ。
「よっしゃ、それじゃあさっさと行くぞ」
「まってよ〜」
浩平は番屋の戸を開け再び見回りに出た。そしてお瑞と会話しながら両国をあてもなく歩き回った。
「そうだ。着物を返してもらおう」
浩平は表通りを歩いて深山座が見えると着物のことを思い出した。深山座はちょうど舞台が終わったところらしく、客が帰り始めていた。
「ちょっと寄っていこうぜ」
「うん」
二人は人波に逆らい入り口に入った。入るとすぐに桟敷客を見送っていたのだろうお雪を見つけた。
「お雪さん!」
「あら浩平の旦那じゃない。今日はどうしたの?」
お雪は意外な客に少し驚いた声を上げた。
「いや、見回りの途中で近くを通ったから着物を受け取ろうと思って」
「そう。着物は澪が持ってるはずだからあの子からもらって。多分控えの方にいるわ」
「んじゃ、あがらせてもらいます」
浩平とお瑞はお雪に礼をして控えに向かった。

「うわぁ、すごい人だね」
控えの手前まで来て、中の様子を見たお瑞が声を上げた。確かに控えには芝居を終えた役者がひしめきあっている。
「これじゃあ、どこにいるのかわからないな」
「どうするの?」
「う〜ん・・・」
浩平が考えこむが、控えの中を見ると簡単に澪を見つけた。
「おい、あれじゃないのか?」
「ほんとだ」
「こっちの方に来るぞ」
澪は浩平達の方に向かってくるが、役者達にはばまれ中々来れなかった。
「大変そうだね」
「そうだな」
二人がそんな会話をしている中、やっと澪は二人のもとに着いた。澪の手には大きな包みが抱かれている。
「大丈夫か?」
ぼろぼろになった澪に浩平が声をかけると、澪はうん、うんと笑顔でうなずいた。どうやら大丈夫と言っているらしい。
「それ何だ?」
浩平の問いに、澪はガサガサと包みを広げた。中には浩平の着物が入っていた。
「お、すまねえな」
浩平は礼を言いながら着物を受け取った。
「舞台は終わったの?」
お瑞が澪に問いかける。それにも澪はうん、うんとうなずく。その様子に浩平はつぶやいた。
「ずいぶん無口な奴だなあ・・・」
「もしかして本当に口が聞けないんじゃない?」
お瑞が言うと、澪はうなずいた。
「えっ?ほんとにか?」
浩平は驚いた。そして続けて言った。
「あ、って言ってみろ」
澪はあ、と形だけ口を開いた。
「い、は?」
同じく形だけである。
「次は東海道の宿場を全部だ」
「そんなのわたしもわからないよ」
澪はその命令にも一生懸命に口を開いた。
「すまん。もういいぞ」
澪ははう〜とため息をついた。
「しかし驚いたな。ほんとにしゃべれないなんて」
「だからあんなに芝居が上手だったのかな」
お瑞の言葉に澪ははずかしそうに顔を伏せた。どうやら上手だと言われて照れているらしい。
「澪。着物は返したの?」
後ろからお雪の声がかかった。澪はそれにうなずく。
「そう。それならいいわ」
「お雪さん。借りた着物どうしようか?」
「う〜ん、そうね・・・そうだ、控えで着替えてよ」
「わかった」
浩平は役者達にまぎれて着替えることにした。少しして、いつもの格好で浩平が出てきた。
「やっぱりこの格好が一番だな。ありがとうな澪、洗ってくれて」
澪はそれに笑顔を返す。
「それじゃあ、お雪さん。俺達はこれでおいとまするよ」
「あら、ゆっくりしていけばいいのに」
「いや、まだ見回りがあるんで」
「浩平。さっきお団子食べに行くとか言ってなかった?」
「うっ、それを言うな!」
お瑞のつっこみに浩平はうめいた。その時、澪は団子と言う言葉を聞いて顔を輝かせた。
「そうだ旦那。澪も連れていってやってくれないかい?この子、前から山葉堂のお団子を食べたがってるのよ」
お雪の言葉に澪はうなずく。
「ああ、別にいいけど」
浩平が承諾すると、澪は嬉しそうに浩平に飛びついた。
「ぐあっ!抱きつくな!」
浩平は苦しそうにうめいた。

澪を連れて深山座を出た浩平達は、山葉堂に来ていた。山葉堂はいつもの様に混んでいるが、何とか三人が座れる席は空いていた。そして、それぞれ席に座ると団子を頼んだ。
「ふう、やっぱりここの店は混んでるな」
「それだけ繁盛してるってことだよ」
「おまたせしました」
そんなことを言っているうちに団子が届く。
「よし頂くとするか」
「うん」
三人は同時に団子を口に運んだ。
「やっぱりここの団子はうめえな」
「そうだね」
「澪。うまいか?」
浩平が聞くと、澪は懐から何やら紙を出したかと思うと、それに木炭で字を書き始めた。
『おいしいの』
紙にはそう書かれている。
「そうか、それは良かったな。それにしても澪、お前読み書きができるんだな」
澪はそれにも返事を書く。
『寺子屋にで学んだの』
「へえ〜、えらいね澪ちゃん」
三人は団子を食べながら会話していたが、やがて団子を食べ終えた。
「さて、団子も食ったことだし見回りをするか。澪はどうするんだ?」
『一緒に行くの』
「おいおい・・・深山座はどうするんだ?」
『今日は稽古ないの』
「しかしだな・・・」
浩平は口ごもるが、お瑞が口添えする。
「浩平一緒に行ってあげたら?お雪さんにはわたしが言っておくから」
「おい・・・それは俺が一人でこいつの相手をするってことか?」
「そうだよ」
「ちょっとま・・・」
「すいませ〜ん!お勘定頼みま〜す」
浩平が反論しようとしたが、お瑞が立ち上がり勘定を頼んだ。そして店の者に澪の分も含めて代金を払った。
『お金払うの』
「いいのよ澪ちゃんは、浩平の着物洗ってくれたから。それじゃあ浩平澪ちゃんは頼んだよ」
「おい!ちょっと待て!」
浩平が止めるがお瑞はさっさと行ってしまった。浩平は立ち尽くすが、その腕をぐい、ぐいと澪が引っ張った。
「わかったよ・・・つれてってやるよ」
その言葉に澪は笑顔を浮かべた。

山葉堂を出てから浩平と澪は江戸の町を歩き、見回りの管轄を越えていろいろな所を見て回った。澪は江戸に来て日が浅いらしく、珍しい物を見ると表情を明るくした。そして数時間がたち夕日が風景を赤く染めていた。
「澪、疲れたか?」
『少し』
二人は江戸川の河川敷に座り、夕日を眺めていた。浩平は夕日を見ながら不思議な感慨にとらわれていた。
(何だ?・・・この泣きたくなるような気持ちは?・・・・・・)
浩平は夕日に遠い昔の懐かしさを感じた。それは何故か悲しくなるような感じだった。
トン・・・
浩平の体に澪がもたれかかった。澪は寝息をたてている。
「やれやれ・・・しょうがなえな」
浩平は澪の体を抱えると、背中におぶった。それでも澪は起きない。浩平は立ち上がると歩き始めた。
(何か懐かしいな・・・この温もり・・・・・・)
浩平は背中の暖かさにそんなことを思った・・・・・・・。

その夜。澪を深山座に送り届けた浩平は眠りに入った。そして夢を見ていた。遠い日の思い出の・・・・・・。

「うあーーーーん・・・・・・うあーーーーんっ」
泣き声が聞こえる。誰のだ・・・?ぼくじゃない・・・。そう、いつものとおり、みさおの奴だ。
「うあーーーーん!お母さーんっ!」
「どうしたの、みさお」
「兄様がぶったーー!」
「浩平!あんた、またっ」
「ちがうよ、遊んでただけだよ、上段斬りのまねをして、遊んでたんだ」
「そんなのはまねごと、って言わないのっ!あんた前は居合い斬りとかいって、泣かしたばかりじゃないのっ」
「まねごとだよ。ほんとの上段斬りや居合い斬りなんてんえできないくらい切れ味がいいんだよ?」
「ばかな理屈こねてないで、謝りなさい、みさおに」
「うあーーんっ!」
「うー・・・みさおぉ・・・ごめんな」
「ぐすっ・・・うん、わかった・・・」
「よし、いい子だな、みさおは」
「浩平、あんたが言わないのっ!」
じっさいみさおが泣きやむのが早いのは、べつに性分からじゃないと思う。ぼくが、ほんとうのところ、みさおにとってはいい兄であり続けていたからだ。
そう思いたい。
みさおが生まれてすぐに、父さんが死んだから、みさおはずっと父さんの存在を知らなかった。ぼくだって、まるで影絵のようにしか覚えていない。動いてはいるのだけど、顔なんてまるではんぜんとしない。そんなだったから、みさおには、男としての愛情(自分でいっておいて、照れてしまうけど)を、与えてやりたいとつねづね思っていた。近所の友達と遊んでいると、自分の父親を自慢する奴がいる。なんだかの役についたとか、おおだなになったとか、みんな嬉しそうに語る。たいして手柄をあげないところの子も、自分の父親のいいところをあげて自慢する。ぼくはそんな時、居心地が悪くなる。ぼくにとって父親とは自慢のたいしょうではなく、あこがれでしかなかった。でも、所詮はかなわぬ夢だ。でも、みさおにはそんな思いをさせたくなかった。男としての愛情を、与えたいと思っている兄として・・・・・・・・。


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〜浩平の愚痴〜
浩平「異色だな」
そうだな。
浩平「後半からゲームにあったことがあるからな」
でも時代劇っぽくなくて、不満なんだよな。でも、ONEをベースにしたいからな・・・・・・。
浩平「悩み所だな」
そうだな。
浩平「次は夢の続きだな」
そうだな。
浩平「では予告だな」
そうだな。(今回の愚痴は全て語尾を『な』にしてみました。なんとなく・・・)

懐かしき妹の夢!浩平は何を思うのか!江戸に浩平は何を夢見る!

次回浩平犯科帳 第十四話「懐古」ご期待下さい!