浩平犯科帳 第一部 第九話 投稿者: 偽善者Z
浩平犯科帳 第一部 第九話「追い続けた女」

「節太・・・駿河にいるのね!・・・」
お七はだれもいなくなった空き地で決意をあらわにした。いや、誰もいないのは間違いかもしれない。空き地ではないが、その空き地に面した民家の屋根から、お七の様子を見ていた者がいた。
「お七〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
ドンッ!
その民家の屋根から、お七の名を叫びながら浩平が地面に飛び降りた。両足で踏ん張り衝撃に耐えている。
「ちょ、ちょっと!?いったい何よ!?」
お七は無論驚く。
「お七!今の話は聞かせてもらったぜ!俺も・・・・」
ドサッ!
一気にまくしたてる浩平だったが、言葉を続けれなかった。上からが飛び降りてきて、浩平を押しつぶしたのだ。
「ぐあっ!」
「お七!元気にしてた?」
「詩子まで!?あんた達何でここに?」
「それがさぁ・・・」
詩子は浩平に乗ったままである。だが、浩平が下から怒鳴る。
「詩子!てめえさっさとどけ!」
「うるさいわね〜」
「何だと!大体、何で俺の上に飛び降りるんだ!?」
「仕方ないでしょ。ここせまいんだから」
浩平から降りるが、詩子に反省の色はない。
「それにしたってだなぁ!」
「ちょっと!あんた達!」
口論する二人をお七が止めた。
「あんたらねぇ、喧嘩ならよそでやってよ。で、あんた達は何でここにいるの?」
お七はあくまで冷静に聞いた。しかしお竜との会話を聞かれたことに、いくぶん怒りがあるようだ。
「いや、昨日の女が気になってもう一度店に行ったんだ。そしたら、空き地に向かったから・・・」
浩平はお七の怒りに気付いたのか、語尾が小さくなっている。
「後をつけたわけね。はあ・・・まさか屋根の上にいるとは・・・・・・・」
お七は呆れて怒る気力もないようだ。
「お七、さっきの続きだが、お前駿河に行く気だろ。俺も一緒に行くぞ」
「えっ!?」
「わたしも!」
「詩子も!?」
お七は突然のことに戸惑った。だが、すかさず反論する。
「これはあんた達には関係ないわ」
「何言ってんだ。あの男が絡んでるんだろ?それなら婦亜瑠後も関係してる。それに、あの女むかつくんだよな」
「そうそう。だいたいお七が一人で行ったっって、やられるだけよ。向こうは何かたくらんでるにちがいないわ」
詩子も浩平に口添えする。
「あんた達・・・」
「お前が何言おうと俺はついてくぞ」
「・・・・・・しょうがないわね、邪魔だけはしないでよ」
お七は沈黙の後、しぶしぶ承諾した。
「ところでさっきの女は何者なんだ?」
「・・・ここじゃあなんだから移動しましょうよ」
「賛成!どうせなら浩平の長屋で、お酒を飲みながらにしましょうよ!」
「いいわね、わたしも何だか飲みたい気分だったのよ」
詩子の提案にお七ものった。
「おい、何で酒が必要なんだ?だいたい酒なんて家にはないぞ」
「大丈夫よ。店からもってくから」
「わ〜い!さすがお七!たよりになるぅ!」
「やれやれ・・・・・・」
これからの修羅場を懸念してか、浩平はため息をついた・・・・・・・。

浩平の長屋。
「まず、わたしの生い立ちから話すわ・・・・・・」
お七は静かに語り出した。浩平と詩子はその話を聞きながら酒を飲んでいる。
「わたしの生まれは駿河なの。正確に言えば、拾われて育ったのがね」
「拾われた?お前捨て子だったのか?」
浩平が口をはさむ。
「まあね。わたしを拾ったのはヤクザの組長だったわ。広瀬組って知ってる?」
「いや全然」
「わたし知ってるわ。たしか駿河では、義理人情に厚い組だって聞いたことがあるわ」
詩子は酒が入ってるせいか、少し声の調子が明るい。
「そうね、先代まではそうだったわ。でも今は違う。先代、わたしを育ててくれた人だけど、先代が死んで新しく四代目が襲名してからは組は変わったわ」
お七はそこまで言うと、器に注がれた酒を一気に飲み込んだ。そして言葉を続ける。
「今までは弱きを助け強きをくじくのが広瀬組の柱だったわ。でも、今は全く逆よ。四代目がしきり始めてから博打で負けたものを容赦なく殺すわ、闇の仕事に手をつけるわ。もう最悪よ、金の亡者になったようなものね」
「その四代目ってのが・・・」
「そうさっきの女よ。お竜姐は先代の一人娘なんだけど、女ながらに組を継ごうとしたわ。でもなんて言うか、野心が強いと言うか、先代にはそこを危険視されて任されなかったわ。でも、組の男に広瀬組をひっぱっていける者はいなかった」
「それでお前に組長の座が舞い込んだってわけか」
「そう言うこと。でも、わたしはそんなものになる気はなかったわ。結局、先代が死んで竜姐が組を継いだんだけど、納得のいかない者が多いみたいね。竜姐のやり方にもついていけないみたいだし。竜姐はわたしの首でもとって自分の力を見せつけたいようね。馬鹿馬鹿しいけどね・・・」
そこでお七は言葉を止めた。何か心中につらいものがあったのだろう。
「なあ・・・あの男はいったい何者なんだ?」
浩平は一番聞きづらかったことを聞いた。多分、このことがお七が言葉を止めたことに繋がるのだろう。
「・・・名は節太。わたしと同じように拾われたのよ。年もそれほど離れてなかったし、兄妹のように育ったわ。節太は組の中でも一番強くて、わたしも剣術を彼から習ったわ・・・・・」
「・・・」
浩平は何も言えなくなっていた。お七の顔は節太の話になると、沈み始めたからだ。
「永遠に続くような毎日だったわ・・・でも、ある日節太はわたしの前からいなくなった。節太は剣の修業に出るって言い出したのよ。彼はヤクザになる気はなくて、ただだれよりも強くなることが夢だったのよ」
お七はまたも酒を一気に飲む。
「わたしは三年まったわ。でも節太は帰ってこなかった。わたしはあきらめようと思ったわ。風のうわさで節太が賊をしているって。わたしは信じられなかった。あいつは馬鹿だけど人を傷つけるような奴じゃなかったわ。それでわたしはうわさを確かめるため江戸に出てきたのよ。そしてあんたに出会った。あんたといれば節太に会えるような気がしたわ。だから、あんたと行動してたのよ」
「そうだったのか・・・・・」
浩平は今までお七が自分につきまとってた理由がようやくわかった。お七の節太を信じる気持ちが何となくだがわかるような気がした。一方、このころには詩子は完全にできあがっていた。
「うるうるうる・・・・かわいそうだねお七〜!帰ってこない恋人を待ち続けるなんて、なんてしおらしいのかしら!」
「ちょっと、わたしと節太はそんな関係じゃないわ」
その言葉を聞いてるのか、さらに詩子は言葉を続ける。
「何も言わなくていいのよ!お七は悪くない!そうよね〜浩平〜」
「酒乱だ・・・」
浩平の危惧は当たった・・・・・・。

そして、詩子が酔いながらもふらつく足取りで家に戻り、お七も中原亭に帰ってきていた。お七は住み込みで働いているのだ。
「節太・・・・・」
お七は暗い部屋の中でぽつりと呟いた。お七は節太が旅立つ時のことを思い出していた。

街道を歩いている二人がいる。
「ここでいい」
「どうしてもいっちゃうの?」
節太とまだあどけなさを残したお七だ。
「ああ・・・俺は強くなるんだ!」
「わたしをおいていくの?」
その言葉に節太はお七の顔をはっとして見た。
「俺はお前を守るために強くなる!そして強くなったらお前を迎えに来る!」
「ほんと?」
「ああ!約束だ・・・」
二人は互いの小指を絡ませた・・・・・・・。

翌日。
「浩平ー!起きなよー!」
ガバア!
お瑞はいつものように浩平を起こしに来たが、そこには浩平の姿はなかった。
「あ!?あれ?どこに行ったの!?」
お瑞は室内を見渡す。すると卓の上に置かれた手紙に気付いた。
「何これ?」
手紙にはこう書いてあった。
『旅に出る。そんなに長くならないが、留守中の間、家のことは頼んだ。帰ってきたら何か礼をするから』
「もう〜!なんだよこれ!」

一方、東海道を浩平、詩子、茜、そしてお七が歩いていた。なぜ茜がいるかというと、頭にお七の話を報告し駿河に向かうことを言うと、婦亜瑠後が絡んでいる可能性が高いので、茜も連れていくことを命じられたのだ。
「節太・・・必ず思い出させるからね・・・・・・」
お七は一人呟いた・・・・・・・。


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今回は割りと短かったな(今までと比較して)。さて次回は駿河編です。見ものは竜姐や節太との衝突かな?では予告と多言(言いたいことがあるそうなので)。

お竜との戦い!節太の記憶は戻るのか!?駿河をお七が斬る!

次回浩平犯科帳 第十話「夢の続き」ご期待下さい!

〜浩平の愚痴〜
何だ?この後書きは?
浩平「よお」
あっ、浩平じゃないか。どういうことだ?
浩平「これから先、この作品の疑問や不満をここで言うんだよ」
何!?勝手なことをするな!
浩平「うるせえ。とにかく始めるぞ!第一回は俺についてだ。何で俺は岡っ引きなのに闇の仕事をしてるんだ?」
それは秘密だ。
バキッ!
ぐあっ!いてえな!何するんだ!
浩平「ちゃんと質問に答えろ!」
それを言うわけにいかないんだよ。これはお前の過去の話に関わってるんだから。
浩平「ちっ、うまくごまかされたって感じだな・・・」
うるせえ。とにかく今回はこれでおしまいだ。
浩平「仕方ない。それじゃあみんな次を楽しみにしててくれ!」