浩平犯科帳 第一部 第十話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第十話「夢の続き」

浩平、お七、茜、詩子の四人はすでに駿河に入っていた。江戸の両国から四日がたっている。浩平達は物見遊山もせず、かなりの早さでここまで来た。
「なあ、広瀬組はどこにあるんだ?」
歩きながら浩平がお七に聞く。
「そろそろよ。駿河の江戸に近い外れだから」
お七の言葉を裏づけるように、お七の表情は険しいものになっている。そして道をしばらく歩くと大きな屋敷が見えてきた。
「あれよ」
「へえ〜けっこう大きいわね。あっ、門の前に誰かいるわよ」
「ほんとです」
これは詩子と茜だ。目のいい詩子は門の前の人影に気付いた。
「あれは・・・」
さらに一行は人影が確認できる所まで進むと、お七は声をあげた。
「兵助!兵助ね!」
お七は門に向かって走り出した。
「お七姐さん!?来てくれたんですね!」
兵助と呼ばれた青年も、喜びの声を上げた。そして、お七が兵助の所まで駆け寄った。
「兵助!立派になったわねー!昔はちびだったのに!」
「姐さんもきれいになりましたよ!驚きましたよ。あのお七姐さんが女らしくなってるなんて!」
「なんですって〜!」
お七の顔は嬉しさにほころんでいる。だが、何かを思い出したのか、急にその表情は真剣になった。
「兵助・・・節太がここにいるんだって?」
その言葉に兵助の顔も暗くなった。
「はい・・・確かに節兄がいるんですが・・・・・・」
「わたしのことを知らないのね」
「はい・・・それどころか姐さんのことだけでなく、組にいたことすら知らないんです」
「どういうこと?」
節太が組のことを覚えてないのに、どうしてここにいるのかお七は不思議に思った。
「それが一週間ぐらい前に、突然組長、お竜姐のことですけど、組長が連れて来たんです。用心棒だって」
「お竜姐が?」
「はい。でも、節兄は組長のことも覚えてないんです。組長はそのことにはたいして構ってないようですけど」
「お竜姐はどこで節太を見つけたの?」
「それが全くわからないんです。組長も教えてくれないし・・・」
二人がそこまで話した時、浩平が割って入った。
「なあ、わからないことばかりなんだから、直接そいつに会ってみようぜ」
「あのこちらは?」
兵助は浩平達を見回して言った。
「江戸での仲間ってところね。勝手についてきたのよ」
「そうですか」
お七の説明に、兵助は一応納得したようだ。
「それじゃあ案内します。中で組長が待っているので。」
兵助は門を開け四人を迎えた。そして屋敷の中に入り、お竜の待つ広間へと廊下を歩く。
「ねえ兵助。今の広瀬組はどうなってるの?」
お七は廊下を歩きながら聞いた。
「ひどいもんです。今の組長のやり方に反抗する者が多くて、先代派と組長派にわかれて対立してるんです。組を去った者んも多くいます・・・」
「そう・・・でもあんたは残ったのね」
「ええ、いつかお七姐さんや節兄が帰ってきて、この組を立て直してくれると信じていたので・・・」
「兵助・・・」
お七は兵助の言葉に暗くなった。自分を信じてくれている者がいることに、そして、その期待に応える気がないことに・・・。
「ここです」
兵助はお竜の待つ部屋の障子の前で止まった。そして、部屋の中に向かって声をかける。
「組長。お七姐を連れてきました。お供の方々もいますがどういたしましょう?」
その言葉に中から返事が返ってくる。
「一緒に入ってもらい」
お竜の声だ。
「それじゃあ、俺は下がってるんで」
そう言い兵助は浩平達の前から下がった。お七は深呼吸を一つすると、障子を開け中に入った。
ザッ!
「来たわね、お七」
中ではお竜が座っていた。その後ろには節太も座っている。
「節太!」
お七は節太の姿を見て声を上げた。しかし、節太は反応を示さなかった。
「節太!わたしよ!応えて!」
「節太、何か言っておやり」
お七の必死な表情を見て、お竜は愉快そうに言った。
「誰だ?お前」
節太の言葉はこれだけだった。
「なっ!?昔のことは覚えてなくても、神奈川で会ったでしょ!?」
「神奈川?・・・俺は神奈川になんて行ってないぞ」
節太の言葉はそっけなかった。
「ふふふふふ!お七かわいそうね〜。最愛の人にすぐ忘れられるなんて!」
お竜はその様子を見て笑った。
「節太どうして!?」
「節太もう下がっていいわよ」
節太は無言で立ち上がり、浩平達が入った障子とは別の障子から部屋を出ていった。
「節太!待って!」
「お七!」
追おうとするお七の手を浩平が掴んだ。
「離して!」
「ばか!ほかにもやることがあるだろう!節太のことは後だ!」
「くっ・・・」
お七はしぶしぶながらも体の力を抜いた。
「賢明ね〜そっちの男は」
お竜は愉快そうに言う。その言葉に浩平は敵意をむき出しにしながら言った。
「てめえ・・・あんまり調子に乗るとぶっ飛ばすぞ・・・・・・」
「怖い怖い。さて、みなさん立ってるのもなんだから座ってよ」
その言葉に茜と詩子は素直に従った。だが、浩平とお七は座ろうとしない。お竜の言葉に従うのが不服なのだ。
「お竜姐の目的は何?」
お七はお竜っを見下ろしながら言った。
「だから言ったでしょ。あんたの首をとることだって」
「正気?・・・」
お竜の言葉は冗談めかしている。例え皆の前で自分の首をとったところで、先代派の者がお竜に従うわけではないだろう。それどころか、反感をさらに買い組を抜ける者が多く出るはずだ。お七はお竜の真意がわからなかった。
「ところで、組長さん。あんたに聞きたいことがある」
浩平だ。
「何かしら?」
「あんたは婦亜瑠後を知ってるかい?」
「そんなものは知らないわ」
浩平の問いにお竜はあっさり答える。
「質問は終わりかしら?」
婦亜瑠後についてお竜は何か知っているに違いない、と浩平は踏んでいた。だが、簡単にそのことを漏らすとは思っていなかったので、浩平はおとなしく引き下がった。しかし、浩平達には婦亜瑠後のことを暴く計画があった。
「最後に一つ聞かせて、節太をどうするつもりなの?」
お七が一番こだわっていることについて聞いた。
「ふふ、さあね〜。ま、記憶が戻らないのは確かなんだから、あまり期待しないことね」
そう言ってお竜は立ち上がる。そして続けて言った。
「みなさん長旅で疲れているでしょ?今日はこの屋敷でゆっくりしていって。部屋も用意してるから」
お竜はそう言い残し部屋を出ていった・・・・・・・。

その夜。お七は当てられた部屋で、布団の中に入りながら一人もの思いにふけっていた。浩平達とは別の部屋に一人だけ分けられたのだ。お竜は何かを企んでいるに違いない。
(節太に何があったんだろう?・・・・・・・)
お七は節太のことばかりが気になった。あれ以来、節太は姿を現さず昔の組の者に会っても、心から楽しめなかった。
(婦亜瑠後に何かされたのだろうか・・・・・・)
お七はそれしか考えつかなかった。記憶を消すことなど、奴等には可能だろうと考えたのだ。それならば節太の記憶が戻る可能性もありえる。
(必ず節太の記憶を取り戻してみせる!・・・・・・)
お七は一人闘志を燃やしていた・・・・・・。

一方、お七とは離れた浩平達の部屋では・・・・・・・。
スッ・・・・・・
障子が静かに開かれ、三人の男達が入ってきた。そして、浩平達が寝ている盛り上がった布団の前にそれぞれ立つと、互いに顔を見合わせ手を振り上げた。その手にはドスが握られている。三人は布団めがけドスを振りおろした。
ボフッ!ドスッ!ザクッ!
それぞれに異なった音が鳴った。が、その音と同時に男達の後ろで声がかかった。
「へっ!てめえらの企みなんか、見え見えなんだよ!」
「私達をなめないでよね!」
「眠ってもらいます」
バキッ!ザクッ!バシュウゥゥゥゥーーーーー!
浩平は十手で顔面を打ち、詩子は匕首を肩に突き刺し、そして茜は手を横に払い、触れもせずに男を吹き飛ばした。衝撃波だ。
「ぐあっ!」
「うぎゃっ!」
「どわぁっ!」
男達はそれぞれ悲鳴を上げ気絶した。その様子を見て浩平達はほっと息をついた。
「ふう・・・助かったぜ茜。お前が予知してなかったら、死んでたな」
「ぎりぎりでしたね」
茜は男達が来る数分前ぐらいに、やみ討ちを予知したのだ。そこで浩平達は布団の中に余っていた布団や着物等を入れ、自分達は男達を待ち構えてたのだ。
「ところで詩子、お前の匕首に塗った毒は死なないよな?」
「当たり前でしょ、殺しは禁止されてるんだから。ただのしびれ薬よ」
「浩平、お七さんが危ないです」
「そうだった!」
浩平は茜に言われお七のことを思い出した。お七の部屋はここからかなり離れている。これもお竜の策略だろう。
「よし、こいつらのことは後だ!」
浩平達は部屋を飛び出し、お七の部屋に向かった・・・・・・・・。



〜浩平の愚痴〜
ああ〜!中途半端に終わってしまった!しかも戦闘に入れなかったし!
浩平「ふん、ちゃんと計画を練らないからだ。ほれ、さっさと質問いくぞ!今日は連続で聞くぞ」
へいへい・・・
浩平「婦亜瑠後の声の正体は?」
秘密だ。
浩平「仁義屋はどうして殺しが禁止なんだ?」
秘密だ。
浩平「茜の能力はいったい?」
秘密だ。
バキッ!
ぐあっ!
浩平「質問に答えんかい!前回も答えてないぞ!」
しょうがないだろ!全部今後に関わってるんだから!
浩平「ちっ、仕方ない予告にいくぞ!」
へいへい・・・

お七は無事なのか!?節太に何が起きたのか!?駿河をお七が駆ける!

次回浩平犯科帳 第十一話「約束」ご期待下さい

(一言は消滅しました)